kojitakenの日記

古寺多見(kojitaken)の日記・はてなブログ版

笹井芳樹の記者会見と「金になる研究」への国家予算の傾斜配分の問題

笹井芳樹の記者会見で、氏は「STAP細胞」の論文に関しては、2012年12月以降、仕上げの段階で参加しただけと言っていたが、それは間違いなく事実だろう。

http://d.hatena.ne.jp/kojitaken/20140413/1397400005#c1397687996

id:bean_hero 2014/04/17 07:39
WIPOで検索して優先権書類の発明者欄を確認。2012年の第一優先日だけでなく、2013年の第二優先日時点でも笹井氏の名前はない。それから約1ヶ月後のPCT出願で笹井氏が発明者に追加されてる。約1ヶ月で何に寄与したのかな。論文投稿時期とも近いし、共著者に加わったのと同じ力学が働いてた可能性もありそう。

bean_heroさんのご指摘に感謝。笹井氏はノーベル賞候補にもしばしば擬せられる大科学者様だそうだから、そのご威光で名前を連ねたものかもしれない。

そして、上記のようないきさつでは、いくらなんでも笹井氏自身の仕事に見せかけることはできないけれども、権威あるイギリスの商業誌 "Nature" に「理研小保方晴子博士」の名前を筆頭著者として掲げた「STAP細胞」の論文が掲載されたことを大々的にアピールすれば、科学技術関係の国家予算を理研の、しかも自らの関係する分野に集中的に引っ張り込むことができる。笹井氏はそう皮算用を弾いたのではないかというのが、ごく自然な推測だろう。週刊誌が面白おかしく書くところによれば、かつて予算が傾斜配分されていた「ES細胞」の研究費は、山中伸弥教授の「iPS細胞」のめざましい効果が確認されるや、そちらに奪われてしまったという。実際、山中教授はその経歴から言っても、青色LEDの大発明をなした中村修二を私には連想させる。

中村氏といえば、青色LEDの特許をめぐって、かつて勤務した日亜化学を相手取って大がかりな訴訟を起こしたことであまりにも有名だが、それに対して、山中氏は「権利化を避けた」という俗説が一部で信じられている。しかしそれは事実ではない。下記URLから、「検索項目」の欄を「発明者」、「検索キーワード」を「山中伸弥」として検索すると、49件の公開特許公報が確認される。
http://www7.ipdl.inpit.go.jp/Tokujitu/tjkta.ipdl?N0000=108

それら特許出願の審査経緯までは確認していないが、山中教授は安い特許料を設定して、iPS細胞の技術が特定の企業に独占されないようにしていると聞くから、成立した特許は(おそらく多数)存在する。つまり、山中教授が「権利化を避けた」との俗説は事実に反する「真っ赤な嘘」なのである。なお、同様の検索をキーワード「小保方晴子」について行ったら「0件」と表示される。「STAP細胞」の国際特許出願は、優先権を設定した日から2年半以内に各国の特許庁に審査請求をしなければ、権利化することはできないが、まだどの国の特許庁にも審査請求は行われていないとのことだ。そしてその期限は半年後の今年10月に迫っている。余談だが、最近、黄禹錫の米国特許出願が特許査定されたらしい(笑)。

それはともかく、下記の朝日新聞記事にまとめられている笹井氏の記者会見は、「責任転嫁」だの「往生際が悪い」だのといった感想を起こさせるもので、大科学者にはおよそふさわしくないと思った。

http://www.asahi.com/articles/ASG4J53HCG4JULBJ00N.html

笹井氏「論文仕上げに協力しただけ」 STAP巡り会見


 STAP細胞の論文に関する疑惑が浮上してから約2カ月。問題発覚後、主要著者で唯一、公の場で説明していなかった理化学研究所の発生・再生科学総合研究センター(CDB)の笹井芳樹副センター長がようやく会見に応じた。謝罪の言葉を繰り返す一方で、自身の関与について「論文の仕上げに協力しただけ」と語った。

 笹井氏の会見は16日午後、東京・御茶ノ水の会議場で始まった。約300人の報道陣が詰めかけ、約3時間半に及んだ。

 「日本の科学全体に対する信頼を損ねかねない状態になった」。冒頭、笹井氏は頭を下げた。スーツの胸には理研のバッジ。個人でなく、理研幹部としての謝罪の意味を込めたという。

 公の場で語るのは論文発表の1月末以来。「早くおわびしたい気持ちはあったが、調査委員会が動いていた。申し訳ない」と述べた。

 論文作成での自らの役割について説明。論文が完成するまでには (1)着想 (2)実験 (3)解析や図表作成 (4)文章書き上げ の4段階があるとし、自身が加わったのは、最後の論文の書き直しから、と主張した。それまでは小保方(おぼかた)晴子氏や若山照彦・山梨大教授、米ハーバード大のチャールズ・バカンティ教授が担当したという。論文で不適切な画像などが掲載された部分は、小保方氏と若山氏の2人による研究だとし、自身は関わっていないと語った。

朝日新聞デジタル 2014年4月17日07時56分)

あと、最低だったのが朝日新聞の社説(4/17)。一連の「STAP細胞事件」を、佐村河内守事件やホテルのメニュー偽装事件と一緒くたにして書いているが、それらの事件と「STAP細胞事件」の最大の相違点、すなわち、「金になる研究」に対して国家予算がはなはだしい研究費の傾斜配分が行われるという、大隅典子・東北大教授が言うところの「科学の商業化」、つまり新自由主義の政治の問題という視点がすっぽり抜け落ちているのだ。それこそが、2005年に盧武鉉の韓国で「黄禹錫事件」を引き起こし、2014年に安倍晋三の日本で「STAP細胞事件」を引き起こした。しかし、現在の日本で「科学の商業化」の問題が声高に語られることは少なく、ネットの世界でも、かつて小泉純一郎の「新自由主義」批判で名を馳せた某有名ブログも、その後最近になって小泉純一郎支持に転向したせいもあるのかもしれないが、ひたすら「小保方晴子叩き」にのみ血道を上げるていたらくである。

小保方晴子のような研究者はかつてもいただろうし、これからも現れるかもしれない。しかし、ああいう人間を広告塔に仕立て上げて、多額の国家予算を引っ張ってこようとした今回の事件が起きた原因は、「『金になる研究』に極端な国家予算の傾斜配分」を行う「新自由主義の政治」以外の何物でもない。つまり、新自由主義がのしてくる以前の時代であれば、小保方晴子のような人間が脚光を浴びた後、一転して騒動の中心人物になるような事態は起こり得なかった。そう私は考える。脱構築だの何だのは今回の事件とは無関係である。