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古寺多見(kojitaken)の日記・はてなブログ版

「『本当にあるのか』翁長知事の音声、内容巡り波紋 後継指名で与野党に疑問」(沖縄タイムス)

先週末はくそ暑かったし、昨夜ヤクルトが連勝して阪神に大逆転負けした読売を抜いて2位に上がった*1ことを除いて良いニュースは皆無だったからオール沖縄、国民民主党自民党の3つの政党及び政治勢力に関して、呆れるニュースが相次いだ。

今回取り上げるオール沖縄の件は、自公政権に反対する「リベラル・左派」の頽廃を示している点でとりわけ深刻だと思う。地元紙・沖縄タイムスの報道より。

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「本当にあるのか」翁長知事の音声、内容巡り波紋 後継指名で与野党に疑問

 急逝した沖縄県翁長雄志知事が期待する後継者として玉城デニー衆院議員らの名前を挙げた音声を巡り、与野党で波紋が広がっている。県政与党関係者によると、音声を聞いたのは新里米吉県議会議長一人で、与党会派のおきなわは音声の公開を求めているが新里氏は応じていない。かたくなに開示を拒む姿勢に自民党からも「本当に音声はあるのか」といぶかる声さえ上がる。(政経部・大野亨恭、上地一姫)

 「開示されるまで調整会議には参加できない」。会派おきなわの赤嶺昇県議は21日、改めて音声の公開を求めた。その存在が注目される中「あることを示すことが玉城氏のためになる」と語る。

 だが、新里氏は出張先の東京で記者団に、音声の提供者が望んでいないとし、「要望があるからといって公開できる話ではない」と重ねて否定した。

 与党関係者によると音声は確実に存在するが、明かせない事情があるという。

 「音声には金秀グループの呉屋守將会長の名前が入っていない」と、ある関係者は打ち明けた。翁長知事が病院で後継者について語り始めたとき、真っ先に出た名前が呉屋氏だったが、録音が間に合わず、音がとれなかったという。

 別の関係者によると、録音した遺族関係者が新里議長へ音声データを渡す際、「音にはないが、呉屋氏にも期待を寄せていた」と伝え、その後の調整会議で両氏への要請を決めた。

 与党関係者は「知事が玉城氏へ期待を寄せていたのは間違いない」と断言。ただ、「音声が一人歩きすれば呉屋氏の名前がないなどと騒ぎになり、収集*2がつかなくなる」と懸念を示す。

 自民県議の一人は「呉屋氏の名前は結局伝聞でしかない。公開もできない曖昧な音声で知事選を戦うのか」と疑問を投げる。

 玉城氏は21日夜、後援会の会合を開くなど出馬に向け準備を進めている。自民党関係者は玉城氏を「知名度もあり手ごわい相手だ」と評する。短期決戦に必要な後援会組織があり、メディアへの露出で無党派層への浸透があるためだ。

 一方、政府関係者は「闘いやすい相手だ。保守がまとまることができる」と喜ぶ。前知事選は保守層が切り崩されたが、その懸念は薄いとみる。

 急転直下、玉城氏の擁立が固まったが自民関係者は「オール沖縄は翁長氏だからつくることができた」と指摘。県連幹部は「オール沖縄は翁長知事が腹八分でまとめた繊細な芸術品。玉城氏の色が出た組織をつくらなければ、支持者は燃えないだろう」と見通した。

沖縄タイムス 2018年8月22日 08:02)


赤字及び青字ボールドにした部分に示された県議会議長の言動は、許されないものなのではなかろうか。あまりにも不透明だ。日頃「安倍信者」(いわゆる「ネトウヨ」)から蛇蝎のごとく嫌われている沖縄の地元紙にこんな記事を書かれるとはどうしたことなのだろうか。

この件から私が直ちに思い出したのは、数か月前に読んだ松本清張歴史小説『かげろう絵図』に取り上げられた江戸幕府後期の「家斉『お墨付き』騒動」の一件だ。


かげろう絵図〈上〉 (文春文庫)

かげろう絵図〈上〉 (文春文庫)


かげろう絵図〈下〉 (文春文庫)

かげろう絵図〈下〉 (文春文庫)


小説に取り上げられた「家斉『お墨付き』事件」については下記ブログ記事を引用する。史実かどうかは知らない。

https://sengoku-jidai-kassen.com/edojidai/20170829(2017年8月29日)より

オットセイ将軍が寵愛した「お美代の方」

11代将軍・徳川家斉は50年にも渡り将軍職に就いた人ですが、並外れた精力の持ち主としても有名でした。

生涯で16人もの側室を持ち、たくさんの子を産ませます。

ついたあだ名は「オットセイ将軍」。

これは、家斉が精力強壮のためにオットセイの大事な所の粉末を愛飲していたからです。

お美代の方は、その家斉が最も寵愛した側室と言われています。

お美代の方の出自

元は日啓という智泉院住職の娘でしたが、その美貌を見込まれて旗本・中野清武の養女となりました。

清武ははじめから、お美代を大奥へ送りこみ家斉に取り入ろうとしていたようです。

その思惑どおり家斉はお美代の方の美貌のとりこになります。

実父・日啓と養父・清武はその恩恵を受けて、多大な影響力を持つようになります。

お美代の実父が起こした淫行騒動「智泉院・感応寺事件」

お美代のおかげで多大な力を持った実父・日啓は、家斉を動かして「感応寺」という新しい寺を建てていきます。

家斉の肝いりで建てられたこの寺には参詣客が集まり、たいへんな賑わいでした。

ところがこの寺には裏の顔が。

それは大奥女中らと寺の僧侶たちの密会の場所としての顔でした。

この淫行の噂は幕府の耳へも入り、家斉が没した後、直ちに日啓は捕縛されます。

日啓は流刑となり、日啓が関与した寺はすべて取り潰しとなりました。

一方でお美代の方と養父・中野清武は関与を否定し責任を回避します。

将軍の遺言を偽造した「お墨付き事件」で失脚

実父・日啓の捕縛にもひるまなかったお美代の方と中野清武ですが、致命的な事件を起こしてしまいます。

それが「お墨付き事件」と呼ばれるものです。

お墨付きとは、遺言状のこと。

お美代の方は家斉の側近の林忠英、水野忠篤らとともに家斉の遺言を偽造し、お美代の方の孫の「犬千代」を将軍にしようと画策しました。

しかしこの偽造は家斉の正室・広大院にバレてしまいます。

これが決め手となってお美代の方は大奥から追放。

養父の清武も登城差し止めとなりました。


清張の小説には「感応寺事件」と「お墨付き事件」が取り上げられている。遺言状(お墨付き)については、中野石翁(清茂)が病床の家斉(徳川幕府11代将軍にして、将軍を引退後も「大御所」として実権を握り続けた)を無理強いして書かせた設定になっていたと思う*3。しかし小説では、石翁は家斉が死んでしまえばお墨付きに記された14代将軍(当時の12代家慶の2代あとの将軍)の後継者指名が反古にされても仕方がないと最初から覚悟しており、家斉の死とともに自ら向島(現東京都墨田区)の邸を引き払って引退した「潔い悪役」として描かれている。

清張作品に出てくる中野石翁でさえ、大御所の後継者指名が反古にされて当たり前だと考えているのに、21世紀に生きる「リベラル・左派」が故翁長雄志知事が口にしたという「後継者指名」を絶対不可侵の所与のものとして、それに従わなかったり支持の意思を積極的に示さなかった者を非難罵倒する*4とは、何たることかと私は怒るのである。これでは、安倍晋三に刃向かう者はたとえ安倍と同じ極右(石破茂)であっても許さない、石破一派を根絶してやる、と息巻く「安倍信者」どもと全く変わらないではないか。

そもそも、翁長氏の後継者選びが、後継者指名の音声の出現によってひっくり返り、急転直下玉城デニー氏に決まったと聞いた時、私は前記の清張小説を連想したほかに、「危ない、これは負けるぞ」と思った。

実は玉城デニーのボスである小沢一郎も、同じ懸念を持っているらしいことを下記田中龍作(「小沢信者」として有名な人物)のブログ記事で知った。

【速報~沖縄県知事選】玉城デニー氏、出馬受諾の記者会見を延期 順当に行って29日(2018年8月25日)より

【速報〜沖縄県知事選】玉城デニー氏、出馬受諾の記者会見を延期 順当に行って29日

 翁長知事の後継を選ぶ調整会議の出馬要請を受けて、玉城デニー衆院議員(沖縄3区・自由党幹事長)が26日に予定していた受諾会見は延期となった。玉城後援会幹部が明らかにした。

 小沢一郎自由党代表がきょう24日、沖縄入りし、調整会議4役と会談した。ここで小沢は違和感を覚えたものと見られる。資金面、選挙態勢(各組織の支援態勢)が整っていないことを見抜いたのだ。

 後援会関係者は「汗をかくフリをする組織がある」として、4年前と同じオール沖縄となっていないことに懸念を示す。地元紙によれば、オール沖縄を資金面で支えてきた金秀グループの呉屋守将会長が、単独では選対本部長に就かず共同代表制をとる、という。

 選挙に勝つために必須の支援態勢と資金は、4年前と違って盤石ではない。これまでにも小沢は玉城に「勝てることを確認してからでなくては、出てはダメだよ」と釘を刺していた。

 玉城は27日に上京、小沢と出馬に向けた最終判断をし、翌28日、野党各党と大詰めの調整をする。出馬記者会見は順当に行って29日となる見通し。

 環境が整わないまま出馬すれば、選挙は負ける。玉城デニーを落とすようなことになれば、オール沖縄は音を立てて崩れる。(敬称略)


「小沢信者」の田中龍作が、イケイケドンドンどころかこんな及び腰の記事を書いていることがまず驚きだ。

「後継者指名の録音」について言えば、公開できるもの、つまりエビデンスをはっきり示せるものでなければ、その存在を言い出してはならない。そんなことは政治に限らず人間社会に生きる人間にとって「きほんの『き』」の倫理だと私は考える。公開できない録音など怪文書と同じだ。清張小説に出てくる「家斉の『お墨付き』」と同様、死に瀕した翁長氏に無理やり言わせた悪質なものだったのではないかと私は疑っている。人間の権勢欲にはきりがないことを、この作品に限らず清張小説はこれでもか、これでもかとばかり抉り出す。だからそんな清張作品を読むのを止められず、昨日も最近光文社文庫入りした長篇『風紋』を図書館で借りてしまった。

いくら安倍政権と対峙する立場だとはいっても、候補者は県知事という権力の座を目指そうとする者、つまり「権力者」候補なのだから、同じ党派に属して候補者の当選を目指す立場でもない限り、一般のリベラル・左派の人間には候補者に対して一定の懐疑を持つ態度を堅持する必要があると私は確信している。それが全くできていないのが今の「リベラル・左派」だ。

だから私はこの問題が極めて深刻だと思うのだ。

当然ながら、翁長氏の「遺志」を絶対視することなく、公正かつ説得力のある候補者選びがなされてしかるべきだと私は思う。清張小説に描かれた中野石翁ではないが、遺言は反古にされても仕方ない。遺言の絶対視に対して私は、「安倍信者」、「リベラル・左派」双方に蔓延する「個人崇拝」の悪弊を強く感じる。何より、政治とは死んだ人間のためにではなく、生きている人たちのために行われるべきものだ。

オール沖縄」を批判する文章が長くなったので、当初この記事で一緒に取り上げようと思っていた玉木雄一郎石破茂及び安倍晋三に対する批判は、今晩または明日以降、別記事にて書くことにする。

*1:今年はもうこの時点でセ・リーグペナントレースを打ち切って、クライマックスシリーズの実施も中止して広島優勝で終わらせてしまえば良いと思った。広島(昨夜は大敗したが)とヤクルト以下5球団との力の差が大きすぎる。

*2:原文ママ。「収拾」の誤記であろう。

*3:小説を読んでから数か月経つので細部の記憶には自信がない。

*4:たとえば、いわゆる「しばき隊」がこの論法に従って枝野幸男を非難・罵倒したと聞いている。私はしばしば書くように枝野幸男に対しても強い批判を持っているが、この件に関しては理がないのは「しばき隊」のほうだろうと思う。