kojitakenの日記

古寺多見(kojitaken)の日記・はてなブログ版

NHKスペシャル『"新富裕層" vs. 国家 〜富をめぐる攻防〜』(8/18)のメモ

8月18日夜に放送されたNHKスペシャル『"新富裕層" vs. 国家 〜富をめぐる攻防〜』を見た。簡単にメモしておく。制作はNHK名古屋放送局


http://www.nhk.or.jp/special/detail/2013/0818/

"新富裕層" vs.国家
〜富をめぐる攻防〜


2013年8月18日(日)
午後9時00分〜9時49分


“リッチスタン”とは、米ウォールストリート・ジャーナル紙などで、富裕層を専門に取材してきたロバート・フランク記者の造語で「資産100万ドル以上の新富裕層たちが集まる仮想国家」を意味する。“リッチスタン人”は、世界に1100万人。この10年で5割も増えたという。リッチスタン人は若く、勤勉。
既存の国家に依存しないという哲学を持つ。母国にはこだわらず、ビジネスに最も有利な国や地域を選んで居住する。
いま日本の新富裕層が向かうのはシンガポール。税負担は日本の半分以下、高度な通信インフラや金融システムを整備し、新富裕層を世界各国から呼び込む政策を打ち立てている。
番組では、シンガポールに暮らす日本人新富裕層やアメリカの新富裕層の動きに密着。彼らは世界経済にどのような影響を及ぼすのか、富を再分配し社会の公平性を守る国家とはどうあるべきなのか、探っていく。


世界に1100万人いるという「リッチスタン人」のうちアメリカに次いで多いのが日本人で、190万人いるという。日本の人口の1%ならぬ1.5%。番組では日本の「新富裕層」がシンガポールへ、アメリカの「新富裕層」がプエルトリコにそれぞれ移住した実例を紹介していた。

日本では株式等の売却益に10%の税金がかかる*1が、シンガポールでは非課税。法人税も低く、日本の「新富裕層」がシンガポールに毎年移住しているとのこと。

シンガポールといえば、かつて日本のメーカーがどんどん進出したところだが、90年代後半には既に「シンガポールでは人件費が高すぎる。これからの移転先はマレーシアだ」などと言われていた。それからさらに15年ほどが経ち、同国は今度は日本の金融長者を呼び込もうとしているのかと呆れた。

さすがにシンガポール国内でも反発が高まってきた。昨年(2012年)には、中国人の富裕層の人間が交通ルールを全く無視しためちゃくちゃな運転で3人を殺す悲惨な事故を起こし、シンガポールの一般人が抗議デモを起こした。番組では語られなかったが、日本から来た「新富裕層」たちも同様に非難の目で見られているであろうことは想像に難くない。

番組で秀逸だと思ったのは、稼ぐだけ稼いで国に富をもたらさない「新富裕層」を生み出したのがレーガン時代のアメリカの政策だったと正確に指摘していたことだ*2。番組は、確かWSJロバート・フランク記者の口を借り手だったと思うが、「トリクルダウン理論」は成り立たなかったと断定していた。「新富裕層」を「モンスター」とも言っていた。

アメリカのオバマ大統領は富裕層増税を求めるが、富裕層の意を受けたロビイスト共和党議員に富裕層増税に賛成しないよう念を押している。日本でも所得税最高税率が40%から45%に引き上げられることに触れていたが、株式等の配当や売却益の軽減税率が続いていることには言及しなかった*3。こういう限界があったとはいえ、税金逃れの策を弄するモンスターである「新富裕層」の問題を鮮やかに浮き彫りにした好番組ではあった。

「頑張った者が報われない税制」を彼ら「新富裕層」は批判するのだが、自分たちが世の平均的な人々と比較して100倍も1000倍も努力したから金儲けができたと信じて疑わない彼らの頭の悪さが私には信じられない。

なお、番組でも紹介されていたが、税金逃れに狂奔する「金の亡者」どもの妄動に歯止めをかけるためには、国際的に共通した税制のルールを形成していくほかないのではないかと私は思っている。


[追記](2013.8.20 0:18)
記事のタイトルを書き改めました。

*1:NHKはこの税率が時限的な軽減税率であり、本来は20%であることの説明をはしょっていた。

*2:レーガンがつけた火に油を注いだのが2001年に大統領に就任したジョージ・ブッシュJrだった。

*3:富裕層は所得税よりも株式等の配当や売却益が所得に占める比率が高いにもかかわらず、その税率が小泉政権時代に本来の20%から10%に時限的に引き下げられ、以後何度か軽減税率の延長が繰り返されて現在に至っている。当ダイアリーはこれを、ひどい富裕層優遇税制であるとしてずっと批判し続けている。なお、軽減税率の期限は2013年末で切れる予定。