ヤクルトについにマジック「11」が転倒、もとい点灯した。残り16試合だが、16試合といえばヤクルトは12球団中唯一、16連敗を二度経験したチームで、しかも二度目は一昨年だ。このことからわかる通り、このチームには本当に何が起きるかわからない。阪神ファンの方はまだ諦めることなど全くない。
その阪神との首位攻防3連戦が昨日(10/8)から3連戦が行われている、その中でもヤクルトにとって絶対落とせなかった試合が昨日の初戦だった。先発が奥川恭伸だったからだ。今年のヤクルトの快進撃が、奥川によるところが大きいとは誰もが指摘するところだが、奥川は10日か11日に一度しか登板しない。しかも次の登板も甲子園での阪神戦(19日)が予想される。昨夜負ければ、ヤクルトに傾いていた流れが一気に阪神に戻る可能性が高いと思っていた。だから昨日の試合が一番大事だった。高津監督が清水とマクガフを4連投させたのは当然だ。もちろん昨日勝ったからもう大丈夫というわけでは決してなく、今日と明日の試合で阪神に連敗でもしようものなら、次に待ち構えているのは柳と大野が出てくる中日戦であって、しかも球場はバンテリンドーム(旧ナゴヤドーム)だ。10年前に中日に大逆転優勝をさらわれた時と、ついでに一昨年の16連敗の悪夢がいやでも思い出される。ヤクルトファンにはこのように過去の悪い出来事を思い出してビクビクしながら楽しむ習性がある。阪神、DeNA、広島などのファンにも同様の方は少なくないのではないだろうか*1。一昨日の読売戦の試合前、3年前のクライマックスシリーズでやられた菅野のノーヒット・ノーランを思い出していたら、本当にまたやられそうになったのには参った。読売との3連戦の直前に広島に敵地で3連勝したが、その時思い出したのは7月初めにやはりマツダで3連勝したことで、この時にはその直後に神宮で読売に3タテを食ったのだった。今回の阪神戦の前には、3年前の後半戦で、伝統的にヤクルトの二大苦手チームである読売と阪神にともに勝ち越すなど4球団に無双しながら、首位の広島にだけは全く歯が立たなかったことを思い出していた。万事がこの調子で、最近は常にネガティブシンキングなのだが、逆に現場の選手や監督は超ポジティブシンキングであるに違いない。
2015年は、打高投低だったはずのチームがなかなか打線に火がつかず、せっかくロマン、オンドルセク、バーネットの外国人3人で鉄壁の救援陣(今年とは大違い!)ができたのになあ、打線に火がつけば優勝争いができるかもしれないなあと思っていたところ、神宮球場で観戦した交流戦のロッテ戦で、6回裏に打線が大量点を取って逆転勝ちした試合を見た(しかも翌日も似たような試合展開でロッテに連勝した)。6年前に流れを作ったのはあの試合だったと今も思っている。
今年流れを変えたのも、やはり6月の神宮での試合だったと思う。コロナで入場者数を制限しているためもあって、球場に足を運ぼうとも思わないし、家のテレビにはBSが映らないのでテレビ観戦もしていないのだが、ある日駅のテレビに神宮球場での中日戦が映っていた(NHKが中継していた)。音声は消されていたが、画面にアナウンサーと解説者の言葉が表示されていた。6月20日に行われたその試合の先発投手はヤクルトが奥川、中日が勝野だったが、1回裏にヤクルトの二番・青木がライトに打ち上げた大飛球が、逆風に戻されてライトフライになった。解説者は、風がなかったら入ってたでしょうねと言っていた。しかし三番の山田はショートフライで簡単に凡退した。これは危ない、往々にしてこういうきっかけから投手が乗っていくことがあるからな、と嫌な予感がしたが、電車が来る時間が迫ってきたので見たのはそこまでだった。夜、スポーツニュースを見ると、果たして勝野はそのあと好投し、なんと7回途中までヤクルト打線をノーヒットに抑えていた。嫌な予感が現実になっていたのだ。だから菅野に6回までやられた一昨日の試合で思い出したのも、その中日戦だった。この厳しい試合を救ったのはヤクルト先発の奥川で、7回を無失点に抑えた。奥川は6回に大島のヒットと高橋・ビシエドへの連続四球で満塁のピンチを招いたから、この6回にはかなり疲れが出ていたのだろう。しかしこのピンチをしのいで7回にも下位打線を抑えると、7回裏に代打宮本がこの試合ヤクルト初のヒットを打ったあと、奥川の代打・川端が1号2ランを放ち、救援陣が福田のソロ本塁打1本に抑えて2対1でヤクルトが勝った*2。
私は試合結果をスポーツニュースで見て、奥川が先発投手として計算できるようになればヤクルトも阪神や読売と互角に戦えるかもしれないと思った。奥川は開幕3試合目の阪神戦(神宮)では序盤から滅多打ちされて簡単にKOされたが、シーズン中に大きく成長していた。奥川は昨夜の阪神戦では序盤から飛ばしたために、7回裏に四球を含む二死満塁のピンチを招いて降板したが、なんとこれが前記6月20日の中日戦6回表に高橋とビシエドに連続四球を与えて以来の与四球だった(但し、その間に死球を与えた試合がある)。
6月20日の中日戦は相手投手が無安打投球を続けていて、1点もやれない試合で後半に上位打線を迎えた時の四球で、10月8日の阪神戦は首位攻防3連戦の初戦で初回から飛ばしたために力が尽きて出した四球だろう。その間の54イニング3分の1には、一つの四球も出さなかった。単にコントロールが良いというだけではなく、若いながらに抜群の投球術の持ち主だと感じさせる。この奥川に十分な登板日の間隔を与えているのも良い。私は高津臣吾が監督になる前に出した新書本(聞き書きだろうとは思うが)を立ち読みして、ひそかに高津に期待していたのだが、昨年は結果を出せなかった。ある日の読売戦の試合後に、高津が読売との戦力差を嘆くコメントを出していたが、いくら監督に手腕があっても戦力差はいかんともしがたかったのだろう。今年の前半戦で、阪神や読売に歯が立たなかったのも戦力差のためだ。しかし、この奥川の台頭、一昨年には低打率や失策*3が目立った村上の成長、さらには大卒で社会人を経由して、年齢的には中堅にさしかかった4年目の塩見の一番定着などが山田らベテラン選手(とはいっても山田は塩見と1歳しか違わない)たちを刺激してシーズンが進む過程でヤクルトの戦力は上がった。さらには私が「これで今年は終わった」と匙を投げた、あの縁起の悪いバンテリンドームで審判の誤審にやられた試合での高津監督の猛抗議のあと、なんと16勝2敗4引き分けの快進撃が始まろうとは予想もしなかった。その最初の対阪神2連戦(神宮)は、初戦にマクガフがマルテに同点3ランを浴びて勝てる試合を引き分けてしまったが、その試合でも中継ぎは踏ん張っていた。2戦目は小川が先発して1対0で勝ったが、この試合でも救援陣が踏ん張り(マクガフも2試合続けては打たれなかった)、ヤクルトらしからぬ勝ち方だと思った。続く10連戦最初の読売戦(東京ドーム)では初戦に快勝したものの2戦目は大量リードを追いつかれて引き分けた。だが前述の阪神戦にもこの読売戦にも負けはしなかった。次の広島2連戦も1勝1引き分けだったが、広島の先発・森下を打てなかった2戦目は救援投手を打って追いついての引き分けだった。同じ引き分けでも内容が良くなってきた。それが横浜スタジアム*4での3連勝につながった。このように、ヤクルトの快進撃の最初には、ライバル球団に同点に追いつかれた引き分けが2試合もあったので目立たなかったが、徐々に試合内容が良くなっていき、大きな波がきたと感じさせた。そして極めつきが読売3連戦3戦目のサヨナラ勝ちだった。この試合は9回一死までノーヒットノーランをやられていたが、ヒット2本でサヨナラ勝ちした。最後の山田の内野安打は、読売の一塁手が捕球していれば明らかにアウトのタイミングだったが捕球できず、この試合の初ヒットを打ったあと盗塁で二塁に進んでいた走者の塩見が一気にホームを駆け抜けた。そして、こういう試合運びの兆しが早い時期に見られたのが前述の6月20日の中日戦であり、その試合を作ったのが奥川恭伸だった。
最初に書いた通り、ヤクルトのことだから優勝争いがどう決着するかはまだわからないが、その決着のいかんを問わず、今年のスワローズの試合を1つ選べと言われたら、迷わず6月20日に神宮球場で行われた対中日11回戦を挙げるだろう。
*1:しかし少し前の一時期に強かった頃の広島やDeNAのファン、あるいは星野仙一が監督になって急に強くなった頃の阪神ファンには、少なからず読売ファン的な心性の方がおられるように見受けられたことは残念だ。
*2:逆に、バンテリンドームでしか好投できない印象がある勝野が、この試合でノーヒットノーランはできないまでも勝利を挙げられれば、その後の登板でも勝ち星を重ねたのではないだろうか。記事を書く際に、勝野のその後の登板も調べてみたが、前半戦はその後も好投が報われない試合が3試合続き(うち1試合はバンテリンドームでのヤクルト戦の引き分け。但しヤクルトの救援投手・清水がビシエドに同点2ランを打たれて引き分けに持ち込まれた試合だった)、後半戦はマツダで1試合だけ登板して3回4失点でKOされていた。勝野に故障などがあったのかどうかはわからなかった。
*3:16連敗の2試合目は大量点差をつけたマツダの広島戦で村上が犯した失策をきっかけに大逆転負けを食った試合だった。
*4:ここも2011年の終盤に嫌な思い出がある。