3/12の朝日新聞夕刊記事より。
http://www.asahi.com/articles/ASG3D3415G3DULFA009.html
春闘、ベア回答続々 大手企業、中小に波及なるか
今春闘は12日、大手企業の一斉回答日を迎えた。自動車、電機、鉄鋼などの多くの企業が賃金体系を底上げするベースアップ(ベア)を実施すると回答した。2008年以来6年ぶりに本格的な賃上げが行われることになる。今後は、賃上げが中小企業や非正規社員を含めて、どこまで広がるかが焦点になる。
トヨタ自動車は平均で月額2700円のベアを行うと答えた。ベアは6年ぶり。組合が要求した4千円には届かなかったが、02年以降では最高額で、今年度の物価上昇率の見通し(0・7%)を上回る。宮崎直樹専務役員は会見で、「経済の好循環にむけて個人消費を活性化することは重要。トヨタの労使としてもその役割を果たす必要がある」と述べた。
日産自動車は3500円の要求に対し、満額回答した。ホンダは3500円の要求に、2200円と答えた。自動車大手3社は一時金(ボーナス)の要求にも、満額回答した。
(朝日新聞デジタル 2014年3月12日15時59分)
ネットで「朝日新聞デジタル」未登録者が読める記事はここまでだが、紙面で読めるその続きには、
という文章がある。
「1998年以降で最高」というからには、1997年のベアよりは上げ幅が小さいということだろう。
では、その1997年には何があったか。
消費税の増税である。それまでの税率3%が5%に引き上げられた。そしてその翌年の1998年は、年間の自殺者が初めて3万人を超えた年であり、9年連続で民間給与所得が減少した最初の年でもあった。つまり、1997年から1998年にかけては、日本経済が坂道を転げ落ちていくきっかけとなった2年間として記憶されるべき時期である。
「大胆な金融緩和」を金看板にする安倍政権の経済政策には、ジョセフ・スティグリッツが昨年6年の朝日新聞のインタビューで指摘したように、再分配が欠けていた。「大胆な金融緩和」と「強力な再分配」とが組み合わされていれば、あるいは経済政策が成功していた可能性もあったかもしれないと思うが、安倍晋三以下政権中枢にも官僚にも再分配を強化するつもりなど全くなかったので、最初から成功するはずもなかった。マスメディアは今年のベアを囃し立てているが、富士通の経営陣が今年のベアには「特殊事情」があったとかなんとか言っていたらしい*1。それはテレ朝の報棄て(報道ステーション)がちらっと言っていたのを聞いただけだが、その「特殊事情」の中には消費増税が含まれるんだろうなと思った。消費増税で家計の支出は確実に増えるので、ベアなしの定期昇給だけだと「生活が苦しくなった」と社員が感じて、士気が下がってしまう。その悪影響を各企業の経営陣は考慮したのではないかとは、多くの人々が想像するところなのではなかろうか。しかし、なぜかマスメディアはそのことに触れたがらない*2。
ともあれ、大企業の多くは曲がりなりにもベアを実施する。そんな中にあって、あらかじめ報じられていた通り、ベアを実施しなかったスズキやダイハツは、やはりかなり苦しいのだろう。しかし、産経の報道を見ると、あたかもスズキがベアを実施したかのような見出しをつけている。まるで大本営発表みたいだ。以下に、日経の記事と対比して並べてみた。
http://sankei.jp.msn.com/economy/news/140312/biz14031218470044-n1.htm
スズキはベア800円で妥結 一律配分は見送り
スズキは12日、2014年春闘の労使交渉で、ベースアップ(ベア)に相当する賃金改善分を組合員平均で月額800円にすることで妥結した。一律の実施は見送り、若手や仕事で成果を残した社員らに手厚く配分する。
年間一時金(ボーナス)は5.5カ月分の要求に対し満額回答した。
ベアをめぐっては組合側が3500円を要求したのに対し、経営側は15年4月からの軽自動車増税による需要減退などを見据え、回答直前まで「ゼロ回答」する方向で調整していた。ただ、回答日の夕方までもつれた交渉の結果、要求を大幅に下回る金額で妥結した。
(MSN産経ニュース 2014.3.12 18:47)
スズキ、役員報酬カット ベア見送り「理解を」 :日本経済新聞
スズキ、役員報酬カット ベア見送り「理解を」
ダイハツ工業とスズキは12日、春季労使交渉で賃金を一律で引き上げるベースアップ(ベア)を見送り、若手や評価の高い社員を中心とする賃金是正分として月800円の賃金改善を実施すると発表した。軽自動車税の増税による先行き不透明感を受け、トヨタ自動車など大手とは一線を画する回答となった。
スズキは社長が1年間10%、4人の副社長が半年間5%の役員報酬をカットすることで労働組合から理解を得る異例の交渉を展開した。
ダイハツとスズキは労使交渉がヤマ場を迎えた3月上旬、労働組合の要求である月3500円に対し、ベアを見送る方針を固めた。いずれも増税や新興国での販売の不透明感が背景にある。
ただ、労使交渉の過程で反発が大きかったことなどもあり、全社員の一律引き上げではなく、業績評価が高い社員や若手などに充当する「是正分」として少額の賃金改善を実施することにした。一時金については満額回答とした。
スズキの鈴木修会長兼社長は同日記者団に対し、「軽の先行きが不安で危機感が強く、大手並みには(賃金改善)できない。組合におわびということで役員も報酬をカットすることにした」と説明した。
(日本経済新聞 2014/3/12 19:53)
[追記](2014.3.13)
上記の記事本文は、13日の朝日新聞朝刊を読む前に書いた。下記は13日付朝刊記事についてのコメント。
- 記事中に、「富士通の経営陣」のコメントに言及したが、13日付朝刊2面にそれが掲載されていた。その部分を下記に引用する。
政権の意向に乗った春闘だけに、企業からは「ベアは今回限り」との思いもにじむ。富士通の山本正巳社長は「来年以降は、今年の特別な要因をのぞいた上で、賃金のあり方を検討する必要がある」。政権がお膳立てした賃上げ春闘が、来年も続く保障はない。
(2014年3月13日付朝日新聞2面掲載記事=稲田清英、斉藤太郎記者署名記事より)
- 消費税増税の影響についても、同じ2面に記事が出ていたので要約する。現在、前年同月比で1.3%ほどの物価上昇率になっているが、これが4月からの消費増税でさらに2%ほど押し上げられ、バブル末期の1991年3月以来の3%台の物価上昇率になるが、各企業の賃上げはそれに追いついていない。たとえばトヨタのベアは0.78%で、定期昇給分を合わせても2.87%であり、消費増税を織り込んだ物価の値上がりには追いつかない。他の大多数の企業の賃上げ率はトヨタより低い。SMBC日興證券の宮前耕也シニアエコノミストは「政府の主導でベアをおこなっても、働き手全体の賃金に波及させることは難しいだろう」と指摘した(以上、2014年3月13日付朝日新聞2面掲載記事=清井聡記者署名記事を要約)。