あまり書きたくないが、昨夜のプロ野球読売対広島戦で、読売の吉川尚輝がサヨナラ三塁打を放って読売が勝って広島を3タテし、昨年まで3年連続最下位の中日に3タテされた2位阪神とのゲーム差を1.5に広げた。阪神は野手が転倒したりダブルスチールを食ったりの拙守で自滅した。日曜日のサンデーモーニングで投打のバランスが取れていて勝って当たり前だと中畑清に絶賛された6連勝中の阪神がその日読売に競り負けた試合から4連敗して、逆に弱いはずの読売が4連勝するなどとは想像できなかった。そしてスワローズは最下位に沈んでいる。昨今のスワローズはトレーナーが無能に過ぎるのではないか。塩見泰隆、村上宗隆、長岡秀樹と続いた故障は、いずれももう少し慎重なコンディショニングをしていれば避けられたものだったのではないかと思えてならない。特に村上の場合など、週刊誌に書かれた懸念が現実になったのだから空いた口が塞がらない。
しかし記事で書きたいと思ったのはそういう話ではなく、「サヨナラ三塁打」という珍記録のことだ。これは一塁奏者が生還してサヨナラになるケースしか事実上想定できないが、それだけではなくノーアウトかワンアウトで、かつ打った瞬間に相手の野手に捕球されるかもしれないと思わせる当たりでなければ実現しないのではないだろうか。
そしてサヨナラ三塁打といえば私が思い出すのは、1983年の掛布雅之なのだ。彼は広島戦で北別府からサヨナラ三塁打を放っているはずだ。それも今頃の季節に。
なぜ覚えているかというと、その前日に掛布が広島の山本浩二のサイクルヒットをアシストする怠慢プレイをやって批判を浴びたからだ。その試合はNHKが全国中継していて、私はそのシーンをテレビで見た。テレビをつけた時点で阪神は0対10で大量リードされていて(相手投手は川口和久であり、私は彼の名前をその試合で初めてまともに認識した)、山本は三塁打を除くホームラン、二塁打、シングルヒットを打っていた。そして阪神の敗戦処理の投手から再び二塁打性の当たりを打ったが、サイクルヒットを意識して暴走気味に三塁を狙った。しかし外野手からの返球を三塁手の掛布は早々とキャッチしていて誰が見てもアウトのタイミングだった。
ところが掛布は、おそらくは意識的に山本にタッチしに行かず、山本は三塁打を打ったことになってサイクルヒットを達成した。このプレーが翌日の新聞などで批判されたのだった。試合としては、10対0が12対0になっただけで、すでにワンサイドだった勝敗には影響しなかったので掛布は山本にサイクルヒットを(おそらく意識的に)アシストしたのだろうし、NHKの解説者も掛布のプレーを批判することなく、それどころかむしろ好意的に指摘していたが、その頃からフェアプレイを求める意見が強まる傾向が強まり始めていて、掛布のプレイは恰好の批判の的になったのだった。
掛布がサヨナラ三塁打を打ったのはその翌日の試合で、3連戦の3戦目だった。阪神は当時相性の良かった広島にホームで3タテ寸前に追い込まれていたが、土壇場で一矢を報いた。さらにその翌日の新聞には、「浩二さん、ボクのは本当の三塁打」とかなんとかいう、惨敗した前の試合での掛布の怠慢プレイを揶揄するような見出しが踊ったことを覚えている。
実はこのサヨナラ三塁打こそ、掛布が現役時代にレギュラーシーズンで放った唯一のサヨナラ安打だった。掛布はサヨナラホームランはもちろん、サヨナラシングルヒットもサヨナラ二塁打も打っていない。1981年のオールスター戦ではサヨナラ本塁打を打ち、1985年の日本シリーズ第5,6戦でも(サヨナラ打ではないが)本塁打を打っているというのに、なぜかレギュラーシーズンでは「勝負弱い掛布」であり続けた。阪神は掛布→バースの打順ではなかなか勝ち切れなかったが、打順をバース→掛布に変えただけで猛打のチームに一変した。たとえばカープの大野や川口といった左投手は、それまで掛布を打ち取った余勢を駆ってバースも抑えていたのが、阪神の打順変更後はバースに打たれたショックで気落ちして掛布にも打たれるようになった印象を当時受けた。
掛布がサヨナラ三塁打を打ったことを知った時は、それが掛布のレギュラーシーズンで初めてのサヨナラ安打だったことも知らなかったし、まさか最後のサヨナラ安打になろうとも想像しなかった。ただ、なぜサヨナラ三塁打だったのだろうか、一塁走者は何をしていたのだろうかとは思った。その疑問の解答は今も知らないが、42年後の同じ日にまたサヨナラ三塁打の試合が現れた。そう、掛布が北別府からサヨナラ三塁打を打ったのは、昨夜の読売対広島と同じ5月1日だった。この試合で阪神は9回裏に4点を取ってサヨナラ勝ちしたが、前年9月には読売の江川が首位攻防の中日戦でやはり9回裏に4失点し、延長10回にサヨナラ負けしている。また同じ江川が掛布のサヨナラ三塁打と同じ1983年9月に甲子園の阪神戦で9回裏に3失点して逆転サヨナラ負けを喫している。当時の各チームのエースは疲れが見えて打たれ始めてもそう簡単には交代させられなかった。
実際、サヨナラ三塁打は珍しいらしい。といっても何十年に一度といった少なさではない。ただ1球団あたりだと珍しく、読売では過去に1966年サンケイ戦での滝安治、1999年阪神戦での松井秀喜以来の26年ぶり3度目とのこと。その珍しいサヨナラ三塁打が、あの大選手・掛布雅之のレギュラーシーズン唯一のサヨナラ安打だったのだから不思議なものだ。しかも相手はその後200勝を達成した大エースの北別府である。
おまけ。検索語「サヨナラ三塁打 掛布」でググったら、AIが下記のトンデモ回答を寄越してきた。

はあ?
なんで1985年の日本シリーズ第2戦が横浜スタジアムで行われて延長10回に掛布がサヨナラ3ランを打ったなんていうとんでもない歴史修正がされてるんだよ。しかも1983年のサヨナラ三塁打も「なかったこと」にされている。
AIなんかに頼っちゃダメってことだろうな。