kojitakenの日記

古寺多見(kojitaken)の日記・はてなブログ版

山本太郎の元号党への支持を押し上げた層とは

 一昨日のエントリで、山本太郎に求められるのは「小沢一郎殺し」(=山本太郎にとっての「父殺し」)だと論じ、昨日のエントリでは山本太郎支持者に求められるのは「山本太郎殺し」だと書いた。そして、山本太郎自身が支持者にそれを呼びかけているとも指摘した*1

 政党要件を獲得した山本太郎元号*2は、選挙後にTBSやテレビ朝日に限らず多くのテレビに登場するようになった。たとえば明日の日曜日にもう一度参院選の投票をやり直すならば、山本党は少なくとも5議席は獲得できそうな勢いを感じる。但し、比例区候補者の中でも得票が少なかった安冨歩はそれでも落選するだろうが(笑)。

 山本党についての報道では、下記のツイートにも紹介された『news23』の小川彩佳のコメントが印象に残った。

 

 

 ネットでは過激な「山本太郎信者」(「ヤマシン」または「タロシン」)の叫びばかりが目立つ一方、彼らと立民支持者のみならず、彼らと共産支持者との間にも軋轢が目につくようになった。最近は共産党支持系学者を自認するこたつぬこ(木下ちがや)氏の山本太郎批判が活発だ。

 しかし、山本党に投票した人たちの主流は山本太郎にも立民にも共産にも強いこだわりを持たない、それどころかどの党派の統制も嫌う人たちだと指摘するのが『広島瀬戸内新聞ニュース』の下記記事だ。そうなのかもしれない。前記小川彩佳のコメントも、過激な「ヤマシン」たちと接していたのでは決して出てこないものだった。

 

hiroseto.exblog.jp

 

新選組を押し上げたのは無党派というよりは「多党派層」だろう。
新選組にも共産党にも立憲民主党にもシンパシーを抱いている人々だ。
具体的な人物像としては、30~40代で、非正規雇用や中小企業労働者。ネットなどでそれなりに勉強をし、特に格差・貧困に一番問題意識を持っているが、一応、護憲、脱原発のスタンスではある、という層である。
上の年代のような終身雇用は崩壊していることと連動し、ひとつの政党に忠誠を尽くすわけでもない。比例区と選挙区を使い分けて投票する戦略性もある。
そうした層が今回は、かなりカンパやボランティアで山本太郎を支持した。他方で選挙区で当落線上の共産党候補を支持する戦略性もあった。

くどいようだがこの層はどの党派にたいしても統制を受けることを嫌う。終身雇用崩壊第一世代だからだ。
ガシッとした組織選挙もこの世代から下は通用しない。

たぶん、もうちょっとすると選挙事務所のあり方も含め、全く従来と違う選挙の様相になると思う。その流れに乗った政党・勢力が伸びるだろう。

ポスト安倍はそういうわけで日本で言う戦国時代、三國志で言う董卓暗殺後の群雄割拠のようにカオスになるだろう。

 

出典:https://hiroseto.exblog.jp/28495876/

 

 もし上記の指摘が正しければ、現在「ヤマシン」たちが有頂天になっている「山本太郎ブーム」も短期間でしぼむ可能性がある。今回の参院選でたいした勢力拡張ができなかった立憲民主党が2年弱前の衆院選前後に引き起こした「ブーム」と同じように。

 余談だが、山本党の略称として「新選組」もあり得るかも知れないと上記引用の記事を眺めながらふと思ったが、私は薩長、特に長州が死ぬほど大嫌いだけれども、暗殺者集団に過ぎない新撰組も大嫌いなので、やはり「山本党」で押し通すことにする。

 その山本党についていえば、彼らが掘り起こした票はまだまだ限定的だったことも否めない。

 一昨日の下記記事のコメント欄より。

 

杉山真大 (id:mtcedar)

 

その意味では、本日付朝日新聞「耕論」に載った山本太郎に関するコメントで菅原琢氏が指摘していたこと https://www.asahi.com/articles/DA3S14123732.html は示唆的ですよね。以前の"新党"に比べると得票数が限られることや「オーナー依存」の党体質には頷けるものがありますし、「貧困問題に本格的に取り組む政治勢力がようやく現れてくれた」という一方でいわゆる棄権層の支持を得るには相対的に貧困であるアンダークラス向けに訴える政策が必要という指摘も我が意を得たりと思います。

 

 8/2付朝日新聞「耕論」は「山本太郎という現象」と題され、想田和弘、菅原琢、水島治郎の3人へのインタビュー記事が掲載された。予想通り想田和弘の意見は「論外」のレベルだったが、私にも菅原氏の意見がもっとも納得できるものだった。

 朝日の記事は有料なので、菅原氏の発言を要約して以下に列挙する。

 

  • 山本党は現状では、よくあるミニ政党の域を出ておらず、大きな政治現象といえるか疑問
  • 新しい支持層、特に選挙で棄権している「無関心層」を掘り起こせたかも疑問。むしろこれまで立民や共産などに投票してきた票が流れた割合が高い
  • 山本太郎の個人票が党全体の得票の4割以上で、党やその政策への支持は弱く、実像はオーナー依存のミニ政党
  • 貧困問題に本格的に取り組む政治勢力がようやく現れたという見方もあるが、山本党が訴えかけた貧困層はかなり狭い範囲にとどまる
  • 政治を変えれば暮らしが良くなると考える人がそもそも少なく、その発想を持たない人は選挙を棄権する。この層を政治に呼び戻すことが課題だが、山本党にはさまざまな政策を訴えられる自由さがあるので、棄権層への訴求に成功して支持層を増やせば、既存政党も本気で無関心層に取り組まざるを得なくなる。山本党がそうした競争の火付け役になることくらいは期待してもよい

朝日新聞 2019年8月2日付オピニオン面「山本太郎という現象」掲載 菅原琢氏インタビューを要約)

 

 山本党が今回の参院選で獲得した得票は、一昨年衆院選での立憲民主党にも遠く及ばず、ましてや2009年衆院選を思い返せば、山本党のブームはまだまだ限定的だとの指摘にはうなずくしかない。

 この日記では、橋本健二が『新・日本の階級社会』(講談社現代新書)で、2017年の衆院選前に誕生した立憲民主党が、アンダークラスから新中間階級までの多様・雑多な人々を「格差社会の克服」の一点で束ねる政治勢力になり得るとの期待を示したが、衆院選終了後早々に枝野幸男が、「小池百合子さんの背中を眩しく見ていた」との言葉からも明らかな新自由主義者蓮舫の入党を認めたことを皮切りに、次々とその期待を裏切っていったことを繰り返し指摘してきた。

 それでは山本党はどうかといえば、立憲民主党が完全に取りこぼし、それどころか共産党さえしっかりつかんでいるとはとうてい言えないアンダークラス層への訴求には、山本党もまだまだ、いや全くといえるほど成功していない。今回の参院選での投票率の低さがその表れの一つだ。せいぜいこれまでの選挙である時には共産に、ある時には立民に投票した層から票を奪っただけにとどまっているという。確かにそうだろう。山本党がつかんだ層の厚さは、まだ2017年のブーム当時の立民にも遠く及ばない。

 逆にいえば、まだそんな状態だからネットの「ヤマシン」たちの噴き上がりっぷりが目立つのだろう。

*1:そして、山本太郎と同様に、多くの「信者」を抱える村上春樹が、自作の『騎士団長殺し』で読者に「父殺し」(=「村上春樹殺し」)を呼びかけた(と私は解釈した)こととのアナロジーを見出した。

*2:繰り返し書いている通り、この党の正式名称にはこの日記の使用禁止文字列が含まれるなので、引用文を除いて書かない。「山本太郎元号党」、略して「山本党」と表記することにしている。