kojitakenの日記

古寺多見(kojitaken)の日記・はてなブログ版

「日本の政治で悪かったのは左派の勢力が『安上がりの政府』を志向し続けたこと」(朝日新聞・坂野潤治インタビュー)

今朝(6/20)の朝日新聞オピニオン面に、坂野潤治(ばんの・じゅんじ)・東大名誉教授のインタビューが出ている。「二大政党制は幻か」というテーマで、「連立する必要なし 政治崩壊まだ続く 社民主義こそ必要」という見出しがついている。

一読して、首をかしげる部分もあったが、面白いと思える部分も多かった。

坂野氏は、昭和の初めに戦争とテロの脅威が高まった時、政友会と民政党が模索した「協力内閣」が実現していれば政党政治は終わらなかったと思うが、現在、民主党自民党が連立する必要はない、そんなことをしたら政党政治が埋没し、やる気のある政治家がいなくなると言う。

坂野氏は、福祉のため、困っている人を助けるためなら税金を上げていいと思うが、実態は違うとする。日本にも社会民主主義政党が必要だとする坂野氏は、民主党にその役割を担ってほしかったが、期待はずれだというのである。

共感したのはそのあとの指摘である。以下引用する。

 --- 旧社会党社民主義政党だったのではないですか。

 「日本の政治で悪かったのは、1890年に衆議院ができて以来、左派の勢力が増税反対でチープガバメント(安上がりの政府)を志向し続けたことです。土井たか子さんも消費税は『ダメなものはダメ』だった。税金を上げてもいいから困っている人たちを救う。そんな福祉国家の発想を持つ政党がなかった」

 「議会の創設期に自由党は『政費節減・民力休養』とキャンペーンを張りました。政費節減は行政の無駄削減、民力休養は減税です。これが当たって支持されたのが良くなかったのでしょう。政党はこればかり言うようになりました」

 --- 左派ではなく、自民党が福祉を充実させたとも言われますが。

 「保守の自民党が社会政策をやったという決まり文句は、大間違いです。成長によるパイが大きい時代に、余った部分をばらまいただけです。どういう社会を目ざし、誰を救うかがまずあって、そのためにお金を配分するのが本来の社会福祉ですが、自民党にそんなビジョンはありませんでした」

(2012年6月20日朝日新聞掲載 坂野潤治・東大名誉教授インタビューより)


1989年の消費税創設は、税収の拡充を図るものではなく、「直間比率の是正」と称して所得税減税とセットになっていたものだったと記憶するから、1989年の社会党の消費税創設反対にはそれなりの理はあったと私は思うが、土井たか子委員長時代の社会党が「福祉国家」のビジョンを熱心に訴えていた印象は確かにないし、その伝統は未だに「まず無駄の削減」とうっかり口にしてしまう社民党福島瑞穂党首にも受け継がれている。

「民のかまど」*1が大好きな小沢一郎に至っては、河村たかしの「減税日本」を後押ししたり、橋下徹にすり寄ったりするし、何より小沢の自民党時代からの持論は「所得税・住民税の半減」*2であることから、小沢が典型的な「安上がりの政府(小さな政府)」論者であることは明白だろう。

現在では、社民党共産党を実質的に社民主義的主張をする政党と位置づけることができると思うが、両政党とも弱小政党になってしまっている。


坂野氏は橋下徹にも言及している。

 --- 橋下徹大阪市長が支持を集めています。

 「いきなり登場した橋下さんが、『一、二の三』で世の中を変えられるというのは、おかしい。いま必要なのはリーダーよりもエリートの育成と再編です」

 「幕末に戻ると、アヘン戦争で中国に勝った英国が日本に攻めてくると考え、軍艦を造らなければと唱えたのが佐久間象山です。天文、地理、航海、大砲、医術などの西洋の科学技術を、大名の息子から旗本までみんなに勉強させなければ、と力説しました。次世代のエリートの育成です」

(同前)


橋下がやろうとしている「中之島図書館の廃止」(焚書坑儒)はまさにその逆のベクトルを持つものだし、「橋下は弁護士だから独裁者になる可能性はない」などと言う大学教授がいる現状は、現在の日本において「知」がすっかり溶解してしまったことを痛感させる。


インタビューの結び。

 「今のままなら、逆説的ですが、『55年体制』のような形に戻るのが一番、安全かもしれません。3分の1は不満を訴えるが政権にはつかず、3分の2はずっと政権につけるので余裕があって無理はしないという体制です」

 「いずれにせよ民主党は野党に戻り、足腰を鍛え直す必要がある。自民党も同じです。安閑として政権に戻るだけだと、民主党と同じ目に遭う。ただ、幕末の40年の崩壊を思えば、民主党ができてまだ10年少し、ゆっくり次の体制エリートと反体制エリートづくりに取り組む時間はあります」

(同前)


このあたりは1982年以降の直近の30年における自民党の変質に対する坂野氏の認識が甘すぎるのではないかと思った。中曽根が変え、小泉純一郎が変え、下野して先鋭的になった「極右・新自由主義政党」である自民党が政権に復帰したらどうなるか。片山さつきの「生活保護バッシング」を思い出せば、「自己責任」の先鋭さを「ハシズム」と競うであろうことに疑う余地はない。1982年以前の自民党であれば、まだ「1と1/2政党制」と呼ばれた「55年体制」の方が、失敗した政治改革の結果生み出された現行制度よりもましだと思うが、今後はそれよりも穏健な多党制に移行する方が望ましいと私は考えている。現在の小選挙区制は、新たな政治勢力の参入を阻む最悪の制度だ。


なお、坂野氏は一昨年、『週刊朝日』の「菅内閣は日本初の社会民主主義政権だ」と題する記事に登場した。当時書いた下記記事の中で触れた。
菅直人はなぜ新自由主義に傾斜するのか - kojitakenの日記(2010年7月1日)

*1:現首相の野田佳彦(「野ダメ」)や河村たかしも「民のかまど」が大好きな新自由主義者である。

*2:かつては「消費税の大幅増税」がセットになっていた。