kojitakenの日記

古寺多見(kojitaken)の日記・はてなブログ版

これはひどい! 朝日新聞にサッチャリズム批判の精神は一切なし

最近はもう惰性というより紙面を監視する目的で朝日新聞の購読を続けているようなものだが、マーガレット・サッチャーの訃報記事もひどいものだった。

かつての朝日は、政治家が死去した時でも辛辣な評伝を書いた。たとえば朝日にシンパの記者が多かったという大平正芳が死んだ時(1980年)の記事がそうだった。自らがシンパシーを持っている政治家が亡くなった時であっても、批判すべきところは批判するというジャーナリズム本来のあり方が、その頃の朝日にはまだあった。

今はそうではない。今朝の朝日新聞サッチャー死去に関する記事をざっと見て、久々に強い怒りを感じた。サッチャー礼賛に終始し、批判に対しては客観的記述でサッチャーが批判を受けた事実に触れるのみ。日経新聞でさえ電子版の訃報記事で明記した人頭税導入に関しては、国際面の「■サッチャー英元首相の歩み」と題された年譜で、87年の欄に「総選挙に勝利、第3次政権。任期終盤で人頭税導入に世論が強く反発、支持にかげり」と記述されているが、それだけ。ヨーロッパ支局長・沢村亙の長文の評伝記事にも人頭税への言及はないし、それどころかこの沢村亙の評伝はサッチャーにいたって好意的だ。沢村記者は、

「小さな政府」を掲げて民営化と規制緩和を進め、労組の力をそいだ。所得税法人税を下げる一方、財政を切りつめた。教育や医療にまで競争原理を持ち込んだ。

と書きながら、そのことに論評しない。その記事は、「朝日話法」、あるいは「(一見リベラル風)マスコミ話法」とでもいうべき独特の書式に則っている。たとえば、

サッチャー氏にとって「個人の自由な意思が反映される空間」だったはずの市場が、グローバル化に伴い制御しがたい怪物と化してしまったのだ。

と書いたすぐ次の段落が、

 半面、低金利で金を借りて消費と放漫財政に走ったギリシャなどが危機に陥り、身を切る緊縮や雇用改革が今のドイツの繁栄をもたらしたことを思えば、サッチャー氏が説いた「自助努力」と「自己責任」が決して時代遅れではないことがわかる。

となっている。沢村記者が本当に言いたいのは、むろんこちらの方なのである。そして、

サッチャー氏が時代に刻んだ政策と政治スタイルはまだまだ色あせていない。

と記事を結んでいる。


あと、同じ紙面に安倍晋三のコメントを載せているのは現役の首相だから止むを得ないだろうが、中曽根康弘のコメントを載せるなど、哀悼一色の紙面。もっとも、これはどこの新聞も同じだろうと思うが。産経だけは例によってさらに過激に、「朝日話法」のような持って回った表現ではなくサッチャー全面礼賛の記事を載せているのだろうけれど(見に行く気も起きない)。論外の産経はともかく、サッチャー死去に大きな紙面を割きながら、人頭税への言及は年表欄に載せるだけの朝日を見ていると、インターネットの利用者の目に触れやすい訃報記事中でこの女がなした人頭税の悪行に触れた日経の方がまだマシに見える。

なお、福祉・社会保障削減や教育・医療への市場原理導入などのサッチャーの政策の多くは、ミルトン・フリードマンの直伝である。しかし、サッチャーが実行して失敗した「人頭税」(地方税に適用)はフリードマンでさえ主張していない。フリードマンが提案したのは、負の所得税つきの定率課税であり、それに直接影響されたのが大阪市長橋下徹が提唱した「ベーシックインカム+フラットタックス」の政策である。制度の簡素を旨とするフリードマンは、証券等の売却益や配当等の分離課税にも反対しているから、日本の年間所得1億円以上の超富裕層に対して逆進課税になっている現状は、最悪の税制であるサッチャー人頭税よりはマシかもしれないが、フリードマンの提案よりもひどい「超富裕層優遇税制」であるといえる。


上記の逆進課税に大きく寄与しているのは証券等の売却益や配当等への課税であって、もともと分離課税(20%)になっている上、優遇税制で時限的に10%に減税されている状態が、何度も延長を重ねて今に至っている。安倍政権はようやくこれを打ち切る方針だが*1菅政権時代の前回の見直しで野田佳彦(当時財務相)が延長打ち切り、自見庄三郎(当時金融担当相)が延長継続をそれぞれ求めて閣内で意見が対立した時、菅直人が自見に全面的に軍配を上げて証券等の優遇税制を継続させてしまった愚行は、民主党政権の無能を象徴する一件として長く記憶され、批判され続けるべきだろう。菅直人は、証券等優遇税制打ち切りの栄誉をみすみす安倍晋三に渡してしまった。

なお、その安倍晋三も、橋下徹同様おそらくサッチャー経由でフリードマンの「教育バウチャー制度」にかぶれているから、十分に新自由主義的であるといえるし、同じくサッチャリズムにかぶれた平沼赳夫も、第1次小泉内閣経産相として新自由主義政策を推進したこととあわせて、安倍晋三と同様十分に新自由主義的な政治家であると評されるべきだろう。

いずれにせよ、安倍、橋下、平沼といった論外の政治家連が跋扈する現状に強い影響を与えたマーガレット・サッチャーの死去は、もっと批判的に総括されてしかるべきだ。

*1:比較的少額の取引については逆に税率をゼロにするそうだが、富裕層が行う多額の取引については税率が元の20%に戻る。しかし、本来は最低でも税率を30%程度にしなければ逆進課税状態は解消されないだろう。