kojitakenの日記

古寺多見(kojitaken)の日記・はてなブログ版

「経済成長が所得格差を減らすとは限らないが、富の格差の再生産と拡大は制限してくれる」by ピケティ

http://d.hatena.ne.jp/kojitaken/20150116/1421362594#c1421576796 より。

id:spirit7878 2015/01/18 19:26
『経済成長なくして格差縮小なし』つまり『成長なくして分配なし』というのはkojitakenさんの嫌う『上げ潮派新自由主義』であって、(旧みんなの党もこの考え方のようだったが)『格差縮小なくして経済成長なし』『分配なくして成長なし』というのが正しい気がしますが。


違いますよ。

かつての「上げ潮派」(元自民党衆院議員・中川秀直ら)や現在の倍政権の経済政策というのは、昨年末頃に甘利明が口走った「トリクルダウン」という言葉からも明らかなように、経済成長さえすれば、貧乏人もそのおこぼれにあずかって潤う」(=経済成長さえすれば、再分配政策は不要)という考え方です。それに対して、「経済成長はしても、再分配が伴わなければ格差は解消しないよ」というのが私の主張です。

それから、あなたは

『格差縮小なくして経済成長なし』『分配なくして成長なし』

と仰いますが、私は

経済成長なくして格差縮小なし、格差縮小なくして経済成長なしというのが、私の確信である。

と書きました。つまり、あなたのフレーズの前段は私のフレーズの後段と同じです。それから、後段の「分配なくして成長なし」っていうのは、「生産なくして成長なし」というのと同じことで(生産があれば、自給自足や奴隷制などでもない限り分配されますからね)、当たり前であって何も意味しません。要するに、あなたは、「格差縮小なくして経済成長なし」としか言っていない。それだけだと何を言いたいのか意味がとりにくいのですが、おそらく、

「経済成長」は「格差解消」の必要条件なんかじゃないよ。

と言いたいのだろうと推測して、以下議論を続けます。

低成長でも構わないとするのは、金曜日の報ステで見た民主党代表選3候補の論戦で、長妻昭がそんなニュアンスの発言をして、そこを岡田克也に突っ込まれてましたが、その発言だけを切り取れば、長妻氏より岡田氏に分があると思いました。ただ、岡田克也の場合は格差縮小と財政再建原理主義や消費税率引き上げと両立すると考えているらしいところがイタいと思いましたが。

そもそも、経済成長なんかしなくてもいいじゃん、とかいうのは(日本の)「リベラル」特有の傾向で、2012年1月に朝日新聞が「マエハラノミクス vs.エダノミクス」という全3回の特集記事を組んだ時に紹介された(民主党内では比較的リベラルとされる)枝野幸男の主張もそうでした。それを報じた朝日新聞自体も、時々枝野氏と同じような主張をします。それに対し、保守も左翼も経済成長を重視します。私は「リベラル」特有の「経済成長なんかしなくてもいいじゃん」という主張には与しません。経済成長がなければ、富裕層は自らの資産を守ろうとしますし、強制力をもってしなければ、それを阻止することはできません。格差はどうしても固定してしまいます。

それを説明するのに、読んだばかりのトマ・ピケティ『21世紀の資本』から引用します。実は、「経済成長なくして格差縮小なし、格差縮小なくして経済成長なし」と書いた時、下記のピケティの文章を念頭に置いていました。

以下、『21世紀の資本』第2章の「経済成長 - 幻想と現実」から引用。

(前略)横ばいの人口またはそれよりひどい人口減だと、先代が蓄積した資本の影響は高まる。同じことが経済停滞についても言える。さらに低成長だと、資本収益率は成長率より大幅に高くなることも考えられ、そうした状況こそが「はじめに」で述べたように、長期的な富の分配格差へと向かう主要な要因だ。過去の資本優勢社会(これは伝統的な地方部の社会や19世紀ヨーロッパ社会の両方とも含む)では、階級が主に相続財産で決まるが、これは低成長社会でのみ台頭して持続する。
(中略)
 また、成長が格差縮小に貢献するメカニズムがもうひとつある。格差縮小までいかずとも、少なくともエリート層の入れ替わりをもっと急速にしてくれるのだ。これについても議論しておく必要がある。このメカニズムは潜在的には最初のものと相補的だが、重要性は低いし、もっとはっきりしない。成長がゼロか、とても小さいときには、各種の経済機能や社会機能や各種の専門活動は、世代ごとにほとんど変化なしに再現され続ける。これに対し、絶え間ない成長は、それがたった0.5パーセントとか1.5パーセントでも、新しい機能が絶えず作られ、どの世代でも新規技能が必要とされることになる。嗜好や能力が世代から世代へ部分的にしか伝えられなければ(中略)親が前世代でエリート層に属さなくても、成長により個人の社会的なモビリティは高まる。こうした社会モビリティの高まりは、所得格差を減らすとはかぎらないが、富の格差の再生産と拡大は制限してくれるし、だから長期的には、所得格差もある程度は抑えてくれる。
 でも現代の経済成長が個人の能力や適性を明らかにするすばらしい道具だという世間的な通念には、眉にツバをつけたほうがいい。19世紀初期以来、この理屈は各種の格差を正当化するのに使われすぎてきた。その格差がそれほど大きいものだろうと、その本当の原因が何だろうと、この理屈が持ち出されるのだ。そして同時にこの理屈は、新しい産業経済の勝者たちに、思いつくかぎりの美徳を浴びせかけるのにも使われる。(後略)

(トマ・ピケティ(山形浩生・守岡桜・森本正史訳)『21世紀の資本』(みすず書房,2014)89-90頁)


21世紀の資本

21世紀の資本


spirit7878さんのコメントに戻ります。

とにかく、民主党代表選は岡田氏に軍配が上がりましたね。kojitakenさんのいう経済右派なようですけれど、累進課税の強化を主張しているみたいだから、様子を見た方がいいでしょう。
個人的には細野氏(イデオロギー的な右派?)が勝って大化けして欲しかったんですが。
維新の党との合流もそう簡単にはできないでしょうし。


岡田克也は「安倍政権は経済成長だけ考えて再分配は考えていない」とは言ってましたが、なんたって財政再建原理主義者にして消費税率引き上げ論者かつ規制緩和論者ですから、「経済右派」としか言いようがありません。岡田氏の主張はいかにも朝日新聞あたりが好みそうですね。でも、あり得ないでしょうけど岡田氏が総理大臣になったりしたら、また日本経済は大きく悪化するでしょう。

ただ、細野豪志にしたって経済政策は似たようなものでしょうし、何より細野氏の応援団には憲法や外交・安全保障問題に関するタカ派が勢揃いしていた(長島昭久松原仁前原誠司など)ので、どっちも歓迎しないとはいえ細野氏が代表にならなかったことと、何より細野氏にかぶれるミーハー党員・サポーターが思ったほどいなかったことにはほっと一息って感想です。spirit7878さんには申し訳ありませんけど。

ところで、民主党代表選についてはこれ以上書きたいこともないし、ちょっと仕事の予定が押していてあまり時間がとれないこともあって、本来なら明日(19日)公開の「きまぐれな日々」はお休みします。次回の公開は1月26日の予定。