kojitakenの日記

古寺多見(kojitaken)の日記・はてなブログ版

手がかりは全部気づいたけどトリックを見抜けなかった/泡坂妻夫『しあわせの書』

2009年に亡くなった泡坂妻夫の本は、本記事で取り上げる下記の本を含めて、1冊も読んだことがなかった。


しあわせの書―迷探偵ヨギガンジーの心霊術 (新潮文庫)

しあわせの書―迷探偵ヨギガンジーの心霊術 (新潮文庫)


それが、昨年来なぜか売れているらしい。NHKラジオで取り上げられ、さらに朝日新聞の読書欄にも載ったかららしいが、私は朝日をとっているけれどもその記事には気づかなかった。

http://www.asahi.com/articles/TKY201312070535.html

(売れてる本)『しあわせの書 迷探偵ヨギ ガンジーの心霊術』 泡坂妻夫〈著〉

 ◇紙の本ならではのトリック

 11月5日にNHKラジオ第1「ラジオ深夜便」で紹介直後、1987年発表の本書がネット書店のアマゾンで総合1位に躍り出た。反響は大きく先月だけで1万2千部増刷したという。

 紹介したのはスポーツ・コメンテーターの益子直美さん。それまで口下手だったが、この本を使った手品を…

朝日新聞デジタル 2013年12月8日05時00分)

昨年12月8日付の朝日新聞読書面といえば、その前日(昨年12月7日)に読み終えたばかりの宇沢弘文著『経済学は人びとを幸福にできるか』(東洋経済新報社)が、著者・宇沢弘文のインタビューとともに取り上げられていた記憶があった。この記事を書くためにネット検索をかけてみると、記憶に誤りはなく、「著者に会いたい」というコーナーで取り上げられていた。ちなみに、宇沢弘文が病に倒れていたことをその記事で知ったのだった。それで、『経済学は人びとを幸福にできるか』が、別のタイトルだった旧版に、最近(確か2010年)の著者の講演会の記録を追加し、あの何にでもしゃしゃり出てくる池上彰の序文をつけ、タイトルまで付け替えて、まっさらの新刊みたいな体裁で出版されていたのかと、その朝日書評欄の記事で納得した。このことは、当ダイアリーでも取り上げようと思っていたが、書くタイミングを逸したまま今日に至った次第。



つまり、宇沢弘文はもはや(旧著の焼き直しではない掛け値なしの)新刊を世に問うことが極めて難しい状態になってしまったのだった。残念なことである。

話を本題に戻すと、『しあわせの本』を買ったのは、今年3月、消費税率引き上げ直前に本を買いだめした時、軽い本も買っておこうと衝動買いしたものである。どうしても読みたい本ではなかったから、そのままほったらかしにしていたが、昨日(7/2)、一気に読んだ。

本の帯には、「大反響 売れてます」「お願い。未読の人には、絶対に本書のトリックを明かさないで下さい。」「朝日新聞『売れてる本』で紹介!『紙の本ならではのトリック』瀧井朝世」とある。

読み始めて思ったのは、「なんだ、字が小さいなあ」ということ。「昭和六十二年七月二十五日 発行 平成二十六年一月十五日 二十四刷」とある。昭和62年(1987年)といえば、新聞社や出版社が字のサイズを大きくし始めた初期の頃である。ロングセラーの場合、さらに字を大きくした「新版」が出るものだが、年に1度弱の増刷ではそれほど抜群の売れ行きともいえないから字が中途半端なサイズのままなのかなと思った。しかし、それだけではなかった。

そして、本書のウリのトリックだが、その手がかりにはほぼ全部気づきながら、結論には到達できなかった。それで著者にしてやられてしまった。種明かしを読んで、「しまった、もっとしゃかりきになって『トリックを見破ろう』としてたら見破れたかもしれなかったものを」と悔やんだが、後の祭りだった。しかし、負け惜しみかもしれないが、下手に見破ってしまうより、著者にやられる方が楽しいものだとも思った。

そう思って、アマゾンのカスタマーレビューを見てみると、無粋なレビューの多いこと多いこと。たとえば、小谷野敦のレビューなんてひどいものだ。

しあわせな人々のための書 , 2010/3/11
By 小谷野敦 (東京都杉並区)
Amazon.co.jpで購入(詳細)
レビュー対象商品: しあわせの書―迷探偵ヨギガンジーの心霊術 (新潮文庫) (文庫)
うかつにも、絶賛レビューを見て、何かすごい仕掛けのあるものらしいと購入して読んで、なんだ、この程度のことか、という本である。
 これなら別に、隠したりしないでいいよ、前もって言ってくれれば読まずに済ますよ、まあ30分くらいで読んだけどちょっと時間の無駄だったかな、という本。
 こんなもので喜べる人たちって、幸せだなあ…。

そんなこと、トリック見破ってから言えよと言いたくなる。小谷野敦とはかわいそうな(ふしあわせな)人である。

60人以上いるレビュアーの中にはトリックを見破った人もいたようだが、それには驚かない。というのは、著者は読者に対してかなり大胆にヒントを与えているからである。大部分の読者は気づかず、少数の読者だけに気づかれる程度に、ヒントをギリギリのところにとどめておくのが、マジシャンでもあったらしい著者の技巧なのであろう。

私は読んでいて、あれっ、なんでこうなってるのだろうと引っかかった箇所がいくつかあったが、それ以上考えずに、引っかかった状態のまま読み進めたから最後まで気づかなかったのだった。うーん、昔、筒井康隆の『ロートレック荘事件』のトリックは見破ったものだけど。