kojitakenの日記

古寺多見(kojitaken)の日記・はてなブログ版

またも「国際標準」に反する安倍政権「特許権の法人帰属」の愚策

安倍政権の「日本ガラパゴス化計画」はとどまるところを知らない。

下記は第2次安倍内閣発足直後に持ち上がった話であり、以前に批判したことがあると思うが、政権は、特許権を発明者個人ではなく企業に帰属させる特許法改正をいよいよ行うつもりのようだ。

http://www3.nhk.or.jp/news/html/20140904/k10014329001000.html

発明の特許権 社員から企業に

 特許庁は、企業で新しい技術を発明した際の特許の権利について、産業界からの要望を受けて、発明した社員に対する報酬を法律で担保することを条件に、社員ではなく企業に帰属させるよう制度を変更する方針を固めました。

 企業で新しい技術を発明した際の特許の権利は、今の法律では発明に関わった社員が持っていて、社内の規定などによって企業に譲渡できるようになっています。
ただ、中小企業などではこうした規定がなく、特許の権利を持つ社員が他社に売却してしまう恐れがあるなどとして、産業界からは、特許の権利を企業に帰属させるよう求める声が挙がっていました。
 このため特許庁は、有識者による委員会で、特許の権利を社員と企業のどちらが持つべきか検討してきました。
その結果、発明に関わった社員に対して、見返りとなる報酬を法律で担保することを条件に、企業に特許の権利を帰属させるよう制度を変更する方針を固め、関連する法律の改正に乗り出すことになりました。
 特許庁は、外国企業への技術流出を防いで企業の国際競争力を維持するために必要な措置だとしていますが、社員側の反発も予想され、法律の改正にあたっては十分な報酬を確保できる仕組みを整備できるかが焦点になります。

NHKニュース 2014年9月4日 4時07分)


http://www.corporate-legal.jp/houmu_news1652/

特許法改正 発明者への報酬義務付け 


事案の概要

特許庁は、企業の従業員が発明した特許について、特許を企業に帰属させる条件として企業が従業員に対し報酬を支払う新ルールを整備した特許法改正案を早くとも秋の臨時国会に提出する方針である。


コメント

特許法では、企業の従業員が発明した特許(職務発明)について、そもそも発明者に帰属することを前提とした上で(特許法第29条第1項柱書)、使用者である企業側に実施権(特許を使用した製品を開発し、販売するなどできる権利。)を与える。一方で、従業員が企業に職務発明に係る権利を譲り渡したときは、従業員が「相当の対価」を受ける権利を保障している。
「相当の対価」に関して、早い段階で従業員の職務発明に関する制度を見直し、円滑に運用している企業がある。例えば明治製菓は、「発明考案取扱規程」と「薬品発明特別報償規程」という制度を設け、特別報奨金として、特許に係る商品の発売後5年間の売上利益額の0.25%,特許譲渡額および実施料では1%で最高5,000万円の範囲で支給をしている。
他方で、企業と発明者間で訴訟に発展した事例がある。有名なものでは、元・日亜化学の研究者・中村修二氏が青色発光ダイオードの発明で争ったいわゆる「中村訴訟」である。当裁判では、中村氏は「相当な対価は639億円が妥当」とし、うち200億円の支払いを企業側に求めていたが、最終的には8億円の支払いとなった(高輝度青色LEDの発明はわずか2万円で会社に譲り渡していた)。その他には オリンパス光学工業、日立製作所、日立金属、味の素、キヤノンなどの元・技術者たちが、自らの発明に対する相当な対価を求めて訴訟に踏み切ったケースがある。
その後、上記のような紛争多発を受け、平成16年に特許法第35条を改正し(平成17年4月1日より施行)、対価の決定を当事者間の自主的な取決めに委ねる制度を規定した。
しかし、特許庁が平成25年に実施したアンケートでは、発明に対する報酬などの取り決めがある中小企業は76%にとどまっている。法改正後も「相当の対価」請求権が依然として経営上のリスクとなっているとの意見や、企業における研究開発や雇用の在り方等が多様化しているとの意見があり、特許法第35条の再改正が主張されてきた。
今回の報酬に関する新ルールが整備されれば、企業側にとってはより対価額の予測可能性を高める。さらに報酬の具体的な算定ルールを特許庁が指針などで示すこととなれば、報酬に関する社内規定を整備しやすく、そして訴訟に発展するリスクは軽減されるだろう。

(企業法務ナビ 2014-09-04 10:25:39)


上記「企業法務ナビ」は、「発明者への報酬義務付け」を見出しにして記事を書いているが、同じサイトは過去に下記の記事を掲載していた。

http://www.corporate-legal.jp/houmu_news1271/

特許権は誰のもの?-職務発明について


事案の概要

安部(ママ)政権は「知的財産に関する基本方針」を6月7日、発表し同方針を同月14日の成長戦略の中に反映させる。企業の研究者が発明したものいわゆる職務発明について、特許権の帰属を原則企業側とする基本方針を発表した。
 同基本方針では、これを(1)企業側に帰属させる、または、(2)企業側に帰属するか、従業員側に帰属させるかを契約で決定するの2つの案を示している。ただ、企業と従業員の力関係を考えれば、(1)、(2)いずれのの案でも原則として企業側に特許権が帰属する形となる。これに対し、現行の特許法では発明者すなわち従業員側が特許権を取得するいわゆる発明者主義を取り(特許法29条1項柱書)、従業員は使用者から「相当の対価」を受ける仕組みである(特許法35条3項)。
 現行法のもとでは中村修氏の発光ダイオードの訴訟をはじめ「相当の対価」をめぐって訴訟が起きるリスクがある。このリスクに対応すべく2004年特許法改正で「相当の対価」について社内規定を設けるよう改正がなされ(特許法35条4項)、その結果訴訟は大幅に減少した。今回の基本方針は更に訴訟リスクを軽減させたいとの企業側の要望を背景として出されたものである。このような方針は、発明する意欲を失わせるものとして従業員側の反発も強い。


参照条文
第二十九条  産業上利用することができる発明をした者は、次に掲げる発明を除き、その発明について特許を受けることができる。
一  特許出願前に日本国内又は外国において公然知られた発明
二  特許出願前に日本国内又は外国において公然実施をされた発明
三  特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となつた発明


第三十五条  使用者、法人、国又は地方公共団体(以下「使用者等」という。)は、従業者、法人の役員、国家公務員又は地方公務員(以下「従業者等」という。)がその性質上当該使用者等の業務範囲に属し、かつ、その発明をするに至つた行為がその使用者等における従業者等の現在又は過去の職務に属する発明(以下「職務発明」という。)について特許を受けたとき、又は職務発明について特許を受ける権利を承継した者がその発明について特許を受けたときは、その特許権について通常実施権を有する。
2  従業者等がした発明については、その発明が職務発明である場合を除き、あらかじめ使用者等に特許を受ける権利若しくは特許権を承継させ又は使用者等のため仮専用実施権若しくは専用実施権を設定することを定めた契約、勤務規則その他の定めの条項は、無効とする。
3  従業者等は、契約、勤務規則その他の定めにより職務発明について使用者等に特許を受ける権利若しくは特許権を承継させ、若しくは使用者等のため専用実施権を設定したとき、又は契約、勤務規則その他の定めにより職務発明について使用者等のため仮専用実施権を設定した場合において、第三十四条の二第二項の規定により専用実施権が設定されたものとみなされたときは、相当の対価の支払を受ける権利を有する。
4  契約、勤務規則その他の定めにおいて前項の対価について定める場合には、対価を決定するための基準の策定に際して使用者等と従業者等との間で行われる協議の状況、策定された当該基準の開示の状況、対価の額の算定について行われる従業者等からの意見の聴取の状況等を考慮して、その定めたところにより対価を支払うことが不合理と認められるものであつてはならない。


コメント

今回の方針は訴訟リスクの軽減という企業側の要望に応えてのものである。確かに、特許権を会社側に帰属させれば訴訟リスクは減る可能性が高いかもしれない。しかし、このような方針は企業側にとってよい面ばかりではない。現在、従業員側に特許権を帰属させる仕組みをとっているのは、アメリカ、ドイツ、韓国などである。もし、企業側に特許権を帰属させることとなれば、これらの国に優秀な人材が流出する可能性が高くなる。加えて、企業側に特許権を帰属させるにしても必ずしも企業側の訴訟リスクがゼロになるわけではない。企業側に特許権を帰属させる仕組みをとっている英国でも、従業員側から発明の報酬を求めての訴訟が提起されているからである。今回の方針が企業にとって利益となるかはなお慎重な検討が必要である。

(企業法務ナビ 2013-06-19 11:19:16 最終更新日:2013-06-19 12:20:50)

安全保障問題では常日頃からアメリカに追従したがる安倍政権が、人権問題のみならず知的財産に関しても、アメリカ・ドイツ・韓国など他国に追随せず、日本独自(=ガラパゴス化)の道を歩み、技術者の海外流出を促すとは実に不思議である。呆れ返る「愚策」というほかない。

そういや、この件も小渕優子経産相の所管マターだったな。