そういえば「正油」なんて表記は久しく見た記憶がない。
1980年に上京する前の関西在住時代には見たような記憶もあるが、もちろん関西の風習でも何でもなく、昔よくあった「闘争」を「斗争」と表記したのと同じような適当な当て字だろうとは思った。検索語「正油」でネット検索をかけると大修館書店のサイト「漢字文化資料館」に下記が記載されていた。。
以下引用。
中田祝夫『日本の漢字』(日本語の世界4、中央公論社、1982年。現在は中公文庫)に、「正油あります」と書いてある張り紙を見てびっくりした、という話が載っています。この本が書かれた1980年代の初めには、「正油」という書き方が存在していたわけですが、国語学者が見て「びっくり」するようなものでもあったのでしょう。
この経験から、中田先生は「はたして日本人の何パーセントが「醤」の字の意味を理解しているだろうか」とお考えになり、次のように記されています。「醤」の字義が判らないとなると、「醤油」という文字は、ただ「酢」「酒」「ビール」などと区別するための綴字ということになる。だが、「しょうゆ」を他の食品や調味料と区別するための綴字ということだけなら、人びとは何もこんな難しい「醤油」の綴字を使わなくても区別できるという考えに到達するはずである。そこで、判りさえすればよいので、「正油あります」というふうなビラができたりする。
それから10年ほどが過ぎた1993年、ちょっと話題になったキッコーマンのコマーシャルがありました。女優の安田成美さん扮する妻が、パックの「しょうゆ」を小瓶に移し換えながら、ふと、夫に向かって「ねえ、「しょうゆ」って漢字、書ける?」と尋ねるコマーシャルです。
ここでどう答えるのが、夫としては正解なのか?おそらく、何も言わずに妻を抱きしめる、というのが最高なのでしょうが、まかり間違って「正油」と答えてしまったとしたら、雰囲気はぶち壊し。三くだり半を突きつけられても文句は言えないかもしれません。つまり、「判りさえすればよい」ではすまされない場面も、人生には多々あるというわけです。
それからさらに10年以上が過ぎ、現在では、スーパーのチラシやラーメン店の看板などに、「正油」という書き方がよく見られるようになりました。男女を問わず、「醤油」が書ける人はますます少なくなりつつあるのでしょうか。
もっとも、漢字が書けることと異性に対する魅力があることとは、全く別の能力であるとは思いますが……。
赤字ボールドの部分には「ええっ」と思った。
上記の文章には、「2008 年以前の古い記事のため、ご留意ください。」との断り書きが書かれている。上記の文章が書かれた頃、どこかのスーパーのチラシやラーメン屋の看板で、一時的に「正油」という表記が復活したことがあったのだろうか。
以下が本論というか、上記の話題から連想したこと。まず前述の「斗争」については、下記リンクを参照して、もしかしたら中国の簡体字がルーツなのではないかと思った。
以下引用。
・中国簡体字ハンドブック ビジネスマン・旅行者必携 近代書道研究所/編 岳陽舎 2007.8
※「第1章 簡体字字典」の「4画」のp.4「斗」あり。
「第3章 音訓から引く簡体字」のp.121「たたかう」に「闘-斗」、p.125「トウ」に「闘-斗」あり。
・(早わかり)中国簡体字 遠藤紹徳/著 国書刊行会 1986.5
※巻末「付表一 中国の略字と日本の常用漢字の対照表」p.2に中国の簡化字(略字):斗、日本の常用漢字:闘 あり。
巻末「付表二 常用漢字・中国略字対照表」p.27に日本の常用漢字:闘、中国の漢字:斗 あり。
・日中十書体字典 中国簡体字を含む 関鷺峰/著 マール社 1987.2
P.209「闘」の項の[中国常用]として、「斗」とあり。
それから、以下が本当の本論だが、「斗争」とともに連想したのが「『年齢』と『年令』、それに「『歳』と『才』」の2つの異表記だった。特に前者は、最近とみに大嫌いになったある漢字にかかわる件なので、強く調べてみたいという気になった。その結果、「正油」と同じ大修館書店の「漢字文化資料館」の記載がみつかった。「正油」と同様、2008年以前に書かれたものらしい。
以下引用。
小社『明鏡国語辞典』には「表記」という欄があって、書き表し方に関する情報を簡単明瞭に解説してあります。そこで、早速、「ねんれい【年齢】」の項目を調べてみますと、その「表記」欄に「小学校では学年配当の関係から『年令』で代用する。」と書いてあります。また「さい【才】」のところにも同様の記述があります。
もうちょっと噛み砕いてご説明しておきましょう。小学校で学習する漢字は、一般に教育漢字と呼ばれていますが、「齢」も「歳」も、この教育漢字に入っていないのです。しかし、「年齢」も「○歳」も、実生活のさまざまな場面で頻繁に使用しなくてはならないことばです。そこで、「齢」は、4年生で学習する「令」の字を代わりに用い、「歳」は、2年生で学習する「才」の字を代わりに用いることにしよう、というわけです。
つまり、「年令」も「○才」も、きちんとした漢字を学習するまでの間の仮の書き方だといえます。「齢」も「歳」も常用漢字ですから、遅くとも中学校を卒業するまでには学習するはずです。それ以後は、やはり、「年齢」「○歳」と書くのが、オトナだということになりましょう。
ただし、「年令」「○才」という書き表し方が、教育漢字の制定によって生まれた、完全に子ども専用のものであるかというと、そうでもありません。『大漢和辞典』の「才」の項には、日本では「歳」の略字として用いる、というような説明があります。『大漢和辞典』の基礎的な部分は教育漢字の制定以前に編集作業が完了していますから、「○才」という書き表し方は、それ以前から存在していたことになります。おそらく「年令」についても、略字としては、古くから存在していたのではないでしょうか。
とはいうものの、それはあくまで手書きの略字の場合に限ってであったろうと思われます。正しいオトナはやはり、「○歳」を使った方がよいだろうと思われます。
じゃあアグネス・チャンは「陳美令」で良いのかも。日本(天皇)の元号は格好をつけて「零和」とでもしたらどうかと思った。なお、「年令」や「○才」が簡体字に由来するかどうかは面倒なので調べなかった(そこまで根気が続かなかったし、休日であるにもかかわらず相変わらず時間に追われている)。
最後にまたまた脱線して終わるが、アグネス・チャンは、周庭(アグネス・チョウ)氏によると「中国派」らしい。
以下引用。
アグネス・チャンさんは「親中派」なので……
野嶋:周さんの英語名はアグネスで、アグネス・チョウと日本のメディアでも紹介されてきました。香港出身でアグネスといえば、日本では長くタレントとして活躍してきたアグネス・チャンさんがいますね。
周:この英語名は親がつけてくれましたが、香港では、みんな周庭(チョウ・ティン)と呼んでいます。アグネス・チャンさんは親中派で、香港の雨傘運動に対する偏見があるように思えて、好きにはなれません。一緒の名前なのがめっちゃ嫌でなんとかしたい(笑)。仲のいい倉田徹先生(香港政治が専門の立教大学教授)は、アグネス・チャンさんと「アグネス対談」をしてはどうかと冗談でよく言うのですが(笑)。
アグネス・チャンといえば、私にとっては「親中派」というより「アベ友」の一味との悪印象が強い。「好きにはなれ」ない点では周庭氏と同じだが。アグネス・チャンに安倍晋三がすり寄ったのはずいぶん前だったと記憶するが、最近もその関係が続いているらしいことは、ネット検索をかければ簡単にわかる。
直前に公開した記事*1にも書いた通り、習近平と安倍晋三とは似た者同士であって、二人で馴れ合い劇を演じているのだから、アグネス・チャンが「親中派」と「アベ友」を兼ねていることは全く驚くに当たらない。