kojitakenの日記

古寺多見(kojitaken)の日記・はてなブログ版

「特定秘密保護法案」は安倍晋三の「敗着」にはならない

秘密保護法案の今国会会期内成立を目指す安倍晋三を勢いづけたのは、「大胆な金融緩和」とリフレを売り物にした経済政策を打ち出したことによって株価が上がり、あたかも安倍晋三が日本経済を良くしたかのような幻想がばらまかれ、それを国民が信じ込んで内閣支持率が上がったからだろう。

この裏には、安倍晋三のブレーンの巧みな戦略があったと思われる。大胆な金融緩和やリフレは、スティグリッツクルーグマンといったアメリカのリベラル派のノーベル経済学者も推奨する政策であるが、竹中平蔵のブレーンを務めた「経済タカ派」の高橋洋一もこれを推奨している。つまり金融緩和とリフレだけなら何も「(経済)右(派)」や「(経済)左(派)」に限定される政策ではなく、高橋洋一のように、(極言すれば)金融政策をきっちりやっておけば財政政策などどうでも良い、みたいなスタンスもとり得る。安倍晋三の場合は高橋洋一の考えとは少々異なり、時代錯誤の土木公共事業に偏った「積極財政」を志向しているが、社会保障の縮小を目指す一方、労働政策では派遣労働の拡大を進めており、格差縮小などは全く考えていない。もちろんそれは、「大胆な金融緩和」やリフレを除けば、スティグリッツクルーグマンの思想からはかけ離れている。

何が言いたいかというと、日本の「リベラル派」経済学者や共産、社民の左翼政党、それに野田佳彦民主党)や小沢一郎(生活の党)といった保守の野党政治家たちが安倍政権の経済政策を批判するのに、まず「大胆な金融緩和とリフレ」に対する批判から入ってしまったことが安倍政権を利する結果になったということだ。これこそ上記勢力の「失着」であった。なぜなら、スティグリッツクルーグマンを「(いわゆる)『アベノミクス』の後ろ盾」に自ら押しやり、安倍内閣の支持率上昇に貢献してしまったからである。まさしくオウンゴール。その結果、いつか当ダイアリーで取り上げた、NHKの保守派記者・飯田香織*1が「安倍総理ノーベル賞を取れますか」などという(冗談ではあろうけれど)愚にもつかない質問をスティグリッツにする*2という失笑劇を引き起こした。

経済学者の中には、「アベノミクス」をもじって「アホノミクス」なる造語をひねり出した人間もいるが、これまた「アベノミクス」なる不愉快きわまりない用語の浸透を後押しする逆効果を伴った「負け犬の遠吠え」であろう。このような「リベラル派」のエコノミストのふがいなさが安倍晋三のやりたい放題を助長してきた。

先週、朝日新聞に、"「従業員に還元」増加、ベアは慎重 100社アンケート"という記事が出ており、同じ紙面に安倍政権が派遣労働を拡大していくという記事が出ていた。前者は主要100社に対するアンケートで「ベア(ベースアップ)を検討する」と答えた企業はわずか4社だったというもの。大半の従業員への還元はボーナスで行うと答えた。来春と再来年10月に予定されている消費税増税で景気が落ち込むことが予想されるが、その時には安倍政権の眼中に辛うじてある「大企業の正社員」でさえ近い将来の収入減は免れず、ましてや安倍政権が拡大を狙っている派遣労働者は職を失うリスクが高まるなどしてさらに痛めつけられることになる。

適切な財政政策や労働政策と組み合わされて、庶民に金が回るようになってこその「大胆な金融緩和」だろうと私は思うのだが、安倍政権の政策ではそうはならず、だぶついたマネーは投機先を目指してバブルを起こしては弾けを繰り返すだけだろう。もはや株価は景気の先行指標ではなくなっている現在、6年ぶりとかいう高株価が景気回復につながることは期待薄である。

その結果、将来安倍晋三が再び政権を投げ出す事態が起きる可能性は少なくないと私は思う。

しかし、仮にそうなったところで、成立し施行されるであろう「特定秘密保護法案」は残るのである。

一部の人間は、「特定秘密保護法案」が安倍晋三の「敗着」になると言っている。第1次内閣で安倍晋三が成立させた「改正教育基本法」と同じだ、あれは安倍晋三の「敗着」だった、俺はそれを予測したぞ、などと得意げに語る人間までいる。

「改正教育基本法」が安倍晋三の「敗着」だったってか? 冗談じゃない。

現に「改正教育基本法」は第1次安倍内閣時代に改正されたそのままの姿で今も存在し、施行されたままではないか。あれこそは「酷使様」たち(日本の右翼)にとっては「金字塔」であり、改正教育基本法国民投票法を成立させたからこそ、安倍晋三はカムバックできたのである。第1次安倍内閣が倒れた時、右翼月刊誌はこれを惜しむ特集を載せた。対照的に、第1次安倍内閣を否定する政治を行ったといえる福田康夫安倍晋三と同じように政権を投げ出した時には、右翼は罵詈雑言をもって福田を送り出し、麻生太郎に期待したものである。しかし、その麻生内閣も、第1次安倍内閣の改正教育基本法国民投票法などに匹敵する(右翼にとっての)「実績」は挙げられなかった。

仮に今後予想される日本経済の失速が原因で安倍晋三が再び政権を投げ出すことがあっても、「特定秘密保護法案」は残る。現在の国会議員でもっともたちの悪い政治家は安倍晋三だと私は思うが、安倍晋三さえいなくなればすべてが良くなるなどということはあり得ない。それは、たとえば橋下徹を思い起こせば明らかであろう。安倍晋三の代わりなどいくらでもいる。

特定秘密保護法案」は安倍晋三の「敗着」にはならない。

*1:この飯田香織は一昨年だか昨年だかに、ある民主党議員と結婚したそうだ。

*2:http://d.hatena.ne.jp/kojitaken/20131108/1383868979