kojitakenの日記

古寺多見(kojitaken)の日記・はてなブログ版

アホなことを死に物狂いでやる「仕事をする人間」の鑑

牛と豚 - Living, Loving, Thinking, Again に、松本修の『全国アホ・バカ分布考』が紹介されているのが懐かしかった。

全国アホ・バカ分布考―はるかなる言葉の旅路 (新潮文庫)

全国アホ・バカ分布考―はるかなる言葉の旅路 (新潮文庫)

著者の松本修は、朝日放送のプロデューサー。『霊感ヤマカン第六感』や『ラブアタック』、それに関西をはじめとする一部地方で大人気の『探偵! ナイトスクープ』の制作で知られる。Wikipediaによると、

1970年代後半、 『ラブアタック!』で「どんくさい」という関西方言を全国に広めた。

とあるが、そういえば関西で過ごした70年代半ばの中学生時代、私はよく、「どーんくさ!」と笑われたものだ。

『全国アホ・バカ分布考』は、『探偵! ナイトスクープ』制作のための取材から生まれた労作で、私は新潮文庫に収録された直後の、1997年初め頃に読んだ。全国に分布する「アホ」文化圏と「バカ」文化圏の境界線を調べていくと、その中間に名古屋を中心とする「たわけ」文化圏が忽然と現れた、というくだりが受けて大当たりを取った。しかし、『全国アホ・バカ分布考』は、そんな面白さを超えて、柳田国男の「蝸牛考」(「方言周圏論」)の検証にまでつながる力作になっている。

蝸牛考 (岩波文庫 青 138-7)

蝸牛考 (岩波文庫 青 138-7)

全国あちこちに住んだり訪れたことのある私の感覚から言っても、たとえば岡山から福山(広島県)にかけての中国地方南東部の方言と、愛知・岐阜の方言に強い共通性があることは肌で感じている。だから、この「方言周圏論」でかなりよく方言の分布が説明できることには同意できる。

そして、『全国アホ・バカ分布考』で何より感心したのは、アホなことを死に物狂いでやり、それを仕事としている人間の素晴らしさである(筒井康隆にも相通じるものがある)。仕事をやる人間は、こうでなければならないと思ったし、今なら、こういう人たちになら「自己責任論」は大いに適用されて然るべきだと思う。つまり、あれくらいの成果をあげたのなら、多額の報酬を受け取り、さらに大きな仕事をすることが期待されるのは全然おかしくない。野球やサッカーといったプロスポーツの選手と同じことである(但し、雇い主の指示に従って自分を殺して労働せざるを得ない、大多数の勤労者に「自己責任論」を押しつけることには、いうまでもなく私は大反対である)。

それほど感心した本だったが、会社の同僚に貸したまま返ってこなかった。たぶん、最初の「アホ・バカ文化圏」の話は面白くても、途中から学術的な考察にまで至る内容についていけなくなって、挫折したのだろうと思う。