kojitakenの日記

古寺多見(kojitaken)の日記・はてなブログ版

植草一秀『知られざる真実 −勾留地にて−』を読む(1)

批判してばかりでは何なので、植草一秀著『知られざる真実 −勾留地にて−』(イプシロン出版企画)を現在読んでいる。

知られざる真実―勾留地にて―

知られざる真実―勾留地にて―

この本はなかなか面白い。その読書メモの第1回。極力私の主観を排除して、書籍のポイントを抽出したつもり。今回は、「プロローグ」から第1章「偽装」の「10. 自由党定例研究会」まで。

[プロローグ]
2006年9月13日、酒を飲みすぎて事件に巻き込まれた。自殺を図ったが未遂に終わった。私は無実だ。
第1章 偽装
1. 沖縄知事選と徳州会病院臓器売買事件
私の勾留期間中、沖縄県知事選が行われた。自公推薦の仲井真弘多が勝てば、安倍政権が教育基本法を成立させると考えていたが、仲井真が勝った。徳田虎雄の息子・徳田毅裏切りが影響したのではないか。獄中で佐藤優の『国家の罠』を読んだ。
4. 耐震構造偽装
2005〜06年に騒がれた耐震偽装事件で、ヒューザーの小島進社長が悪者にされ、捜査当局は木村建設姉歯建築士イーホームズヒューザー、さらに綜合経営研究所が連携した組織的犯罪というストーリーに沿って捜査を進めたが、結局姉歯の単独犯行だった。一連の報道で見えなくなった重大な問題が「国の責任」である。
6. 福井日銀総裁追究の深層
村上ファンド福井俊彦日銀総裁(当時)が出資していた。村上世彰氏は、東大時代私(植草氏)のクラスメートだった。日銀の独立性を確保するために、福井氏は適任だった。2006年の量的金融緩和政策解除やゼロ金利政策解除を見事に実現した。インフレが生じると債務者が得をして預金者が損をするので、日本の借金王である日本政府はインフレを熱望する。福井総裁の村上ファンド出資問題を考える際に、こうした背景を考えなければならない。
7. 摘発される人、されない人
田中角栄アメリカの虎の尾を踏んで逮捕された。田中真紀子加藤紘一橋本龍太郎野中広務青木幹雄、村岡兼三、鈴木宗男佐藤優辻元清美西村真悟氏らが追及ないし摘発されたが、共通項は「反米」だ。自民党の旧田中派経世会は「親中」である。一方、清和会は「親米」だ。小泉元首相の在任期間は、「角福戦争復讐戦」の期間だった。
9. 小泉政権五つの大罪
植草一秀氏は)小泉政権を全否定していない。「改革」という言葉を広めて変革の気運を広げたことは成果だ。私は小泉政権発足時から、政策修正を表明するなら小泉政権を支持すると言い続けた。
[五つの大罪]

  1. 小泉首相は「改革なくして成長なし」と言ったが、私は「成長なくして改革なし」と考える。
  2. 小泉首相郵政民営化を「改革の本丸」と言い、道路公団民営化も改革だと言ったが、これらは改革ではない。真の改革は「天下り制度の全廃」だ。
  3. 小泉政権は「弱者切り捨て」政策を推進したが、「豊かな社会」であるための最大の条件は「弱者に対する必要十分な保護」だ。弱者を守る政策を廃止する前に、高級官僚への特権措置を排除すべきだ。
  4. 小泉政権アメリカに盲従する外交姿勢をとり、イラク戦争を支持するとともに、国民の富を米資に売った。
  5. 小泉首相は権力を濫用した。特にメディアを支配し、テレビ・メディアでは政権批判者が一掃された。

10. 自由党定例研究会
2001年に小沢一郎藤井裕久平野貞夫氏や朝日新聞の早野徹、日経新聞斉藤史郎、慶大教授の竹中平蔵氏らが出席した自由党定例研究会で講師を務めた。2001年当時に日本経済が直面した不況、財政赤字不良債権の「三重苦」を解決するには経済改善が優先されるべきことを示し、自由党は私(植草氏)の提言を採用した。
1990〜92年にアメリカが「三重苦」に直面したが、不良債権問題は1986年の原油価格暴落に端を発していた。先代ブッシュ大統領時代の1989年に制定された「金融機関改革救済執行法」(FIRREA)が有効に働いた。アメリカは、巨額の公的資金投入と引き換えに関係者責任を厳格に追及した。(日本で植草氏が)不良債権問題の深刻さを認識して問題解決に公的資金投入が必要だと私が指摘したのは1992年9月5日の「日本経済新聞経済教室」においてだった。金融問題処理のために税金投入を検討すべきだが関係者の責任追及が欠かせないと述べた。(90年代のアメリカ経済の話に戻る)アメリカ経済の流れを変えたのはグリーンスパンFRB議長だった。同議長は常識破りの「実質ゼロ金利」政策が市場心理を一変させた。1992年以降のアメリカ経済回復は、同議長の手腕によるところが大きい。株価上昇に遅行して景気が回復した。米国政府推計によると92年度から95年度にかけての財政赤字減少の7割が景気回復によってもたらされ、逆に95年度から98年度の財政赤字減少では7割が構造改革によってもたらされた。米国の事例を踏まえて私は「成長なくして改革なし」の方針を提唱した。景気悪化、資産価格下落、企業破産が持続する限り不良債権問題は改善しない。間違いなく深刻化する。「改革なくして成長なし」の方針は手順として間違いだった。

いかがだろうか。私は、1990年代のアメリカが「三重苦」を克服して景気回復に至った過程を参考にして、植草氏が「成長なくして改革なし」を訴えていたことは評価する。

米国政府推計によると92年度から95年度にかけての財政赤字減少の7割が景気回復によってもたらされ、逆に95年度から98年度の財政赤字減少では7割が構造改革によってもたらされた。

という事実は、「成長なくして改革なし」という植草氏の主張を説得力あるものにしている。しかるに、現在民主党政権がやろうとしていることは、小泉の「改革なくして成長なし」の政策とそっくり同じなのではないか。熱心に政権交代の旗を振った植草氏には、もっともっと鳩山政権に厳しい注文をつけてほしいと思うものである。

一方、渡部昇一の主張を連想させる「ロッキード事件陰謀論」など、全くいただけない箇所もある。「7. 摘発される人、されない人」の部分は、ブログで「悪徳ペンタゴン」を連呼するようになった植草氏の現在の姿につながるものがある。自らの痴漢冤罪(?)事件を、「国策捜査」のせいにして正当化を図る論理は、まさしく植草氏自身が引き合いに出している佐藤優と同じである。

これを書きながら思い当たったのだが、「リベラル・左派」あるいは「リベラル・平和系」とされるブログで植草一秀氏が絶大な人気を誇るように至ったことも、<佐藤優現象>の1つであると位置づけても良いのではないだろうか。そういえば、植草支持者で<佐藤優現象>批判に加わっている論者は一人もいないように私には思われる。

なお、「4. 耐震構造偽装」の記述は、4年前の今頃の季節に発覚し、ネットで大評判をとった『きっこの日記』の耐震偽装事件大キャンペーンが、今にして思えば、結局東京地検の意図に沿ったものだったのではないかと改めて思わせるものだ。途中でイーホームズ藤田東吾社長が『きっこの日記』にメールを送った時点(2005年12月18日)から様相は一変するのだが、それ以前の『きっこの日記』は、東京地検ルートを主要な情報源としていたことは、疑う余地がほとんどないと考えられる。「綜合経営研究所」の内河健四ヶ所猛は、2005年12月18日放送のテレビ朝日サンデープロジェクト』で田原総一朗の追及まで受けたが、果たして彼らは本当に悪玉だったのか。彼らこそ、名誉回復が検討されても良いのではないかとふと思った。そして、きっこ氏自身もその後誤りを認めた「SGグループ」が創価学会と関係しているという誤報(実際には「総研グループ」の略称に過ぎなかった)を、おそらくきっこ氏情報をパクってテレビでもネットでも垂れ流し、今に至るも誤りを認めたとは寡聞にして知らない電波芸者勝谷誠彦*1の旧悪も改めて思い出した今日この頃なのである。