kojitakenの日記

古寺多見(kojitaken)の日記・はてなブログ版

最近読んだ本(2015年8月)

今月は、松本清張推理小説3冊と釈由美子のヤマケイ新書を入れてだが、久々に月10冊以上(11冊)本を読んだ。昨年は月10冊以上を目標にして年間123冊読んだが、今年は神経疲れすることが多いのでやや抑えて年間100冊を目標にしている。春以降ペースが落ちていたが、先月下旬以来3週間ほど続いた猛暑の間に、ネットに割く時間を減らして休息と読書の時間を増やした効果があって、やっと読書欲がやや復活してきた。といっても、今月読んだのは新書本が多く、まだ重厚な本に挑むところにまでは復活していない。その中からピックアップする。



この本はTBSの『NEWS23』でベストセラー本として紹介された。岸井成格が「面白いが、フランス人の書いた本だということを割り引いて読まなければならない」と言っていた。確かに面白いけれども眉に唾をつけなければならないところもあるなというのが感想。しかし、件の岸井成格をはじめとして、ギリシャ債務危機をドイツからと同じ一方的な「目線」*1から見てしまう報道人や、それを鵜呑みにしてしまう一般人は知っておいた方が良い見方も書かれている。そんな偉そうなことを書く私自身も、ギリシャ債務危機を「ドイツ目線」で見ることこそなかったが、ロシアとウクライナに関する問題の見方については著者に教えられるところがあった。しかし本の全体的印象を言えば、やはり全面的には信を置けないものも感じたのだった。

この本を買った時に併せて買ったのが、昨年出版された下記の本。


グローバリズムが世界を滅ぼす (文春新書)

グローバリズムが世界を滅ぼす (文春新書)


うーん、エマニュエル・トッドって、中野剛志だの藤井聡だのといったナショナリストと鼎談するのかよってところ。しかもトッドと中野剛志を引き合わせた仏文学者の堀茂樹(『「ドイツ帝国」が世界を破滅させる』の訳者でもある)はなんと「小沢一郎支持者」(!)らしい。

http://twilog.org/hori_shigeki

関心の中心は哲学・文学・比較文化。メチエは仏語翻訳(A・クリストフ『悪童日記』など)。慶應SFCで教授、アンスティチュ・フランセ東京で講師をしています。遅まきながら最近、日本の政治や社会について、このままじゃ本当にいかんという思いが募って…。過去のツイート:http://twilog.org/hori_shigeki


私はこの人が翻訳したアゴタ・クリストフの『悪童日記』を1999年に読んだ(下記リンクは文庫版だが、ハードカバーで読んだ)。


悪童日記 (ハヤカワepi文庫)

悪童日記 (ハヤカワepi文庫)


その堀氏が2014年にはこんなことをつぶやいていた。

https://twitter.com/hori_shigeki/status/419831831416942594

堀 茂樹
@hori_shigeki

昨年末、エマニュエル・トッドと中野剛志の対論を司会した直後、某出版社の人が新書を書きませんかと話しかけてきた。程なくメールでも誘ってきてくれた。念のため私は、昨今の現実政治に関しては自分が小沢一郎の支持者である旨を返信でお知らせした。以来、なぜか、何の返事も返って来ない(笑)。

6:04 - 2014年1月5日


なんとも陰謀論めいたつぶやきに頭痛がしてくる(笑)。そりゃまともな編集者なら誰だって、読む前から中身の想像がつく、パターン化した陳腐な「小沢支持者」の繰り言の本なんか新書で出したいとは思わないわな。元が取れるはずもないし。

外国文学者が「反グローバリズム」に目覚めて(?)小沢一郎支持に走った例としては、独文学者の池田香代子氏が思い出される。池田氏は「小沢信者」はもう卒業されたようだが、その後も「『右』も『左』もない脱原発」に走るなどした。

「小沢病」とは遅くなってから政治に関心を持つようになった「リベラル」知識人のかかりやすい病気なのだろうか。

上記新書の末尾に、スティグリッツナオミ・クラインも入れてシンポジウムの第2回をやりたいなどと書いてあったが、幸か不幸か、それが実現したという話は聞いたことがない。

なお、エマニュエル・トッドは、自らを「親米左翼」と位置づけている。氏は『帝国以後』でブッシュのグローバリズムをこき下ろしているらしいが(私は未読)、あまりそれにばかりとらわれて「敵味方思考」でトッドを「味方」視する単細胞の「反米左翼」(「小沢信者」に多い)は冷静になった方が良い。

また、「小沢一郎支持者」の堀茂樹エマニュエル・トッドと中野剛志(国家社会主義者と思われる)を引き合わせたことは、岸信介信奉者の孫崎享が「小沢信者」を多く含む「リベラル」の岸信介観を一変させようとしたことと鏡像関係にあるようにも思われる。


その他に読んだ本。


下流老人 一億総老後崩壊の衝撃 (朝日新書)

下流老人 一億総老後崩壊の衝撃 (朝日新書)


原発労働者 (講談社現代新書)

原発労働者 (講談社現代新書)



これは、江藤淳を批判する目的で、江藤の思想を頭に入れておくために買った。江藤は無論「押しつけ憲法論」のイデオローグで、その晩年には「改憲派ホープ小沢一郎に大いに期待していた。以前、「小沢信者」(当時)のブログである『晴天とら日和』に、江藤の小沢一郎論が紹介されたことがあるが、当時土井たか子が護憲を訴える色紙の画像をブログに掲載していたブログ主は、江藤が改憲派で、「改憲派の期待の星」としての小沢一郎に期待していたことなど知らなかったに違いない(笑)。

なお、この江藤本の文春学藝ライブラリー版には白井聰が解説を書いている。孫崎享岸信介佐藤栄作バンザイ論を思わせる江藤バンザイ論が書いてあるかと身構えたが、あからさまな右翼である(単純な)孫崎とは違って、今でも本籍は「左翼」であると思われる白井は、一定の江藤批判もしており、尻尾を出してはいなかった。江藤本に解説を書くあたりはいかにも「怪しい」が、それを言うなら江藤本を買い込んで読んだ私も「怪しい」ことになってしまうから、この本の解説に関しての白井批判はしづらい。


ゴリオ爺さん (新潮文庫)

ゴリオ爺さん (新潮文庫)


ピケティの『21世紀の資本』に引用されていることに新潮社が便乗して増刷したもの。便乗商法は腹立たしいが、4月頃に買ってしまい、数か月放置したのち読んだ。登場人物の紹介がまだるっこしい最初の30ページほどは異様に読みにくいが、その後は引き込まれるように一気に読み進めた。大衆小説の名作であり、サマセット・モームが「世界十大小説」に挙げたのも納得できる。

*1:これも「真逆」(まぎゃく)と同じように、マスメディアでもよく使われるようになった俗語だよね。