kojitakenの日記

古寺多見(kojitaken)の日記・はてなブログ版

今なお終わらぬ60〜70年代の公害問題の影響

微生物な人は? - Living, Loving, Thinking, Again(2015年12月30日)に引用されている文献を記録しておく。

2000年の東京新聞掲載記事を転載した「区議会レポート」。
http://www.asahi-net.or.jp/~jv6m-nkmr/kgkairep22-3.html

《東京ライブ》江東・江戸川

汚染発覚から25年
続く六価クロムへの不安
『地表漏出』今も
跡地は広場に
住民グループ 地道な調査で警鐘
汚染規制の法律実現を目指す

有害物質・六価クロムの大量投棄が25年前に社会問題となった江東区大島と江戸川区小松川一帯の処理地で、いまだに六価クロムが地表などに漏出する事態が続いている。都は「住民への健康に影響はない」とし、地元でも「六価クロム」の記憶は風化しつつある。だが、不安が完全に払しょくされているわけではない。地元の主婦らでつくる市民グループ「公園のクロムを考える会」は、今も地道な調査を続け、警鐘を鳴らしている。
(石井 敬)

 都営新宿線東大島駅のそばに、「わんさか広場」「風の広場」と名付けられた2つの都立公園が広がっている。この地下一帯に大量の六価クロムが埋められていることを知る人は今、どのくらいいるだろうか。
 公園の周囲を毎月、リトマス試験紙を手に調べて歩いているのが「公園のクロムを考える会」のメンバーたち。
 「微量の六価クロムに長期間さらされる『微量暴露』の健康への影響は、世界保健機関(WHO)にもデータがない。私たち自身がモルモットのようなものです」。代表の中村雅子・江東区議は、問題の深刻さをこう説明する。
 汚染は過去の話ではない。
 風の広場では、住民の調べで2年前、地表に基準の数百倍と推定される六価クロムが流出していることが確認された。都が汚染を認めたのは、担当者が代わった昨年のこと。今年の夏、都が原因究明のために地下を掘ったところ、地中に放置されていた集水管の端から水が噴き出し、クロム漏出の原因になっていることが分かり、応急処置を施した。
 風の広場のそばの橋脚にはいまなお、しみ出した六価クロムの結晶が黄色く現れる。風の強い日にはそのが飛散し、空中に舞う。
 わんさか広場では、六価クロムを処理する過程で生じる三価クロムが基準を超えて下水に流されており、都も下水道法違反の実態が続いていることを認めている。

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 現場一帯では日本化学工業(本社・江東区)が、戦前から半世紀にわたって大量の六価クロムを未処理のまま投葉。1975(昭和50)年、都が地下鉄用地に買った今の「わんさか広場」が汚染されていることが発覚し、社会問題化した。
 都と同社の裁判などを経て、風の広場は91年、わんさか広場は96年にオープン。ともに、六価クロムを還元剤で無害化処理した後、上を粘土層などで覆い公園にした。
 ところが、風の広場ではすぐに土壌から高濃度の六価クロムが漏出。不安を覚えた周辺の主婦らが92年に発足させたのが「考える会」だ。クロムの処理方法をめぐる都などを相手にした法廷闘争の傍ら、3年ほど前から公園周辺で毎月の定期調査を続けている。

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 現状について、都環境局の小松秀明・土壌地下水担当課長は「住民の健康に影響を与えるようなレベルの汚染はない」と強調しつつも、「急務なのは、処理工法が古い『風の広場』の恒久処理対策。子どもが遊ぶ場所でもあるので、地面の上に六価クロムが染み出さないように、日本化学工業に集水管設置などの再工事を指導している」と話す。同社も「処理についてはすべて都の指導に従う」(総務人事部)としているが、多額の費用がかかるせいか、対応は遅れがちのようだ。
 「考える会」の中村代表は「六価クロムの上を公園にすること自体が大きな間題だった。今後もしっかりとした処理がされているか監視を続けたい」と話す。

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 「考える会」の最終的な願いは、市街地での土壌汚染を規制する国の法律を実現させることだ。
 都は、15日の都議会で可決した改正公害防止条例で、全国で初めて開発業者に対して汚染の調査や早期処理を義務付けた。環境庁も19日、法規制の導入を視野に入れた土壌汚染対策の検討会を設置する。
 「国がつくる法律の内容をじっくり見ていきたい」と中村代表。会の活動が、立ち遅れていた行政の土壌汚染対策を後押ししていることは間違いない。


六価クロム クロム鉛の製造工程などで出る有害物質。鼻の軟骨に穴があいたり、皮膚に潰瘍(かいよう)ができるなど、工場労働者の被害が報告されており、発がん性も指摘されている。

2000年12月17日付 『東京新聞』より転載


※ なお、記事中に「リトマス試験紙」とあるのは、「クロム試験紙」の間違いです。


また東京大学の記者発表。こちらは2014年と新しい。

http://www.u-tokyo.ac.jp/public/public01_260912_j.html

記者発表一覧
無害化対策後も都立公園から6価クロムが流出するメカニズムを解明

平成26年9月12日

東京大学大学院総合文化研究科

1. 発表者:
堀 まゆみ(東京大学大学院総合文化研究科広域科学専攻 博士課程3年、日本学術振興会特別研究員)
松尾 基之(東京大学大学院総合文化研究科広域科学専攻 教授)
小豆川 勝見(東京大学大学院総合文化研究科広域科学専攻 助教

2.発表のポイント:

  • 都立大島小松川公園外周の歩道上や集水桝に、6価クロムを含んだ水が環境基準を超過して流出していることを確認しました。
  • 大雨や積雪が6価クロムの流出を引き起こしていることを明らかにしました。
  • この地域における6価クロム汚染の将来予測のみならず、これまでの無害化対策を見直し、改善していく上でも重要な知見になりうるものと期待されます。


3.発表概要:
東京都江東区江戸川区にまたがる都立大島小松川公園の地中には、発がん性が指摘される6価クロムを含むクロム鉱滓(こうさい、注)が、無害化処理をされた後埋められています。しかし、この公園周辺ではその後も6価クロムの流出が相次いで検出され、その都度無害化対策が施されています。
東京大学大学院総合文化研究科博士課程3年の堀まゆみと松尾基之教授らの研究グループは、2012年から公園外周の歩道および集水桝の環境試料(水、雪、土壌)を採取し、6価クロムを含んだ水が環境基準を超えて流出している実態を確認しました。
異なる気象条件下で環境試料を採取することで、地中の6価クロムが大雨や積雪により溶け出す流出メカニズムを明らかにしました。
本成果については、2014年9月16日から富山大学で開催される日本地球化学会第61回年会で詳細を発表する予定です。

4.発表内容:
都立大島小松川公園の地中には、この地で1972年まで操業していたクロム酸工場の製造過程で生成したクロム鉱滓が埋められています。このクロム鉱滓には、発がん性が指摘され有毒とされる6価クロムが含まれています。東京都は、このクロム鉱滓を無害化処理し、鋼矢板で封じ込め、覆土をした上で都立公園として住民に開放しました。しかし、鉱滓の無害化処理にもかかわらず、公園周辺では40年が経過した今なお、6価クロムを含んだ水が検出されています。東京都では、6価クロムが検出される度に、検出された箇所の無害化対策を行っていますが、その後も流出が繰り返し起こり、恒久的な無害化対策はなされていない現状があります。

堀らの研究グループでは、2012年11月から都立大島小松川公園外周の歩道および集水桝において、水、雪、土壌試料を天候の異なる日にそれぞれ採取し、JIS K0102 工場排水試験方法に準拠した分析を行った結果、6価クロムの流出を確認し、その流出メカニズムを明らかにしました。

都立大島小松川公園外周の歩道上の全16地点から採取した試料のうち、「わんさか広場」北側から採取した5地点の水試料と雪試料から6価クロムが検出されました。大雪が降った2013年1月、歩道上に湧き出た水(滲出水:しんしゅつすい)から、最大で1リットル当たり37.0ミリグラムの6価クロムが検出され、1リットル当たり0.05ミリグラムの地下水基準を約740倍超過していました。歩道上に積もった雪は、6価クロム特有の黄色に着色されており、1リットル当たり11.8ミリグラムの6価クロムが検出されました。一方、晴れの日に採取した試料からは検出されませんでした。公園の集水桝の水からは、1リットル当たり133ミリグラムの6価クロムが検出され、1リットル当たり0.5ミリグラムの下水排除基準を260倍以上超過していました。集水桝では、環境基準を超える高い濃度で6価クロムが確認されることから、常に流入が起こっていることが示唆されます。さらに、2014年8月10日に都内を台風が通過する前後で別地点の集水桝の水を調査したところ、降水量45ミリを観測した台風の通過後に6価クロム濃度は台風通過前の約2倍高い値を示しました。

今回、天候別に6価クロムの検出有無を調査したことにより、6価クロムは雨や雪が降ると流出する傾向があることがわかりました。公園に埋められているクロム鉱滓に含まれる6価クロムは、水に溶けやすい性質を持つと言われていることからも、雨や雪が流出の引き金となると示唆されます。公園の覆土内に雨水や雪解け水が染み込むと、クロム鉱滓中の6価クロムが溶け出して地下水とともに流れ、大雨による地下水位の上昇とともに地表面に流出すると説明できます(図)。一方で、雨量が少ない場合では、染み込んだ雨水は覆土(土壌)に吸収されてしまうため、鉱滓中の6価クロムの溶出は起こりにくいと推察されます。それゆえ、大雨や積雪の場合に流出が引き起こされます。大雨によって都立大島小松川公園周辺のあらゆる場所で流出が起こるわけではありませんが、クロム鉱滓を通った雨水が流れてくる場所では、大雨が降ると今後も6価クロムの流出が起こり得る可能性があります。

都立大島小松川公園周辺では、今なお6価クロムの流出が起こることから、埋め立て当時の無害化対策の不十分さが指摘できますが、今回流出メカニズムが明らかになったことで、この地域周辺や同様の汚染が生じている地域での6価クロム汚染対策手法を考える上での一助となることが期待されます。
(後略)


今なお終わらない60〜70年代の公害問題を思うとともに、2011年の東電福島第一原発事故をも想起しないわけにはいかない。