kojitakenの日記

古寺多見(kojitaken)の日記・はてなブログ版

「リストラターゲットは50代。希望退職の先にある『絶望』」(河合薫)

安全保障とそれに絡んだ憲法9条の問題と、生存権とそれに絡んだ憲法25条の問題について、つい最近、「サヨクは前者ばかり言い募って自己満足している」と書いた人間に激怒してこの日記に記事を書いたが、激怒した理由の一つとして、これからはもう従来のように9条系の問題と25条系の問題を分けて考えることはできない時代になる、と認識していることが挙げられる。たとえば粉飾決算の問題から大リストラに追い込まれた東芝の場合、生き残り戦略の柱の一つは原発事業である。原発に関して「原子力の平和利用」などあり得ないというのが私の思想信条だ。また、そればかりではなく安倍政権は直接軍需産業への傾斜を深めている。日本経済のこれまでの流れを延長すると、政権の成長戦略の柱は、もう既に原発と兵器産業の分野になっていると私はみなしているが、来年安保法の施行後必ず行われる自衛隊の海外での戦争への参加に伴い、日本経済に軍需の占める割合は高くなるだろうし、そうした時期には好景気が人々の暮らしの改善に連動するどころかその逆であったことは、明治維新以降敗戦までの日本の歴史を調べてみれば明らかだ。

もちろん東芝のリストラは熾烈を極めるだろうし、今年も東芝以外にも多くの企業でリストラが行われてきた。「なんとかノミクス」っていったい何だったの?と思う今日この頃。リストラに遭った大手企業の正社員は、自宅で購読している日本経済新聞に書いてあることと、自信が現在置かれている状況とのあまりの落差に不条理を感じていることと推察する。

前振りがうまくいかなかったが、かつて久米宏の『ニュースステーション』で天気予報をやっていた、当時気象予報士河合薫氏(現在の肩書きは「健康社会学者」らしい)が書いた「リストラターゲットは50代。希望退職の先にある『絶望』」と題した記事を以下引用する。

リストラターゲットは50代。希望退職の先にある「絶望」(河合薫) - 個人 - Yahoo!ニュース

リストラターゲットは50代。希望退職の先にある「絶望」
河合薫 | 健康社会学
2015年12月22日 11時49分配信


「新生東芝アクションプラン」ーーー。

これは昨日、東芝が発表した構造改革につけられたネーミングである。

明るすぎる。ポジティブすぎる。なんでやねん?

なんせその中身といったら、実に暗くて重いもの。7800人削減、ヘルスケア事業は売却、という実に暗くて重い改革なのだ。

「人員対策は7800人に、半導体部門の2800人を加え、全体で1万600人という大きな数。今のところ他社への転籍はソニー半導体へ異動する人員のみで、そのほかに関しては社内の配置転換、早期退職になる。ただし配置転換は受け皿がそれほどないので、ほとんどは早期退職をお願いする形」(東芝の代表執行役社長 室町正志氏)

早期退職。別名、希望退職。正確には、「希望なきリストラ」である。

むろん、“希望”という接頭語のついた退職のもと退職を余儀なく*1されたのは、東芝だけではない。

今年に入ってから9月末までで、これだけの“名の知れた”東証一部上場企業で、人員削減が実施されている。

ルネサスでは早期退職後、人材派遣会社に再就職した元社員を、派遣社員として再び雇用するという、わけのわからない事態も起きた。

そして、おそらく2016年はさらに、増える。

リクルートマネジメントソリューションズが実施した「人材マネジメント実態調査 2013」によれば、「定年が65歳まで延長されている」と回答した企業が 30.6%なのに対し、「早期退職優遇制度などにより、積極的に早期退職を促している」は40.3%。

つまり、「ウチの会社は、とりあえず65歳までいられるんで……」と、のん気なことを言ってるア・ナ・タも、いつ、なんどき、ターゲットにされるかもしれないのだ。

現在、ハローワークに通う日々を送っている、某大手企業の48歳の男性も、3カ月前に早期退職をした1人だ。

彼の会社では数年前から、53歳になると“白い封筒”が送られるのが通例だった。ところが、雇用延長制度に伴い、早期退職志願者が激減。「これじゃ困る」と企業側は対象を拡大した。

「もともと私は53で早期退職してもいいかな、と考えていました。冷静に社内を見渡せば50代以上の社員に、仕事なんてありません。私自身、お恥ずかしい話ですが、数年前から居場所がないなぁって感じることが度々ありまして。早期退職して、次へ行こうと考えていたんです。でも、さすがに予定より5年も早くこんなことになるとは……。封筒が届いたときは、ショックでした」

「ただ、先輩の中には新天地でバリバリやっている方もいたので、50代で辞めるより、いいかもしれないと決心をした。世間では、“夢追い転職”っていうそうですね(苦笑)。年齢不問といいながら45歳以上は、面接にすら進めません。私の年齢で、正社員は無理。非正規ならある。ただし、賃金は最悪です。想像以上に低くて失業手当の方が高い。すると、悩むわけです。下手に働くより、失業手当で一年過ごした方がいいんじゃないかって。子どもの学費もかかりますから」

「でも、一年間、仕事から遠ざかることにものすごい不安を感じています。充電期間と考えて、勉強すればいいと思う自分と、そう思えない自分がいて。就活は続けますけど、動けば動くほど、自分の市場価値を突きつけられるんで、結構、堪える。減額されてでも失業手当がもらえる制度があればいいんですけど、仕事に就いた途端、切られちゃいますから。まるで負け犬ですけど、なるべく組織に居続けることがBestな選択なのかもしれません……」


彼は今の心境を、ゆっくりと、何度も何度も自問するように話してくれた。

前に進まないはがゆさと徒労感。前に進む選択ができない自分への不信感と罪悪感。充電期間と思えない、余裕のない自分――。そのすべてが、辞める前の気持ちと矛盾していて、つじつまが合わないのだろう。

「でも、非正規で働きながらでも、失業保険ってもらえるでしょ?」

確かに。1日4時間未満のアルバイトであれば、「内職や手伝い」の扱いになるため、基本手当を全額受け取る事ができる。だが、彼の場合には、完全にフルタイム。「内職や手伝い」には該当しない。

「だったら、再就職手当を使えばいいでしょ?」

それもある。

失業保険の所定給付日数の3分の2以上を残して早期に再就職した場合、基本手当の支給残日数の60%が、所定給付日数の3分の1以上を残して早期に再就職した場合、基本手当の支給残日数の50%の金額が支払われる。

ただし、「1年を超えて勤務することが確実であること」という条件があり、派遣就業で雇用期間が定められ、雇用契約の更新が見込まれない場合にはこの要件に該当しない。

彼のケースでは、半年間の契約とされていたため、再就職手当の対象にはならないと言われたという。

これだけ非正規が増えているのだから、もう少し国も条件を緩めればいいと思うのだが、そういった動きは全くない。

世界各国のGDP国内総生産)に占める労働市場政策への支出を比較した場合、日本は「就業支援・訓練」などの積極的措置、「失業保険」などの消極的措置のどちらにおいても使われているお金の割合が各国よりも低い。

また、失業保険の給付期間も、欧米と比較した場合、かなり短い。

フランスでの失業保険の給付期間は最長36カ月、デンマークは2年間と長く設定されているほか、ドイツの保険制度は12カ月の期間終了後、更新可能な扶助制度がある。スウェーデンでは300日(18歳未満の子供がいる場合はさらに150日)であるが、支給期間を満了した後にも失業状態の場合、新たに300日間の支給日数が起算される。

長くなればなるほど、「働いて半端なカネをもらうくらいなら、働かない方がいいや〜」という精神状態に陥るリスクも高まるので、長きゃいいってもんでもないかもしれない。

それでも、やはり日本は短すぎる。もう少し長くてもいいのではないか。

さらに、日本の失業は「完全失業(full unemployment)」を前提としているが、多くの先進諸国では、「部分的失業」も失業保険の適用対象としているので、通常の労働時間がゼロになる場合のみでなく、労働時間の削減を部分的失業者として扱い、手当が給付されている国が少なくないのである。

非正規の賃金の見直し、失業の概念を変えるなど、やる気ある50代を後押しする支援策を講じないと、ますます“萎えたミドル”が増殖する。早期退職する前の一年間を、国の援助の下、新しい職種や業種に必要なスキル(技能)の習得期間と位置づけるなんてやり方だってあるのではないか。

このままだと「65歳」までゾンビのようにしがみつくミドルを増やすだけだ。それは結果的に、生産性を下げることでもある。

そして、働く人たちも50歳になってからアレコレ考えるのではなく、油が一番乗っている40歳前後までに、次の人生に向き合わなきゃ。50過ぎに居場所を準備してくれるような、夢の時代は終わったのだ。え? もう50だって?

ふむ……。個人的には、いかなる状況になろうとも、“次へ”とあがいている人が好きだし、応援したい。組織にとどまろうと、外に出ようと、大事なのは、少しばかりの勇気と謙虚な気持ちを持てる自分になることなんじゃないでしょうか。


記事の結びにはやや違和感がある。

なお私自身の経験を書くと、かつて一部上場企業に勤務していた頃、まだ希望退職の年齢に達していなかったが、希望退職とほぼ同条件での退職を認めてもらったことがあった。前年にブチ切れて依願退職してしまった同期の社員とは文字通り桁違いの退職金を手にしたのだった。しかし転職先ではおおいに苦労した。その後再度転職して今に至っている。私自身の例がそうだが、運と環境が良ければ45歳以上での転職もできる場合がある。だがそれは幸運に恵まれた例外だろう。だから、上記河合薫氏の記事に反論した元産経新聞記者の下記記事には全く賛成できない。


だが、上記の元産経記者のブログ記事では下記のくだりが興味深かった。

筆者が50歳で早期退職したのは、会社から指示される仕事をこなす時間を考えると1日24時間以上働かなければならない場合が出てきたからです。過労で耳鳴りが続き、ついには味覚障害まで出て、枕元で亡くなった母親が「もうやめときなさい」とつぶやく夢を見ました。

いやはや、産経新聞社というのはすさまじい職場らしい。

いや、産経に限らずどこの社の新聞記者でも、政治部長あたりにまで昇進すれば安倍晋三と寿司仲間になれるけれども、そこに至るまで(そんな状態にはよほどの幸運と出世のための努力がなければ行き着かないだろう)の新聞記者の仕事はたいへんなものだとは聞いたことがある。だが、再就職に関しては新聞記者は特別に恵まれているのではないかとも思う。

*1:誤記を修正した=引用者註