kojitakenの日記

古寺多見(kojitaken)の日記・はてなブログ版

「サンキュー、ケン・ローチ - 映画界の「巨匠」は確信に満ちた革命的社会主義者だった」(「かけはし」)

やっと最新の鍵コメに到達した。この記事は安倍晋三とは直接関係ないのでタイトルを変えた。「かけはし」は、「日本革命的共産主義者同盟(JRCL)機関紙」とのこと。下記記事も全文引用ではない。

http://www.jrcl.net/frame031124b.html(2003年11月24日)

かけはし2003.11.24号
サンキュー、ケン・ローチ

映画界の「巨匠」は確信に満ちた革命的社会主義者だった


ケン・ローチは有名人だが、もちろん私は一度も会ったことはない。
 その日、半信半疑で家で待っていると午後八時をちょっとまわったところで「アイ・アム・ケン・ローチ」という電話がかかってきた。聞いてみると「日本の産経グループがスポンサーになっている賞を貰うことになった。産経が反動的メディアであるということは聞いており、ナカソネや皇室がバックにいる賞だということも知っている。ついてはその賞金の一部を日本の闘う労働者にカンパしたいのだが、どこがふさわしいのか推薦してほしい」というのだ。
 さあややこしい話になった、困ったな、と思ったが、とっさに「分割・民営化に反対したために解雇された国鉄労働者が闘争団を結成して十六年も闘っている。この国鉄労働者のグループなどはどうだろうか」と答えた。民営化されたイギリス鉄道労働者の悲劇的な現実を描いた彼の作品「ナビゲーター」のことがひらめいたからだ。するとケンは、即座に「うん、それは素晴らしいね」と答える。さらに連絡を取り合うことを約束して電話は終わった。
 私はそれまで、ケン・ローチが貰ったという賞については何も知らなかった。そこで産経新聞のホームページを検索したところ、彼が受賞したのはなんと「高松宮記念世界文化賞」だということが分かった。
 今年で十五回目になる世界文化賞の主催団体は「財団法人日本美術協会」で同協会の総裁は常陸宮、会長が中曽根内閣の相談役で元関東軍参謀だった瀬島龍三というしろもの。受賞者を推薦する国際顧問六人には、中曾根康弘ワイツゼッカー元ドイツ大統領、イタリアのフィアット会長であるウンベルト・アニエリなどが入っている。
 私は「世界文化賞」の存在そのものを寡聞にして知らなかったが、主催する「日本美術協会」の構成を見るかぎり、天皇主義右翼イデオロギーに「文化」をかぶせたいかにも産経ならでは、といった賞である。絵画、彫刻、建築、音楽、演劇・映像の五部門で「すぐれた業績を残した人びと」を毎年選考して受賞者を決める。そして今年の演劇・映像部門には、れっきとした左派社会主義者であるケン・ローチが選ばれた、というわけだ。
 なるほどね、敵もなかなかやるものだ。

闘う闘争団に激励とカンパ

 ケン・ローチならびに彼の事務所(シックスティーン・フィルムズ)と何回かのメールや電話のやりとりを経て、忙しい滞在スケジュールの都合をつけて十月二十日の鉄建公団訴訟の一日行動日の夜の集約集会で発言してもらうことが可能になった。彼が関西空港に到着したのが十月十九日、京都に一泊して東京に着くのが二十日の夕方。ホテルで落ち合って打ち合わせもそこそこに集会会場のシニアワーク東京へ。
 電話での短い会話を通じて予想していたように、彼は実に気さくで率直な人柄で、「映画の巨匠」というよりはきっすいの「社会主義活動家」の印象だ。ケン・ローチは民営化、利潤と競争万能の新自由主義がいかに労働者人民に悲惨な現実をもたらしているかを鋭く糾弾する。彼は、鉄道の民営化がいかに労働者の権利を奪い、交通輸送の安全を犠牲にしているかを指摘する。さらにブッシュとブレアのイラク侵略戦争に反対する闘いと民営化の新自由主義路線に対する闘いが、グローバリゼーションを主導する多国籍資本という「共通の敵」への闘いでなければならないことを強調する。
 集会でのアピールを終えた後、会場の入り口ロビーで行われた即席の記者会見の場でも、彼は資本の利害のために行動するブレアの労働党にかわる、新たな政治的結集の必要性を訴えた。かつてなく巨大な規模で登場した反戦運動や社会運動を基盤に、多国籍資本と対決する「運動」を超えた政治的表現が必要だというのが、彼の結論だ。その「政治的表現」には鉄道の「再国有化」など民営化に抗して公共サービスの「公共性」を保証することが含まれなければならない――彼のこうした主張は、もちろん彼だけのものではなくイギリスの「ストッップ戦争連合」(STWC)自体でも論議されていると聞いているし、社会主義連盟(SA)が主要な目標としていることでもある。
 この即席記者会見の最後に、サンディカリストを自称するO氏がわざとまぜっかえし的に口をはさんだ。「ところでケン・ローチさん。あなたはやっぱり左翼なんですか」。どう答えるかと思ったら「私に左翼かと聞くのは、ローマ法王にあなたはカソリック教徒ですかと聞くようなもんだよ」。この見事な切り返しに一同爆笑。
 彼の熱烈な訴えは、資本と国家、そして労組指導部の敵対の中で困難な闘いを続けている闘争団の労働者に大きな励ましになったこことは間違いないだろう。ケン・ローチは、鉄建公団訴訟原告団に「世界文化賞」の賞金の中から多額のカンパを行うことを約束した。「ナカソネなどからの賞金を受け取って、そのカネをナカソネが進めた国鉄分割・民営化に反対して闘っている人にカンパするってのはなかなかいいよね」と彼は微笑んだ。

左派の政治的結集を呼びかける

 十月二十日の鉄建公団訴訟原告団の集会の翌日、ケン・ローチはATTACジャパン、平和フォーラムのメンバーや映画制作関係の人たちとの交流も行った。彼は、前日と同様に、イギリス労働党の「第三の道」というブルジョア新自由主義路線にかわる、反戦運動反グローバリゼーション運動などの高揚を基礎にした新しい政治的結集の必要性について情熱を込めて訴えた。
 「これまでの労働者人民の社会的圧力は、労働党を左の立場に変えるというところに集約されてきた。イギリス共産党も、労働党の左翼を強化せよというメッセージを送ってきた。しかし、今や労働党の左派を強化するという路線の限界は明らかではないか」。
 彼はここでも、終始「映画監督」というよりは、社会主義左翼の政治活動家としての相貌を前面に押し出して語った。もちろんマスメディアが体制にからめとられている状況の中で、反戦運動などの社会的アピールをどのように取り上げさせていくか、という質問についても彼は真剣に答えてくれた。
 「メディアが社会運動の主張をなかなか取り上げないという現実は、日本でもイギリスでも同じだろう。しかし個々のディレクターやレポーターの中には、運動に理解のある人びとがいる。社会運動の側でも、メディアとの関係で短い時間で印象的な画像を伝え、インタビューに的確で簡潔なコメントを発することのできる『プロ』を作らなければならないよ。しかし左翼の側は発言を求められてもステロタイプ的な回答しかしない例が多い。それではメディアを遠ざけてしまう。どうすれば引きつけられるかという自覚的なプロジェクトを持たなければ」。
 一時間ほどの交流だったが、どんな質問にも気さくにかつ真剣に答えるケン・ローチの姿勢は、確実に参加者の気持ちをとらえたのではないか。

チャップリンの映画のよう」

 十月二十二日、二十三日は「世界文化賞」の公式記者会見、天皇・皇后との「懇談」、そして授賞式という行事。産経新聞は十月二十三日、二十四日の両日、いずれも1面にカラー写真で、この公式行事の模様を報道した。十月二十三日付の同紙社説は「激動の時代にこそ芸術を」と「世界文化賞」の意義を宣伝している。力の入れようが分かるというものだ。記者会見にも授賞式にも中曾根康弘ワイツゼッカーという面々が同席し、授賞式には高齢の「日本美術協会会長」瀬島龍三があいさつしたらしい。また記事によれば、招待された俳優の別所哲也は「あこがれ」のケン・ローチと、オムニバス映画「セプテンバー・イレブン」の話題で盛り上がったとのこと。
 公式行事が終わり、帰国する前日の二十四日の朝、もう一度ケン・ローチと会う機会があった。「労働情報」誌のインタビューに私も同席したのだ。
 ケン・ローチは二十二日の内外記者団との記者会見の時、「世界文化賞の賞金の一部を、日本の闘う国鉄労働者などにカンパしたい」とはっきり語ったという。そう言えば、産経新聞にも「ケン・ローチ監督は、『映画は自国文化の独自性を保つために、とても重要な存在』と指摘。さらに『世界文化賞の〈国際協力と理解を促進する〉という理念に応えたい』として、今回の賞金の一部を日本の市民運動などに寄付する予定であることを明らかにした」(10月23日)と書いてあった。
 「だけど私がカンパすると言ったら、みんなシーンと静まりかえってしまって誰からも質問も出ないんだよ」と彼は苦笑した。「おかしかったのは受賞式の時に小柄なプリンス常陸宮が大男のレム・コールハース(建築部門受賞者)に背伸びしてメダルを首にかけたら、今度はコールハースが体を半分に折り曲げて床に頭がつくほどおじぎしたこと。まるでチャップリンの映画を見ているみたいだった」。
 ケン・ローチの次の映画は、グラスゴーを舞台にパキスタン人移民のムスリム家族の青年とキリスト教学校の女性との出会いと別れをテーマにした「人間の内面に迫るもの」という。
 人間の強さと弱さを生き生きと描きだす作品の中に、社会主義をめざす労働者階級の闘いへの信念を貫く彼の人となりに僅かなりともふれることができたのは、私にとってもめったにない貴重な体験だった。
サンキュー、ケン・ローチ。(国富建治)