kojitakenの日記

古寺多見(kojitaken)の日記・はてなブログ版

有害物質の六価クロム、区道に漏れ出す 東京・江戸川区(朝日)

還元されていなかった? - Living, Loving, Thinking, Again(2015年12月28日)より

朝日新聞』の記事;

有害物質の六価クロム区道に漏れ出す 東京・江戸川区

佐藤純

2015年12月26日23時34分

 東京都江戸川区小松川1丁目の区道で、発がん性が指摘される有害物質の六価クロムを含む地下水が路上に漏れ出していたことが、東京農工大の渡辺泉准教授(環境毒性学)らの調査でわかった。都と区は25日に現場付近を除染した。

 渡辺准教授によると、現場周辺で定期的に続けている調査の一環で21日に現場を訪れ、六価クロムを含む地下水が雨水ますから漏れ出しているのを見つけた。

 一帯は化学メーカーの工場があった場所で、高濃度の六価クロムに汚染されていることが1970年代に発覚した。土地を購入した都は無害化処理して埋め戻し、土で覆って大島小松川公園として整備した。その後も六価クロムを含む地下水がたびたび漏れ出し、処理しきれていない恐れが指摘されている。

 渡辺准教授らの簡易検査では、現場で採取した水に含まれる六価クロムの濃度は50ppm以上だった。渡辺准教授は「環境基準の1千倍に相当する」と指摘する。

 区は都と共同で除染し、雨水ます周辺に柵を設置した。都と今後の対応を話し合う。渡辺准教授は「汚染源を特定し、取り除くべきだ」と話す。

 近くの男性(36)は半年ほど前に妻と4歳、1歳の子と引っ越してきた。「六価クロムと聞いても、健康に影響があるのかないのか分からない。ちゃんと説明してほしい」と話した。

 現場の西隣の江東区大島地区で土壌汚染問題に取り組んできた「公園のクロムを考える会」の中村雅子・江東区議は「子どもを含む住民が通る場所。行政と企業は腰をすえて調査と対策に乗り出すべきだ」と訴える。(佐藤純

http://www.asahi.com/articles/ASHDV4Q7SHDVUTIL012.html


江戸川区江東区で「六価クロム」問題が噴出したのは1975年のこと。その年の夏の新聞は「六価クロム」問題一色だった。また、アテネ・フランセの学生たちによってつくられた詳細なドキュメンタリー映画もあった筈。それから40年経って、一方では「公園のクロムを考える会」というのがまだ活動しており、他方では「六価クロム」について無知な新住民がいる。このギャップが興味深い。因みに、この問題は隠蔽されているわけではなく、区役所のサイトにアクセスすれば事のあらましを知ることができるし、「定期的」な調査も続けられている。


東京都環境局「六価クロム汚染土壌対策」https://www.kankyo.metro.tokyo.jp/chemical/soil/information/cr6.html

江戸川区環境部環境推進課「六価クロム鉱さいによる汚染土壌」https://www.city.edogawa.tokyo.jp/kankyo/kankyo/johochosa/cr6.html

江東区環境清掃部環境保全課調査係「六価クロム鉱さい問題」https://www.city.koto.lg.jp/seikatsu/kankyo/7328/7331.html

(後略)


そういや「六価クロム」の公害問題は中学生時代にずいぶん新聞に出ていた。当時私が読んでいたのは大阪本社発行の毎日新聞だったが、大阪本社版の新聞も大きく報道していたと記憶する。

そうか、あれは江戸川区だったのかというのと、なぜ朝日新聞はどこの会社の工場だったか書かないのかと思って調べてところ、六価クロム汚染を引き起こした企業名は上記の東京都、江戸川区江東区のウェブページにはすべて掲載されていた。


東京都環境局「六価クロム汚染土壌対策」https://www.kankyo.metro.tokyo.jp/chemical/soil/information/cr6.html

六価クロム汚染土壌対策

1 経過概要

六価クロムによる土壌汚染問題は、昭和48年に東京都が日本化学工業(株)から買収した江東区大島9丁目の都営地下鉄用地及び市街地再開発用地で大量のクロム鉱さい埋め立てが判明したことを発端とします。
昭和50年12月、都(交通局・都市計画局)は日本化学工業(株)に対し損害賠償を求めて提訴し、昭和61年4月両者和解が成立しました。また、他の民有地についても昭和54年3月「鉱さい土壌の処理に関する協定」(東京都知事、日本化学工業(株))を締結し、都の指導のもと同社の費用負担により恒久処理を実施しました。

2 恒久処理

六価クロム鉱さいを処理するために、昭和55年から平成13年にかけて、再開発地域内に集中処理地を5箇所(1.南北工場跡地(風の広場) 2.和解に基づく処理地(わんさか広場)3.江戸川区処理地(自由の広場) 4.江東区処理地 5.日本化学工業(株)本社敷地内処理地)設けて、鉱さいの還元・封じ込め処理を行いました。
(1) 和解に基づく処理
平成2年11月から鉱さい処理工事が始まり、平成5年4月に8万6千m3の鉱さい封じ込め処理が完了し、現在は公園(わんさか広場)として開放されています。
(2) 協定に基づく処理
昭和55年から鉱さい処理工事が始まり、平成13年2月に33万5千m3の鉱さい封じ込め処理が完了し、現在は公園(風の広場、自由の広場)等として利用されています。

3 モニタリング等

(1) モニタリング
亀戸・大島・小松川地区及び南葛西地区において、定期的に大気中の粉じん等を測定し、周辺環境の状況把握を行っています。さらに、集中処理地とその周辺において水質の六価クロム濃度を測定し、監視を行っています。
○大気中の粉じんや水質の六価クロムモニタリング結果(220 KB) pdf
(2) 船堀橋下道路での対応
平成23年2月に船堀橋下の道路上で見られた滲出については、滲出水を還元処理し、土壌の掘削除去及び再舗装工事を実施しました。
なお、船堀橋下の道路の集水ますについては、ます内の泥土から六価クロムが検出されたことから、平成25年6月にます内の泥土を適正に処分しました。
(3) わんさか広場北側入口付近での対応
平成24年4月及び平成25年1月にわんさか広場の北側入口付近において見られた滲出については、滲出水の還元処理及び清掃等を行い、その後補修工事を実施しました。


六価クロムといえば私が知っているのは「クロメート処理」といって、金属を六価のクロム酸を主成分とする処理液で表面処理する方法だ。これによって形成される被膜の主成分は三価のクロムだが、一部に残存している六価クロムが耐食性に寄与するとされている。しかし六価クロムの毒性が問題視されて最近は三価クロムのみによって被膜を形成する方法へと移行しつつある。

そこらへんにも言及した、龍谷大学の学生さんたちのプレゼン資料がネット検索で見つかった。

http://www.econ.ryukoku.ac.jp/~tlee/seminar-6.files/G3-chemical-Hexavalent%20chromium-v2.pdf

上記プレゼン資料から、問題の核心部である「日本化学工業六価クロム事件」の部分を抽出してみる。

日本化学工業六価クロム事件 I(従業員)

  • 1971年の小松川工場の調査では従業員461人のうち62人に鼻中隔穿孔が認められた。
  • それ以前からも従業員の間では健康被害が起こっていた。
  • 肺癌などで50人以上の犠牲者が出ていた。

     ↓
  工場の周辺住民が公害として日本化学工業を糾弾していたため、従業員も立ち上がった。

日本化学工業六価クロム事件 II(公害)

  • 1973年に判明するまで、約52万トンのクロム鉱さいを江東区の広範囲にわたって投棄していた。
  • 投棄された土地には草も生えず、虫も生息しない荒地になった。
  • その周辺に住む子供の皮膚炎が異常に多かった。

     ↓
  六価クロム汚染事件の発端になる

なんとも生々しい話だ。先々週だったか、NEWS23を見たあとたまたまテレビをつけっ放しにしていたTBSの深夜番組で、70年代の東京ゴミ戦争の話をやっていたけれども、「約52万トンのクロム鉱さいを江東区の広範囲にわたって投棄していた」などというのはなんともすさまじい話であって、今の中国がやっているのではないかと疑われるようなことを、昔は日本でもやっていたということだろう。

プレゼン資料からの引用の続き。

六価クロムの廃棄後はどうなるの?

  • 土中に放置された場合微生物と接触することで、短時間で安全な三価クロムに変わると考えられており、問題はないとされる。
  • 微生物を全滅させた後も残留し、その後の微生物との接触が進行しなくなる。このため六価クロムのまま長期間残留し、粉末になって飛散したり、地下水を汚染したりして公害を引き起こす要因になる。

今回江戸川区で「六価クロムを含む地下水が路上に漏れ出していた」理由はこれで説明できる。つまり江戸川区の当該地域の土壌は今も「微生物が全滅した」、つまり「死んだまま」であって、だから「六価クロムのまま長期間残留し」、「地下水を汚染したりして公害を引き起こす要因にな」ったのだろう。

六価クロム関連の他の事件

国内での六価クロム使用状況(対策)

  • 家電業界、自動車業界は三価に移行

     ↓

  • 家電業界のほうが数年はやい移行になる
  • 六価クロムの許容濃度をWHOが設定していてそこから日本の環境基準を決めている。
  • 日本に禁止する法律は制定されていない。
  • 平成12年3月24日に、建設省(現・国土交通省)は六価クロム溶出試験を行うことを当面の措置として決め、そのための実施要領(案)を配布した。

国内での六価クロム使用状況(対策)2

  • 日本では六価クロムを禁止する法律などはされていない。

     ↓(←だが)

  • 企業や業界独自での六価禁止行動は促進されている。

     ↓(←なぜ)

  • 日本の技術力の向上により三価での代替品で十分に対応できる。欧米諸国では禁止されているので輸出に不利になる。消費者に安全性をアピールして不安の解消

このプレゼン資料を見ながら今回の江戸川区の一件を考えるにつけ、日本はまだまだ欧米先進諸国に比べて公害対策の後進国であって、中国を笑う資格などないのではないか、そう思わされる今日この頃なのだった。