kojitakenの日記

古寺多見(kojitaken)の日記・はてなブログ版

孫崎享のトンデモ本『戦後史の正体』は11/4朝日の広告によると発行部数「22万部」。売れ行きには急ブレーキがかかったが……

冷えだした - 一人でお茶を より。

本日の四国新聞の書評欄では孫崎享『日本の国境問題』(ちくま新書)が取り上げられていた。文中では同じ孫崎による『戦後史の正体』が現在ベストセラーになっていることにさらりと触れ、しかし、書評は『日本の国境問題』の内容について論じていた。孫崎享の著書の中から無難なものを選択して取り上げたといった印象。


四国新聞の書評って共同通信の配信じゃなかったでしたっけ。共同の配信で、しばらく前に岡留安則が『戦後史の正体』を絶賛した書評が出てましたが、四国新聞がそれを載せなかったとすると妥当な編集だったといえると思います。


ところで、今朝(11/4)の朝日新聞書評欄の下にある創元社の広告を見ると、「発売3ヶ月で22万部突破!」とのことですが、例の佐々木俊尚の書評が載った9月30日の時点では、「8刷, 20万部」とのことでしたので、このトンデモ本も売れ行きには急ブレーキがかかっているようです。東京の小さな書店ではもはや『戦後史の正体』は見かけなくなりました(中くらいの規模の本屋ではまだ平積みされていますが)。

しかし、このトンデモ本への批判は相変わらず少なく、それは「そもそもこんな本は論評に値しない」という、マスメディア編集者諸氏の「高踏的」態度に起因しているのだろうとは推測しますけど、そんな風に「シカト」して構わない段階は既に過ぎていると思います。


しばらく前に『サンデー毎日』(11月11日号)に佐高信が孫崎本批判を書いていて、それは『vanacoralの日記』(10月30日*1)でも紹介されてますけど、それを今日(11/4)公開された Blog「みずき」 佐高信氏の孫崎享『戦後史の正体』評と福島瑞穂氏(社民党委員長)及び社民党の右傾化・右転落を端的に示す同著評 から孫引きの形で引用します。それは、後者には福島瑞穂氏への批判も書かれているからです。

(前略)
佐高氏の孫崎享『戦後史の正体』評は以下のようなものです。

ベストセラー『戦後史の正体』に載る歴代首相の「色分け」に抱いた違和感


 遅まきながら、ベストセラーの孫崎享著『戦後史の正体』(創元社)を読み、その評価の軸にのけぞるような違和感を持った。これは、外務省の国際情報局長だった孫崎が「米国からの圧力」をポイントに戦後史を読み解いたものである。

 その最大のタブーに挑戦したかどうかで日本の戦後の首相を「自主派」と「対米追従派」に分け、前者に石橋湛山岸信介鳩山一郎佐藤栄作田中角栄福田赳夫宮沢喜一らを挙げ、後者に吉田茂池田勇人三木武夫中曽根康弘小泉純一郎らを挙げている。

 特におかしいと思うのは、岸、佐藤、福田が「自主派」で、三木が「対米追従派」であることである。

 孫崎によれば、岸は「従属職の強い旧安保条約を改定。さらに米軍基地の治外法権を認めた行政協定の見直しを行おうと試み」た点が評価され、佐藤は「ベトナム戦争で沖縄の米軍基地の価値が高まる中、沖縄返還を実現」したとして、こちらに入れられている。さらに福田も「ASEAN外交を批准するなど、米国一辺倒でない外交を展開」したのだという。多分、孫崎から見れば、佐藤のノーベル平和賞受賞もメデタシメデタシなのだろう。

 しかし、日本国憲法を護(まも)ろうとするかどうかというモノサシを当てればどうなるか?

 岸、佐藤、福田はいずれも改憲派であり、逆に「対米追従派」に入れられている三木が護憲派である。

 改憲派は現憲法アメリカから押し付けられたと主張するから、それに抵抗して変えようとする岸たちは“自主派”となるのかもし
れない。

 けれどもアメリカはいまは日本に集団的自衛権も認めて改憲せよと迫っているのだから、護憲派の方が「自主派」となる。つまりは三木が自主派で、岸、佐藤、福田が対米追従派なのである。現首相の野田佳彦も追従派であることは言うまでもない。

(中略)

 『操守(そうしゅ)ある保守政治家三木武夫』(たちばな出版)の著者、國弘正雄が指摘する如く、「日中国交正常化の井戸を掘ったのは田中角栄ではなく三木武夫」だった。三木が井戸を掘り、田中が最初の水を飲んだのである。中国との関係を重視する三木や田中が護憲派で、むしろ敵対した岸、佐藤、福田が改憲派というのも偶然ではない。私から見ると、孫崎の見取り図はいささかならず有害である。


対して、社民党委員長の福島瑞穂氏は孫崎享『戦後史の正体』評を次のように述べています(2012年10月8日)。

@magosaki_ukeru 戦後史の正体」は、本当に面白く、有益でした。いろんな資料や歴代首相の見方など参考になりました。私は辺野古沖に基地を作ることに反対し、大臣を罷免になったので、外務省、防衛省などの役所を変えることができず、悔しかったです。これからもがんばります!

すでにご紹介していることですが、社民党委員長の福島瑞穂氏が「本当に面白く、有益でした」という『戦後史の正体』には「日本国憲法は、米国が作成した草案を日本語に訳し、少し修正を加えた」(p80)だけのものにすぎないという「押しつけ憲法論」が展開されています。「押しつけ憲法論」のゆきつくところは自主憲法制定論(前憲法破棄)あるいは復古的改憲論であることはいうまでもありません(wiki『自主憲法論』)。福島氏はいつから「改憲派」に鞍替えしたのでしょう? 彼女の言う「憲法改正新自由主義的な傾向が拍手を浴びている状況に危機感を持っている」(中国新聞 2012年9月2日)という言質と「(『戦後史の正体』は)本当に面白く、有益でした」という言質の間にはどのような整合性があるというのでしょう? 社民党及び福島瑞穂氏は右傾化の坂を急速度に転がり落ちていると評価するほかありません。

(後略)

(『みずき〜「草の根通信」の志を継いで〜』 2012年11月4日付記事「佐高信氏の孫崎享『戦後史の正体』評と福島瑞穂氏(社民党委員長)及び社民党の右傾化・右転落を端的に示す同著評」より)


ところが、上記佐高信による孫崎享批判を紹介した『vanacoralの日記』のコメント欄を見ると、「a改めb」なるHNの人間が、こんなコメントを書いています*2

a改めb 2012/10/31 13:34
なんでコジタケンとあなたはこれほどまでに孫崎享に粘着するわけ?
陰謀論、トンデモならベンジャミンフルフォード、中丸 薫みたいに無視すればいい。
あなた達の行為はアメリカ批判を封殺するためにレッテル貼って排除しようとしているようにしか思えない。

>それこそ自分への批判を許さないチキン橋下と同レベルの人物である事を証明するだけですがね。

元総会屋雑誌の編集長、佐高信を崇め奉っているのが痛い。こいつは自分を批判した日垣 隆、呉 智英などを干すように圧力をかけまくったのは有名な話。昔の週刊金曜日での佐高と石原の対談には爆笑した。何が反権力だ。佐高には孫崎享よりも「リベラルな視点」があるのか!
今でこそ批判に転じているが、90年代においては小泉純一郎を持ち上げたり※、階級固定化を狙ったゆとり教育をほめたり、非正規労働者の増加を喜んだりした。
左派論客にこの程度の人材しかいないのが、橋下や石原をのさばらせる原因になっている。
※小泉の持論である郵政民営化も認めていた。国会議員永年在職(25年)表彰[特典 国会が100万円出して画家に肖像画を描かせ、国会の委員会室に飾ること。毎月30万円の特別交通費支給]を辞退したことも礼賛していた。
小泉旋風のあたりから評価を変え始め、格差の問題が出始めたころには小泉批判が前面に出るようになった。


コメント主は、何だかえらく血相を変えて逆上しておられるみたいですけど、中身は佐高信の書評とは無関係の言動に対する批判ばっかりで、佐高が行った孫崎本批判に対する具体的な事例を挙げての反論は全くなされていません。

佐高信については、前掲の『みずき〜「草の根通信」の志を継いで〜』の記事で、ブログ主の東本高志さんが「最近の佐高氏の論調には支持できないところが多いのですが」と留保をつけておられますし、私も「最近、ちょっと疑問符のつく文章も目立つ佐高信だが」と書きました。最近の佐高信に問題含みの論調が多いことは認めた上で、それでも佐高氏の孫崎本批判は正当だと評価する次第です。「a改めb」は、「佐高には孫崎享よりも『リベラルな視点』があるのか!」などと書いていますが、少なくとも孫崎享と比較すればまだしも佐高信の方が「リベラルな視点」は残っていますし*3、それを証明するのが上記引用の『サンデー毎日』掲載の孫崎本批判だと思います。

孫崎享の『戦後史の正体』がベストセラーになったのは、自由報道協会の岩上安身が「小沢一郎援護」に絡める形でTwitterなどで宣伝しまくった影響があると考えられます。ちょっと前までは、ネットで何を騒ごうがリアルへの影響はほとんどないと考えられていましたが、もはやそうも言えなくなっていると思っています。

だからこそ、リアルで影響力のある知識人に、正面切った『戦後史の正体』批判を求めたいところですが、未だに『サンデー毎日』に掲載された佐高信の批判が目立つ程度という惨状には、寒心に堪えません。

*1:http://d.hatena.ne.jp/vanacoral/20121030

*2:http://d.hatena.ne.jp/vanacoral/20121030#c1351658044

*3:そもそも1993年度「山本七平賞」受賞の孫崎享は間違っても「リベラル」ではなく、正真正銘の「保守」の人であることは明らか。