kojitakenの日記

古寺多見(kojitaken)の日記・はてなブログ版

再度訂正:"Nature" 本誌の査読は二重匿名ではなかった

「名前」ではなく「実力」だった - kojitakenの日記(2014年7月10日)に、理系の研究者のid:peguiさんから記事の誤認を指摘するコメントをいただいた。

http://d.hatena.ne.jp/kojitaken/20140710/1404951983#c1405002708

id:pegui 2014/07/10 23:31
いつも愛読させて頂いております。ちょっと、事実関係で誤解があるようなので、元記事を訂正される前にと思いコメントさせて頂きます。
Nature本誌の場合、査読される側は匿名ではないようです。(姉妹誌のNature Geoscience と Nature Climate Change に限って、著者側の希望でdouble blindになるようです。)http://www.nature.com/authors/policies/peer_review.html
私自理系の研究者ですが、私の分野でもトップクラスのジャーナルでもdouble blindではありません。id:sumita-mさんご専門の社会学の分野は知りませんが、査読する側のみが匿名というのは自然科学の分野では特別なことではないと思います。

ご指摘ありがとうございます。

"Nature" 本誌は二重匿名ではなく、査読される側は匿名ではない。ただ、"Nature"の姉妹誌では著者の希望で二重匿名になるとのこと。雑誌により、また研究分野により査読制度はさまざまなのですね。

そんなわけで、検索語「査読 二重匿名」でググってみて下記「はてなダイアリー」の記事を見つけた。著者のnaturalist2008さんは、昆虫の生態や多様性の研究をしている研究者とのこと。以下引用する(引用にあたって、元記事から脚注及び参照文献の記載、その他一部のリンクを省略しましたので、興味のおありの方は元記事をご参照下さい)。

(前略)

 ところで、ちょっと前に「Double-Blind Review(二重盲査読)」システムを採用している雑誌の査読にかかわる機会がありました。最近話題になっていたようなので「Double-Blind Review」についてまとめてみました。

 一般に、投稿された論文は雑誌編集者によって査読者に送られます(参考:査読という仕事)。その時、査読者は通常匿名でその原稿に対する批評を行います。このコメントに基づいて編集者(匿名でない場合が多い)がその論文を受理するか却下するかを判定します。このように、論文著者が査読者が誰かを知らされず査読者は論文著者を知っている査読システムを「Single-Blind Review」と呼びます。これに対し、著者が査読者を知らされないだけでなく査読者も論文著者の名前を知らされない査読システムを「Double-Blind Review」と呼びます。要するに、「Double-Blind Review」システム下では、編集者以外は著者が査読者の名前を知ることもないし、査読者が著者を名前を知ることもないということです。

 生態学や進化学などの分野では(その他の多くの科学分野でも)、「Single-Blind Review」システムをとっている雑誌が大半です。ところが、「Double-Blind Review」システムに変更すると女性著者による論文が増加するという分析結果が2008年に発表されました。

 行動生態学の専門誌である Behavioral Ecology 誌は2001年に「Single-Blind Review」から「Double-Blind Review」へと査読システムを変更した。そこで、2001年前後4年間(1997-2000年と2002-2005年)に出版された論文を使って第一著者の性別を分析した。

 結果、2001年より前の4年間より以後の4年間の方が全体の論文数(男女とも)は増加していたが、その増加の割合は女性第一著者の方が男性第一著者よりも有意に大きかった。つまり、女性第一著者の論文数全体を占める割合が7.9%増加し、逆に男性第一著者の割合が同程度減少した(著者性別不明が若干数あり)。

 さらに、類似分野の雑誌で常に「Single-Blind Review」システムをとっている4誌(Behavioral Ecology and Sociobiology、Animal Behavior、Journal of Biogeography、Landscape Ecology)と、オプションとして「Double-Blind Review」を選択できるBiological Conservation誌において、1997-2000年(4年間)と2002-2005年(4年間)の傾向を調べた。

 結果、Biological Conservation以外の4誌では、女性第一著者が占める割合に有意な増加は確認されなかった。これは「Double-Blind Review」システムによって女性研究者による論文を増やす効果があることを示している。

(参照文献を引用者=kojitaken=により省略)


 これは暗に「Single-Blind Review」システム下では女性差別が内在していたということでしょうか?もしこれが事実なら、ちょっと問題になりそうです。しかし、上記の解析では出版された論文数とその割合だけで判断しているので、実際の査読者(または編集者)による判定(受理または却下率)に与える影響は検討されていません。

ともかくも上記の論文でとりあげられた雑誌の編集長たちは何らかのコメントを出さざるをえないでしょう。実際、上記の分析結果に対して、Journal of Biogeography誌、Biological Conservation誌の各編集長は自身の雑誌の投稿履歴を解析して、著者の性別が受理率(または却下率)に影響を与えているという証拠は得られなかったと公表しました。また、Animal Behavior誌のフォーラムでも、「Double-Blind Review」システムが女性の著者を増やしているという証拠はないという再解析結果が掲載されています。

 その他の雑誌でも同様の調査が行われ、例えば Journal of Neurophysiology 誌でも性別が受理率に影響を与えているということはなかったそうです。


(参照文献を引用者=kojitaken=により省略)


 我々非英語圏の研究者は、性別よりも語学に関連する問題の方が、受理率に影響を及ぼしているのは確かでしょう。つまり、論文の掲載をめぐっては性別以外にも複数の要因が関連している可能性が高いといえるでしょう。ちなみに、以前紹介した引用数についても、特に性別が及ぼす影響は検出されませんでした(参考:著者数の多い論文ほど引用されやすい?)。

 とはいえ、個人的には「Double-Blind Review」は今後の査読システムとしてどんどん採用したらいいのではないかと思っています。問題点として、事務的な仕事の増加と、容易に著者が判明しやすいということがあるそうです。ただ、著名な研究者なら判明しやすいかもしれませんが、著名でない研究者が著名な研究者と間違えられる可能性も増えるので、結局判別が困難なのではないでしょうか。つまり、駆け出しの研究者にとっては「Double-Blind Review」は得することがあっても損することはないような気がします。

ただ、物理学・数学分野でのアーカイブ(arXive)のように、生物学分野での Nature Precedings といったプレプリント・サーバー(投稿、受理または出版される前に論文原稿を公開してしまうオンライン・データベース)が主流になってしまうと、意義はなくなってしまうかもしれません。