kojitakenの日記

古寺多見(kojitaken)の日記・はてなブログ版

都市部と地方の「図書館」事情

そういえば数年前にこの歳になって再び上京して以来、図書館(区立)を利用する頻度が激増したのだった。今日も、午後は家から徒歩35分ほどのところにある、最寄りの地下鉄の駅から一駅離れた駅の近くにある図書館に行くことにしている。図書館の閉館時刻の早い日曜日や祝日は、家から徒歩10分の、最寄りの地下鉄の駅の近くにある、別の区立図書館に行くことが多い。また、上記とは反対側の隣駅から徒歩で近いところにもさらに別の区立図書館がある。こちらにはたまにしか行かない(特に暑い時期にはあまり行かない。涼しくなったのでこれからしばらくは時々行こうと思っている)。

http://gudachan.hatenablog.com/entry/2015/10/08/195307(2015年10月8日)

「図書館無縁層の発生」と言う地方問題

都市部の図書館はみんな「駅前」にある

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 東京都港区の区立図書館の所在地をご存知だろうか。

 みなと図書館をはじめ、三田、赤坂、高輪、麻布、と、みな駅前に立地していることに気づく。近隣住民にとって中心地である場所に図書館はあって当たり前なのだ。

 ちなみに名古屋市港区の「港図書館」も駅直結にあるし、大阪市港区の「港図書館」も駅徒歩すぐにある。

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 そしてそれは首都圏郊外であっても同じだ。

 ここ、湘南にある図書館は、湘南ライフタウンをのぞけばすべてが駅前にあるのだ。ライフタウンの図書館は分館であり、もっと大きな図書館に行きたければ、見切れているが湘南台駅前の総合市民図書館もある。

 つまり図書館に行くときは、普通の湘南の常識であれば、公共交通(鉄道・バスなど)か自転車である。そしてそれは、県央でも横浜でも東京でも常識だし、都市部であれば当たり前なのである。すなわち生活導線に図書館が満たされているということはとても大きなことなのだ。

「図書館に行くこと」が一苦労な地方都市

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 宮崎県宮崎市は図書館分離型の地方都市の1つだ。

 県庁所在地なので県立図書館と市立図書館の2館が存在するのだが、見てのとおり、どちらも宮崎市街地から離れている。最寄り駅のない陸の孤島だ。ちなみに、事実上の「21世紀の宮崎の中心地」のイオンモールは右端にある。

 おまけに宮崎の住宅街はいわゆる「ドーナツ化」によるニュータウン開発が進んでいるという。市域の外れの高速道路沿い辺りに付随して住宅分譲地が作られており、そこからわざわざクルマを出して図書館に行く必要がある。そのために車を出すのは手間だ。小学生が自転車で3キロ以上も迷子にならずにこいだりすることなんて普通の常識ではありえないことだ。それこそ連れ去り事件の被害に遭うだろう。

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 特にひどいなと思ったのは香川県だ。

 JR高松駅前から県立図書館はなんと7キロくらい離れているのである。しかも高松は田舎にしては珍しく「琴電」と言う私鉄網があるのだが、県立図書館のある場所は琴電の駅すらも遠い。陸の孤島である。高速道路のインターからもちょっと離れている。

 そして、高松は、市街地の外れにあたる東と西に巨大イオンが2本体制で存在している。つまり、高松市の左半分住民は西イオンに集まり、東の住民は東イオンに集まるわけであり、けっきょくのところ市の極北ばかりにすべてが集中するわけである。

 もちろん、公民館とかコミセンとかに小さな分館の図書室とかがあったりするんだろう。ただそれにしても「それなりに立派な図書館」と言うものがあるにもかかわらず、それに一切接点がない住民が大量にいると考えた方がいいだろう。

 この手の地方都市の場合、高齢者は日本の昔ながらの良くも悪くも濃い地縁を好むが、50代以下の世代(つまり団塊より若い人)はそういうものと一切無縁なのだ。むしろ大都市部だと、下町みたいな古い住民はそれこそ若者でも濃いし、新住民だってそもそもその街が好きでわざわざ選んでやってきているわけで地域活動も盛んだったりする(東京のローカルのお神輿の熱気はすごいよ!)のだが、なんというかそのへんの大学のぼっち学生がそのまま大人になったり家庭を持ったりしたようなとてつもなく冷めた人が多いのである。すると公民館に行く機会すらもほとんどなく、結果、そういう図書室も他人事になるのだ。

 だがそういう図書館無縁層が多い地方都市ほど住んでいる人口規模を考えても、立派過ぎる場合が多い。

 県庁所在地ならば人口20万とか30万でも、県立図書館と市立図書館がそれぞれある。もといろん市域がバカみたいに広いのでレベルの実態は首都圏の同レベル自治体と合致しないとはいえ、どっちも超大型のハコモノで、東京の都心の区立図書館の方がボロボロでせせこましいのだ。でも利用者は当然、都内の図書館の方が多い。それこそ区外、神奈川県や千葉県からの在勤者なんかさえも利用することがあるだろう。これはどうも理不尽だと思わないか。

武雄市はもしかしたら「初・図書館体験者」が多かったのではないか

「ツタヤ図書館」逆風 利用者3・6倍もトップダウンへの反発? 佐賀・武雄市(1/3ページ) - 産経WEST

 TSUTAYA図書館問題がいろいろ話題を呼んでいるが、武雄市のあの図書館の立地場所を調べたことある人はいるだろうか。

 幹線道路沿いなのである。しかもお隣は「Youme」という九州ローカル版のイオンモールみたいな商業施設だ。

 つまり、「イオンモールでショッピング感覚」で、図書館に市民を流入することに成功したのである。彼らはきっと「TSUTAYAでしかもスタバもある」から喜んだのだろう。田舎の人はTSUTAYAに馴染んでいるし、スタバに妙な偏愛を持っているからだ。

 だがもしかしたら、それは武雄市民にとっての図書館の初体験だったのではないだろうか。

 ある地方都市では、クルマ社会化が進みすぎて「路線バスの乗り方がわからない市民」が発生していることがわかり、地元のバス会社は市民に路線バスと言うものは何か、何が便利なのか、どうやって乗るのかを教えるような取り組みをすることで経営の建て直しに成功したという。

 地方の人はそれほど「自分が体験しないこと(しなくなったこと)」への不理解が激しいわけである。それが図書館にもあるということだ。

 つまり、都市部において図書館の機能をそれなりに知っている人からして、いくら選書がメチャクチャであっても、いくら図書館の本質と矛盾しためちゃくちゃなどがあったとしても、地方の市民たちはそもそも「本来の図書館」を知らないので分かりようがないのである。

 武雄に図書館ができた当時、私はSNSで様子を観察していたが、それを礼賛する人も、批判する人も、みな都市部の肩書きを持った人たちばかりで、それに反応しているのも(おそらくは)大学を出ているであろうリテラシーのある層だった。武雄どころか佐賀県にも無縁だった人たちが、全国初のTSUTAYA図書館として話題にしていたのだ。賑わっていることは分かっても、武雄市民による是・非をどうこう言う投稿はほとんどインターネット空間に乗ることはなかった。

 一方、今回の海老名のTSUTAYA図書館がまずかったのは、海老名は何だかんだで首都圏であるということだったからではないかと思う。つまり海老名市民には図書館が何たるかがある程度分かっていて、みんな昔からインターネットにも慣れている。だから、「地元民」がネットで現地レポートを行い、図書館について知りたい地元民がそれを見たりし、あれやこれや盛り上がっている流れができてしまい、結果、既存の「インターネットTSUTAYA図書館監視団」とかとともに大炎上になっちゃったんじゃないかと思う。

 一連の問題では「図書館無縁層の発生」と言う課題が浮き彫りになったというわけである。

 すると、図書館の質低下と化よりも重大な問題が予測されることになる。それは財政難と利用者減少にともなう「図書館そのものの整理統合」である。安倍自民党が切るのか、維新の橋下さんがボロクソに叩いて切るのか、民主党蓮舫さんが仕分けるのかはわからないが、「人が集まらない公営事業は無駄」と言う流れの行きつく先は図書館削減ではなかろうか。

 TSUTAYA化して賑わえた場合は残し、そうでない場所はいきなり閉じるのは抵抗もあるからと、NPOや財団などを指定管理者とさせといてしばらく様子を見てだんだんと弱らせ提起、それでも改善できないし運営能力がないと見なした場合は切るわけである。

 そんな未来になったらヤバいと思うあなたはぜひ図書館を毎日利用しよう。


上記記事にはいくつか誤解を招きやすい記述や誤記がある。細かい誤記を指摘すると、

「Youme」という九州ローカル版のイオンモールみたいな商業施設だ。

と書かれているが、「Youme」(「ゆめタウン」と言う方が通りが良い)は「九州ローカル」ではなく、広島資本(イズミ)で中国・四国・九州の広域に展開している商業施設である。

また、

 特にひどいなと思ったのは香川県だ。

 JR高松駅前から県立図書館はなんと7キロくらい離れているのである。

と書かれており、確かに県立図書館はJR高松駅前から遠いが、高松市立図書館は、高松駅の近くではないものの、市の中心部に含まれるJR昭和町駅から徒歩3分の距離にある。いくらなんでも、県立図書館と市立図書館がともに市街地から離れているという宮崎市ほどひどくはない。なお、ブログ記事から引用した地図に「高知駅」と書いてあるが、これはいうまでもなく「高松駅」の誤記である(=10/13追記)。

とはいえ、香川県立図書館の立地に関しては記事の通りである。四国に移る直前まで住んでいた、瀬戸内海を挟んで香川の対岸に当たる岡山県では、県立図書館は岡山市の中心部にあるから、香川県との落差は大きい。私は7年間高松市に住んでいたが、県立図書館には一度しか行ったことがない。私の家は高松市の中心部ではなく、市の外れにあったので、イオン高松からは比較的近かったけれども(それでも3kmほど離れていた)、香川県立図書館からは10km近く離れていた。

ただ一度だけ行ったのは、2006年12月16日のことである。自宅から自転車を漕いで行った。

この日は、第1次安倍内閣が、世紀の悪法の一つといえる「改正教育基本法」を強行採決で成立させた翌日だった。この図書館で、毎日新聞が一面トップで安倍政権と日本会議との関係に焦点を当てた記事を書いていたことを知った。これは現物を入手しなければ、と思って、図書館を出たあと近くのコンビニで毎日新聞を買った。

香川県立図書館からは、確かにハコモノは立派だけれど利用者が少ないという印象を受けた。それより、図書館の近くにある「味噌煮込み讃岐うどん」を目玉商品とする「六平うどん」がおいしかった思い出のほうが印象に強く残っている。もうだいぶ寒くなっていた季節だったからなおさらだった。

高松市在住時代は、図書館だけではなく書店にも不満が多かった。だから「青春18きっぷ」の季節になると、岡山の丸善紀伊国屋によく行ったし、時には大阪や神戸のジュンク堂書店その他に遠征することも少なくなかった。高松市内で私が唯一頼りにしていたのは丸亀町にある宮脇書店の本店で、ここは本店という割には規模は大きくないが、品揃えは良かった。対して、2000年代半ば頃に進出してきた紀伊国屋書店の高松店は品揃えがお粗末きわまりなく、全くの期待外れだった。大書店は地方都市を馬鹿にするなよ、と腹を立てたものだ。家から比較的近いイオン高松に旭屋書店(本店・大阪)が入った時には喜んだものだが、旭屋は経営が傾いたらしく、2年も経たずに閉店した。結局、岡山や大阪・神戸に足を運ぶ日々に戻ってしまった。

だが、そういった行動パターンも、私が阪神間で育って大学生時代から社会人時代の前半にかけては首都圏に住み、四国の前には「地方都市としては便利な部類の」岡山県に住んだ経歴の人間だったからとれたものだといえる。

引用記事の末尾にある「図書館そのものの整理統合」は、当然起こりうる話だと思う。安倍晋三ら為政者にとっては、図書館などには行かず何も知ろうとも考えようともしない国民が多ければ多いほど、好き勝手に権力を行使できるので都合が良いわけである。そうした保守政治家の本音を露骨にむき出しにして、あろうことかそれで浅はかな(大阪)市民に拍手喝采を受けたのが言わずと知れた橋下徹であり、そんな安倍晋三以下の自民党や橋下らにせっせと協力するのが、「事業仕分け」で悪名高い蓮舫に代表される民主党といったところだろう。

ここで、記事中にリンクされている産経の記事を引用しておく。頭に血が上らずにはいられない記事である。

「ツタヤ図書館」逆風 利用者3・6倍もトップダウンへの反発? 佐賀・武雄市(1/3ページ) - 産経WEST

「ツタヤ図書館」逆風 利用者3・6倍もトップダウンへの反発? 佐賀・武雄市

 地方の公立図書館再生のモデルとして期待された「ツタヤ図書館」に逆風が吹いている。第1号の佐賀・武雄市図書館は来館者が3倍以上になった一方で、運営するカルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)によるずさんな選書が明らかになった。愛知県小牧市の計画は、住民の“反対”で見直しを迫られている。(九州総局 奥原慎平)

 今月4日、愛知県小牧市で、市とCCCなどが連携して計画を進めている新しい図書館の賛否を問う住民投票が実施された。

 市中心部に30年の開業を目指す計画だが、建設費42億円に「費用が膨らみすぎだ」と住民グループから反対の声が上がっていた。住民投票の結果は、「反対」3万2352票、「賛成」2万4981票となった。山下史守朗(しずお)市長は「一度立ち止まって、現在の計画の問題を市民と検証しながら、より良い計画になるよう進める」と述べた。

 住民投票の直前、今月1日にツタヤ図書館を開業した神奈川県海老名市では、タイの風俗店について記述した本が見つかり、市は貸し出しを中止した。

 ツタヤ図書館は、佐賀県武雄市で産声を上げた。平成25年4月、市はCCCを指定管理者として市立図書館をリニューアルオープンした。

 人気のスターバックスカフェを併設したおしゃれな空間は、全国ニュースとなり、話題を集めた。人口5万人の地方都市でありながら、改装初年度は計92万人が来館した。改装前(23年度)の3・6倍もの数字だった。

 武雄の成功は、公立図書館の立て直しを目指す全国の自治体に波及した。岡山県高梁市山口県周南市、宮崎県延岡市も、CCCへの運営委託を検討している。

 ところが今年7月、武雄図書館で不備が明らかになった。

 リニューアルに合わせて購入した1万冊の書籍の中に、10年以上前の公認会計士試験の教材や、埼玉県のラーメンマップなど市民にとって利用価値の低い実用本が、多数含まれていた。

 しかも、1万冊は新刊本ではなく、当時CCCと資本関係にあったネット古書大手「ネットオフ」から購入していた。このため、「子会社の在庫処分だ」など、ネットや一部市民の間で批判の声が高まった。廃棄された郷土資料もあった。

 CCC側は9月10日に謝罪し、27年度中に、同数の図書を改めて選び、市に寄贈することを表明した。

 産経新聞の取材に対し、CCC側は、書架の安全性を高めるための追加経費が必要となり、書籍購入費を削ったと釈明した。広報担当者は「幅広く本を選ぶべきだったが、オープンまでの選書期間を短く見積もってしまい、ずさんな結果になった。市側との(書架の)安全対策の打ち合わせも不十分だった。今後、選書の精度を高め、市民の声を反映したものとなるよう努力したい」と語った。

 武雄市におけるツタヤ図書館反対運動の根っこには、当時の市長、樋渡啓祐氏に対する反発がある。樋渡氏は、トップダウン型の政治手法が賛否を巻き起こしていた。

 「住民になんの説明もないまま、CCCありき、しかも東京で図書館の民間委託を打ち出した。図書館運営の実績のない会社を選ぶなんて、独裁的過ぎる。まちづくりの在り方として危機感を抱いた」

 反対運動を主導した「武雄市図書館・歴史資料館を学習する市民の会」代表世話人、井上一夫氏(75)は、こう語った。

 とはいえ、武雄市のツタヤ図書館が、地域のにぎわいづくりに寄与したのは間違いない。

 市はツタヤ図書館がもたらした25年度の経済効果を20億円と弾く。武雄市が「地方創生のロールモデル」(稲田朋美自民党政調会長)といわれるまでになったきっかけも「ツタヤ図書館」だ。

 観光旅行に武雄を選んだ東京都の会社員、坂田光央氏(26)は「スタバもあって、くつろげる雰囲気です。マニアックな本も多く、読書の切り口が広がる」と書架に手を伸ばした。

 人口減少が本格化する中、地方の公立図書館には役割分担が求められる。専門書などを豊富に備え、その地方の中核となる県立図書館、そして地域のにぎわいの拠点であり、読書の入り口となる市町村立図書館といった具合だ。

 文化庁による「国語に関する世論調査」(平成26年3月)では「1冊も本を読まない」との回答が47・5%に上った。書籍離れが深刻となる中、ツタヤ図書館のように集客力を高めた公立図書館は、市民が書籍に触れるきっかけを生み出す。こうした新たな可能性を秘めているだけに、ずさんな運営で評判を落とした“罪”は重い。

(産経ニュース 2015.10.8 08:15)


稲田朋美武雄市を「地方創生のロールモデル」と持ち上げていることが記事に書かれているが、安倍晋三菅義偉前武雄市長・樋渡啓祐を今年1月に行われた佐賀県知事選に担いだ。その知事選で樋渡は落選し、佐賀県民はその矜恃を全国に見せつけて面目を保ったが、地方の住民の民度を下げることに尽力する樋渡が、安倍晋三菅義偉稲田朋美らにとっては好都合極まりない人間であろうことは想像に難くない。

まったくどいつもこいつも、と思うが、そんなやつらに対抗する意味でも、微力ながらも日々図書館を利用しようと、しょぼく記事を締めくくる今日この頃なのであった。