kojitakenの日記

古寺多見(kojitaken)の日記・はてなブログ版

松岡利勝はなぜ死を選んだか

http://seiji.yahoo.co.jp/column/article/detail/20070528-02-1101.html

以下引用。

松岡利勝はなぜ死を選んだか――月刊FACTAの直前記事

松岡利勝農水相が5月28日、首吊り自殺した。緑資源機構の談合捜査に絡んで、東京地検特捜部の標的となっていたというのが、大方の想像する自殺の理由だが、特捜部の捜査はどこまで松岡氏を追い詰めていたのか。調査報道の月刊総合誌FACTA」最新号(6月号、5月20日発売)の記事(「現職閣僚めがけ東京地検が臨戦態勢」)は、直前の切迫した状況を克明に追っているので、ここに公開する。彼はなぜ死を選んだのか……。
連休明け応援検事を招集して態勢を拡充。緑資源機構の官製談合事件はいよいよ風雲急だ。
独立行政法人緑資源機構の林道工事をめぐる官製談合事件と、松岡利勝農水相周辺の捜査は、着々と進んでいる。東京地検特捜部は応援検事を全国から集め全力を傾けている。これまで捜査に横槍を入れてきた法務省側にも変化があり、政権中枢にいる現職閣僚周辺のウミを出す日が近づいているようだ。特捜部が時の権力に真っ向から立ち向かうのは、1998年の大蔵汚職以来となる。
「頑張ります。熊崎さんのときのように闘いたい」。東京地検特捜部長の八木宏幸氏は1月16日の就任直後、元特捜部長の熊崎勝彦弁護士らとの会合で決意表明した。

権力中枢にメスが入るか

八木氏は東京、大阪両地検特捜部に約13年在籍し、イトマン事件や4大証券による総会屋利益供与事件、鈴木宗男事件などの捜査を担当。被疑者や関係者から自白や重要な供述を引き出す「割り屋」として名を馳せた。その八木氏が師と仰ぐ熊崎氏は苦学して検事となり、東京地検特捜部長、前橋地検検事正などを経て最高検公安部長で退官した。元検察担当記者は「89年のリクルート事件から大蔵汚職までの特捜検察は、熊崎氏なしでは語れない。彼の取調べのうまさ、部下の統率力があったからこそ、数々の事件を解明できた」と振り返る。
リクルート事件藤波孝生官房長官立件の道筋を付けたのも、故金丸信自民党副総裁に巨額の脱税を自白させたのも、元副総裁への献金捜査からゼネコン汚職を摘発したのも、大蔵省の金融証券検査官や証券局課長補佐らの逮捕に踏み切ったのも、熊崎氏の手腕による。こうした事件を機に、自民党一党独裁は終わりを告げ、大蔵省は解体された。
「熊崎氏は上司だった石川達紘氏(東京地検特捜部長、名古屋高検検事長などを歴任、現弁護士)とともに、旧田中派が牛耳る政権中枢を恐れず、摘発を続けた。捜査に難癖をつけてくる法務省にウソの報告をしたこともある。退官後は公正取引委員会委員に転ずる話もあったが、横槍が入り実現しなかった」と熊崎氏の周辺関係者は打ち明ける。
この関係者によると、八木氏は熊崎氏を慕い、熊崎氏も八木氏をかわいがった。八木氏に東京地検から大阪地検への異動話が持ち上がった際、熊崎氏が骨を折り、東京に残したこともあるという。さらに「熊崎氏が去った特捜検察は旧二信用組合住専長銀日債銀などの国策捜査ばかり。鈴木宗男村上正邦中尾栄一村岡兼造各氏らを立件したが、いずれも権力中枢からはじかれた政治家たちで、痛くもかゆくもなかった。時の政権を揺るがす政治家起訴は、熊崎氏が逮捕した中村喜四郎元建設相以来ない。特捜部は大蔵省汚職から、かれこれ10年近く権力中枢と戦っていない」と指摘する。
また、政界関係者は「旧福田派の森、小泉、安倍政権は、宿敵の旧田中派に切り込み、その勢力をそいだ特捜部に感謝している。北島敬介、原田明夫松尾邦弘検事総長時代の法務・検察は通信傍受法や司法制度改革関連法、犯罪被害者保護、共謀罪などのテーマがあり、時の政権に従順だった」と分析する。
なかでも、松尾前検事総長は「規制緩和に伴う事後チェック型社会で、検察は大きな役割を果たす」と小泉改革路線をバックアップする方針を掲げ、大鶴基成前特捜部長らはUFJ銀行の検査忌避やカネボウ粉飾決算ライブドア事件など「ルール違反」の経済事件を次々に立件した。「八木氏は(時の政権に)従順な検察に忸怩たる思いがあるのではないか」と、熊崎氏の周辺関係者はみる。
八木氏は就任記者会見で「特捜部に期待されているのは、政官財の不正を見つけて解明することに尽きる」と言い放ち、法務省幹部は「何をやろうとしているのか。ネタがあるのかな」と早速、部下に探りを入れるように指示したとされる。松岡農水相周辺が絡んだ緑資源機構をめぐる疑惑は、そんな中で浮上した。
緑資源機構の林道工事受注先の関係者が特捜部の事情聴取で、松岡農水相周辺へのヤミ献金を供述し、農水相周辺には、特捜部に寝返った関係者もいると言われている。このため、緑資源機構の談合は公正取引委員会行政処分で終わるはずだったが、その事件化が決まった。こうした情報はもちろん法務省にも入っているが、ライバルがこけて昇格した『昼行灯』の大林宏事務次官や、佐賀地検検事正時代に起訴した北方事件の無罪が確定し、威信が失墜した小津博司刑事局長は手出しできないだろう」と検察関係者は明かす。
一方、現在の但木敬一検事総長法務省の秘書課長、官房長、事務次官を歴任。与謝野馨前経済財政相らと気脈を通じ「国会対策のプロ」と評された。通信傍受法や司法改革関連法の成立などは、但木氏の力に負うところが大きいとされる。
「だからこそ、但木氏は政界捜査に前向きだ。もし、横槍を入れたりしたら『やっぱり』と言われ、現場の信頼を失うことが目に見えているから」と前出の検察関係者は解説する。
司法制度改革審議会の事務局長などを務め、次の検事総長最有力候補にまで駆け上がった東京高検の樋渡利秋検事長も、事情は但木総長と同じだ。さらに、八木氏の上司に当たる東京地検検事正には、元特捜部長で現東京高検次席検事の伊藤鉄男氏が近く就任する予定。伊藤氏は八木氏に「頑張れよ」と盛んに発破を掛けているという。

閣僚周辺捜査は参院選

八木氏を支える態勢は次第に固まりつつあり、部下の検事も4月から増員された。特捜部のメンバーも大鶴前部長当時とは入れ替わり、応援検事とともに、緑資源機構の幹部、同機構のコンサルタント業務や林道工事の受注先関係者らの事情聴取を続けている。すでに落札率を下げるために受注予定業者に予定価格の 95%以下で入札するよう指示したとされる同機構理事らが捜査線上に浮かんでいると報じられている。
さらに、受注先の企業や公益法人で組織していた「特定森林地域協議会」(昨年11月解散)や、その政治団体「特森懇話会」(今年1月解散)と松岡農水相周辺との関係などにも、注目している模様。5月2日付の東京新聞は特森協議会が受注実績に応じて各会員から年会費を徴収していたと報じた。これによると受注2 千万円につき7万5千円を集める仕組みで、総額は年数千万に上るという。受注高に応じた特森協議会への「上納システム」だった可能性もある。
公取委と共同で捜査をしている特捜部は連休明けに応援検事を招集して捜査態勢をさらに拡充、いよいよ風雲急だ。5月中にも、林道のコンサルタント業務などをめぐる談合事件で、林野庁から天下った緑資源機構や受注先の幹部らを逮捕したうえ、林野庁OBでもある松岡農水相周辺の捜査を本格化させる方針と見られる。「現職閣僚にメスが及ぶのか。松岡農水相周辺に捜査が迫るのは7月の参院選の後だろう。汚職は出なくとも、政治資金規正法違反のヤミ献金だけでも立件すると言われている」とある司法記者は話す。
これに対して、捜査の対象となっている側には「検察の女性スキャンダルや調査活動費問題などで揺さぶりをかける動きがある」(関係者)。捜査をめぐる水面下の攻防は熾烈をきわめそうだ。