正直言って全く予想できなかった。昨日の朝に「石破はあり得ない」と大見得を切って大恥をかいてしまった。
そういう機構が働いたのかわからないが、ネオリベポピュリストの小泉進次郎が伝え聞く候補者の討論会でも明らかなくらいボロボロで大失速するや、それに代わって極右ポピュリストの高市早苗が急浮上したこと自体想像を絶していた。私は自民党内では高市が不人気だとの認識を持っていて、だから高市に代わる極右のエースとして小林鷹之を仕立て上げたのだろうと思っているが(森永卓郎に言わせれば「財務省の陰謀」ということになるのだろうが)、自民党員や自民党支持層のうち極右層は小林よりもハチャメチャな高市が好みだったようだ。
それにしても都知事選での石丸伸二がネオリベポピュリズムの旋風を巻き起こして、それが自民党総裁選への立候補自体私が予想していなかった小泉進次郎の出馬につながり、自民党内極右層の一部も石丸的テイストのある小林鷹之で対抗しようとしたところ、安倍晋三のお墨付きをウリにしている高市が急浮上して、その高市に石破茂が大嫌いらしい麻生太郎やら、石破より岸田文雄への反発が強そうな茂木敏充やらが乗っかろうとして危うく日本に極右ポピュリズム政権が誕生しそうになった。この流れにはさすがに肝を冷やした。高市が総理大臣になったら、この機構がよくわからない極右ポピュリズムの瞬間風速が最大になって、高市は対外的には日本の総理大臣の政権担当能力が疑われて日本の世界での存在感をますます急激に落とすことは絶対あり得ないにも関わらず、衆院選で自民党が圧勝する流れが起きかねないと非常に強く恐れていたので、それだけは避けられた。もちろん私は石破も全く買っていないが、決選投票で初回投票1位の高市を石破がひっくり返した自民党総裁選の結果は、自民党の国会議員たちの間に権力維持のための最適解を選ぶ「生き残り本能」が残っていたことを示すのではないか。報道を瞥見する限り、麻生太郎だの茂木敏充だのの意向に従わなかった自民党議員たちがそれなりにいたように思われるからだ。
とにもかくにも石破茂が自民党総裁に選ばれた。間違いなく総理大臣になる。この石破も2012年の第2次自民党改憲案が良いと信じる、私から見ればトンデモ極右の政治家だが、与野党の論戦においてはお話にならない小泉進次郎や高市早苗よりはるかに手強いことは間違いない。
反面、石破は長年安倍晋三に疎まれてきた経緯があるためか、ネトウヨの嫌悪の的になることは間違いない。これを野田佳彦に対するネトサヨの嫌悪感と鏡像関係とみる人たちもいるが、その意見には賛成できない。ここではそれ以上何も言わないが。
ただ、たとえば立民の石垣のり子に離党を強く働きかけるネットというかXの左派支持層に私は全く感心しない一方、彼らのXを多数ポストした上で、断固立民にとどまる意思表示をしている石垣は、こういう点での芯の強さはたいしたものだと高く評価している。立民はもともと小池百合子(この人はネオリベポピュリストと極右ポピュリストとを兼ねている)の排除に対抗してできた政党だから、党の正統性はその流れにこそある。だから石垣が党にとどまって内部から失地を回復しようとしていることは正しい*1。こういうところが石垣がネットのヤマシン(山本太郎信者)たちの一部に蛇蝎にように嫌われている原因だろう。だが元号新選組と共産党と社民党がひとかたまりになる野党政界の流れなど起きようがないし、それを理解してその点においてはポピュリズムに争っている石垣はたいしたものだと見直した。このように、眉をひそめる機会も少なくないけれども、時折びっくりするような芯の強さを見せるのが石垣という人だ。何より、少数政党には苛酷な小選挙区制が衆院選のベースになっている以上、野党第一党を割って出る行為ほどひどい自滅行為はないのである。
頼りないと思うことも多い民主・民進系リベラルの唯一の取り柄は、自分たちから党を割って出ることをやらないことだ。割って出るのは決まって右派だ。一時新左翼崩れなどに熱狂的に支持されていた小沢一派も、その正体は右派だし、その小沢が首謀者の一人だった「希望の党」騒動は、右派がリベラル派を「排除」しようとした動きだった。決してリベラル派の議員たちや、自身はリベラルというよりは単に「右」に標的にされただけの感もある枝野幸男の方から党を割ったのではなく、(旧)立民とは「右」の小沢や小池百合子や前原誠司に勝手に破られた政党だったことを忘れてはならない。政治には多数派を形成するためのマックス・ウェーバー的な忍耐力と持続力が求められる。
その忍耐力といえば、12年前の2012年の自民党総裁選が「石・石対決」になるはずだったのが安倍晋三の突風になぎ倒されて以来、もう少しでチャンスが完全に消えてしまう年齢になるまで忍耐を続けた点では石破茂もたいしたものだろう。その軍事タカ派ぶりや憲法観などは全く評価できないけれども。
かくして、野党がネオリベや極右のポピュリズムの防風になぎ倒される懸念は薄れたけれども、議会での政策論争においては、現在の自民党の中ではもっとも手強いと思われる人間を最高権力者にいただく政権が誕生することになった。
それにしても、ネオリベポピュリズムと極右ポピュリズムとの間にこれほどまでにも高いコンパチビリティ(互換性)があるとは、私はこれまで全く気づかなかった。なるほど、それで両方を兼ね備えている小池百合子が、自分が応援する候補の選挙には必ずしも強くないけれども(4月の衆院東京15区補選がその好例)、自分自身の選挙にはめっぽう強いわけか。妙に納得した。
そうそう、面白いと思ったのは下記の地図だ。
面白い分かれ方してるな。 pic.twitter.com/Ju61X3ejTm
— サファヴィー朝 (@Safavid_pol) 2024年9月27日
決選投票での都道府県連票、四大都市圏ではすべて高市に投票していた。
東北は比較的インフラに不自由しない宮城だけ高市氏でわかりやすいなーと思います。
— ふれんち・ふらん🍮 (@frenchifuran369) 2024年9月27日
私は2000年代には最初の3年を岡山、残り7年を香川で過ごしたが、中国・四国における岡山・香川にも東北地方における宮城と共通するものがある。そして広島は中国地方の盟主だ。山口だけは別の要因によって高市に投票したと思われるけれども。
*1:指摘される彼女と菅野完とのつながりには全く感心しないが。