幸か不幸かワグネリアンではないので全然注目してなかったのだが、ワーグナーの「聖地」バイロイトで、もうすぐ「バイロイト音楽祭」が始まるらしい。
なぜ突然取り上げたかというと、部屋の片隅から処分し損ねていた1月20日付の朝日新聞が出てきて、その「国際面」(東京本社発行最終版では11面)に、「ナチスも信奉 作曲家ワーグナー 暗部に焦点 ひ孫の試み」という記事が目についたからだ。
ワーグナーの孫、ヴォルフガング氏が死去したニュースは、昨年3月の当ブログで取り上げた。
1813年生まれの大作曲家ワーグナーの孫、ヴォルフガンク氏が死去 - kojitakenの日記
この時には、「ええっ、1813年生まれのワーグナーの『孫』がまだ生きていたのか」と驚いたのだが、ヴォルフガング氏が亡くなる前年の2009年からバイロイト音楽祭を異母姉エファ・ワーグナー・パスキエ氏(65)とともに率いているのが、カタリーナ・ワーグナー氏。1978年5月21日生まれの33歳というから、父・ヴォルフガングが58歳の時に生まれた娘で、ヴォルフガング氏の末娘だそうだ。「ワーグナーのひ孫」は私よりはるかに若いのだ。なんたること。
そのカタリーナ氏は、大柄の女性だそうで、美貌で注目された頃もあったそうだが、現在ではかなり横幅がついて、貫禄があるとのこと。
だが、ここで書きたいことは、もちろんカタリーナ氏の容貌の話ではなく、彼女がやろうとしていることだ。
周知のように、ワーグナーはヒトラーに政治利用されたのだが、それには大作曲家・ワーグナーにも責任があって、彼は「ユダヤ人差別論者」で、実際にユダヤ人を差別する論文を書いたこともある。そして、カタリーナ氏の祖母・ウィニフレッド・ワーグナーはヒトラーと親しく、バイロイト音楽祭はナチスの保護を受けていたのだ。当然、バイロイト音楽祭は戦後問題視され、しばらくは開催されなかったが、1951年にヴォルフガング氏と兄のヴィーラント氏の2人の「ワーグナーの孫」が復活させた。
ヴォルフガング氏の晩年には、後継者争いが起きたが、もちろんカタリーナ氏がこれに参戦していたことはいうまでもない。結局後継者争いはひ孫2人が共同経営することで決着がついた。
カタリーナ氏がやろうとしているのは、ワーグナー一族とナチスとの過去を洗い直すこと。たとえてみれば、安倍晋三が母方の祖父・岸信介の戦争責任を洗い直すようなものだ。
カタリーナ氏は語る。
一族には多くの暗い過去があり、一部のメンバーにはタブーのテーマだが、私は幸いなことに(ナチスの)第三帝国とは何の関係もない。「どうぞ文書をすべて見てください」と言える立場にある。
こうした問題の存在を否定することが一番誤ったことなのだ。私は一族の暗い過去がなかったかのように振る舞うことはできない。
やはり戦後(1954年)生まれでありながら、岸信介の戦争責任には何も触れないで岸を信奉する一方、平和主義者として知られた父方の祖父・安倍寛(かん)の存在を黙殺する安倍晋三*1に聞かせてやりたいような言葉だが、それではカタリーナ氏はどんなことをやり、どんなことをやろうとしているのか。
一つは奇抜な演出だ。昨年のバイロイト音楽祭で上演された楽劇『ニュルンベルクのマイスタージンガー』では、ドイツ芸術を賞賛する幕切れを真っ暗な中で上演し、おどろおどろしい雰囲気にしたという。観衆の反応はブーイングと賞賛に分かれたらしい。
そして、記事には今年7月のバイロイト音楽祭の翌日、イスラエル室内管弦楽団によるバイロイト市で初のコンサートをカタリーナ氏の後援で開き、ワーグナーの作品を演奏する計画を進めていると書かれているのだが、この話にはイスラエルで議論を呼び、ホロコーストの生存者たちから激しい怒りの声が上がっているとのこと。
カタリーナ氏は、「反発する気持ちはよくわかる。ただ私にとって、イスラエルのオーケストラがバイロイトで曾祖父の作品を演奏してくれることはありがたく、将来につながる良いシグナルだ」と語ったと朝日の記事には書かれているのだが、それから半年が経過し、バイロイト音楽祭の開催が目前に迫った現在、その計画はどうなったのか、ちょっとネット検索をかけてみても引っかかるのはこの計画が最初に報じられた昨年10月のものばかりでよくわからなかった。
だから、ブログで記事を書いて誰がご存知の方に教えていただけないかと考えた次第だ。