kojitakenの日記

古寺多見(kojitaken)の日記・はてなブログ版

「新政権の経済政策の課題」を真っ先に竹中平蔵にきいた朝日新聞

朝日新聞に一昨日(10日)から3日連続で掲載された「新政権 経済政策の課題」と題されたインタビュー記事に登場したのは、竹中平蔵(元経済財政相)、桜井正光(経済同友会代表幹事)、神野直彦(東大名誉教授)の3氏だった。

初日に登場したのが竹中平蔵で、写真も竹中だけカラーで、他の2氏はモノクロだった。このあたりに、今の朝日新聞のスタンスがよく現れていると思って苦笑させられた。

竹中平蔵の主張は想像通りのものだったが、「不況だから政府がお金を使うというのは、自民党もやってきた当たり前の政策だ」と、存外に常識的なことも言っている。但し、竹中平蔵は史実を自分の都合の良いようにねじ曲げている。事実は、小泉政権は2001年の発足直後に緊縮財政政策をとって景気を悪化させ、あわてて景気対策のために財政出動を行った。

菅直人首相が成長分野として介護や保育、環境などを挙げたことについては、こうした産業にポテンシャルがあるのは当然で、短期的に政府が金を使っても企業が強くなるわけではないから、法人税減税と規制緩和を行えと言っている。

だが、再生可能エネルギーのように、政府が国策として推進する方が適切な分野があることを、竹中は意識的に(だろうと思うが)無視している。もっとも、竹中の主張する法人税減税は論外だけれども、規制緩和のすべてが悪というわけではなく、再生可能エネルギーを成長産業にする過程では、電力の自由化という規制緩和が必要になる。そして、電力会社はこれに反対して自民党政権に圧力をかけてきたが、政権交代後は圧力をかける主体が電力総連に代わるだけで、これは御用労組だから方向性は電力会社と同じであり、「グリーンニューディール*1を妨害してきた。

また、竹中平蔵は消費税増税については「残念だがやらざるを得ない」という立場で、「残念だが」という留保をつけたところに、新自由主義者としてせめてもの筋を通している*2。「真の新自由主義者」なら消費税増税には反対してしかるべきなのだ*3。彼らがあえて導入するとするなら人頭税だろうが、何と呆れたことに竹中平蔵はかつて「人頭税が最も公平な税制だと思う」と言ったことがある。そして、現実に人頭税を導入したマーガレット・サッチャーは、英国民の激しい怒りを買って退陣に追い込まれた。

インタビュアーが竹中平蔵所得税増税について聞いていないのは残念だった。累進課税の強化に反対するのは目に見えているが、総合課税についてはどんな理屈で反論するのか楽しみなのに。

というのは、竹中平蔵は、分離課税だらけの所得税制の恩恵を、もっとも多く受けている人間の一人ではないかと推測するからである。

*1:もうすっかり聞かれなくなった言葉だ。

*2:もちろん私は、竹中平蔵とは異なる立場から消費税増税に反対している。

*3:事実、植草一秀は消費税を含むあらゆる増税に反対している。

1998年の「第三の道」と2010年の「第三の道」は微妙に違うのだ

かつてあるイギリス人と話す機会が多かったが、彼はイギリスの社会保障を自慢し、日本はアメリカと同じで政府が何もしない国だと言っていた。

サッチャーを嫌い、アメリカを馬鹿にしていた彼だが、サッチャー新自由主義政策によってかなり破壊されたとはいえども、それでもイギリスには福祉国家の伝統がまだまだ残っているんだなと感じた次第だ。

そんなイギリスで、アンソニー・ギデンズが提唱して、トニー・ブレアが採用した「第三の道」とは、かつてのイギリスの福祉国家路線を「第一の道」、サッチャー新自由主義路線を「第二の道」として、両者を折衷した「第三の道」を目指すということだった。

民主党(新)が1998年の結党時に掲げたのは、「『市場万能主義』と『福祉至上主義』の対立概念を乗り越え、自立した個人が共生する社会をめざし、政府の役割をそのためのシステムづくりに限定する」という文言で、これはイギリスの「第三の道」に近い。

ところが、今年に入って菅直人がテレビに出演した時に語った「第三の道」は、以前のものと少し異なっていた。菅直人は、田中角栄の土建国家路線を「第一の道」、小泉構造改革路線を「第二の道」とした上で、そのどちらでもない「第三の道」を目指すと言ったのだ。それは、菅首相になってからの決意表明や所信表明演説でも繰り返された。

日本がかつて福祉国家であったことは一度もない*1以上、当然の修正ではあるが、菅直人の「第三の道」に言及する時には、この点に留意する必要があると思う。

*1:田中角栄内閣時代に、1973年(昭和48年)を「福祉元年」として、福祉国家路線に舵を切ろうとしたことがあったが、石油ショックに襲われて結局実現できなかった。

ネオリベブログ界に新星現る

『愛国を考えるブログ』が彗星のように現れたのはいつ頃だっただろうか。最初、もらったコメントだったかTBだったかで罵倒された時には爆笑してしまった。それほどインパクトが強かった。現在ではかつての輝きは失われたが、城内実のブログにTBされているので、そこからたどることができる。

『愛国』は極右を騙るトンデモブログだが、小泉純一郎の退陣後衰退の一歩をたどっていたネオリベブログ界にも、輝かしい新星が現れた。

『日本経済をボロボロにする人々』である。最近、Google検索でちょくちょく引っかかるようになった。ライブドアブログだが、FC2カウンタが取り付けられていて、累計で50万件近くを記録しているが、なんと昨日(10日)1日だけで、2万3千件以上のアクセスを記録している。私が運営している『きまぐれな日々』は、4年間地道に更新してきて、累計アクセス数は490万件強に達しているけれども、これまでに記録した1日の最多アクセス数は1万7千件強である(昨年8月31日)。『日本経済をボロボロにする人々』のパワーには恐れ入る。

ブログ主によると、下記エントリがライブドアポータルサイトで注目ブログランキングにて紹介されたため、このアクセス数になったのだという。恐るべしライブドア
http://blog.livedoor.jp/nnnhhhkkk/archives/65458399.html


上記エントリでブログ主は、日本の「世界一高い法人税」を攻撃しているが、上記エントリはライブドアポータルサイトで取り上げられただけあって、まだしももっともらしい体裁をとっているが(内容はひどいものだが)、ブログ主の思想を知るのにふさわしいエントリがたくさんあるので、いくつか例を挙げる。


http://blog.livedoor.jp/nnnhhhkkk/archives/65464549.html より。

 もし前原か岡田が民主党を立て直したいのなら、まず小沢みたいなバラマキ選挙対策にしか興味のない政治家を絶対に重役に据えないこと。そして消費税を上げる代わりに、その他税金の累進を緩和すること。社会主義者達が弱者いじめだとか馬鹿騒ぎするかもしれないが、八ツ場ダムの時にも見せたような一切ブレない態度を見せればいずれは黙り込む。そしてこう言ってやればいい。「金持ちを貧乏にすれば貧乏人は更に貧乏になりますよ」と。そして説得力のある説明をテレビでどうどうと言えれば、格差シンドロームに洗脳されているアホな国民も変化するかもしれない。

(中略)

 自民党も谷垣を早く失脚させて、河野あたりのアクが強くてやる気の充満している若い政治家がトップに立たないと、参議院選挙で運よく勝ててもすぐ凋落するかもしれない。


このブログ主にdisられているうちは、菅直人谷垣禎一も安泰だろう。

しかし、最新のエントリを読んで、不安にかられた。


http://blog.livedoor.jp/nnnhhhkkk/archives/65466992.html

 菅がいろんな意味で左寄りであるのは確かだし、辛光洙シン・グァンス)を釈放することに署名したことも事実であり反省させるべき個所ではある。しかし国旗国歌も法案化に反対した過去についての批判はどうでもいい話だ。そんなことで保守層の支持が得られると思ったら大間違いだ。
 二人の考える保守とは、小さい政府などの市場経済を重視する政策のことではなくて、軍備増強や国家に誇りを持たせる教育など、そういう方向の保守のことを言っているのだと想像する。少々この二人は感覚がずれている。
 今一番やるべきは個人の努力が報われやすい税制改革や柔軟な雇用制度の構築のはずで、国旗国歌なんて二の次である。


うーん、これでは小泉信者と安倍・麻生信者の内ゲバになり、自民党が注目されてしまうではないか。その展開は面白くない。

いや、こういう内ゲバは、自民党政権時代にこそ大いにやってほしかった。今となっては、小泉一派と安倍・麻生一派は一緒に沈んでほしいんだけどな。

菅首相のスローガン「強い経済、強い財政、強い社会保障」の「生みの親」は神野直彦だった

http://d.hatena.ne.jp/kojitaken/20100612/1276301543 の続き。


昨日(11日)の朝日新聞に掲載された「新政権 経済政策の課題」の中編に当たる桜井正光(経済同友会代表幹事)のインタビュー記事については、典型的な財界の主張であって、ブログで取り上げる必要を認めない。

一方、今日(12日)の紙面に掲載された神野直彦(東大名誉教授)のインタビュー記事には、触れないわけにはいかない。

ここで、菅直人首相が掲げる「強い経済、強い財政、強い社会保障」は、神野直彦が生みの親だということが明かされている。5月中旬に、政府税制調査会長だった菅首相と会長代行の原口一博議員に説明する時に使った言葉だが、菅首相が「これはいいね」と採用したのだという。

これは、もともとはスウェーデン政府の理念であり、菅首相所信表明演説スウェーデンを引き合いに出していた。

一方で菅首相は「妥協の人」でもあるから、油断も隙もあったものではないのだが、少なくとも理念としては北欧型の社民主義を頭に置いていることは間違いないだろう。

増税しても成長できる」という菅首相の考え方に影響を与えたのは、大阪大学教授の小野善康だとされていて、小野善康池田信夫新自由主義者や、植草一秀副島隆彦陰謀論*1の非難の的になっていることは当ブログでも取り上げたが*2 *3神野直彦は、「税負担の水準と経済成長率は、関係ない」と述べている。今回のインタビューでも一部言及があるが、神野直彦が、税負担の高い国としてスウェーデンとドイツ、税負担の低い国としてアメリカと日本を挙げる一方、経済成長率が高いのは高負担のスウェーデンと低負担のアメリカ(但し金融危機以前)、経済成長率が低いのは高負担のドイツと低負担の日本であるとして、税負担と経済成長率には相関がないと論じていることは、著書や雑誌掲載の記事でも読むことができる。

さらに神野直彦は、「ポイントは、産業構造を変えて『新しい福祉』をつくることだ」という。著書では、スウェーデンの雇用弾力性(解雇の容易さ)が、近年ドイツより低くなっていて(=解雇しやすくなっていて)、その分失業保険と就労支援を手厚くして産業構造の転換をスムーズにすると書かれているが、同様の指摘は、神野直彦に限らず、北欧諸国について書かれた本などでしばしば見かける。朝日のインタビューでは、神野直彦スウェーデンではなくデンマークの例を挙げて、同国が解雇しやすい制度に改める代わりに手厚く寛大な社会保障制度を作ったと語っている。つまり、北欧諸国は何も国民が何の努力もしなくとも福祉でぬくぬくと生活している国ではなく、国民の新しい仕事へのチャレンジを後押しする国なのだ。口では「再チャレンジ」と言いながら、新自由主義政策しかとらなかった、どっかの国のおなかの弱いボンボン世襲KY元総理*4とは全く異なる。

上記のような目的のためには、強い財政の裏付けが必要だというのが神野直彦の主張であり、菅首相も基本的に神野直彦の思想をかなり取り入れた政策を目指していることがわかる。

神野直彦は、世論調査でも高負担でも高福祉がいいという人が6割近くいると言っているが、これは先日の朝日新聞世論調査結果などをさすのだろう。菅首相に対して神野直彦は、「首相も慎重にならず、スウェーデンのような高福祉・高負担の国をめざす、と言ってもいいのではないか」と言っている。

これとよく似た言葉を大塚耕平に対して発言したのは、数か月前の「サンプロ」における榊原英資で、榊原は大塚に「民主党大きな政府を目指すと明言せよ」と言ったのだが、違うところは榊原英資が消費税増税論者であることで、これは榊原英資のスタンスが、神野直彦と比較してかなり新自由主義寄りであることを反映している。つまり、目指すゴールは似ていても、榊原の場合、消費税増税を後回しにしないということだが、これだと景気に与えるダメージが大きいのではないかと思う。

最後に、菅首相が政策の優先順位づけで、経済成長や雇用創出を基準にする考えだが、という朝日新聞記者(先日の消費税増税特集を書いた記者の一人である伊藤裕香子記者)の質問に対し、神野直彦は、軸としてもう一つ入れるべきなのは社会的正義、つまり格差是正や所得の平等な分配の観点だと指摘する。成長しても失業や貧困であふれていては意味がなく*5、税制についても消費税の増税議論ばかりが注目されるが、所得税や資産課税も含めて、新しい社会を支える税体系のあり方を考えるべきだ、と答えてインタビューが締めくくられている。

*1:植草一秀新自由主義者でもある。

*2:http://d.hatena.ne.jp/kojitaken/20100608/1275925381

*3:http://d.hatena.ne.jp/kojitaken/20100609/1276090114

*4:実際にはこのKY元総理は改憲以外の政策には興味がなかったので、経済政策は単に前任者の行き方を踏襲したに過ぎなかった。

*5:小泉政権時代の後半から安倍政権・福田政権の時代がこの状態だった。