kojitakenの日記

古寺多見(kojitaken)の日記・はてなブログ版

安倍政権の「外国人労働者受け入れ拡大」政策に反対する

安倍晋三が打ち出した「外国人労働者の(一時)受け入れ」の政策は、右翼民族主義者にとっては、排外主義を論拠に厳しく非難されるべき政策であろうと思うが、腰抜けのネトウヨには非難の声を挙げる勇気を持たない。石原慎太郎安倍晋三と同じようなことを言っているが、ネトウヨはそれも非難しない。しかし、中には安倍の政策を批判する極右言論人もいる。関岡英之がそうである。以下、関岡の主張を引用するが、私は関岡の主張というか論理の展開には断固として反対であることを、最初にお断りしておく。

【関岡英之 第4回 安倍内閣の成長戦略】「外国人労働者受入れ拡大」(2014年6月12日)

 前回まで、安倍内閣の外交・安全保障政策に関して概ね肯定的に論じてきたが、筆者は決して安倍内閣の政策を全面的に支持しているわけではない。「アベノミクスの第三の矢」と言われる「成長戦略」には不適切なものが多いと考える。


安閑と眺められないアベノミクスの「第三の矢」

 なかでもとりわけ問題なのは、外国人労働者の受入れ政策である。東京五輪の開催決定以降、安倍内閣は建設分野での人手不足を理由に、外国人労働者の受入れ拡大を検討し始めた。そして今年四月四日に「当面の一時的な建設需要の増大への緊急かつ時限的措置」として、外国人建設労働者の受入れ拡大策を発表した。
 具体的には「技能実習制度」の規制緩和である。従来の最長三年の上限を撤廃して二年間の延長を認め、最長五年間の在留を認めた。更に、最も危惧された再入国にも踏み切った。三年間の技能実習を終えて帰国した外国人に再入国を認め、帰国後一年以内の場合は二年、一年以上経過している場合は三年、つまり最も長いケースで通算六年の在留を容認したのである。
 技能実習制度は、もともとは発展途上国の人材育成を目的として一九九三年に導入されたが、実際には人件費が安い中国人労働者を合法的に入国させるという、本来の趣旨とは違う目的で運用されている。それは法務省出入国管理統計からもあきらかだ。新規入国した技能実習生の国籍をみると、第一位の中国人が、二位のベトナム人、三位のインドネシア人を大きく引き離し、八割近くを独占している。この結果どうなっただろうか?
 戦後日本において「在日外国人」といえば、戦前から日本に居住してきた朝鮮半島出身者とその子孫が中心という状況が長らく続いてきた。だが西暦二〇〇〇年以降、中華人民共和国の旅券を所持したまま日本に長期在留する中国人が猛烈な勢いで増加し、二〇〇七年末についに在日韓国・朝鮮人の数を追い抜いて最大勢力となり、ピーク時の二〇一〇年には六十八万七千人に達した。


永住在日中国人の急増で「移民国家」化する日本

 このうち永住者の数も一貫して増え続け、在日中国人に占める永住者の割合は二〇一三年六月末には三〇%へと拡大している。これがいかに中国人限定の特異現象であるかは、永住許可件数の推移を他の外国人と比べてみると歴然とする。第二位のフィリピン人、第三位のブラジル人はいずれも永住許可件数が近年減少している。二〇〇八年のリーマンショック以降の国内不況のため、日系人ブラジル人の離職者に対して帰国支援事業を実施したからである。逆に言えば、在日中国人は景気の変動や震災の影響等に左右されることなく、一貫して日本の永住権を求める傾向が顕著なのだ。
 現行の日本政府の方針が移民受入れを前提としていないにもかかわらず、いつのまにか在日中国人社会は「三人に一人は永住者」という状態に近似するまで定住化が既成事実となってしまっている。しかも、日本の「移民社会化」が、国民の多くに気づかれないまま、水面下でなし崩し的に進行してしまったことが問題である。特に中国は、共産党一党独裁国家で、人民は反日教育を受けており、在外中国人も有事には「国防動員法」の動員対象と法律上義務づけられているなど、他の外国人に比べて政治的リスクが著しい。これは治安や安全保障にも関わる問題だ。安倍内閣が、技能実習制度を規制緩和しようとするのなら、まずこの慄然たる現状をきちんと検証し、国民の不安を厳然と妥協なく払拭することが先決であるといえよう。
 そしてなによりも、東日本大震災福島第一原発事故からの復興を象徴するという触れ込みで開催されんとする2020年東京五輪は、外国人に頼らず、我々日本国民自身の手で、成し遂げてこそ、歴史的意義があるはずだ。

ここで関岡英之が安倍政権の外国人労働者の受け入れに反対している論拠は排外主義である。だから私はこれに反対する。

しかし、私もまた安倍政権の外国人労働者受け入れ拡大政策には反対なのである。それは、外国人労働者受け入れの狙いが、企業の人件費削減にあることが明らかだからだ。つまり安価な労働力を獲得しようというわけである。これは明らかなデフレ政策である。

政府が何もしなくとも中国などの外国から労働者はやってくる。その流れは止められるものではない。諸国間に賃金格差がある以上当然である。

しかし、政府がわざわざそれを加速する政策をとる必要など全くない。安倍政権の金融緩和とインフレターゲットを軸とした金融政策はそれなりに効果を表しており、飲食店の求人の掲示を注意深く観察していれば、時給が以前より少し上昇していることにお気づきの方もいるだろう*1。しかし、労賃の上昇を抑制しようとするのが経営者というものであり、外国人労働者の受け入れ増という安倍政権の政策は、財界からの要望を反映したものであることに疑いの余地はないだろう。

この問題に触れた記事が、昨日(7/4)の朝日新聞5面(昨日取り上げた「STAP特許 迫る期限」の記事と同じ面)に掲載されている。しかし、ネットのなんとかデジタル非登録者には書き出ししか読めない。私は記事の現物を持っているのでもちろん読めるけれど。
http://www.asahi.com/articles/ASG73369LG73ULFA004.html

50年後も1億人、本当に保てる? 抜本的対策は未整備

田中美保

 少子高齢化による人口減に歯止めをかけようと、政府が初めて「50年後も人口1億人」を維持するという人口目標を掲げた。日本の将来を考える上でとても大切なテーマだが、新たな成長戦略に盛り込まれた具体案は、当面の人手不足の手当てが中心。抜本的な手立ては整っていない。

 「何もしなければ、きわめて困難な未来が待ち受けている」。政府の有識者会議「『選択する未来』委員会」の三村明夫会長(新日鉄住金名誉会長)は5月の記者会見で、人口減の問題に正面から取り組むべきだと強調した。経済財政諮問会議の下で年初から議論を始め、まとめた提言が初めての人口目標となった。

 日本の人口のピークは2008年の1億2808万人。昨年までにすでに78万人が減り、何もしなければ50年後には約3分の2の8674万人になる。しかも、65歳以上が約4割という超高齢社会だ。

朝日新聞デジタル 2014年7月4日10時22分)

上記の書き出しで始まる田中美保記者の署名記事から、このエントリと関係する部分のみ抜粋する。

(前略)大胆な金融緩和と過去最大の財政出動で景気が下支えされ、建設業や飲食業などで人手不足が目立つようになった。雇う側の経済界から対策を求める声が強まり、政府が本腰を入れるきっかけになった。(2014年7月4日付朝日新聞5面掲載・高木美保記者署名記事より)

 政府が増やしたい働き手とみているのが、女性、高齢者、外国人だ。(同前)

 外国人の受け入れ拡大では、日本で働きながら技術を学んでもらう技能実習制度の期間や対象職種を広げる。ただ、この制度は「外国人を低賃金で長時間働かせている」との批判が強い。日本弁護士連合会は制度廃止を訴えているほか、米国務省も仕組みの改善を求めている。一方で、外国人の永住を認める本格的な「移民制度」には、政府は慎重だ。
 人口減少は環境問題などと同じく、解消するのに長い時間がかかる。男性も含めた働き方の見直しや「使い捨て」でない外国人の受け入れ策など、抜本的な対策の議論が欠かせない。(同前)

「この制度は『外国人を低賃金で長時間働かせている』との批判が強い」とは、私の意見ではありませんよ、といわんばかりの、いかにも朝日新聞経済記者の書きそうな文章であって、そこはいただけないが、それ以外は安倍政権の狙いとその問題点をよくまとめた記事だと思う。

要するに、財界の狙いは「安価な外国人労働者の労働力獲得」であり、安倍晋三はその言いなりになっているのだ。これは賃金の上昇圧力に抗しようとする財界の企みに加担する、明らかなデフレ政策に他ならない。仮に、安い労賃でこき使うのは外国人だけで、日本人労働者の賃金はしっかり上げますよ、というのなら、同一価値労働同一賃金に反する行為である。

ここでまた余計なことを書くと、「日本型雇用」を正当化しようとすると、それが同一価値労働同一賃金の原則に抵触するのは必然の帰結である。実際、当ダイアリーの1年前の下記記事で酷評した石水喜夫著『日本型雇用の真実』は、平然と下記のような暴論を展開している。

石水喜夫『日本型雇用の真実』(ちくま新書)の納得できなかった部分 - kojitakenの日記(2013年7月13日)より孫引き

 欧米社会から持ち込まれた新古典派経済学は、このような日本の社会像や歴史観を共有することができません。新古典派経済学の賃金論は、あくまで仕事基準の賃金であり、労働市場論にもとづいて、同じ仕事の賃金は、同じ労働力の価格として全く同じであると言い放つのです。このモデルの中に生きる新古典派経済学者が、人間基準の賃金を理解することは不可能です。そして、彼らにとって理解可能な仕事基準の賃金に改めることが、日本社会の「構造改革」であると意識されます。

 こうした賃金をめぐる文化摩擦は、戦後日本社会で度々繰り返されてきましたが、政府をあげて「構造改革」を推し進め、新古典派経済学者に改革の権力をも授けてしまったため、労使関係にもかなりの混乱が及びました。残念なことですが、政治権力や学問の権威の前に、誤った認識を鵜呑みにし、構造改革を推し進めた労使関係者も少なくはなかったでしょう。しかし、その荒れ狂った猛威もようやく峠を越えつつあるようです。今後は、この混乱の中から、労使が手を携え、職場の課題を真剣に話し合うことで、日本社会にふさわしい雇用、賃金制度を再構築していくことが期待されます。

(石水喜夫『日本的雇用の真実』(ちくま新書, 2013年)137-139頁)

ここで著者の石水喜夫は、同一価値労働同一賃金の原則を「新古典派経済学の賃金論」と決めつけることによって、大企業の正社員と非正規雇用労働者の賃金格差を正当化しているのである。石水喜夫は、新古典派経済学を支持する人間とはいえないけれども、「新自由主義者」であるとはいえるだろう。新自由主義とは格差(階級)を固定化することを目的としたイデオロギーであると定義すると、石水が新自由主義者であるという結論が得られる。

話を戻すと、当然日本人労働者と外国人労働者との間にも、同一価値労働同一賃金の原則が適用されなければならない。

さらに問題点を挙げれば、こき使う外国人労働者を「社会の最下層」に固定しようという思想を、財界も安倍晋三石原慎太郎も持っているのである。これが、私が彼らを強く批判する最大の理由である。

4日前に読み終えたガルブレイスの『満足の文化』を再び引用すると、この本にこの問題に関する予見が書かれているので、以下に紹介する。


満足の文化 (ちくま学芸文庫)

満足の文化 (ちくま学芸文庫)

 また日本にとっては、本書で「機能上不可欠な下層階級(the functional underclass)」と呼ぶ人々が重要な問題になるであろう。現代の資本主義は、工場での反復作業などを担う肉体労働者を新たに必要としている。なぜならば、前の世代の労働者ははるかに快適ではるかにゆとりある生活に移っているからである。先進資本主義国の中では、島国であり民族意識も強い日本だけが──一部の非合法の移民を別にすれば──労働者の新規供給が比較的少ない。本書で明らかにしているように、今後の日本で、外国人労働者が重大問題となる可能性がある。しかし、アメリカの深刻な状況と比べれば、まだましかもしれない。アメリカには現在、「機能上不可欠な下層階級」が存在するが、彼らは貧困の苦しみにあえぎ、大都市には無秩序と危険が満ちている。

ガルブレイス著・中村達也訳『満足の文化』(ちくま学芸文庫,2014)8頁=「日本語版への序文」より=)

上記の文章は1992年に書かれた。日本がまだバブル経済崩壊初期にあり、バブルの余韻を残していた頃である。

ヨーロッパについては、ガルブレイスは下記のように指摘している。

 過去四十年間に、ドイツ、フランス、スイスで、また規模は小さいがオーストリアスカンジナビアでも、自国の労働者では間に合わなくなった仕事に外国人労働者を充てることが容認され、かなりの程度、それが組織的に行われてきた。(中略)
 これらの労働者の雇用は、製造業や工場の組み立てラインという枠を超えて、広範な分野の仕事にまで及んでいる。レストラン、家事党の個人サービス、公共事業関係のとりわけきつい仕事が彼らの領域である。(中略)ドイツ、フランス、その他の西ヨーロッパ諸国では、自国の労働者はほとんどと言っていいほど、組み立てラインなどの社会的評価の低い肉体労働はしないのである。
(前掲書45-46頁)

外国人労働者には参政権がないか(フランスやドイツなど)、付与されている国(スウェーデンなど)でも投票を行わない場合が多い。投票に行かないのは、日本で休日を含む長時間労働を強いられている労働者にしても同じだろう。その結果、「満足せる人々」が選挙多数派になり、彼らの意見ばかりが政府の政策に反映される。彼ら選挙多数派の「満足せる人々」は、経済危機に政府が「何もしない」政策(いわゆる「小さな政府」)を好むので、経済危機に対して政府が手が打たず、その結果破局を迎える。ガルブレイスは本の最後の第15章に「レクイエム」という表題をつけた。そして、経済危機に対して手を打たないこととは裏腹に、「満足せる人々」の嗜好に抵触しない軍事費の支出には多額の税金が使われることも指摘している。軍需産業への支援も、安倍政権が力を入れている政策の一つでだし、さらに安倍晋三は戦争への道も切り開いた。

現在の日本は、ガルブレイスが予言した通りの道を歩んでいるといえようか。

*1:私は、あれっと思うくらい時給を引き上げた店もみつけた。つまり、第2次安倍内閣発足から間もない頃に、左翼政党(共産・社民)や民主党海江田万里野田佳彦ら)や生活の党(小沢一郎)や朝日・毎日両紙、それに浜矩子らが主張していた意見は間違っており、大胆な金融緩和とリフレ政策は確かに効果があったのだ。