kojitakenの日記

古寺多見(kojitaken)の日記・はてなブログ版

高橋洋一の「我田引水」が見苦しい

安倍晋三は総理大臣の職を投げ出したあとの時期に、マクロ経済学を勉強し続けていたから、第2次内閣発足以降、自らの名前を冠した経済政策で成功することができたのだという俗説がある。この俗説を無批判に受け入れている「リベラル」のブログを見たこともある*1。しかしこれは眉唾ものだ。

この俗説の出所は高橋洋一長谷川幸洋中日新聞東京新聞の論説副主幹)らしい。この二人は、第2次安倍内閣発足から間もない一昨年(2013年)2月に、『週刊ポスト』でこんな対談をしていた。

安倍晋三首相はこの5年ほどマクロ経済を勉強し続けていた│NEWSポストセブン

安倍晋三首相はこの5年ほどマクロ経済を勉強し続けていた

2013.03.05 16:00

 前回の政権から6年の時を経た安倍晋三首相の変化を、周囲はどう感じているのか。安倍氏の「経済ブレーン」といわれる高橋洋一氏(元内閣参事官)と、安倍氏を長く取材し、政府の規制改革会議委員も務める長谷川幸洋氏(ジャーナリスト)が緊急対談した。

──安倍首相といえば、安全保障や歴史認識などの保守的なイメージが強いが、いつから経済・金融政策に興味を持ったのか。

高橋:メディアでは安倍さんは経済が苦手だと書かれているが、彼は細かい産業政策などチマチマした話に興味がないだけ。総理は一段高いもっと大きなことをやるべきだと考えていて、実は前政権時代から「マクロ経済に興味がある」といっていた。それをこの5年ほど、勉強し続けていた。

 安倍さんは震災後からデフレ・円高解消の勉強会をやろうと言い出し、議連をつくった。当時から、人集めに動き出していたんです。

長谷川:その後、与野党いっしょに「デフレ脱却議連」をつくったんですよね。超党派の議連で、会長をどうするかということになって、山本幸三衆院議員に頼まれて会長まで引き受けた。

高橋:そのくらいマクロ経済や金融政策に関心があったし、その頃から多数派工作も考えていたんだと思う。

長谷川:ところで、安倍さんの経済政策のブレーンである浜田宏一氏(イェール大名誉教授)を紹介した人物というのは、ずばり高橋さんでしょう?

高橋:そうなの(笑い)。浜田先生とは昔からの知り合いですが、先生は安倍フェローシップから研究資金をもらっていたので、「安倍さんに会われますか?」と聞いてセッティングしたことはある。安倍さんもすでに金融を勉強していたから。

長谷川:彼は世界標準、グローバルスタンダードにこだわっている。金融でも規制緩和でも、それから国防軍という名前まで世界標準に合わせようとする。

高橋:こういう姿勢はブレていないというより、DNAだね。細かいところに目が行く人と、そうでない人がいる。安倍さんは、大きなことに目が行くDNAなんでしょうね。

週刊ポスト2013年3月15日号


高橋と長谷川はこんなことを言って安倍晋三を天まで届かんばかりに持ち上げている。時々、長谷川幸洋を「味方」であるかのように思い込んでいる頭の悪い「リベラル」を見かけるが(「小沢信者」系に多い)、上記週刊ポストの対談が長谷川の本音である。

で、事実はと言えば、高橋洋一長谷川幸洋との対談で半ば認めている通り、高橋が安倍晋三に経済政策を売り込んだのだ。

高橋洋一は、大雑把に言うと「金融政策は非常に効果的であって、金融政策をうまくやっておけば財政政策はそんなに必要ない」という立場だ。リフレ派の中には、スティグリッツクルーグマン、あるいは日本でも飯田泰之*2のように「再分配も重視する」立場も学者もいるが、高橋はそうではない。私は高橋のような人間を「リフレ派『右派』」と呼ぶことにしている。そしてその特徴は安倍政権の経済政策にみごとに反映されている。

実は、高橋は菅直人政権が成立した時にも菅に経済政策を売り込んだことがある。菅は最初は興味を示す反応を見せたが、結局受け入れなかったという。「金融政策をうまくやっておけば財政政策はそんなに必要ない」という高橋理論の特徴は、菅には受け入れがたかったためだろう。民主党でも右派の松原仁あたりは高橋にかぶれていたように見受けられた。安倍政権の経済政策の場合は、財政政策も公共事業偏重という形でそれなりに重視しているが、社会保障に金をかけないこと(それどころか削減の大なたをふるうこと)を許容しているであろう高橋の思想は、菅直人と比較して安倍晋三には受け入れやすかったであろうことは想像に難くない。

そんな高橋が、ピケティについてこんな文章を書いた。

【日本の解き方】ピケティ氏の理論を都合よく“編集”した言説にはご注意を (1/2ページ) - 政治・社会 - ZAKZAK

ピケティ氏の理論を都合よく“編集”した言説にはご注意を

 フランスの経済学者、トマ・ピケティ氏の著書「21世紀の資本」が大ヒットし、本人も来日するなど話題になっている。一方で、氏の理論を“錦の御旗”のように利用しようとしたり、その主張を曲解しているような論調も目につく。

 ある経済誌のピケティ氏へのインタビューでは、「日本は金融政策に頼りがちで、アベノミクスは資産バブルを誘発している」という趣旨の質問に対し、ピケティ氏は「そのやり方は間違いだ。われわれは税務政策に比べ、金融政策に対してあまりに高い期待を持っている」などと答えたとしている。これを読むとピケティ氏はアベノミクスや金融政策に否定的だという印象を受ける。国会でも、同種の質問が出ている。

 しかし、ピケティ氏の著書を読むと、2%のインフレ目標に関連した記述はあるが、そこではインフレ目標を評価こそすれ、決して否定的ではない。

 なぜ、このような不思議なことが起こるのだろうか。もしかしたら、格差の是正策として「資産に対する課税」と「インフレ」のどちらが優れているかを尋ね、その答えをアベノミクスの金融政策批判として「編集」しているのではないだろうか。

 ピケティ氏が、格差是正策として、インフレも効果があるとしながら、資産課税の方が精緻で優れていると考えているのは事実だ。だから、格差是正策について聞かれれば、金融政策によるインフレを否定し、資産課税を推奨するだろう。そこで、この否定部分だけを取り出せば、アベノミクスや金融政策を批判しているような文面にはなる。

 ピケティ氏はマクロ経済政策としての金融政策を批判しているのではないはずだ。実際に、別の経済紙のインタビューでは、ピケティ氏はアベノミクスを評価している。

 アベノミクスの金融政策は、インフレ目標2%を目指す量的緩和だ。これは米国、英国、カナダ、ユーロ圏で採用されている国際標準の政策だ。これが間違いなら、先進国すべてが間違いになる。ピケティ氏のようなまともな経済学者が、そうしたとんでもないことをいうはずない。

 ピケティ氏の理論の本質とは何か。それは資本主義では格差が広がる傾向があること、特にアングロ・サクソン国で顕著であることを歴史データで示したことである。

 ただ、現在の日本経済の格差はそれほど大きくなく、資本主義の弊害というより、高齢化などで説明できる程度だ。しかも、ピケティ氏が着目する相続税は、日本は他の先進国より高負担だ。

 日本の実情を見る限り、格差は他の先進国ほどひどくないし、格差是正のための税制も完全とはいえないものの、他の先進国よりまともという事実が浮かび上がってくる。

 というわけで、「ピケティ本」は各国事情やデータが満載であるが、素直にみると、先進国間の比較という観点からは、日本の金融政策や格差問題への批判にはちょっと使いにくい本なのだ。

 まともに読まずに我田引水して、金融政策や格差で日本はダメだとか言うと、かなりピント外れになってしまうからご注意を。 (元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一

ZAKZAK 2015.02.04)


だが、「ある経済誌のピケティ氏へのインタビュー」の現物を呼んだ私は、高橋洋一の強弁には全く納得しない。高橋が書いた「ある経済誌」とは、『週刊東洋経済』2015年1月31日号のことであり、それは私の手元にある。以下当該の雑誌より転載する。

アベノミクスは間違っている

 ──日本はどちらかといえば金融政策に偏りがちです。アベノミクスは資産バブルを誘発しています。

*3 そのやり方は間違いだ。われわれは税務政策に比べ、金融政策に対してあまりに高い期待を持っている。日本にとっては、欧州や米国と同じように、金融政策は魅力的だろう。何十億円もの紙幣を印刷するのは簡単だからだ。一方で税制を変えるとなると、計算表を作る作業が膨大で、富裕層の反対を受けるし、事態はより複雑になる。だが税務政策が最も透明性が高いといえる。紙幣を印刷しても、何らかの利子率を下げたりすると、特定のセクターがバブル化したり、必ずしも富ませるべきでない人たちを富ませることになったりする危険がある。

(『週刊東洋経済』2015年1月31日号51頁「ピケティは日本経済をどう見るか」より)


ピケティは「金融政策こそもっとも効果的な経済政策だ」という高橋洋一の思想を明確に否定している、というのが私の軍配である。高橋の「我田引水」的な主張は、あまりにも見苦しい。

なお、高橋は「別の経済紙のインタビューでは、ピケティ氏はアベノミクスを評価している」と書いている。たぶんそのように書いた経済誌があるのだろうとは私も想像するが、具体的にどの雑誌のどの記事かはわからない。

[追記]

エントリの結びの部分が誤解を生みやすいと思ったので変更する。

上記の『週刊東洋経済』のインタビュー(どうやら昨年夏のインタビュー記事を再掲したものらしい)で、ピケティは「金融政策と税務政策の重み」を比較して、金融政策に過大に重きを置く日本(や欧米)の経済政策は誤りだ、と主張していると読解します。これが、金融政策の全否定に当たらないことは言うまでもないが、その一方で「税務政策に比較して金融政策を偏重する」ことは明確に否定している。つまり、高橋洋一が唱える政策をピケティは明確に否定していると私は解釈する。

*1:もっとも、「リベラル」のブログの主流は、「大胆な金融政策」を頭ごなしに否定するものであるが、これについて私はしょっちゅう批判を行っている。

*2:但し、飯田泰之には安倍政権の経済政策から再分配が欠落している姿勢がいたって弱いことを私は問題視している。

*3:原文ママ。最初の答えに「ピケティ」(以下ピ)と記載されている。