kojitakenの日記

古寺多見(kojitaken)の日記・はてなブログ版

2007年、田原総一朗は「官僚ガー」と言って安倍晋三を擁護した

小沢一郎と聞いて私が思い出すのは、1990年の湾岸戦争や翌91年の東京都知事選の際に見せた専横ぶりで、その間には「剛腕」で核燃サイクル推進派の現職を当選させた青森県知事選などもあった。この時には、自民党本部と同都連が分裂したあげくに本部が推した磯村尚徳が敗れた都知事選で党を混乱させた責任をとって、小沢は自民党幹事長を辞職した。しかし、その年の秋には、あの悪名高い「小沢面接」で、宮沢喜一渡辺美智雄三塚博自民党総裁選3候補を小沢の個人事務所に呼びつけて「面接」した。この時には渡部恒三も3候補を「面接」する側に立った。渡部は次期衆院選には出馬せず政界を引退するらしいが、ろくな人間ではなかった。小沢も渡部もともに東北の人間で誕生日も同じだが、ともに原発推進派でもあった。岩手に原発が建たなかったのは、地元の陳情からのらりくらりと身をかわした鈴木善幸のおかげだった。

昔話を長々と書いたのは、そんな20年前のことどころか、たった5年前のことさえきれいさっぱり忘れている人間が多いからだ。2007年の参院選は、その2か月前に「消えた年金」問題が発覚し、テレビで放送された自民党の「年金問題の切り札」大村秀章(現愛知県知事)と当時民主党ホープとされていた長妻昭の討論で、大村が長妻に一方的に論破されて目に涙を浮かべる醜態を晒したことなどもあって、選挙前のマスコミの情勢調査で、与党・自民党安倍晋三総裁)の惨敗と野党第一党民主党小沢一郎代表)の圧勝が予想されていた。

そんな時、田原総一朗がこんな記事を書いて、当時結構話題になったものである。


http://www.nikkeibp.co.jp/style/biz/column/tahara/070719_20th/

安倍政権の倒閣を企てた官僚たちの二重クーデター
2007年7月19日


今月29日に迎える参議院選挙は、非常に自民党に厳しい状況だ。どの新聞、テレビを見ても、民主党の有利を伝えている。なぜこんなにも自民党が厳しい状態になっているのか。そこには、新聞やテレビがなぜか全く指摘しない問題が隠されている。


| 小泉前首相もできなかった公務員改革


かつて小泉内閣郵政民営化の選挙で大勝した時、僕は小泉前首相に「大勝したのだから公務員制度改革をやればいいじゃないか」と言った。しかし、彼は「冗談じゃない」と即答した。

橋本龍太郎元首相も公務員制度改革に取り組んだ。当時はこれを行政改革と呼んでいたが、公務員の数と給料を減らし、官房長が握っている天下りの権限を奪うことを狙ったものだった。これに全省庁が協力すると言って官僚が集まったが、それは実は全く逆で、いかにこの改革を骨抜きにするかということに知恵が絞られた。

“何とか審議会”というものも作られたが、審議会というのは過去も現在も、役人たちが自分たちにとって都合が良い結論を出す人間を集めるだけの会だ。そしてこの時官僚たちは、「公務員の数や給料を減らすのは枝葉末節なことであって、もっと根本的な改革をしなければならない」と言って、省庁再編をやってしまった。

公務員の数と給料を減らし、天下りをなくすはずが、省庁の数を減らすだけで、結局何も変わらなかった。「省庁再編」という、いかにも大仰な言い方だが、実態はなにも変わらなかった。つまりこの“改革”は失敗だった。

小泉前首相が言いたかったことは「最初から行政改革をやると言っていた橋本内閣でもできなかったことを、残り1年しか任期がない自分ができるはずがない。もし本当に公務員制度改革をやろうと思ったら内閣の最初から改革案を打ち出して、調整・段取りを整えなくてはならない。そのような準備が何もそろっていない状態で、できるはずがない」というものだった。


社会保険庁が自ら情報をリーク


安倍内閣は、小泉前首相ですらできなかった、いわばタブーである二つの改革をやろうとしている。一つは社会保険庁の解体と民営化。もう一つは、公務員の天下りの改革だ。これまで各省庁の官房長が握っていた天下り斡旋の権限を奪おうというのだ。

これこそが、今、安倍政権が非常に窮地に立たされている最大の原因だと思う。

安倍内閣は、社会保険庁を解体して、一度全員クビにして、民営化すると言っている。社会保険庁の役人というのは官僚だ。官僚というのは決してクビにならない、決して倒産しない、さらに天下りできるという、非常に安定した身分だ。それを「解体!」と言った。

だから僕は、社会保険庁がこぞって、いわばクーデターをしかけたのだと思っている。つまり、社会保険庁の年金がめちゃくちゃな状態であるということを、社会保険庁自らが広めたということだ。

社会保険庁の年金がめちゃくちゃな状態で、消えているのか、宙に浮いているのかすらわからなくなっていることを、社会保険庁厚生労働省や官邸に一切報告しなかった。

民主党長妻昭議員が社会保険庁に手をつけたのが去年6月、そして、5000万件以上もの行方不明の年金があると発表したのが今年2月。ところが、安倍首相や塩崎官房長官がこのことを知ったのは6月に入ってからだ。

つまり、社会保険庁は、政府・官邸には何も知らせずに「大丈夫、大丈夫」と言いながら、民主党を中心にした野党、そして週刊誌、新聞に、いかに年金の記録がめちゃくちゃになっているかを、どんどんリークしたのだ。

なぜ、こんなリークをしたのか。

つまり、そういうことをリークすることで「安倍内閣がいかに危機管理ができていないか、社会保険庁も悪いが、それを全く管理できていない内閣はとても国民は信用できないだろう」と思わせた。

どういうことかというと、今度の参議院選挙で自民党が負けて安倍首相が退陣すれば、社会保険庁改革は消えるわけだ。

社会保険庁は自分たちがクビになることを防ぎたいわけだから、安倍政権にダメージを与えるために、いかに社保庁がむちゃくちゃかということを、いわば自爆テロ的にリークしたのだ。

自爆テロ的リークをもって、安倍内閣がいかに信用できない内閣か、いかに危機管理能力のない内閣か、いかに不甲斐ない内閣かということを満天下に知らしめたのだ。


天下り改革に全省庁が反発


もう一つが天下りだ。渡辺喜美行革担当大臣が提示してこれからやろうとしている「官民人材交流センター(新・人材バンク)」は、官僚の天下りの権限を官房長から取り上げるものだ。

この人材バンクでは、各省庁から人を集めるのだけれど、人材バンクに集まったメンバーは自分の省庁の人間は一切扱えない。また、天下り先の多くは特殊法人で民間の3倍だ。

今までは、まず特殊法人に天下る。天下って2年か3年いてさらに天下る、さらに天下る。この最後の天下りまで全て各省庁の官房長が斡旋をしていた。それを全部取り上げて、人材バンクが斡旋する。しかし1回だけでその後はしない。「あとは自分で勝手にやれ」ということだ。

これまでの官僚体制というのは、まず現役で官僚をやり、その後2、3回天下る。現役の官僚時代に得る収入は人生の半分。あとの半分は、その後の天下り先で得るというのが、これまでの官僚の人生だった。人材バンクの設置は、現役を去った以後の官僚のサイクルを断ち切ることになる。これは大変な問題だ。

そこで社会保険庁と全省庁がこれらに猛反発して、二重のクーデターが起きているというのがいまの状況だ。


| なぜメディアも公務員改革に反対するのか


これまでほとんどの新聞は、安倍首相が社会保険庁の解体や公務員制度の改革を決断できないと書いていた。しかしそれをやることになって、多くの新聞をはじめとするメディアは安倍不支持となってきている。

そして財務省経産省が本気で反安倍になると、マスコミはそれを「財務省経産省までが安倍首相を“見限った”」と書く。天下りに対する強烈な規制に対してすべての省庁は反発して反対しているのだが、マスコミは「見限った」と書く。

官僚が公務員改革に反対するのはわかるが、なぜメディアも反対するのか。

ある新聞社の幹部は、「そんな改革をやったら優秀な人間が官僚にならなくなる。そうなると日本の行く末が思いやられる。だから断固反対する」と僕に語った。また、マスコミはなんだかんだいっても主な情報源は官僚たちだから、官僚たちが反安倍政権になるとマスコミも安倍不支持となるのだ。

それは例えば、例えはあまりよくないかもしれないが、日銀の福井俊彦総裁が「村上ファンド」に投資した資金で多くの利益を得ていた問題があるが、マスコミは最初これを大きな問題にしなかった。

マスコミというのは一見“官僚叩き”に見えるが、重要な情報源である官僚たちと徹底的に戦えないのだ。そのマスコミが、「官僚が安倍政権を見限った」とやたら報じている。マスコミも巻き込む形で、官僚たちの必死のクーデターが今、功を奏してきているのだ。


| サディスティックな“安倍いじめ”


もう一つ、今起きている現象に“安倍いじめ”がある。

国民というのはサディスティックなものだ。安倍首相は祖父から3代続く“大プリンス”で、さらに強さを売りにしていた。憲法改正集団的自衛権教育基本法改正、そして北朝鮮イラクもそうだ。強い首相として登場したのが安倍首相だった。今、その安倍首相が、官僚たちのクーデターによるものが大きいのだが、弱さがむき出しになってきている。

こうなると、マスコミも国民も非常にサディスティックになって「やっつけよう」となる。弱くなった安倍首相をやっつけるのが痛快なのだ。一種の“ガス抜き”と言っていい。親子3代毛並みも良い、そして強気で出してきた、この権力が弱まってきたので、今こそサディスティックの対象となり、みんな“安倍いじめ”をやっている。

本来ならば安倍支持だった週刊誌などまでが、安倍不支持になってきている。“安倍いじめ”が世の中の風潮になったということがある。


自民党に分が悪い候補者の“玉”


さらに自民党にとって今度の選挙で分が悪いのが、候補者の“玉”の問題だ。今度の参議院選挙の候補者を眺めると、自民党の候補者の“玉”が悪い。民主党に比べると圧倒的に悪い。

前回の2001年参議院選挙は小泉前首相の支持率が一番高かった80パーセント以上頃の選挙で、当然落ちるべき候補がみんな当選してしまった。しかも、落選すべきだったのに当選してしまった議員たちは、あれから6歳年を重ねている。悪いのが年をとってさらに悪くなってしまった。

安倍首相は本当は「こんな候補はダメだ」と変えたかった。小泉前首相は非情で血も涙もないから、候補者を全部変えたかもしれない。しかし、なまじっか常識的で、小泉前首相ほど非情ではない安倍首相は、党内の大反対もあって、ついに全員変えることができなかった。

それに対して、民主党は前回自民党に大敗したので、負けた候補を全部変えた。若い新鮮な候補がそろっている。自民党は負けて当然の候補がずらりと並んでいる。この玉の違いが今度の自民党の逆風というか、安倍自民党参議院選挙の苦しさだと思う。

そのようなこともあるが、基本的にはここまで述べた問題こそが決定的に安倍内閣に不利な要因となっている。この構造を理解しないと政治はわからない。

こうしたことを新聞もテレビもほとんど報道しない。故・松岡利勝農林水産大臣がどうとか、赤城徳彦農林水産大臣伊吹文明文部科学大臣がどうしたということばかりやっているのだ。


| 安倍政権逆風の背景にあるもの


小泉前首相は公務員制度改革はよほど準備をして根回ししてやらないと難しいと言っていたが、安倍首相はそこが足りなかった。甘く考えていたと言えるかもしれない。そのために官僚のクーデターに遭って苦しんでいる。

社会保険庁の解体・民営化も、新・人材バンクも、今度の選挙で安倍内閣が負けて安倍首相が退陣したらご破算になる可能性がある。だから、官僚たちは何としても安倍内閣を潰さなくてはならないとその機会を狙っている。

さらに自民党内部からも、経世会を中心に、官僚制度を守りたい人たちが「公務員制度改革をして人材バンクのようなものをつくったら、優秀な人材が官僚にならないから反対だ」と、公然と言い始めている。新聞も、「反安倍」ばかり大きく報じる状態だ。「“美しい国”とはなんだかわからない」など、新聞ではここのところ連日「安倍批判」というものが展開されている。

このように、社会保険庁解体と公務員制度改革は、自民党内外からの安倍政権への逆風となっているといえるだろう。だが、この安倍政権への逆風を仕掛けたのはとりも直さず官僚であり、自民党内の反安倍勢力である。そしてそれを煽っているのがマスメディアだ。その壮絶な反撃に安倍政権が苦境に立たされているというのが、参院選を前にした今の状況なのだ。


田原総一朗がこんな文章を書いてはや5年。「安倍」を「小沢」に置き換えれば、現在「小沢信者」の諸氏が言っていることとそっくり同じに見える。田原の論法を借りれば、2007年の参院選安倍自民党が大敗し、小沢民主党が大勝したのは、民主党の「国民の生活が第一」のスローガンや政策を有権者が支持したからでも、小泉政権から新自由主義政策を引き継いだばかりかひたすら「改憲」にかまけていた安倍政権を拒絶したからでもなく、「官僚ガー」クーデターを起こしたからということになる。現在の「小沢信者」たちの論法と瓜二つだ。

だから私はいつも思うのだ。安倍晋三小沢一郎の距離は決して遠くない。橋下徹を介してこの二人が手を組む可能性だってある。そして、その時が来ても、「小沢信者」は小沢一郎を支持、信奉、崇拝し続けるだろう。