kojitakenの日記

古寺多見(kojitaken)の日記・はてなブログ版

安倍晋三が読売新聞に「改憲案」をブチ上げた

恒例により黄金週間後半は3日間ほど更新を休んだ。今年も昨年と同じく憲法記念日の3日からこどもの日の5日間まで休み、その間ネットには『きまぐれな日々』へのコメント承認を除いてアクセスしなかった。しかし、憲法記念日の読売新聞を使って安倍晋三が9条改憲に乗り出したニュースはもちろん知っているし、購読していない読売の3日付(及び4日付)紙面の現物の確認も行った。

読売を使って2020年改憲を仕掛けてきた安倍晋三は、まさに「満を持して」、安倍が実現可能と考える手を打ってきた。安倍自身は頭が悪くとも、多くの頭の良い人間からなるであろうブレーン集団に支えられたその戦略は狡猾そのもので、非常に手強いと思った。

予想通り、安倍はあの悪名高い2012年の自民党第二次改憲草案は棚上げしてきた。「予想通り」というのは、従来から安倍晋三の周辺(礒崎陽輔ら)が「お試し改憲」なる言葉を口にしていた経緯があるからだ。4年前には橋下徹の言い分に耳を傾けた安倍が「96条改憲」を仕掛けてきたこともあったが、朝日新聞に掲載された小林節の反撃に遭い、世論の反応も悪かったので安倍は早々にこれを引っ込めた。この「96条改憲論」に熱心だったのは橋下であって安倍自身ではなかったし、安倍は政権に返り咲いたばかりで時間の余裕は十分あったから深入りしなかったのだろうと私は推測している。

しかし今回は違う。安倍は本気だ。その表れが、媒体に読売新聞を使ったことだ*1。読売の部数は現在では900万部を割っていると言われるし、大々的に安倍晋三改憲案をPRした翌4日付など20頁しかない薄さで(同日付の朝日は28頁)、もしかしたら読売も広告料収入が激減するなどしているのではないかとちらっと思ったが、それでも部数600万台の朝日を大きく引き離して日本最大の新聞であることは間違いない。そして、安倍政権がもっとも信頼している新聞でもある。えっ、産経ではないのかと思われる読者もいるかもしれないが、産経ではなく読売である。(プロ野球とは関係なく*2、)読売こそ「敵の本丸」なのだ。お調子者の産経は、政界における(日本&大阪)維新の会と同じで、安倍にとって「利用しがいのある」媒体でしかない。真に政権と一体化しているメディアは読売だ。昔からナベツネ渡邉恒雄)は「権力と一体となった新聞」を目指してきた。それはとうの昔に実現して今の読売がある。批判勢力はずっと昔に一掃されてしまった。

とはいえ今回安倍がやろうとしているのも「お試し改憲」に違いはない。しかし、従来は最初の改憲には9条は含まれず、挙げられていたのは緊急事態条項と環境権だった。緊急事態条項は9条改憲と同じくらい危険だが、これは今国会で審議されている「共謀罪」とセットだ。ちょうど9条改憲が一昨年に成立した安保法とセットになっていることと対応している。集団的自衛権憲法解釈を変更し、安保法を成立させることで「外堀を埋めた」(=身をとった)ので、憲法9条は2012年の自民党改憲草案のような「9条2項を改め、国防軍憲法に書き入れる」のではなく、今回の安倍の構想にあるような「9条の1項と2項は堅持した上で、自衛隊憲法に明記する」ので十分なのだ。同様に、「共謀罪」で日本国民の内心の自由を縛った上で緊急事態条項の導入を図れば良い、安倍はそう考えているのだろう*3

しかも、「9条の1項と2項は堅持した上で、自衛隊憲法に明記する」安倍案は、「加憲」を党是とする公明党を釣ろうとする明確な狙いがある。これに対して、従来から「新9条」を提言していた面々や、「改憲容認派」であることを明言している「アブナイ」ブログを含む「リベラル」たちは「立憲主義を踏みにじる安倍政権による改憲には反対」という「岡田民主党」的主張しかできないのではないだろうか。それでは説得力に欠けることはいうまでもない。

一方で、安倍が改憲案の他の目玉として掲げるのが「教育無償化」だ。これが(日本・大阪)維新の会の前にぶら下げたニンジンであるとともに、悪事が露見して挫折した森友学園の「瑞穂の國記念小學院(構想段階では「安倍晋三記念小学校」)のような私立の右翼学校への税金注入を意図していることは明らかだ。現に、税金の注入金額において森友学園の比ではない加計学園などの実例がある。もちろん教育無償化自体は当然なすべきことだが、民主党政権時代の高校無償化に「バラマキ」と難癖をつけて撤回させたのは自民党だった。

このように、どう考えても全く容認できない今回の安倍の改憲案だが、公明党と維新の会にそれぞれニンジンをぶら下げるやり方は「狡猾」の一語に尽きる。公明党などは「わが党の『加憲』に配慮してくれた」などと言って感謝感激して今回も安倍晋三に盲従する勢いのようだ。少なくとも読売の紙面を見る限り、そうとしか思えない。ここにおいて、「安倍は公明党を切り捨てて維新と組むのではないか」などといった、一部括弧付きの「リベラル」が好んで行っていた観測が全くの見当外れだったことが明白になったといえる。自民党が自党の得票に下駄を履かせて小選挙区で圧勝をもたらしてくれる公明党との連立を解消するはずがない。維新は大阪や兵庫の一部(阪神間や神戸市東部などの「大阪のベッドタウン」)を除いて支持が国民に定着していない政党であって、そんなものに安倍は利用価値を認めこそすれ頼りになどしていない。安倍がもっとも頼りにするのはあくまでも公明党だ。波乱要因があるとすれば後述の「都民ファ□ストの会」の国政政党版くらいのものだろうが、これも改憲に関しては安倍や公明党と同じ側に立つ政治勢力だ。

こういった安倍の狙いに対し、「野党共闘」側は「民進党さえしっかりしてくれれば勝てる」と言っている。「リベラル」も同様であって、たとえば『日本がアブナイ!』*4は、

少しほっとしたのは、民進党蓮舫代表がはっきりと「安倍改憲には反対する」という考えを示し続け、この件に関して、野党4党と協力して行く姿勢を明らかにしていたことだった。

蓮舫氏の「総理の総理のための総理による憲法改正だ」「総理大臣が『憲法を変える。テーマはこれだ』と言うこと自体が、国民主権立憲主義に反している。安倍総理大臣は口を開けば、言う改正条項が違う。」「安倍総理大臣は立憲主義を踏みにじって、自分のレガシーのために改憲したいのではないのか」などという発言はめっちゃ共感できるものがあったし。今後もどんどんアピールして欲しい。

と書いている。これは、「岡田民主党」時代の岡田克也枝野幸男の執行部が敷いたレールを蓮舫が踏襲しているということだ。

しかし、民進党そのものに危機が迫っていることを「民進党頼み」の人たちは故意にかどうか言わずにいる。その危機とは言わずと知れた7月2日投開票の東京都議選だ。ここで大方の予想通り民進党が惨敗すれば、また一波乱ある。東京を含む首都圏の民進党からはさらに離党者が続出し、民進党は関西に続いて首都圏でもまともに戦えない政党になる。

昨年の参院選民進党は、「野党共闘」が功を奏した東北の一人区では大健闘しながらも、近畿地方で壊滅的な選挙結果に終わった。民進党が間違いなく惨敗する都議選のあとは、東京や神奈川・千葉・埼玉などの首都圏でも関西と同じ状態になると考えなければならない。そうなるともはや政党の体をなさない。首都圏でも関西でもまともに戦えない政党がそのまま衆院選に臨めばいかなる結果が待ち受けているかは誰にでも想像がつくところだ。だから、好むと好まざるとにかかわらず政界再編劇は起きる。その際、都民ファ□ストの会は明らかに小池百合子が総理大臣の座を狙って設立された政治勢力だから、主役の一つになることは間違いない。

ここで注意すべきは、「都民ファ」においては、小池百合子自身が極右であるとともに、代表の野田数が想像を絶する、それこそ安倍晋三の比ではないほど突き抜けた「超極右」とでもいうべきとんでもない極右であるという事実だ。既に東京では民進党の現職・前職都議が雪崩を打って「都民ファ」に馳せ参じている(というより小池百合子・野田数・音喜多駿らに引き抜かれている)現実がある。今、いくら岡田克也が敷いたレールの上で(=民進党に働いている惰性力によって)蓮舫が「はっきりと『安倍改憲には反対する』という考えを示し続け」ていても、それは長続きしない。民進党を構成する国会議員も、その多くは保守ないし右翼だから、民進党から「都民ファ」の国政政党版(=新・新進党)に移籍してしまえば、「安倍総理の壊憲には反対する」とは言わなくなることは必定だ。

以上のように考えてみると、民進党に代わる「野党共闘」の核となる政治勢力の出現が求められることは火を見るより明らかだろう。但し、小沢一郎自由党や、もうだいぶ前から「小沢別働隊」に成り下がっている社民党ではその役割を果たせないことはいうまでもない。自由党社民党政党支持率を足しても1パーセント前後であって、両党を構成する政治家も古株か、さもなければ山本太郎のような「安倍昭恵とつるむ三宅洋平さえまともに制御できない」無能な政治家しかいない。これでは国民の広範な支持は得られない。

安倍晋三衆議院を解散する時期は、衆院の選挙区の区割り勧告(4月中旬に出された)を受けた公職選挙法改正にも影響を受けるから、巷間時々言われる都議選との同日選挙はこれを考えても可能性は極めて低い。しかし、公職選挙法が改正され、周知期間を経た秋以降であればこの縛りはなくなる。仮に11月の選挙とすれば、もうあと半年しかない。

国会議員はもはや共産・社民を除いて保守か右翼ばかりだから、現在は在野のリベラル・左派人士(のグループ)が国政に参入を表明し、非自民・非小池(新・新進)・非維新のリベラル政治勢力を立ち上げるしか活路はないように思われる。保守の側からかつて起きた同様の動きとして、1992年の日本新党がある。これは小池百合子を排出(輩出の誤変換ではない)したり小沢一派(新生党)と組んだりことなどもあって、私としては悪い印象しか持っていない政党だが、1992年5月発売の『文藝春秋』に新党設立構想を発表後、同月に日本新党を結成し、同年7月の参院選には公認候補者17人を擁立して4人を当選させた。これを思えば、今秋に予想される衆院選に参入して、仮に民進党が割れるないし雲散霧消するなら、そのうち取り込める議員や候補(ごく少数だろうが)も取り込むなどして、非自民・非小池・非維新の政党を立ち上げるしか道はないように思われる。動かなければ、「都民ファ」転じて「新・新進党」というべき、自民党以上に過激な改憲政党が立ち上がり、国会の大半が改憲派議員で占められる事態は避けようがあるまいと私は悲観している。

*1:一昨年の安保法の時に極右月刊誌『WILL』のインタビューに答えたことをもって「丁寧に説明した」と強弁したこととは対照的だ。

*2:もちろんプロ野球においても私にとって読売は「敵の本丸」ではあるが。

*3:もっとも安倍は、緊急事態条項の記入も最初の改憲でやろうとしているようではある。

*4:http://mewrun7.exblog.jp/25748625/