昨日もブログを休んだ。仕事云々もあるけれども今年は長い長い夏で体力と気力の問題が若干あって昨日の朝などは「今朝はブログ記事を書きたくない」という気分になってしまった。
自民党総裁選は午後に結果が出るらしくて、TBSの報道特集も開始時刻が前倒しされている。自民党の人たち(議員や党員など)限定ではあるけれども誰がどのくらいの得票をするかについては多少の関心はある。でも「多大な関心事」になるには至らなかった。
ただ、その総裁選で高市早苗を支える、橋本健二氏の言葉でいえば「新自由主義右翼」、俗称「岩盤保守」の性質に対する興味が、氏の著書『新しい階級社会』(講談社現代新書)を先月の末日(9/30)に読み終えて少し高まっている。
現代ビジネスのサイトに著者らが有権者を5つのクラスタに分けた分析結果の一覧表が示されているので、以下にそのスクリーンショットを示す。
アイコンのために文字が一部見えなくなっているが、一番右が「クラスター5 新自由主義右翼」である。所得再分配にはとことん否定的で、改憲志向や排外主義志向が高い。2022年の調査結果ではあるが自民党支持率が高く、大学卒で高年収の男性が多い。しかし2022年の調査でさえ自民党支持層に占める比率は「穏健保守」の28.5%に及ばない23.5%である。現在ではもっと少なくなっていると思われる。
橋本氏自身は下記のように書いている。
クラスター5はもっとも小さいクラスターで、全体に占める比率は13.2%である。所得再分配を支持する人の比率はきわだって低く、数%にとどまる。これに対して憲法改正を支持する人は6割近くに達している。さらに「自分の住む地域に外国人が増えてほしくない」という排外主義的傾向が異様なほど強く、自己責任論を支持する傾向も強い。「新自由主義右翼」と呼ぶことができるだろう。自民党支持率が36.7%と高く、野党支持率はわずか4.5%である。支持政党なしの比率は42.7%ともっとも低い。
(中略)
それにしても、伝統的な保守の政治的立場に加えて、新自由主義的な自己責任論を振りかざし、極端に排外主義的な態度を示す「新自由主義右翼」のユニークさはきわだっている。いわゆる「岩盤保守」の実体がこれだろう。どのような人々なのか。男性比率が67.3%に達しており、大卒者比率は66.8%、平均世帯年収は812万円と、いずれも他を引き離している。豊かな男性を中心とするクラスターであることがわかる。自民党支持率がきわだって高いので、小さなクラスターであるにもかかわらず自民党支持者に占める比率は23.5%と「伝統保守」の28.5%にかなり肉薄している。しかも「国政選挙でいつも投票している」という人の比率は58.3%ともっとも高く、政治的にはアクティブである。
かつての自民党は、農民や自営業者、中小企業などの弱者の利害を重んじる「伝統保守」の政党だったとみてよい。しかし自民党の路線は、2009年に政権を奪われ、安倍元首相の下で政権を奪還したあと岸田政権に至るまで、明らかに「新自由主義右翼」に接近していた。それというのも自民党が政権維持のため、「新自由主義右翼」=「岩盤保守」の支持を必要とし、その要求に迎合したからだろう。そして公明党も、これに追随した。
つまり日本の政治はこの十数年の間、「リベラル」「伝統保守」という多数派の民意を反映してこなかった。この構造は、転換させる必要がある。そのために必要なのは、分裂しがちな野党が「リベラル」を主要な支持基盤として結束すること、そして自民党が本来は主要な支持基盤であるはずの「伝統保守」の立場にシフトすることである。
このとき、一方に「リベラル」を主要な支持基盤とし、所得再分配を通じた格差の縮小を目指すとともに憲法改正に反対する野党、他方に「伝統保守」を主要な支持基盤とし、野党と同じく所得再分配による格差の縮小には積極的である反面、憲法を改正しようとする自民党、というクリアな対立軸が生まれることになる。これを不満に思う自民党の右派勢力は、新興の右派政党に合流するか、新たに右派政党を作ればよい。
このように格差の縮小と貧困の解消が必要だという社会的合意のもとで、野党と自民党が対峙する政党システムが実現すれば、日本社会は大きく変わるだろう。いまより格差が大幅に縮小し、人々は格差拡大の弊害から解放される。アンダークラスを含めてすべての人々が、次世代を産み育てることのできるだけの所得を手にし、出生率は回復する。消費の拡大によって経済は安定し、社会保障システムが破綻する心配もなくなる。そして憲法や外交など重要な政治的課題について、一部の人々の主張が過剰に代表されることはなくなり、異なる立場が偏りなく代表されて対話が展開される、健全な政治社会が実現するだろう。これが日本社会を現在の危機から救う、最善の方法ではなかろうか。
URL: https://gendai.media/articles/-/152595?page=2, https://gendai.media/articles/-/152595?page=3
橋本氏の講談社現代新書は参院選の前に刊行されているので、参院選の前の東京都議選の選挙戦中あたりから大ブレイクした参政党ブームなどは反映されていない。参院選での参政党の躍進などをみると、上記引用文中の橋本氏の見立てはやや楽観的にすぎるのではないかと思わずにはいられない。
上記引用文が「現代ビジネス」に掲載されたのは今年6月16日だ。その後行われた参院選での参政党の躍進を知っている目から見ると、「新自由主義右翼って本当に13.2%しかいないの?」いう気もする。
しかし、3年前と現在を比較してそれほど新自由主義極右の排外主義者が増えているはずがなかろうとも思う。
なぜ民意と選挙結果にこのような乖離が出てくるかというと、そこに「減税」の問題が出てくるのではないかと私は考えている。
「減税」は基本的に再分配とは相容れない政策である。だから橋本氏の分類でいえば「減税」は「リベラル」と「伝統保守」の双方と、相性が本来悪いはずだ。
しかし、実際には今年の参院選は全部の野党が「減税」を掲げた。
そのからくりの1つに(日本版)MMT(現代貨幣理論)がある。この理論の論者は「税は財源ではない」と言って「減税」と「積極財政(支出)」とが両立できるかのような幻想を撒き散らしてきた。デフレ期には一部の人たちを「そうかもしれない」と思わせる魔力があったが、物価上昇期に入って神通力が失われつつあるというのが現状だ。少なくともMMTを疑う人たちは増えている。
私が特に気になっているのは、今年1月に死去した森永卓郎が、昨年の自民党総裁選に小林貴之が立候補したことを「財務省による『高市早苗さん潰し』だ」などという妄言を吐いたことだ。森永がもし今も存命だったら今年の自民党総裁選でも高市を推したに違いない。小林は高市と同様の極右ではあるが高市のような減税主義者ではない(もっとも今回の総裁選では高市も自身の減税主義をずいぶん抑制しているようではあるが)。
こういう「左」のインフルエンサーらの発信が、本来13.2%の「新自由主義右翼」からの支持にしか値しないような政治家(高市早苗ら)や政党(参政党など)の支持を押し上げた面があるのではないか。
森永に限らず、特に松尾匡に肯定的に言及されたことのある人たち(安藤裕や高橋洋一ら)が怪しすぎるのではないだろうか。もしかしたら宮武嶺さんに痛烈に批判されていた藤井聡もその一人ではないだろうかと思ってネット検索をかけたら案の定だった。藤井と松尾は2018年に「市民社会フォーラム」で対談していた。
宮武さんは藤井を下記のように批判している。
この藤井聡という京大教授、関西ではしょっちゅうテレビに出ているタレント学者で、安倍政権では内閣参与をやっていた人。
基本的に右翼で、そしてこの方、専門は土木工学と社会工学を基盤にした都市工学ですよ。
選挙のシミュレーションなんて畑違いもいいところです。
URL: https://raymiyatake09.hatenablog.com/entry/2025/10/02/215352
藤井の「試算」によると、自民党総裁選に高市早苗が勝てば自民党の党勢は回復して次の衆院選での獲得議席が増えるが、小泉進次郎や林芳正が勝てば自民党の党勢下落はさらに進んで次の衆院選でもさらに議席を減らすのだそうだ。おそらく5年前のコロナで関西(阪大)の原子核物理学者が編み出した「K値理論」に匹敵する妄論であろう。菊池誠といい、なぜ関西の理系の学者はかくも権威や権力になびきたがるのだろうか。不思議でならない。
そんな藤井と頻繁につるむのがやはり関西の松尾匡である。彼らの宣伝によって、13.2%の「新自由主義右翼」ばかりか、再分配には関心の低い20.9%の「平和主義者」など真っ先に「減税主義」になびきそうだし、それどころか「リベラル」や「伝統保守」にも、再分配を求める一方でMMTに依拠する形で減税も支持している人たちが少なからずいるのではないか。松尾自身は本当はMMTerではないとの話もあるが、MMTの旗振り役を務めてきたことは紛れもない事実だろう。
ジャパニーズMMT界隈こそ、本来13.2%しかいないはずの「新自由主義右翼」をのさばらせた元凶ではないかと思う今日この頃。
