kojitakenの日記

古寺多見(kojitaken)の日記・はてなブログ版

孫崎享『戦後史の正体』と育鵬社の教科書は「押しつけ憲法論」で完全に一致!

昨日(8/1)は月初めの日だったが8月早々から仕事が重い日だったので更新しなかった。その前日に見たテレビのニュースで、稲田朋美が「離任式」とやらに出て驚くべきハイ状態の挨拶を見せつけられて唖然としたが、国会の閉会中審査にはでてこないとか。開いた口が塞がらなかった。

あれはやっぱり安倍晋三から熱烈なお褒めの言葉をいただいたんだろうな。よく安倍政権を守ってくれた、よくやった、感激した!とか言ってね。岸井成格が稲田が会心の笑みを浮かべてたみたいなことを言ってたのは本当だったんだなと思った。嘘を突き通したご褒美として、安倍は「ともちん」とやらに「閉会中審査には出なくても良いからね」とかなんとか言ったのではないかなどと勝手に想像した。

結局この件で、稲田は嘘をつきとおして安倍晋三を守れて万歳万歳、自衛官は稲田を降ろせて万歳万歳だったのに対し、自衛官と一緒になって稲田批判を叫んでいた某都会保守氏を含む安倍批判派の国民は、特別防衛監察が稲田の関与にゼロ回答を出して(そもそも監察は防衛大臣だった稲田の命令で行われたものだから当たり前だ)憮然といったところか。

文民統制ができない総理大臣・安倍晋三防衛大臣稲田朋美を倒す」ことと「自衛官防衛大臣を下ろすクーデターは許さない」という2点の両立を追求する姿勢をとらない限り、政権批判勢力の期待する結果が得られないのは最初からわかり切った話なのだが、昨年自衛官が稲田を誹謗するビラを作った時には自衛官と一緒になって稲田を嗤いつつ「小池百合子は凛々しかった」などと戯言を発しておいて、特別防衛観察の結果が出てからブツブツ文句を言っているようでは、同じ敗北を何度も何度も繰り返しているうちに取り返しのつかない事態を招いてしまうだろう。

民進党に話を移すと、結局朝日の報道通り9月1日に代表選が行われるようだが、あんな突発的な辞意表明のあとは、直ちに代表選を行って素早く後継代表を決定するやり方で良いのだ。2010年の民主党代表選は、6月2日の鳩山由紀夫辞意表明から2日後の6月4日には、もう菅直人樽床伸二による代表選が行われた。たった2日間であっても候補者が立候補して投票して次期代表を決めることはできるのだ。定期的な代表選ではないのだから、党員・サポーターによる投票を行うかなんて議論する必要はないし、逆に無投票で決めてしまう必要もない。要するに民進党にやる気がないだけである。

なお、前原誠司の推薦人がなかなか集まっていないとの観測もあるようだが、それはそもそも民進党右派の間に、党の代表選なんかに関わりたくない、一刻も早く近く結成されるであろう「国民ファ★ストの会」に参加したいが、下手に民進党代表選の推薦人になると、それが国ファ入りへの障害になりはしないか、とでも思っているのではなかろうか。現に民進党の極右議員として悪名高い静岡の渡辺周は、フジテレビのニュース番組で

民進党の代表選に出馬する意向の前原元外相を支援する渡辺周元防衛副大臣は、BSフジの「PRIME NEWS」に出演し、次の衆議院選挙で「都民ファーストの会」が国政に進出した場合は、連携を模索する可能性を示唆した。

とのことだ*1渡辺周のような有名議員なら、前原誠司の推薦人に加わっても国ファ入りできるだろうが、無名議員にはそこまでの自信はあるまい。

なお、仮に民進党代表選が枝野幸男前原誠司との争いになる場合の私の予想は下記の通り。

まず枝野幸男が勝った場合、民進党は分裂するか、または右派の議員が衆院選前に大量に離党し、次の衆院選では「国民ファ★ストの会」から出馬する。

また、前原誠司が勝った場合だが、この場合も民進党が丸ごと「国民ファ★ストの会」と合併することはあり得ない。民進党とは、国ファがそうなるであろうような右派ポピュリズム政党にとっては疫病神なのだ。特に民進党内の中間派やリベラル系議員は、長島昭久渡辺喜美若狭勝や、その背後にいる小池百合子(小池自身は次の衆院選には間違いなく出馬しない)に排除されるだろう。民進党の看板があっては国ファには絶対に受け入れられないから、結局前原が勝った場合に起きるのは、民進党の解党だろう。「国ファ」の公認さえもらえれば、いくら「元民進」だろうが勝てることは都議選の結果がはっきり示している。ついでに書くと、無所属の推薦程度ではダメなことは柿沢幸絵が示した(ざまあ!)。

ここからやっと本題に入る。

おそらく私よりもっと民進党を激しく呪っているであろう「小沢信者」たちは、横浜市長選で「野党共闘」が負けたのも「山尾志桜里のせい」にしているのだろうが、私は民進右派の山尾議員を最初から買っていないので、なんで右派議員が右派の現職市長を応援することの不思議があろうか、くらいにしか思わなかった。

しかし、かつて鳩山・小沢時代の2009年に衆院選(あの「政権交代選挙」!)と同日投票だった市長選で民主党の推薦を受けて初当選した林文子は、私としても絶対に許せない極右・新自由主義の政治家である。最近では、横浜市の学校で用いられる教科書に育鵬社版を採用させた。さすがは鳩山一郎の遺志を継ぐ改憲派鳩山由紀夫や、かつてタカ派の政治家として鳴らした小沢一郎が見込んだだけあって、政治思想でも経済政策でもとんでもない「右」の市長なのだ。そんな市長を投票所に足を運んだ有権者の約半数が選択するほど、横浜はどうしようもない都市になっている。

それにしても育鵬社の教科書は許しがたい。

その育鵬社の教科書について、2年前に書かれた下記東洋経済オンラインの記事(筆者・治郎れんげ氏)は、菅野完のTwitter*2経由で読んだ「異邦人」氏のTwitter*3で知ったのだが、なかなか興味深い。下記は櫻井光政弁護士の指摘。

採択相次ぐ!「育鵬社教科書」本当の問題点 | 学校・受験 | 東洋経済オンライン | 経済ニュースの新基準(2015年8月28日)より

 (前略)例えば、帝国書院には「鉄から見えるヤマト王権」という項目があります。それを読んでみますと、朝鮮半島に鉄が豊富にあり、延べ板のような形でもたらされた、その鉄を入手することができたことで、他の豪族に比べて、ヤマト王権が傑出してきた…ということが分かります。

 ――世界史でいえば「ヒッタイト」ですね。鉄器を持つことが権力拡大につながった、という事実が、世界各地で当てはまるのですね。

 そうです。ヤマト王権は自分の権力を維持するため、当時の先進国であった朝鮮半島から鉄とその加工技術を得ていた。非常に分かりやすい構図が見えてきます。

 一方、育鵬社にはそうした記述は一切なく「このころ、大和地方を基盤としてつくられた、大王を中心とする政権を大和朝廷(大和政権)と呼びます」と書かれています。これでは、なぜ、大和朝廷の存在感が他の豪族と比べて際立ってきたか、分かりません。

つまり育鵬社の教科書は「歴史上のできごとは何が原因だったのか」を理解させるつくりにはなっていないということだ。

 ――歴史を学ぶ際は「なぜ」そうなったか、分かると面白いです。この記事の読者はビジネスパーソンが多いのですが、経済政策に関する記述で何か知っておくべきことはありますか。

 徳川綱吉の小判改鋳。これは面白いと思います。帝国書院は、綱吉が貨幣の質を低下させたことをはっきり書いています。「金の含有量を約30%も減らしたことから、1枚の小判の価値が変わってしまい、経済が混乱しました」と。これはとても大事な指摘です。貨幣の質が低下し、流通量が増えてインフレが起きる。子どもの頃、こういう話を聞いていると、現代の経済政策について、理解が深まるはずです。

 一方、育鵬社の教科書で、綱吉に関する記述を見ると、生類憐みの令については書いてありますが、貨幣の質を落としたことは書かれていません。その次に、新井白石について記述がありますが、白石が貨幣の価値を元に戻した、ということがいきなり出てきます。質を落とした時の記述がないため、理解しにくいと思います。


下記のくだりには手を打ってしまった。

 新憲法GHQによる「押し付け」であったか否かという、みなさんも聞いたことがある議論です。育鵬社の記述は、いわゆる押し付け論になっています。帝国書院は、過程はともかく、GHQは、日本のいろいろな機関が作ったものを参考にした、と書いています。

 ここで参照したいのは、アメリカ側の会議議事録です。ターニングポイントになった1946年2月13日の議事録に、国立国会図書館のウェブサイトからアクセスすることができます。英語が堪能な方は、ぜひ、原文をあたってみていただきたい。民政局長のホイットニーが日本側にこのようなことを言っています。

 「(前略)最高司令官は、日本の人民が、この憲法か、それともこれらの原則を含まずに憲法の体裁を整えた物のいずれかを自由に選ぶようにさせる決意である」

 要するに、GHQは、憲法草案を直接、日本国民に見せて信を問う、あなたたちが憲法の体裁を整えただけのものと、GHQ案のどちらがいいか問うてみると、マッカーサーはおっしゃっている、とそういう風に脅したわけです。脅されているのは日本政府の保守的な体制を維持しようとしている人たちである、ということです。

 GHQ草案は誰に対する押し付けだったのか?

 ――民衆が直接選んだら、GHQ草案を取るだろう、と分かっていたからこそ、日本政府関係者は、それを受け入れたのですね。「押し付け」が誰に対してなされたものなのか、よく分かります。

 お話をうかがっていて、右・左という価値観の問題をおいても、子どもに「考える力」をつけさせたい親は、育鵬社の教科書を支持しないだろう、と思いました。

 そう思います。教育委員会の会議で私が意見を言ったときに「櫻井さんみたいに勉強ができる子ばかりじゃないから」と言われたことがありました。ただ、私自身、公立出身なので、公立は適当でいい、とは思えないのです。安い教育費で質の高い教育を受けられる社会であってほしい、と思います。

 そういう意味で、今回、東京都立の中高一貫校育鵬社の教科書が採択されたのは、残念に思いました。都立の一貫校は、入試にあたる適性検査の問題を見ても、考えさせるものが多く、質が高い。リーダーを育成する役割を担っているはずなので、使う教科書もそれにふさわしいものにしてもらいたいです。


そういえば、灘、筑波大付属駒場、麻布などの東西の「名門中学」が「中学校教科書で各社が一切採用しなかった慰安婦に言及し河野談話も取り上げた」という「学び舎」の教科書を採用した一件に、産経が激怒したことがあった。


これは私の想像だが、「学び舎」の教科書とは、生徒に「考える力をつけさせる」ような記述になっているのではないか。だから「名門校」が採用する。それに湯気を立てて怒り狂う産経の記事を読んで、私はまるで「戦前の『密教』(天皇機関説)と『顕教』(狂信的な天皇主権説)みたいな話だな」と思ったのだった。育鵬社フジサンケイグループの出版社である扶桑社の子会社だが、産経はそんな戦前を再現させようとしているのだろう。なお、鳩山由紀夫が敬愛する祖父・鳩山一郎は、「統帥権干犯!」を叫んで、「顕教」による「密教」の征圧に加担した人物である。

そして、上記の記事が思い出させるものがもう一つある。それは鳩山由紀夫とも近い立場にある孫崎享が2012年に出したあの稀代のトンデモ本『戦後史の正体』だ。あの本も、日本国憲法をわずか4ページの「押しつけ憲法論」で片付けていた。つまり、『戦後史の正体』と育鵬社の教科書とは同じ立場に立っている。

 ――大田区で4年前、育鵬社の教科書を採択した時は、どんな雰囲気だったのでしょうか。何か圧力があったのですか。

 後に住民の方から同じ質問を受けましたが、そんなことは全くありませんでした。圧力とか、誰かの息がかかった人が委員にいた、ということはなかったのです。そういうことだったら、対処は簡単です。問題がはっきりしていますから。

 4年前の教育委員会育鵬社が採択されたのは、分かりやすさ、面白さ、そして何となく自信が持てるといった要因からだと考えています。

 委員は学校の校長先生を経験した方、校医さん、民生委員や人権委員を歴任してきた方、PTA活動を熱心にやっていた方などで、地域のこと、子どものことを真剣に考えている方ばかりでした。こういうメンバーで自由に議論した結果、採択に至ったのです。つまり、教育委員会の出した結論は、世の中の雰囲気をよく表している、ということです。

断っておくが横浜市のケースは上記東京都大田区とは大いに異なる。林文子が執着し、同じ右派の岡田優子教育長と組んで教育委員会のリベラル派を外して右派を入れる人事などを通じて実現させたものだと聞いている。つまり林文子とは、かつて鳩山・小沢が目をかけ、今では民進党右派の山尾志桜里が熱心に応援するにふさわしい、ゴリゴリの右派政治家だというわけだ。

その話とは別に、2011年に大田区育鵬社の教科書を採択された時の理由が「分かりやすさ、面白さ、そして何となく自信が持てるといった要因からだ」と説明されていることが興味深かった。

というのは、日本国憲法に対するスタンスが育鵬社の教科書と同じ『戦後史の正体』もまた、戦後の政治家を「自主独立派」と「対米追従派」に分け、前者(岸信介佐藤栄作田中角栄鳩山一郎鳩山由紀夫小沢一郎が含まれる)を善玉、後者(前者の政敵)を悪玉とする、極めて「分かりやすい」史観に基づくものであって、ひとたびそれを受け入れられる者にとっては「面白い」ことこの上ない読みものであること請け合いだからだ。現に5年前には「目から鱗が落ちた」との読後感を持った者が多かったし、私が『きまぐれな日々』で『戦後史の正体』を批判する記事を書いたら、「好著だと思いますが」との反論のコメントをいただいた。あの本は、立場によっては面白く読めるだろうが、あれを何度読んでも、戦後史を考える力など絶対につきっこない。あんなのは「嫌韓・嫌中」本や「日本スゲェェェ」本と何ら変わるところがない。

その『戦後史の正体』をもっとも熱狂的に支持した層が「小沢信者」であったことはいうまでもない(但し、国会前のデモで孫崎と共産党が並んで行進したことがあったり、TBS『サンデーモーニング』の「風を読む」のコメンテーターとして孫崎が登場したことがあったりなど、『戦後史の正体』を受け入れたのは、何も一握りの「小沢信者」だけではなかったことは忘れてはならないが)。

そんな「小沢信者」たちが、今では「野党共闘」応援団に加わって、やれ山尾志桜里の裏切りが横浜市長選の敗因の一つだ、などと騒いでいるのを見ると、こんな言説がまかり通っているうちは、「野党共闘」が安倍政権を倒す日なんか来るはずもないよな、と思う今日この頃なのである。