kojitakenの日記

古寺多見(kojitaken)の日記・はてなブログ版

『報ステ』に「小沢信者」の南相馬市議が出演してデマを垂れ流した

放射線障害「リスク厨」に迎合した虚報を垂れ流すのは、何も『週刊文春』と「自由報道協会」だけではなかった。テレビ朝日の『報道ステーション』と「小沢信者」も同罪だった。


不安を煽る「報道ステーション」

不安を煽る「報道ステーション


今週は南相馬でロケを続けているが、
取材に訪れたお宅で一本のビデオを見せられた。
一昨日に放送された「報道ステーション」である。
トップニュースで、
南相馬市で高濃度の放射能汚染が発見されたと伝えている。
全体が「誤報」とまでは云わないが、
(一部に事実の取り違え、ないしは不正確な表現がある)
センセーショナルに不安を煽る内容に、
同業者として激しい怒りを禁じえなかった。


番組は古館伊知郎の思わせぶりな問いかけから始まる。
路上にこびりついた黒いシミのようなものを写真で示して、
「福島で避難している方からメールをいただきました。
 みなさんはこの黒い物質をなんだと思われるでしょうか」
というのがイントロである。
(記憶で書いているので、一言一句そのままではない。)
南相馬市で局地的に高い放射線が検出された、
原因は路上にある「黒い物質」だとのレポートが続く。
地元の市議が登場して、
路上にできた水たまりに線量計をあてると、
空間線量が毎時1μSv前後に対して約2倍の線量を示す。
汚染物質を神戸大学で分析してもらうと、
最大108万ベクレル/kgの放射性物質が検出された。
東北大の研究者(植物学)によれば、
「黒い物質」は「藻」の一種で、
栄養素のカリウムとよく似ているため、
セシウムを吸収しやすい性格があるという。
リポートは除染の課題を指摘して終わる。


ニュースとしては全く新しいものではない。
放射性物質が濃縮され、
局地的に高い放射線量を示す
マイクロホットスポットの存在は既に知られたものだ。
ぼく自身、
同じ南相馬市で、
空間線量の2倍どころか
10倍を超える線量が計測された場所があることを伝えた。
(去年10月放送のETV特集「果てしなき除染」他)
藻やコケが放射性物質を濃縮するのも
現地の住民は経験的に知っている話であり、
カリウムとの類似性を含め何度となく報道されてきた。


つまり、報道としては全くの「出し遅れの証文」である。
常識的に考えてトップを飾るニュースではない。
しかし、「報道ステーション」は、
「黒い物質」をことさら強調することで、
なんとか目新しいものに見せようとしている。
そして、そこに大きな問題がある。


実は、数日前から南相馬市では、
小学校の近辺に防護服姿の人物が現れ、
この場所からプルトニウムが検出された、
危険なので退避するようにと住民に告げる例が相次ぎ、
不安に駆られた住民が
学校に真偽を問い合わせるという騒ぎが起きていた。
その人物がプルトニウムだとして示したのが、
件の「黒い物質」なのである。
プルトニウムが検出されたと主張するのは、
南相馬市内に本拠を置く市民団体
「フクシマの命と未来を放射能から守る会」で、
住民のなかには、
わざわざこの団体の事務所まで赴いて
プルトニウムだという根拠を問い合わせた人もいる。
それに対して、
対応した「守る会」のメンバーは、
計測中の線量計の写真を示して、
表示されている数字の40%がアルファ線で、
従ってプルトニウムが存在すると答えている。
なぜ40%がアルファ線といえるのかを問いただしても、
はっきりした答えは得られなかったという話だ。
また、「黒い物質」の写真を示して、
「黒いのがプルトニウムの証拠だ」とも話したという。


およそ馬鹿げた話である。
人体に害をなすほどの量のプルトニウムが、
南相馬で検出されることなどまずあり得ない。


福島第一原発の敷地外で
初めて事故由来のプルトニウムを検出したのは、
ETV特集「ネットワークでつくる放射能汚染地図」だ。
放射線衛生学の研究者・木村真三氏が、4月中旬、
原発から1.7kmの地点で採取した土壌から検出された。
測定を行ったのは金沢大学で、
結果が出るまでには3週間を要している。
なぜ、それほど時間がかかったのか。
環境中には過去の大気圏核実験によって降り注いだ
極微量のプルトニウムが存在する。
(「グローバル・フォールアウト」と呼ばれる。)
木村氏が採取した土壌に含まれていたのも極微量で、
グローバル・フォールアウトか原発事故由来のものか、
判断するのが大変難しかったことによる。
(以上、ETV特集取材班「ホットスポット」から要約)
つまり、アマチュアの市民団体によって、
それとわかるほどの量のプルトニウムが検出されるなどは、
どう考えても科学的な根拠のある話ではない。
ちなみに木村真三氏は
「福島ではチェルノブイリと違って、
 大規模な核燃料の放出は起きていない」と語り、
京都大学の今中哲二助教
「福島では炉心の温度がそれほど高くなかったため、
 融点の高いプルトニウムの放出は少なかった」という。
(これも「ホットスポット」からの要約引用)
なお、東大の児玉龍彦教授も
南相馬市内で行われた講演会などで、
「今回の事故で問題とすべきはセシウムで、
 プルトニウムは心配するほどではない」と繰り返している。


さて、こうした事実を踏まえると、
「黒い物質」の存在をことさら強調した、
報道ステーション」の背景にあった事情がみえてくる。
「フクシマの命と未来を守る会」は、
20日、記者会見を開き、
南相馬市内で108万ベクレル/kgの汚染が発見されたと
発表している。
その記者会見を行った一人が、
報道ステーション」に出演していた市議である。
「守る会」とこの市議は、
南相馬市から子供たちを全員避難させるべきだと主張し、
27日から除染を終えた市内の学校で授業が再開されるのに
反対を唱えていることで知られる。
去年採取した土壌の汚染を20日になって発表したのは、
学校再開のタイミングを狙ったものと勘ぐることも可能だ。
「全員避難させるべき」と考えるのは自由だが、
プルトニウムなどを持ち出して、
「子供を避難させない親」を脅かすのは全くの倒錯であり、
はっきり言ってしまえば、悪質なデマだ。
そして、「報道ステーション」は、
この人たちの主張に乗って、
新しくもない話をセンセーショナルに報道した。
もちろん、さすがに、プルトニウムには一言も触れていない。
しかし、この団体がプルトニウムだとふれまわっている
同じ「黒い物質」を意味あり気に取り上げることが、
どれだけ地元で暮らす住民の不安をかき立てるか、
指摘するまでもあるまい。


ぼくはこの文章の冒頭に
23日放送の「報道ステーション」には、
「事実の取り違え、ないしは不正確な表現がある」と書いた。
神戸大学で108万ベクレル/kgが検出されたのは、
実は「黒い物質」ではない。
番組で紹介されたのとは全く別の場所、
市内の駐車場の排水溝近くにあった土壌である。
この事実は20日
共同通信によって配信された記事によって確認される。
分析に当たった神戸大学の山内友也教授の
「土壌に含まれていた枯れた植物が集まったことによって、
 濃縮が進んだ可能性」というコメントからも、
「黒い物質」=藻ではないことは明らかだ。
ところが、「報道ステーション」では、
108万ベクレルの放射性物質
「黒い物質」から検出されたとしか見えない。
そのように編集されているからだ。
プロの取材者が
これほど基本的な事実を取り違えたのだろうか?
それとも意図的に「不正確な表現」を行うことで、
ある種の印象操作を行ったのだろうか?
もっといえば、
取材協力者(というかネタ元)が、
地元でプルトニウム騒ぎを引き起こしていることを、
報道ステーション」のスタッフは知らなかったのだろうか?


南相馬市議」と聞いてピンとくるものがあった。当ダイアリーでも取り上げたのではないかと思ったが、調べたら存在しなかった。「はてなブックマーク」止まりだったらしい。そこで、sumita-mさんのダイアリーから引用する。


善良な人 - Living, Loving, Thinking, Again

http://minnie111.blog40.fc2.com/blog-entry-2828.html


ここに大山弘一という方のメッセージが引用されている。最初に読んだとき、珈琲を飲みながら、或いは煙草を吸いながらでなかったのは幸い;

美爾依さんはじめまして

南相馬市の無所属議員大山弘一と申します。

かつてより植草先生、ヘンリーさん・・・そしてこちらはお気に入りで拝見せていただいておりました。

昨年、15年講師を務めた高校を辞め一念発起して 12月より市議活動が始まりました。


「植草先生」だよ。それから、この文脈における「ヘンリーさん」というのは「最後の一葉」とも『南回帰線』とも関係ないことは明らかだろう。真面目で善良な方なのだろうけど、その一方で真面目で善良な〈トンデモ〉ほど厄介な者はないということもいえる。もう少し落ち着いて、知性的になろうよというようなことしか言えない。


「ガンマー線」ではなくてガンマ線、「アルファー線」ではなくてアルファ線


ネットでも活躍する「小沢信者」だったのである。それが「報ステ」に登場して実害を撒き散らしていたのだからどうしようもない。また、こんなのに易々と引っかかった「報ステ」取材陣の恥さらしぶりにも唖然とする。


なお、南相馬市議・大山弘一のブログは下記。
命最優先 大山弘一のブログ


ブログを読めばわかるが、まさしく「報ステ」に出演した市議本人だし、除染活動を進めている児玉隆彦氏を敵視する「リスク厨過激派」だ。

それにしても、「陰謀論系小沢信者兼リスク厨」に「報ステ」が引っかかるとは、笑いものにもならない。

フィクションと史実と - 澤地久枝『密約 - 外務省機密漏洩事件』を読む・第1回「リアルのナベツネはいかに動き、いかに書いたか」

 TBS系のドラマ『運命の人』第7話の視聴率は13.2%で、一桁の9.9%に終わった第6話から盛り返したらしい。

 それでも相変わらず「視聴率低迷」とはいえそうだが、第7話の視聴率が前回より上がったらしいことは、当ダイアリーのアクセス数から想像がついた。先週は「西山事件」関係の記事を書かなかったにもかかわらず、26日の午後9時台と同10時台の当ダイアリーへのアクセス数は前週以上に多かったからだ。このドラマは3月18日が最終回で、全10話らしい。当ダイアリーのアクセス数が毎日曜日の夜にバブル的に増えるのも、あと3回だけだ。

 視聴率の低迷は最初から予想できた。というのは、ある年代以上の人々にとっては、このドラマのモデルになった「西山事件」において、「西山記者=悪党」という印象が強く植え付けられているに違いないからだ。実際、「小説家(山崎豊子)が何を書こうと勝手だが、ドラマで取り上げるとなると放送局の見識を疑う」などと書かれたブログを見かけた。

 また、それより若い熱湯浴の間では、4年前の毎日新聞英語版サイトの「HENTAI」事件の際に、この事件を境に毎日新聞が部数を落として倒産に追い込まれたことを知った人たちが多いらしく、彼らの間でも西山太吉氏は「悪人」として認識されているようだ。だから、「悪役がヒーローになっている」として、ドラマに異を唱える人間が多い。彼らに言わせればこのドラマは「ミンスと毎日とTBSの『ご都合主義』ドラマ」だそうだ*1

 このドラマにせよ山崎豊子の原作にせよ、こういった「定評」をひっくり返す試みではある。原作を書いた山崎豊子が元毎日新聞記者だったり、TBSがかつては毎日新聞系で、現在も業務提携をしている事実はあるにせよ、あるいは「事実を取材し、小説的に構築したフィクション」、さらにはその小説からもさらに逸脱したテレビドラマといった危うさはあるにせよ、作品に関わった人たちの意欲は買いたいと思う。

 余談だが、4年前にネットで沸騰した「毎日叩き」の局面では、植草一秀城内実がこれに乗じて毎日新聞に対する私怨を晴らそうとしていたので、私はそれを逆手にとって下記の記事を書いたことがあった。


[予告]夏休み明けには「毎日新聞叩き」に反対するキャンペーンを開始します - kojitakenの日記(2008年8月16日)


 しかしその後の2010年6月、私の大嫌いな岸井成格毎日新聞主筆に就任したのを機に、上記のキャンペーンを中断した。今の毎日新聞は意欲的な若手記者が多いと感じるけれども、上に行けば行くほど腐っていて、新聞全体としてはぱっとしないというのが正直な印象だ。岸井のほかには岩見隆夫がひどいし、かつて西山太吉が属していた政治部の幹部も感心しない。もっとも幹部も若手も一様に冴えない朝日と比較すると「どっちもどっち」だ。丙丁つけがたい。


 さてドラマもいよいよ佳境。次回予告で三木昭子元事務官が「復讐の鬼」と化して、テレビのワイドショーに出演するシーンが出てきたが、これも史実に基づいている。リアルの蓮見喜久子元事務官が出演した番組は『3時のあなた』だった。

ナベツネも絶賛する澤地久枝著『密約』は、中央公論社からの初出は1974年で、一審の第14回公判(1973年8月4日)の傍聴記から一審判決(1974年1月31日)までが主に描かれていた*2。ちょうどドラマもそのあたりにさしかかっているので、第8話の放送までの間、何回かに分けて紹介してみたい。



初回となる今回は、リアルのナベツネが「西山事件」で演じた役割(『サンデー毎日』2/19号のナベツネ「寄稿」より) - kojitakenの日記 で紹介したナベツネによる澤地さんの著書への賛辞を思い出しながら、澤地さんの著書の中からナベツネが『週刊読売』に書いた記事を取り上げた部分を紹介したい。

一審判決の頃、蓮見喜久子氏はしきりに週刊誌やテレビに露出した。当時蓮見氏は「背徳漢は無罪になってのうのうとしているのに、女性事務官は有罪判決を受けた。哀れだ」などとして同情されていた。そんな中、ナベツネは異色の記事を書いたのだった。『サンデー毎日』への寄稿でナベツネ自身が言及した、「『西山事件』の証人として - 渡辺恒雄/蓮見さん『聖女』説にみる論理的矛盾」(『週刊読売』1974年2月16日号)である。以下澤地さんの著書から引用する。

 ここには、弁護側証人として出廷し、スクープが新聞記者の生命であり、不可欠のものであるとして、国家機密もまた当然スクープの対象であることをのべた渡辺氏によって、はじめて事件全体の流れのなかに蓮見さんをとらえ、問題の本質をあきらかにしようとする冷静な眼と、キャリア二十年余の新聞記者として、情熱が感じられ、興味本位のあるいは悪意を含む他の週刊誌マスコミのなかで、異質の記事になっている。「早く世間から忘れられたい」と言いながら、第三者の男性のプライバシー暴露ともいえる手記を発表した真意を、一種の自己顕示欲の表れか、"知的行動派"であることを示すものかという問いかけ。<西山記者が、彼女との関係の進行に関する事件のプロセスをすべて明らかに出来ないでいる事実を私は知っている。ついに保護しきれなかった情報源を、これ以上傷つけたくないからであろう>、西山夫人が <家族に対する社会的圧迫に耐え、かつ、夫の過誤を許し、激励し続けていた事実については、私は深く感動している。同じジャーナリストとして、不幸なこの事件の経過の中で、われわれにとって、これはひとつの大きな救いであった> とも書かれている。そして、<西山君に新聞人としての落ち度があったのは事実だが、その家族にまで罪はない。西山家の家族も、蓮見家と同様、一日も早く世間から忘れ去られたいのである> とも。

 蓮見さんは、西山夫人との関係では加害者の側面をもっている。民法上、蓮見さんは西山夫人から慰謝料を請求され、拒否はできない行為を分担している(蓮見武雄氏が西山氏に対して慰謝料請求権をもつのと同じように−)。西山夫人の沈黙、西山氏のニュース・ソースを保護し得なかった新聞記者としての負い目に乗じて、一方的に被害者である「無垢な女」を演じつづける蓮見さんへ、渡辺氏の文章には、ひかえ目な、しかしつよい抗議がある。

澤地久枝『密約 - 外務省機密漏洩事件』(岩波現代文庫, 2006年)233-234頁)


 これを読めば、ナベツネが澤地さんの著書を絶賛した理由もわかろうというものだ。1974年の澤地さんもナベツネを絶賛していたのだった。現在からは信じられないが、当時のナベツネにはまだこんな一面が残っていたということだろう。


 ドラマでは大森南朋が演じる山辺一雄は、リアルのナベツネとは違ってイケメンだが、ことこの事件にまつわる言動に関しては、リアルのナベツネもドラマに描かれているのに近い役割を演じたのだった。ナベツネが『サンデー毎日』に寄せた「激怒」の寄稿だが、あることないこと描かれたドラマの前半とは打って変わって、後半では自らが「善玉」として描かれることを知り尽くしていたであろうナベツネによる番組の「宣伝」だろうと私が推測したのは、こんな史実があったからでもある。

(この項続く → 第2回「38年後、フィクションに『裁かれる』蓮見喜久子元事務官」

*1:なぜ民主党が出て来るのか私にはよくわからない。現衆院議長の横路孝弘は(ドラマでも戯画化されていたように)西山太吉、蓮見喜久子両氏の足を引っ張ったし、「ひそかに情を通じ」の文言のある起訴状を書いた故佐藤道夫も民主党参院議員を務めていた。

*2:のち西山元記者の有罪が確定した1978年に増補版が出され、2006年の岩波現代文庫版もそれを底本としている。