kojitakenの日記

古寺多見(kojitaken)の日記・はてなブログ版

原発推進派・ローソン社長「賃上げ」の欺瞞

一昨年秋に出た大島堅一『原発のコスト』を遅ればせながら読んだ。


原発のコスト――エネルギー転換への視点 (岩波新書)

原発のコスト――エネルギー転換への視点 (岩波新書)


原発が高くつく」ことは、今では国民的常識となっていると思うが、原発のコスト問題を論じて名を上げたのが著者の大島堅一だ。

今回はこの本の本論に関する部分ではなく、本書第5章「脱原発派は可能だ」にある人物の名前が挙げられていることから話を始めたい。以下引用する。

 経済界は、日本経団連を中心に脱原発の動きに対しては慎重な見解が多い。特に、素材系産業はその傾向が強い。しかし、注目すべき見解もでてきた。ソフトバンク社長の孫正義は、事故後、早い時期から脱原発の立場を鮮明にし、自らの私費を投じて再生可能エネルギー事業に乗り出した。信用金庫では預金額トップクラスの城南信用金庫脱原発を掲げている。また、経済同友会代表幹事・長谷川閑史は、原子力の比率を徐々に下げていくという縮原発という立場を表明している。

 他方、経済同友会内部にも、日本GE会長・藤森義明ウシオ電機社長・菅田史朗やローソン社長・新浪剛史のように、福島第一原発事故前と同じ旧態依然とした見解をとりつづける経営者もおり、経済界は混乱している(Sankei Biz 2011年7月15日)

(大島堅一『原発のコスト』(岩波新書, 2011年)176-177頁)

このように、原発推進勢力の代表格と目されるローソンの新浪剛史だが、最近「賃上げ」で人気取りを狙っている。以下、フリージャーナリスト・前屋毅氏の論考より。

「賃上げ」騒ぎはデフレ脱却にはつながらない(前屋毅) - 個人 - Yahoo!ニュース

「賃上げ」騒ぎはデフレ脱却にはつながらない
前屋 毅 | フリージャーナリスト
2013年2月20日 16時13分


■だいじょうぶか?米倉会長

違和感がある・・・。2月19日、公明党山口那津男代表らが経団連日本経済団体連合会)の米倉弘昌会長らと政策対話を行った。報道によれば、井上義久公明党幹事長が「国民生活を向上させるために可処分所得を増やし、労働分配率を高めていくことが大事だ」と述べて、「デフレ脱却のために賃上げが必要との考えを示した」(msn産経ニュース)そうだ。これに対して米倉会長は、「デフレから脱却すればそういうことになる」と応えたという。

デフレ脱却の施策として賃上げを求められたのに「デフレが終われば賃上げする」と、なんともとんちんかんな答えをしたことになる。その前から安倍晋三首相も賃上げを求める発言をしているので、井上幹事長の言わんとするところを米倉会長が理解できなかったはずはない。

わかって、とんちんかんな答えをしたのだ。ことあるごとにデフレ脱却を政府に求める発言をしていながら、自ら協力するつもりは米倉会長にはないらしい。自分では何もしないで、ただ欲しい、欲しいと騒ぐ駄々っ子とかわりがない。こういう人が日本を代表する経済団体の長をしているのだから、日本経済がふらふらしているのも無理はない。

違和感をおぼえざるをえない米倉会長の発言、といわざるをえない。しかし、ほんとうの違和感は別のところにある。

■ずれてる論点

2月5日、安倍首相は経済財政諮問会議の場で、「業績が改善している企業には、賃金の引き上げを通じて所得の増加につながるよう協力をお願いしていく」と述べて、賃金引き上げを求めた。これに応えるように2月7日、政府の経済成長戦略を策定する産業競争力会議のメンバーでもある新浪剛史が社長を務めるローソンは、「デフレ脱却を目指して!」と銘打って、消費意欲の高い世代(20代後半〜40代)の社員の年収を平均3%アップすると発表した。

ローソンでは「新浪社長のもともとの持論に基づく」として安倍首相の要請に応えたわけではないと説明するものの、絶妙すぎるタイミングで、「出来レース」と受け取られても仕方ないだろう。さらに2月8日の衆議院予算委員会で、ローソンの例をあげて「3ヶ月前に考えられたか。われわれの政策が経済を変えていく」と安倍首相が胸をはってみせたのだから、シナリオ臭くなる。

問題なのは、ローソンの「賃上げ」が正社員だけを対象にしているということだ。正社員とアルバイトなど非正規雇用者とを合わせると、ローソングループでは約20万人が働いている。しかし今回の「賃上げ」の対象となるのは、約3300人の正社員だけである。約18万5000人の非正規雇用者は対象外なのだ。

賃金を上げることで消費を活発化させてデフレ脱却につなげるには、3000人の社員を対象にするより18万人の非正規雇用者を対象にするほうが効果が大きいことは誰が考えてもわかる。そこを無視して、「デフレ脱却のための賃上げ」と誇れるのだろうか。「われわれの政策の成果」と胸をはるにいたっては、あきれるしかない。

ローソンにつづいて作業服店チェーンのワークマンも賃金を引き上げることが2月19日になって明らかになったが、こちらも対象は正社員である。とんちんかんな米倉会長発言となった公明党経団連の政策対話でも、前提になっているのは「正社員の賃上げ」で、「非正規雇用者の賃上げ」はふくまれていない。それでデフレ脱却が狙いというのは、論点がずれすぎているというしかない。

■ここを無視してデフレ脱却にはつながらない

労働力調査によれば、非農林業雇用をのぞいた雇用における全雇用に占める非正規雇用者の比率は、2012年で35.1%となっている。1990年が20%なので、急速に増えてきているわけだ。

その背景には、企業が人件費を削減するために正社員を減らし、その分だけ非正規雇用を増やしたことがある。それに拍車をかけたのが、小泉純一郎政権による人材派遣の規制緩和だった。

そして収入の少ない非正規雇用者が激増し、デフレ傾向にも拍車がかかってきたのだ。だからこそ、「賃上げによるデフレ脱却」を謳うのであれば、非正規雇用者の賃上げこそ優先させなければならない。そこを改善しなければ、ほんとうの消費拡大につながっていくはずがない。

そこを無視し、正社員だけ賃上げして「デフレ脱却のための賃上げ」と叫んでいるのは、どうにも納得できない。違和感をおぼえざるをえないのだ。

前屋氏の文章については、その通り、ごもっともとしか言いようがないが、そもそもローソンに限らず、コンビニといえば「残酷物語」を反射的に連想するくらい、フランチャイズからの搾取がひどいことは、原発が高コストであることと同様に、国民的常識になっている。

そんなローソンの社長が新浪剛史だが、この男は1959年生まれで現在54歳。以前から、現在40代から50代の経済人を取り込んできたのが安倍晋三という男であって、だから小泉政権時代に内閣官房長官をやっていた頃、ヒューザー小嶋進だの、ライブドア事件の絡みで怪死したエイチ・エス証券の野口英昭だのが、安倍の非公式後援会「安晋会」に名を連ねていたし、安倍の腹心である西村康稔ライブドア関係の投資事業組合とかかわっているなどの推測がなされたりしたものだ。

原発の維持・推進を強硬に主張する一方で、悲惨な労働条件を現出させている元凶でありながら、「正社員を賃上げして『アベノミクス』に協力してますよ」とええかっこしいをしてみせる新浪剛史は論外の人間であって、「社会悪」と言っても過言ではあるまい。