kojitakenの日記

古寺多見(kojitaken)の日記・はてなブログ版

「賃下げが先かデフレが先か」問題について

きまぐれな日々 安倍晋三の「消費税率引き上げ決定」に思うこと(2013年10月7日)は、「デフレと賃下げ(賃金低下)」の件を取り上げる時は毎度いつも同じように、さっぱりコメントがつかないエントリになっていたが、ようやく待望していた種類のコメントをいただいた。


http://caprice.blog63.fc2.com/blog-entry-1320.html#comment17162

私も「池田信夫&今田真人ネタ」でブログを書いたことがあります(http://d.hatena.ne.jp/funaborista/20130602/1370196289/今読むと、特に今田という人に対してはそれまで知らなかったせいか、だいぶ手加減した書き方です)。
「あのノビーですら」と書いたつもりが、鍵コメで「あのノビーを肯定的に評価するとは何事か」とお叱りを受ける始末(で、後日釈明のコメントを書く羽目に)。
そこで紹介した「Everyone says I love you !」さんの記事(http://blog.goo.ne.jp/raymiyatake/e/713825b042ffbcb5747ef9ff49800512)のように受け取ってもらえなかったのは、文章の下手さと人徳の無さ、おそらくはその両方によるものでしょうw。


ところで、以前kojitakenさんは「金融緩和やリフレを言い出すと神学論争になる」から「リフレを叩くのは疑問」と書かれていたと思いますが、私の考え、というか“イメージ”は少々異なっております。


というのも、リフレを信じる(そう、まさに“信じる”)中の結構多くの人が「『賃金低下がデフレの原因』はトンデモ」と考えていて、実際にそのような発言をしているからです。
今回の件も「ノビーが主張することで、賃金デフレ説がトンデモであることが素人にもわかりやすくなって良かった」くらいの勢いでしょう。
(そういえば、あの山形浩生も吉川本(デフレーション)をトンデモと評していましたね・・・といっても、傍から見たら山形のケチのつけかたの方がよほどトンデモでしたが。)


彼らはなぜか「デフレこそが賃金低下の原因であり、それを逆に考えるのは間違い」と信じたがる傾向があります。
「リフレ(=金融政策)に効果がある」ためには、この理路の方が都合がいいから、なのかもしれません。


しかし、寧ろ私などの“リフレに期待を持たない者”からすれば、リフレとは
「デフレの原因が賃金低下にあるかどうかにかかわらず、“もし実際にインフレ期待を抱かせることができさえすれば”経済を再循環させることができる。」
という理論だと思っているくらいなのですが。
(実際には、“インフレ期待を確実に抱かせる処方箋”は現時点では開発されておらず、またリフレ自身には構造を変える力はないので、結局は再循環したところで企業の内部留保が積み上がるだけなのですが。)


もし彼らを放っておくと、結局は「賃金デフレ=トンデモで、要は左派の賃上げプロパガンダ、だから経済に弱い左派はダメなんだ」というイメージを好き放題広められてしまうだけでしょう。
とはいえ、彼らより“比較的まともな”リフレ派の人々が、彼らを批判しているようにはとても見えません(これはもしかしたら、私が知らないだけかもしれませんが/ただ、“歴史修正主義”ですらほとんど批判されない現状を見ると・・・)。


ですから、「インフレ期待の可能性」あたりを「神学論争」とするのは私としてもやぶさかではありませんが、一見「リフレを叩いて」いるかに見える「“あるタイプの”リフレ“派”に対する叩き」については、これはむしろ必要なんではないかと思っています。


ちなみに私は、そもそも「リフレと民主主義は水と油」だと思っているので、とてもリフレには賛同する気が起こりません。


長文失礼いたしました。

2013.10.09 01:03 funaborista


コメントを拝読して早速funaboristaさんの「はてなダイアリー」記事を拝見した。記事中にリンクされている、
安倍政権の指南役 浜田宏一内閣官房参与のトンデモリフレ理論 「名目賃金はむしろ上がらないほうがいい」 - Everyone says I love you !(2013年2月4日)からさらにリンクされている、
浜田宏一・内閣官房参与 核心インタビュー「アベノミクスがもたらす金融政策の大転換インフレ目標と日銀法改正で日本経済を取り戻す」 | 論争!日本のアジェンダ | ダイヤモンド・オンライン(2013年1月20日、全8頁中第6頁)から引用する。

――では、こうした金融政策をやれば、経済はどのような経路で上向くことが考えられますか。デフレから脱却して「名目成長率」が上がり、それがどう「実質成長率」の上昇に結び付いて行くのでしょうか。

 物価が上がっても国民の賃金はすぐには上がりません。インフレ率と失業の相関関係を示すフィリップス曲線(インフレ率が上昇すると失業率が下がることを示す)を見てもわかる通り、名目賃金には硬直性があるため、期待インフレ率が上がると、実質賃金は一時的に下がり、そのため雇用が増えるのです。こうした経路を経て、緩やかな物価上昇の中で実質所得の増加へとつながっていくのです。

 その意味では、雇用されている人々が、実質賃金の面では少しずつ我慢し、失業者を減らして、それが生産のパイを増やす。それが安定的な景気回復につながり、国民生活が全体的に豊かになるというのが、リフレ政策と言えます。

 よく「名目賃金が上がらないとダメ」と言われますが、名目賃金はむしろ上がらないほうがいい。名目賃金が上がると企業収益が増えず、雇用が増えなくなるからです。それだとインフレ政策の意味がなくなってしまい、むしろこれ以上物価が上昇しないよう、止める必要が出て来る。こうしたことは、あまり理解されていないように思います。


賃金が物価より遅れて上がるのはその通りだろうと思うが、「名目賃金はむしろ上がらないほうがいい。名目賃金が上がると企業収益が増えず、雇用が増えなくなるからです。」というのはどう考えてもトンデモだろう。

私がかつて勤務していたのは、経団連の中核をなしている某大企業であって、その経営方針は経団連の方針を直ちに反映したと思われるようなものであった。裁量労働制は20年ほど前に導入されたし、成果主義賃金制度の導入は悪名高い富士通よりもだいぶ遅れたけれども、最近でも再び問題になっているリストラ候補の社員を集める部屋が作られたのは90年代後半だった。その頃社内で伝え聞いたのは、「要するに会社は賃金を下げたいんだよ」ということだった。それは1996年か97年のことであって、デフレが始まるよりも前の話である。


だから、デフレが先か賃下げが先かという議論は、そんなの賃下げが先に決まってるじゃないかというのが私の答えだが、それは上記のような経験に基づく直感に基づいている。

いつだったかやはり朝日新聞オピニオン面で、山田久という人が「賃金を上げればデフレが解消される」という意見を述べたと記憶しているが、ググってみると山田氏は2003年に下記の本を書いているようだ。


賃金デフレ (ちくま新書)

賃金デフレ (ちくま新書)


私は、正社員ばかりではなく、非正規雇用の労働者の賃金も上がらなければデフレは解消しないと考える。安倍晋三はそこまでは考えていないかもしれないが、浜田宏一とは違って少なくとも正社員の賃金を引き上げる必要があると考えているらしいことは、何度も企業に賃上げを訴えていることからもわかる。安倍がこだわる法人税引き下げについて、麻生太郎が「日本は自由主義経済なのだから、法人税を下げたって企業は賃金を上げてくれませんよ」と言って安倍を諫めたとも報じられた。私は、安倍晋三がそんなことを言うかたわら、「解雇しやすい特区」を打ち出したり、「日雇い派遣の再解禁」を言い出していることは大問題だろうと思っている。今何より必要なのは、非正規雇用の労働者の賃金を引き上げたり、ブラック企業の正社員が過労や社内のパワハラによって破壊されていることを止めたりすることだろう。しかし安倍晋三がやるのは、ワタミ(渡邉美樹)を自民党参議院議員にすることだったりする(呆)。

なおリフレについては私は価値中立であって、賛成でも反対でもない。というか立場を表明できるほど勉強しておらず、無知なので判断できない。しかし、金融緩和に関しては適切な財政政策と組み合わされて初めて効果が表れるものだろうと考えていて、一部のリフレ派右派が妄想しているとおぼしき、「適切な金融政策さえとれば、『小さな政府』で十分」という立場には全く賛成できない。

経済学者の中には、「再分配も重視すべき」と考えるリフレ派がいるはずで、何より本家本元のクルーグマンがそういう思想の持ち主だと思うのだが、そういう人たちから説得力のある意見発信があまりなされていないように見えるのは奇異に思える。もちろんクルーグマンの場合は主たる関心はアメリカにあるのだろうけれども、私が言っているのは日本の経済学者のことだ。

また、いわゆる「リベラル・左派」からこの件に関して意見発信がきわめて少ないのも残念に思う。共産党がはっきりした見解(というかネットでしばしば引用される「権威ある」定番の見解)を出していない一方、元『しんぶん赤旗』記者が「デフレの原因は賃下げなんかじゃない!」と叫んでトンデモなことを書いていたりするため、あるいはある種の人々の場合は小沢一郎が同様に「定番の見解」を出していないため、等々の理由により、得意の(「リベラル・左派」特有の)「同調圧力」によって意見の発信を控えているのではないか、私はそう意地悪く憶測しているわけだが(笑)。