kojitakenの日記

古寺多見(kojitaken)の日記・はてなブログ版

尖閣諸島と石原慎太郎と片山さつきと

石原慎太郎の「尖閣諸島」購入の件は、あまりに愚劣なのでこれまで当ダイアリーでは取り上げてこなかった。

国有地である大正島を除く尖閣諸島の島々が個人所有になっているという件は、昨年読んだ佐野眞一の下記著書で知っていた。


沖縄 だれにも書かれたくなかった戦後史 下 (集英社文庫)

沖縄 だれにも書かれたくなかった戦後史 下 (集英社文庫)


当該箇所は、単行本初出時には収録されず、昨年文庫化された時に新たに収録されたものだから、単行本で佐野眞一の本を買う熱心なファンには存外知られていないかもしれない。単行本も文庫本も買う「佐野眞一マニア」はもちろん知っているだろうけれど。

はてなダイアリー」では、下記の日記に取り上げられていた。


sengoku時代 - ぞくあくび日記

要するに、騒ぎの日に尖閣の地主の話とか、これまでに石原慎太郎が有志によって尖閣諸島を買おうとする話を読んでいたという、そのシンクロニシティを記しておこうとするのみの話である。

近代の尖閣諸島の歴史とは明治時代、日本政府が領有を閣議決定した翌年に借地権を入手した福岡県出身の男性が海鳥の羽毛採取や鰹漁の拠点として島を開拓したことに始まる。これを男性の遺族が払い下げを受け、後に縁のある(この辺曖昧)埼玉県の素封家に譲り渡して今に至っているのである。

その所有者に対し78年、売ってほしいと頼み込んだのが当時衆議院議員だった石原慎太郎都知事。これがまあけんもほろろに断られたわけであるが、所有者男性もなかなか一癖ある人物らしく、尖閣にかかわろうとしたいろんな関係者が苦労したであろう事は都知事本人や有吉佐和子氏の筆、そして佐野氏までもが「(手紙の文面から、地権者が)相当な変わり者だということは容易に想像できた」だとか「(所有者の)不得要領な態度が、この問題をさらにわかりにくくさせている」だとか表現しているところに見て取れる。

こーゆー風に国家的な問題が非常に属人的な要素に帰趨するところ、公私混同に近い形で30年越しの悲願を達成した都知事の執念など吐き気がするほどドラマチックなわけだが、「他人による物語化」を徹底的に拒否するかのような都知事のアティテュードもまた彼の悲劇の一つではないかと思っちゃうんだよ僕ァ。


尖閣諸島のうち、魚釣島久場島、北小島、南小島の4島は埼玉の栗原一族の私有地となっている。石原慎太郎衆議院議員だった頃の1978年に尖閣諸島を買収しようとした話は、上記佐野眞一の著書の中に、石原の著書『国家なる幻影』(文藝春秋、1999年)を引用する形で紹介されている。1978年当時に栗原一族がとった石原への対応は、

こと尖閣諸島に関することならいかなる人にも会わない、一切話もしないという、その理由も教えてもらえない

とのことだった。


一昨年(2010年)、栗原家を取材しようとした佐野眞一も、下記の文章がワープロ打ちされた書面で取材を拒否されたという*1

前略
御健勝拝察候


貴殿御状左の理由にて開封拝読は非礼故否開封にて御転送司まつります
私儀
無為(有為の反)
無念無想
古賀家遺言堅持
日本國方針絶対従                      草々


栗原拝


なぜ「日本國方針絶対従」と言っていた人間が今になって、「石原になら売る」などと言っているのかは全く不明である。

ただ、島を売る話は1996年にもあったという。売り値は1億。当時、仲間均という石垣市議が自民党衆院議員(当時)の笹川堯に、島を買うための金を融通してくれと頼んだが、話を真に受けなかった笹川に拒否されたそうだ。

仲間の話によると、現自民党参院議員の片山さつきから、5千万円で島を売るという話を聞いたことがあるという。片山は、大蔵省(現財務省)の官僚で尖閣問題を担当していたとのことだ。

佐野眞一は片山にインタビューしている。以下、片山のコメントを本から引用する。

「大蔵省時代、私は国有財産課にいました。その頃、そういう話があったということはそれなりに聞いています。けれども、国は買い取るということをしなかった」
−− それはいつ頃の話ですか。
小泉政権のはじめぐらいだったと思います」
−− 小泉政権の時代だったら、国が尖閣を買い取るという決断をしたと思うんですが、結果的にそうしなかった。国はなぜ買わなかったんですか。
「そのときの最終判断の理由は、私にはよくわかりません。ただ、あくまで想像ですけれども、小泉政権には、ここまでやったら中国は怒るだろうみたいな判断がやっぱりあってたと思うんです。いくら中国を怒らしても靖国に行き続け、北朝鮮拉致問題に対して強硬論で臨んだ小泉政権でも、そこまでの判断はできなかったと思うんです」

佐野眞一『だれにも書かれたくなかった沖縄』(集英社文庫, 2011年)下巻412頁)


現在の「酷使サマ」ぶりが信じられないような片山のコメントではある。


なお、石原の尖閣買収話が出た直後の頃、佐野眞一のコメントが毎日新聞に掲載されていた*2 *3

 ◇“チンピラ”と同じ−−ノンフィクション作家・佐野眞一さん

 都知事も4期目となって、石原さんはもはや、やりたいことがなくなってしまったのではないか。彼は、自分の旗振りで開業し、巨額な累積赤字を抱えた新銀行東京の尻ぬぐいをしようとしない。100億円の税金をつぎ込んだ東京への五輪誘致も、やりっ放しです。

 今回の発言も、自分の小遣いで島を買うならともかく、都が購入する話なのに、事務方や都議会にも説明せず、東京ではなくわざわざ米国で計画を披露するやり方、「ほえづらをかかせる」という言い方は“チンピラ”と同じだと思いました。

 しかし、彼に4選を許してしまった有権者の責任も重い。今回も都庁に発言を歓迎する声が寄せられたと聞きますが、好戦的、攻撃的な発言を繰り返す橋下徹大阪市長が人気を集めるのと、根は同じだと感じます。

 石原さんは、政治的に注目を集めたい時機を狙って差別発言をしてきた経緯がある。今回の発言がどの程度、橋下市長との新党構想や国政を意識したものなのかは分かりません。ただ、わざわざ橋下市長にすり寄るような発言を繰り返しているのを見て、政治家としての力が落ちたなと思いました。

 「太陽の季節」で芥川賞を受賞して以来、彼は日本の戦後において「出ずっぱりの男」でした。そんな79歳の石原さんが一番恐れているのは何か。それは老いです。結局打つ手がなくなってしまったんでしょう。今回、「東京が尖閣諸島を守る」とぶち上げた時の得意満面の笑顔に、彼の老残を感じました。

毎日新聞 2012年4月20日 東京夕刊)


「わざわざ橋下市長にすり寄るような発言を繰り返しているのを見て、政治家としての力が落ちたなと思いました」という佐野の言葉から、私はある他の大物政治家を思い出したのだったが、そういえば佐野眞一はその大物政治家のこともクソミソにこき下ろしていたことを思い出した(笑)。