kojitakenの日記

古寺多見(kojitaken)の日記・はてなブログ版

「きまぐれな日々」に投稿できなかった杉山真大さんのコメント

杉山真大さんから「きまぐれな日々」に投稿したけれどもエラーが出て受けつけてくれない、とのことなので、いただいた原稿を以下に示します。

杉山真大さん wrote,

はてな日記の方での「『反安保法』は『安保や憲法で左翼票を固めて自己満足する戦い』ではない」や「従来のように9条系の問題と25条系の問題を分けて考えることはできない時代になる」というkojitaken様の主張に敢えて苦言を呈する格好になるかと思いますし、既にTwitter上でも呟いたことなんですが・・・・・

「籠城戦」であることは間違いありませんし、「従来のように9条系の問題と25条系の問題を分けて考えることはできない」って危機感も承知しています。しかしそうなると、「反安保法」ばかりか「改憲阻止」で「籠城戦」を戦うのは余りに瀬戸際の・下手すれば一発逆転狙いで反転攻勢に出る"悪手"になり兼ねないでしょう。そもそも参院選を翌年に控えた現時点でさえ「改憲派」があともう少しで衆参共に2/3に達し、野党から1人脱落しただけで「改憲」は実現してしまう http://togetter.com/li/917874 のですから。況や安保法廃案まで実現するには野党だけで少なくとも衆院で2/3は議席を獲る(参院は非改選分だけで既に与党が過半数を大きく上回っているので来年の改選でも与党を過半数割れに追い込むのは無理)必要がある訳で、「負けしろを小さくする」なんて悠長なことを言っていては先ず以て廃止なんて何十年・下手すれば半永久的に安保法制が残るなんて悍ましい事態だってあるのです。

加えて、安保法制が成立した直後から"左巻き改憲"・"護憲的改憲"という形で護憲派アノミーを起こしてさえいる中で、こうした危機的状況は現実味を持ってしまいます。「安保法制廃止なら"護憲的改憲"側とも共闘できる」と考えるのも甘く、寧ろギリギリで改憲阻止の議席を確保しているのがやっとの中で、(kojitaken様一推しの小林節氏をはじめ)"左巻き改憲"・"護憲的改憲"を内部に入れるのは下手すれば足許から自陣を掘り崩す危うさがありますし、石川真澄らが30年くらい前に指摘した http://amzn.to/1XfuPLX 様に「結果的には"復古改憲"と同じ、あるいは手を貸すものとなってしまうおそれがあり」、安保法制という"角"がために日本国憲法という"牛"をも殺すことにもなり兼ねません。

(ここで一旦一息入れます)


なお、一言書いておきますが、「kojitaken様一推しの小林節氏」のことですが、立憲主義派(という言い方があるのかどうか知りませんが)の学者たちの中で、御大の樋口陽一氏を別格として対象から外すと、本を読んだことのある長谷部恭男、水島朝穂、木村草太、小林節4氏の中から誰か一人挙げよと言われれば、断トツで水島朝穂氏を挙げます。そのことは、このところ私が、共産党はいつから立憲主義を標榜するようになったのか、とか、民主党政権は鳩山政権時代に内閣法制局長官の国会答弁を禁止したり、菅直人が「期限付き独裁」論を唱えたことは立憲主義に反しているのではないか、などと書くのが、水島氏の指摘からの借り物であることからも明らかでしょう。小林氏は4人の中では4番目になります。

それでも私が小林節氏を買うのは、物怖じしない性格と突破力です。本音を言えば、小林氏を推すのはさる有名ブログの管理人の後追いになってしまうので面白くないのですが、本を読み比べて、安倍晋三を頂点とする立憲主義の破壊者との戦いの指導者を誰か一人挙げるとすると、小林氏しか思い浮かばない。(あくまで小林氏の自己申告ではありますが)櫻井よしこと同じ保守系の講演会に出て面と向かって櫻井を批判し、櫻井を顔面蒼白にしてあいさつもせずに帰らせる戦闘力を買う次第です*1

確かに小林氏は基本的に改憲派ですが、自陣から放してしまった瞬間に「3分の1」を割り込みます。

また、もちろん来年の参院選だけで安保法廃止は無理ですが、「安保法廃止」は、それこそ坂野潤治氏が2009年の政権交代直後に、民主党の政治家は格差解消をずっと唱え続けるべきだ、と言った時に用いた言い方*2を借りれば、

われわれは、立憲主義に反する安保法を廃止すると、南無阿弥陀仏みたいに、毎回、言うこと

が必要です。本当は改正教育基本法(2006)や特定秘密保護法(2013)の時から、これらの法案に反対した政治家たちは同じことをやらなければいけなかったんですけどね。彼らはそれをやらずに結果的にこれらの法律を追認してしまいました。

安保法も廃止できないのに憲法を守れっこありませんって。明文改憲にはまだ時間がかかるかもしれませんし(それだって存外早いかもしれませんが)、自衛隊テロとの戦い南シナ海かはわかりませんが、海外で戦争をやった時点で、解釈改憲の具体的な結果は来年にでも出るわけです。

*1:選挙の勝敗に大きく影響するのは戦闘力、とりわけ議論で相手を言い負かす能力だ。その好例が2007年に「消えた年金」問題をめぐってテレビ朝日の『サンデープロジェクト』で行われた論戦で、民主党衆院議員の長妻昭が当時自民党衆院議員だった大村秀章(現愛知県知事)を論破して大村に泣きべそをかかせたことが、2007年の参院選民主党圧勝、自民党惨敗につながった。但しその後長妻昭は鳩山・菅両内閣の厚労相として成果を挙げられず、その名声は地に堕ちた

*2:『状況』2009年11月号,16-17頁。坂野潤治山口二郎『歴史を繰り返すな』(岩波書店,2014)85頁に転載。