kojitakenの日記

古寺多見(kojitaken)の日記・はてなブログ版

猪木正道死去

少し古い訃報だが、11月5日に猪木正道が死去した。朝日と産経の記事から。


http://www.asahi.com/obituaries/update/1107/OSK201211070072.html

猪木正道さん死去 安保問題の論客、京大名誉教授


 安全保障問題の論客として知られた文化功労者政治学者で、元防衛大学校長、京都大名誉教授の猪木正道(いのき・まさみち)さんが、5日午前5時46分、老衰で死去した。98歳だった。葬儀は近親者で行った。喪主は経済学者で前国際日本文化研究センター所長の長男武徳(たけのり)さん。後日、しのぶ会を開く予定。

 京都市生まれ。東京帝大で社会思想家の河合栄治郎に師事し、軍国主義マルクス主義に対抗する自由主義思想に大きな影響を受けた。卒業後、一般企業などを経て、1949年から70年まで京都大法学部教授。70年から8年間、防衛大学校長を務め、日本の防衛問題研究を進めた。

 「ロシア革命史」(48年)、「共産主義の系譜」(49年)で、共産主義下の非人間的な独裁制を早くから批判。民主的社会主義者の立場を唱えた。政治権力の正統性や独裁権力を分析する一方、新聞、雑誌に精力的に論評を発表。日独の独裁政治を比較研究した成果は、後に全3巻の「評伝吉田茂」(78〜81年)にも生かされた。

 防衛大学校長を辞任後も、平和・安全保障研究所理事長などを歴任。安全保障政策への提言を続けた。「平和憲法の理念を守りつつ、自国の防衛軍を明確に保持できるようにするべきだ」と改憲論を打ち出す一方、リベラリズムの立場から、教育勅語や戦前の軍国主義を批判した。民社党の理論的支柱となり、大平正芳首相のブレーンも務めた。

 86年、勲一等瑞宝章を受章。2001年に文化功労者。晩年は京都に戻り、ヒトラー独裁の研究に意欲を見せていた。

朝日新聞デジタル 2012年11月7日14時10分)


http://sankei.jp.msn.com/west/west_life/news/121107/wlf12110722580024-n1.htm

現実主義外交の総帥 元防衛大学校長、猪木正道氏死去


 戦後安全保障論の礎を築いた猪木正道氏(京都大名誉教授、元防衛大学校長)が、天寿を全うして98年の人生を閉じた。猪木氏は左右の全体主義と闘った東大教授、河合栄治郎の最後の弟子であり、戦後論壇で「空想的な平和主義」を批判した現実主義外交の総帥であった。

 猪木氏は強烈な個性とその人間的な魅力で、論壇にはファンが多かった。歯切れのよい「猪木節」は、鋭い現実感覚と豊富な歴史観に裏打ちされている。その猪木門下からは優秀な人材を輩出した。

 国際政治学に独自の分野を開いた勝田吉太郎氏、高坂正堯佐瀬昌盛氏ら多くの碩学(せきがく)を生み、国際政治の「京都学派」として次代に受け継がれている。

 猪木氏が東大で薫陶を受けた河合は、共産主義の批判者であったが、同時に軍部を批判した唯一の知識人だった。河合人脈にはほかに、経済評論家の土屋清、思想家の関嘉彦らがおり、社会思想研究会をつくって、共産主義に甘い丸山真男らと戦後論壇で論争した。

 猪木氏は敗戦後まもなく、「ロシア革命史」「共産主義の系譜」「ドイツ共産党史」の3部作をもって颯爽と論壇に登場した。進歩的文化人の容共ムードに抗し、マルクス主義が非人間的な独裁政治であることを鋭く指摘した。

 猪木氏の関心は政治思想、国際問題、防衛問題に及び、しばしば辛口の論評を発表して議論を呼び起こした。河合の学風を受けて「戦闘的民主社会主義」と評された。後に吉田茂の評伝を書いて、戦後政治の現実主義外交を肯定した。

 岩見隆夫著『陛下の御質問』によると、昭和天皇が猪木氏の『七つの決断−現代史に学ぶ』を読んで、「猪木の書いたものは非常に正確である。とくに近衛(文麿)と広田(弘毅)についてはそうだ」との感想を当時の中曽根康弘首相に伝えたという。

 著書『七つの決断』は第一次大戦から終戦を迎える昭和20年までの日本の指導者の決断を振り返って論評を試みている。いま読み返してみても、少しも古さを感じない名著である。

 それは『軍国日本の興亡−日清戦争から日中戦争へ』にも通じる。猪木氏は戦前の軍国主義と戦後の平和主義が、いずれも軍事的な評価において不当であると批判する。前者が過剰であり、後者が過少であるとの指摘で、互いに相手の裏返しであると論じた。

 猪木氏は本紙「正論」欄の第1回執筆者であり、来年発刊40周年を迎える月刊正論で主導的な役割を果たした。長男は国際日本文化研究センターの前所長で、経済学者の猪木武徳氏。親子2代の「正論」メンバーである。(特別記者、湯浅博)

MSN産経ニュース 2012.11.7 22:52)


産経新聞の『正論』欄の第1回執筆者であり、来年発刊40周年を迎える月刊正論で主導的な役割を果たした」人物が、「教育勅語や戦前の軍国主義を批判した」人物であったことに留意すべきだろう。

私が猪木正道の名前を知ったのは70年代後半だったが、嫌な右派論客だなあと思っていた。しかし、現在のネトウヨ、産経、それに石原慎太郎安倍晋三の基準に照らし合わせると、猪木正道は「保守」の反中範疇には属さず、それどころか現在「中道」を自称(僭称)している「松下政経塾」主導の与党・民主党より相対的に「左」に相当するのではないか。

それだけ、日本の論壇が「右翼化」、いや「極右化」したということだ。

「近ごろ変だぞ!産経新聞。 真正保守民族派、反共愛国の立場から産経新聞左傾化・低俗化を叱る」という副題のブログに、現在のネトウヨの考え方がよく反映されている記事が出ているので、リンクを張っておく(笑)。
http://d.hatena.ne.jp/sankeiaidokusya/20121108/p1