kojitakenの日記

古寺多見(kojitaken)の日記・はてなブログ版

新型コロナウイルスが「弱毒化している」とのSNSの俗説は全くの無根拠

 一昨日(8/7)、下記記事を公開した。

 

kojitaken.hatenablog.com

 

 上記記事は大部分がタイトルにしたNHKの報道の引用だが、それに対して私は下記のようにコメントした。

 

ことここに至っては、政権擁護派はもちろん、政権批判派も「人と人との接触を抑える効果」の議論から逃げてはならない。後者にはひたすらPCR検査を増やすことしか言わずに人と人との接触を抑えることへの言及を避ける人間が多いが、それは大いなる欺瞞だ。

 

 この記事に、下記のコメントをいただいた。

 

id:Jiyuuniiwasate

 

これはブログ主の間違い。
ウイルスは明らかに弱体化している。
理由は簡単で、宿主である人間を殺してしまっては、ウイルスも共倒れだから、
人間に大したダメージを与えない程度にウイルスが自身で進化している。
にもかかわらず、いまだに感染自体を恐れて接触を抑えろというのはナンセンスの極みだ。

 

 「ウイルスが弱毒化している」との説は、主にSNSで広く流布しているようだが、それは本当か。それが本エントリのテーマだ。

 

 「ウイルスの弱毒化」自体は、井上栄著『感染症 増補版 - 広がり方と防ぎ方』(中公新書2020, 旧版2006)にも紹介されている学説だ。

 

 
 以下同書より引用する。なお、下記の引用箇所は今年の新型コロナウイルス感染症流行を受けて追加された「補章」に載っているので、2006年刊行の旧版には出ていないはずだ。
 
  最後に、進化生物学の観点から考えてみる。仮に社会でのウイルスの蔓延が止まらなくても、うつしにくくすることはウイルスの側からすれば「存亡の機」となるので、ウイルスはみずから弱毒化する、という理論がある*1。つまり、強毒なウイルス株に感染した人は寝込んで動けなくなるので、うつしにくい条件があればその株は消滅してしまう。しかし、もしウイルスが弱毒になれば、感染した人は入院もせずに動き回ることができて、そのウイルスを他の人に広げてくれるのでウイルスは生き残れる(159ページ*2)。場合によっては症状も出ない不顕性感染となる。つまり、凶暴(ワイルド)なウイルスが恭順(マイルド)なウイルスに変わるのである。
 実際に弱毒ウイルスが生じるかは、遺伝子の塩基配列を高速で決定できる「次世代シーケンサー」を使って、ウイルスの全塩基配列を調べることでわかるはずだ。将来は、社会のなかで広がったウイルス株の塩基配列を調べて、その株が強毒/弱毒かを決定して的確な対策を実施できるようになるだろう。
 
(井上栄著『感染症 増補版 - 広がり方と防ぎ方』(中公新書,2020)229-230頁)

 

 SNSで広まっている「ウイルス弱毒化」の言説の根拠も、おそらく上記の啓蒙書などによるところが大きいと思われる。

 しかし、この学説が現在見られる感染拡大に当てはまるかどうかは精査が必要だ。特に、前記エントリで引用したNHKの報道によく注目する必要がある。このことは昨日公開した他の記事にも書いたが、以下に繰り返して指摘する。

 

www3.nhk.or.jp

 

ところが、6月中旬以降になると、各地で感染者の集団=クラスターが発生し、ウイルスを解析すると、いったんは見られなくなった「ヨーロッパ系統」のウイルスの遺伝子の一部が変異したものだったと分かったということです。病原性が強くなったり、弱くなったりする変異は確認されていないとしています。

 

出典:https://www3.nhk.or.jp/news/html/20200807/k10012555471000.html

 

 上記が国立感染症研究書の見解なのだ。

 

 また、7/31のNHKニュースも下記に示す。

 

www3.nhk.or.jp

 

 以下、ニュースの後半部を引用する。

 

(前略)SNSなどではウイルスの毒性が弱くなったのではないかという声も上がっています。

これについて新型コロナウイルスの治療の中心的な役割を担う国立国際医療研究センターの忽那賢志医師は「海外の状況を見ても、ウイルスが弱毒化したという科学的な根拠は今のところない。また、実際に患者を診ていてもそうした実感はない」と指摘しました。

そして、忽那医師は「第1波の時は、重症者を見つけるために症状のある人を優先的に検査していたが、現在は検査数が増え、感染の実態が以前より詳細に分かるようになった。軽症や無症状の人が多く見つかるようになったため、重症になる人の割合が少なくなったように見えていると考えられる」と話しました。

そのうえで、現時点でウイルスの毒性が弱くなったと考えて対策の手を緩めてしまうのはリスクが高いとして、忽那医師は「重症者は感染者の増加に1~2週間遅れて増える特徴があるため、今後、重症者が増えるのではないかと強く懸念している。人工呼吸器の装着などの治療には多数のスタッフが必要で医療現場に大きな負荷がかかるため、可能なかぎり重症者は増えないほうがよい。この週末も外出を控えるなど一人一人が自覚を持って感染対策に取り組んでほしい」と話していました。

 

NHKニュース 2020年7月31日 21時43分)

 

出典:https://www3.nhk.or.jp/news/html/20200731/k10012544561000.html

 

 また、同じ忽那賢志医師による下記記事も必読だ。いや、「下記記事も」どころか、下記記事こそ読まれなければならない。7月26日の記事だ。

 

news.yahoo.co.jp

 

 記事は長いが、なぜ弱毒化の噂がSNSで流れているのかという冒頭の部分と、記事の最後の部分をそれぞれ以下に引用する。

 

東京都を中心に新型コロナ患者数の増加が止まらない状況が続いています。

国内の感染者数は3万人を超え、新規感染者数も減る気配がありません。

一方で、感染者数は増え続ける中で重症者数や死亡者数が増えないことについて「ウイルスが弱毒化しているため」あるいは「夏は免疫力がアップするから」だという言説が散見されますが、今のところは特に根拠はありません。

根拠のない楽観論に惑わされず、必要な対策を続けていきましょう。

(中略)

確かに現在の入院患者数は1105人、そして重症者数16人となっており入院者数と比べても重症者数の数は多くありません。

例えば緊急事態宣言時のピーク時には入院者患者数1413人に対し、重症者数は105人となっていました。

比率からすれば重症者数が今は少ない状況と言えます。

しかし、これをもって「ウイルスが弱毒化した」と言えるのでしょうか?

結論から言うと、言えません。

 

出典:https://news.yahoo.co.jp/byline/kutsunasatoshi/20200726-00189953/

 

 SNSの「弱毒化している」という俗論は、単に陽性者に対して重症者が少ないことだけを論拠にしているが、それは「根拠のない楽観論」だと忽那医師は喝破しているのだ。

 このあと、途中は飛ばして(グラフや「氷山の一角」を示す模式図などが満載されていて、私のような素人の読者にとってもとてもわかりやすかったので、読者の皆様にも是非ご覧いただきたいと願う次第)、結論の部分を引用する。

 

新型コロナウイルスが弱毒化している根拠はない

というわけで、現時点で重症者数が少ないのは、

 

  • 第1波のときよりも軽症例を含めて診断されている
  • ハイリスク患者が重症化するのはこれから
  • 治療法が確立してきている

ためであり、現時点では新型コロナウイルスが弱毒化している科学的根拠はありません(ウイルスは常に変異しますので今後その可能性はありますし、もちろん私は今後ウイルスが弱毒化しているという科学的根拠が出てくることを願っています)。

弱毒化してるから感染しても大丈夫と思っていると、自身が重症化したり大事な家族に感染を広げることになりかねません。

また、感染し回復した後も後遺症で悩まされている方も多くいらっしゃいます。

決して「感染しても大丈夫」な感染症ではありません。

もう半年以上コロナと戦い続けて、皆さん疲れが出ていると思いますが、引き続き適切な感染対策を続けていきましょう。

最後にメディアの方へのお願いです。

現代社会では病院経営やビジネスの専門家が小学生の自由研究のような「ぼくのかんがえた、さいきょうのコロナりろん」を思いつきで述べることは誰にも止められません。

しかし、こういう根拠薄弱な理論を視聴率目当てにメディアが取り上げてもてはやすのは害でしかありません。

メディアにはしっかりと科学的吟味を行った上で、公益に資する放送を行っていただきたいと思います。

 

出典:https://news.yahoo.co.jp/byline/kutsunasatoshi/20200726-00189953/

 

 「ぼくのかんがえた、さいきょうのコロナりろん」といえば、病院経営やビジネスの専門家ではないけれども、某原子核物理学者が編み出した「K値」理論*3が直ちに思い浮かぶ。結局7月9日どころか修正された予想で示された7月末になっても大阪府の新規陽性者数はピークアウトしなかった。最近ようやく頭打ちの気配が見られるようになったが、もう8月に入って立秋も過ぎている。暦の上ではもう秋だ*4

 私は「リテラ」がK値批判に踏み切ったから、「リベラル・左派」界隈でもK値批判者が増えるかと期待したのだが、そんな現象は見られなかった。それどころか同界隈ではイデオロギー的な反自粛の言説が勢いを増しているかのようにすら見える。どうやら同界隈ではリテラよりも日刊ゲンダイの方が影響力が強いようだ(呆)。彼らは、何度も指摘する通り、安倍「経産省」政権と事実上の「共闘」をしているのである。文系の方々の科学アレルギーはこれほどまでにも強いのかと匙を投げたくなる。

 それに何より、SNSばかり見ていると馬鹿になるぞ。以前にも同じことを書いた記憶があるが、改めて強く警告しておく。

 愚痴はこれくらいにしておこう。上記忽那医師の記事についた「はてなブックマーク」から人気コメントを下記に示す。

 

b.hatena.ne.jp

 

新型コロナが弱毒化しているという根拠はない(忽那賢志) - 個人 - Yahoo!ニュース

1.軽症者の洗い出し/2.タイムラグ(軽症→重症)/3.タイムラグ(若年→高齢者)/4.有効な治療法の共有|「ぼくのかんがえた、さいきょうのコロナりろん」=ふつふつと湧き上がる静かな怒りが感じられる。

2020/07/26 13:20

b.hatena.ne.jp

 

新型コロナが弱毒化しているという根拠はない(忽那賢志) - 個人 - Yahoo!ニュース

要約「いい加減経済クラスタは新型コロナに関するポジショントークをやめろ」/ いやほんと害悪でしかないからねあれ…

2020/07/26 14:13

b.hatena.ne.jp

 

新型コロナが弱毒化しているという根拠はない(忽那賢志) - 個人 - Yahoo!ニュース

コロナはただの風邪派は重症者・死者数が遅行指標だということを見ないフリするんだよな。まあ都合が悪いからなんだろうけど。数字に現れてきたらその時点で致命的なのに

2020/07/26 13:43

b.hatena.ne.jp

 

 なお、予告していたコメント欄に投稿していただいたコメントの紹介は、記事が長くなりすぎたので止めます。予告後には当該記事への新たなコメントがなかったことにもよりますが、記事を適度な長さに収めることができなかったブログ主の不手際が最大の理由です。どうも申し訳ありません。

*1:P・ヴィンテン=ヨハンセンほか(井上栄訳)『コレラクロロホルム、医の科学――近代疫学の創始者ジョン・スノウ』メディカル・サイエンス・インターナショナル、2019年。=原註より転記

*2:当該の箇所は2006年の旧版にも記載されていると思われる=引用者註。

*3:とはいえ、この「K値」理論を拡散したのも、阪大の大学院経済学研究科准教授と、彼が出演しているテレビ東京の番組だったことに留意されたい。

*4:そうこうしているうちに、某腐知事はうがい薬の一件で騒動を引き起こした。むかつくまでの腐知事びいきだったTBS(毎日放送系)も知事への批判が続出していることを報道で認めていた。