kojitakenの日記

古寺多見(kojitaken)の日記・はてなブログ版

元祖「永遠の旅人」竹中平蔵や「過労死は自己責任」奥谷禮子の妄言は論外だが

昨日、中田英寿が元「永遠の旅人」だった話を書いたが*1、元祖「永遠の旅人」といえば竹中平蔵だろう。ただ私は竹中のようなベタな「悪役」は引き合いに出したくなかっただけの話である*2

その竹中が、ピケティの『21世紀の資本』に「理解」を示しているらしいことはもちろん知っている。立ち読みで済まそうと思っていた「週刊ダイヤモンド」のピケティ特集号(2/14)号を昨日買ったので(他に「週刊エコノミスト」も)、手元で参照することもできる。しかし、その必要もなさそうだ。

「過労死は自己責任」発言の女社長、今度は「働かない若者には公園掃除などの労役」と提言 | ビジネスジャーナル

「過労死は自己責任」発言の女社長、今度は「働かない若者には公園掃除などの労役」と提言

 経済誌3誌が揃ってピケティ特集を組んだ。「週刊東洋経済」(東洋経済新報社/1月31日号)は『世界的ベストセラーが20分でわかる ピケティ完全理解』、「週刊ダイヤモンド」(ダイヤモンド社/2月14日号)は『決定版 そうだったのか! ピケティ』、「週刊エコノミスト」(毎日新聞社/2月17日号)は『ピケティにもの申す! 私はこう読んだ』だ。

 世はまさにピケティブームとなっている。43歳のパリ経済学校教授トマ・ピケティが歴史的なデータ収集などに約15年の歳月をかけた『21世紀の資本』の英語版は昨年4月に公刊。700ページを超える学術書にもかかわらず、アマゾンの総合売上ランキング1位となり、現在までに十数カ国で累計100万部を突破し、昨年末にみすず書房から発売された日本語版も13万部に迫っている。

「ダイヤモンド」の池上彰氏の解説『やっとわかった! ピケティ』によれば、「ピケティさんは世界各国の膨大なデータを分析し、『富める者はますます富み、そうでない者との格差が開いていく』ことを資本主義そのものが抱える問題として明らかにした」という。格差がなぜ広がるのかを説明するメカニズムとして、「資本収益率(r)>経済成長率(g)」という極めてわかりやすい不等式で表している。「資本収益率とは、株や不動産などあらゆる資本から生み出された平均収益率。18世紀以降はおおよそ4〜5%で推移してきました。一方、国民所得の伸びを示す経済成長率は長期的には1〜2%にとどまる。資本によって得られる収益は、働く人の賃金の伸びを上回り、格差が自然と広がっていくことを明らかにした」と説明されている。

「従来の経済学者なら、なぜそうなるか、精緻な理論を組み立てようとするでしょう。それに対してピケティさんは『r>gを論理的に説明できるが、その理由はわからない』という素っ気ない」対応なのだ。

●竹中元大臣もピケティ支持派

東洋経済」の記事『ピケティとは何者か』によれば、この資本主義が抱える問題は「二つの世界大戦と累進課税の導入によっていったんは縮小した格差だが、80年代以降に再び拡大し始め、放っておけば、今世紀中には18〜19世紀の欧州のように相続財産が人生を左右する世襲型の超格差社会に戻るという」。この処方箋としては富裕層課税として、「資本に対する国際的な累進課税」を提唱している。

 しかし、一方で、ピケティの理論的裏付けには問題があると批判する経済学者も多く、富裕層課税への反発も含め、ますます今後、議論を呼びそうだ。

エコノミスト」と「ダイヤモンド」では、日本の識者の声を紹介している。各氏とも日本の格差にひきつけて議論をしているが、ピケティを全面的に支持しているのは水野和夫日本大学教授だ。

「現代では再び、フランス革命前のアンシャンレジーム期に戻りつつある。近代社会の欺瞞性を暴いた点で、ピケティの著書を全面的に支持します。小泉改革アベノミクスは、新自由主義者による『アンシャンレジーム』党ですね。(略)企業も非正規社員を合法的に奴隷化している。正社員をなくしても、99%の『第三身分』が出てくるだけです」(「ダイヤモンド」記事『もっと知りたい!ピケティ』より)

 今回、注目したいのは、小泉政権時代に規制緩和を推進してきた人々もインタビューに答えている点だ。まずは、小泉内閣で経済財政相、金融相、総務相などを歴任した慶応義塾大学教授でパソナグループ取締役会長の竹中平蔵氏は「歴史的な実証研究から、今、世界が解決すべき重要な問題提起をしたわけです。その点で、支持率は70%。そのぐらい支持しますよ」と高く評価している。竹中氏は格差を認めた上で、30代の格差を問題視する。

「今、非正規の割合が年々増加している。これは競争ではなく、制度によって生まれた格差です。だから正規も非正規も同一条件にすればいい」と語り、さらなる労働規制の緩和を呼び掛ける。同氏は正社員も非正規並みの待遇にすれば格差はなくなるといいたいようだが、そうなれば経営者や資産家など「富める者はますます富み、そうでない者との格差が開いていく」というピケティが危惧する状況が加速するだけではないだろうか。

●過激な批判派

 しかし、竹中氏の意見はまだ現実を理解しているからマシかもしれない。ザ・アール社長の奥谷禮子氏はピケティをあまり支持しておらず、若者批判を展開する。奥谷氏といえば2002年、小泉内閣に製造業での派遣労働解禁などを提言した諮問機関、総合規制改革会議(宮内義彦議長)の委員の一人で、その後07年に「過労死は自己責任」発言をして波紋を呼んだ人物だ。「過労死は自己責任」発言は「東洋経済」の誌上だったが、今回は「ダイヤモンド」で、「働かない若者に労役を課しては」と提言している。

「なぜ格差の固定化が進んだのか。世の中のタガが緩んでいるからではないですか。若者は学校を出ても自由とか個性といった意識が先に出て、社会に対する責任感が薄れています。律令時代の『租・庸・調』のように、働かず税金を納めない若者には、公園の掃除などの労役を課すぐらいのことはすべきです」

 なお、ザ・アールは人材派遣会社で、竹中氏が会長を務めるパソナグループも人材派遣会社だ。ピケティが危惧する「働く人の賃金」が伸びない理由の一つが、人材派遣会社の賃金の中抜きにあるのではないかと追及したいところだ。

 小泉政権時の総合規制改革会議の議長である宮内義彦氏(現・オリックス・シニア・チェアマン)は、「エコノミスト」のインタビューに対し、「今までの経済学が生産の側から見ていたのに対し、ピケティ氏は社会的な分配の視点から見ており、興味深い」と一定の評価をする。ただし、ピケティが提示した「格差の拡大と富の再分配というテーマは、21世紀の大きな問題」としたうえで、「社会保障は財政負担を拡大させるため、国全体の活力を損なわないよう配慮すべきだ。それぞれの国でいわば“心地よい格差”があるのではないか。どのような状態が公正でどこからが不平等と考えるかは、社会によって違うだろうから、国ごとに深く議論するしかない」と持論を展開している。

 ぜひ宮内氏に、ピケティと“心地よい格差”論をめぐって対談してほしかった。
(文=松井克明/CFP)


さて、上記記事中に示唆されているように、竹中平蔵が弄しているのは詭弁だし、奥谷禮子に至っては論外だ。そんなことは誰にでもわかる。ここで私が書きたいのは、池上彰の意見に関することだ。厳密には、池上彰の意見そのものよりも、筆者の松井克明氏がまとめている文章に問題があると言うべきなのだが。おそらくそこには、筆者のピケティに対する無理解がある。

ここで筆者は、池上彰の言葉を借りて

「従来の経済学者なら、なぜそうなるか、精緻な理論を組み立てようとするでしょう。それに対してピケティさんは『r>gを論理的に説明できるが、その理由はわからない』という素っ気ない」対応なのだ。

と書いている。それは根本的な無理解だ。

21世紀の資本』は、データを集積してグラフ化した労作だ。つまり、モデルを立ててそこから演繹的に結論を導く、経済学者得意のやり方(実はピケティ自身、数学を駆使したその手の論法を大の得意にする学者だそうだ)とは全く違って、膨大なデータからこれまでの人類の経済史における真実をあぶり出そうとするものなのだ。つまり帰納的な方法論。アプローチの方法が違うのだ。

池上彰が「ピケティさんは『r>gを論理的に説明できるが、その理由はわからない』という素っ気ない対応」と言っているのも間違いで、ピケティは単に「データを集めて整理してみたらr>gになっていた」と言っている。その膨大なデータを集積して整理したところに、『21世紀の資本』の価値があるのだ。

世の中には、さまざまな分野で、ピケティほど大がかりではなくとも、データを集積して整理した労作を行った経験のある人は少なからずいるだろう。私も経済学とは全く関係ない分野で(そもそも私は経済学に関してはど素人である)、その種の仕事をやったことがある。雑誌に掲載されている専門家の意見から引用すると、同じ「週刊ダイヤモンド」誌上で森永卓郎が下記のように言っている。

 あそこまで完璧にデータをそろえたのは衝撃です。私は日本経済研究センターにいた1982年に、賃金センサスを使って、男女間、年齢間、職種間、学歴間とあらゆる階層の賃金格差を調べました。その調査でも、高度成長期には全ての軸で格差が縮小し、低成長の80年代に入ると一気に格差が開いていました。
 自分が実際にやったので、ピケティがやったことの大変さがすごくよく分かる。私は65(昭和40)年ごろから調べましたが、ピケティは1800年代から、しかも主な先進国各国のデータについて調べていて、これはもう、身の毛もよだつ作業です。新しい理論を発明したということより、膨大な作業で格差の拡大を実証したことが絶賛されます。
 ただ、政策提言は妥当性に欠けます。(以下略)

(「週刊ダイヤモンド」2015年2月14日号51頁)


その通り、そこに価値があると私も思う。経済学で立てる仮説モデルを事実と比較して検証する、その「事実」に対応するデータの提示なのである。筆者が池上彰の言葉から引用するなら、下記の部分が適当だったのではないかと思う。

(前略)ピケティさんは「このデータをたたき台にして皆さんも考えてみてください」というスタンスのように思います。謙虚な姿勢だと思います。(前掲誌29頁)

あと数点。「週刊ダイヤモンド」で水野和夫がピケティ本に100点をつけているが、私にはピケティと水野和夫の考え方は全く異なっているように思われる。また、ピケティの池上彰との対談で、下記のピケティの言葉は素晴らしいと思った。

(前略)本の第一目的は、知識の民主化にあります。民主主義を社会に広めていくためには、専門家だけが経済学を独占していてはいけない。今回、本という民主的な形で、経済学の知識が一般の人に届いたのは重要なステップでしょう。
 この本が支持されている理由は、「しっかりと情報を判断した上で行動の起こせる市民を生み出すのに役立つ本だ」という評価もあったのでしょう。(前掲誌37頁)

本当にその通りだ。日々、ジャーゴン(隠語)を駆使しては、一般人に対してバカ高いバリアを張り巡らせて特権階級の地位を死守しようとしているようにしか見えない、日本の「経済学者」どもとは大違いだと思う。

*1:http://d.hatena.ne.jp/kojitaken/20150215/1423968011

*2:なお、私は中田英寿に対して悪感情は何も持っていない。