kojitakenの日記

古寺多見(kojitaken)の日記・はてなブログ版

前原誠司と井手英策への危惧

あまり話題にならない民進党代表選について、「野党共闘」のブレーンの間にはなぜか「前原が選ばれても枝野が選ばれてもそんなに大きく変わらない」という妙な「安心理論」を振りまきたがる傾向があるように見えるが、私にはそうは思えない。前原誠司共産党との協力、つまり「野党共闘」からの離脱をしばしばほのめかしているし、私として何よりも気になるのは、前原誠司とそのブレーン・井手英策の経済政策だ。私はこれに強い危惧を持っている。

この件に関して、『広島瀬戸内新聞ニュース』が何件か記事を公開している。

井手英策先生の議論の難点 : 広島瀬戸内新聞ニュース(社主:さとうしゅういち)(2017年8月15日)より

井手英策先生の再配分を強化すべきと言う趣旨には賛同します。

しかし、井手先生の議論には、いくつか難点があります。

まず、財政黒字化にこだわるべきではありません。

日本は年金基金も含めて大量の外国証券を持っています。

たとえばの「仮定」をします。もし、日本政府の信用が落ちて、大幅な円安になれば、円ベースでの外国証券の価値が暴騰。その時点で財政再建は達成されてしまいます。

財政黒字化にこだわり、なおかつ、庶民に負担が重い消費税にその財源を求めれば、デフレ圧力になります。

さらに言えば、民進党が消費税15%を掲げ、安倍自民党が万が一、消費税減税を打ち出してきた場合、安倍自民党が選挙で圧勝することになりかねない。安倍自民党が、消費税増税を事実上、福祉ではなく、大型事業バラマキに使ってきたために、国民には「消費税増税は福祉には使われない」というイメージが定着してしまっている。皮肉にもそのことが、次期衆院選では自民党に有利に働くことになりかねません。

現時点でも、食品を含めた消費税率は独仏よりも高いことを考えると消費税増税は現実的ではない。


パナマ文書でも明らかになったように、大手企業や大金持ちが違法ではないがセコい方法で税金を逃れている仕組みをまず改めるべきです。


もちろん、税金の使い道は再考すべきだ。金の使い道が五輪やリニアなどの大型ハコモノに偏ると言うことは、そちらに人的資源を取られると言うことです。老朽インフラの更新とか災害復興、さらには、国全体で言えば介護や保育などの人手不足の問題がある中で、人的資源の配分という文脈で財政の使い方は考え直すべきである。

下記は上記記事の末尾にリンクされた井手英策のインタビュー記事(神奈川新聞)。


『広島瀬戸内新聞ニュース』からもう1件引用する。

井手先生は「現実的」なのか? : 広島瀬戸内新聞ニュース(社主:さとうしゅういち)(2017年8月16日)

井手先生は「現実的」だから「消費税増税」を言っているという面はあると思う。

しかし、それは逆だと思う。「消費増税」というイメージで捉えられた時点で、自民党に勝てなくなる。その時点で実現性がなくなるでしょう。

そんなことは、菅直人内閣で実証済みでしょう。

そもそも、財政黒字化を前提としている時点で、井手プランはその点が決定的な弱点です。

社会保障を先行実施して、一定程度「連帯経済」を経験をしてもらってから、増税でも遅くはないでしょう。

それも、まずは、不公正税制の是正からでしょう。安倍政権がここまで支持された理由のひとつは「消費税10%増税」先送りにあったのは明らかだと思いますよ。

民主党(および、自民党内リベラルの谷垣総裁)は逆に悪者になってしまった。安倍は正義のヒーローになってしまった。

そのことへの自覚が民主党も支持者も足りないと思うし、その状況が続けば残念ながら、自民党には勝てない。永遠に安倍および安倍的な指導者が続くことになりかねない。安倍は終わったとしてもたとえば小池百合子「日本ファースト」あたりが、「増税先送り」を掲げたら、野党連合はお手上げであろう。

世界的に見ても、中途半端なものよりも、「反格差反緊縮」のサンダースやメランション、ポデモスなどがウケていることを直視すべきだろう。井手プランは北欧的だが、人口規模も違う。人口規模が似ており、そうはいっても相対的には「保守的」な先進国でウケるのはサンダースであり、メランションであり、ポデモスであろう。


くどいようだが、日本は昔のアルゼンチンとは違う


反安倍の多くの人も、財政再建至上主義に陥っている。おそらく昔のアルゼンチン(とかメキシコとか)と日本をダブらせているのではないか?


昔のアルゼンチンの財政破綻は、

  1. 政府債務は外貨(ドル)建て
  2. おそらく対外資産はほとんどなかった

という条件下で起きた。
アルゼンチンペソ安は、政府破綻に直結した。


現代日本は、

  1. 政府債務は円建て
  2. 政府が外国証券を大量に保有している

と言う状況がある。
日本政府の信用が落ちて円安になった場合、外国証券の円ベースでの価値は暴騰し、政府のバランスシートは大幅に改善してしまう。よって、アルゼンチン型の財政破綻は起こりえないわけである。


安倍晋三は、実はわたしが今申し上げたことを理解している数少ない政治家だと思う。
さらには、それが故に、消極的に支持されてしまっていると思う。
変な話だが、安倍が海外にばらまけばばらまくほど「財政危機」を過剰に煽ることは嘘くさいと有権者は気づいてしまうのだ。
安倍晋三は全く支持していないし、「打倒対象」だという考えには変わりない。
だが、こういうときだからこそ、批判の仕方を誤ってはいけない。


安倍晋三の誤りは「カネの使い方」の誤り、さらにいえば「人的資源の配分」(給料を払う対象)の誤りである。
軍事や原発再稼働やリニア、五輪方向に人的資源を使っている場合なのか?
原発廃炉、エネルギーシフト、老朽インフラの更新、災害復旧、さらには、介護や保育などに振り向けるべき時に、余計なところで人手を取られるのはいかがなものか?


さらにいえば、カネの集め方にも安倍晋三自民党は問題はある。ただし、これは安倍一人の責任ではなく、1980年代以降、具体的には竹下蔵相以降、金持ちや大手企業を減税して消費税で穴埋めするという「税制改正」のトレンドがずっとあるわけである。
こうした点を改めることが大事である。

自らの後継者と目していた稲田朋美に「財政再建の元締め」役をやらせて「財政再建」を「勉強させていた」安倍晋三が、どこまで上記記事に書かれた理屈を「理解」しているかは私には甚だ疑問だが、その部分以外は上記記事に共感する。

前原誠司と井手英策の経済政策は、ひとことで言ってしまえば「2012年の三党合意への後退」でしかないのではないか。私はそう思うのだ。

消費税増税は、まず1997年の橋本龍太郎政権時代に失敗した。この時には景気の腰が大きく折れ、それが翌年夏の橋本内閣総辞職につながった。しかし消費税増税論者は、景気失速の理由を別の要因に求めて後の政権に消費増税への圧力をかけた。菅直人はそれに屈し、野田佳彦に至っては2012年に谷垣禎一らと「三党合意」を行った。この時日本国民に悪印象を与えた野田を蓮舫民進党幹事長に任命したことは、小池百合子にすり寄ったことと合わせて民進党蓮舫体制失敗の二大要因となった。野田に代わって総理大臣に復帰した安倍晋三も、2014年4月の消費増税延期を決断し得る立場にありながら消費増税の決行を決断し、そのことが安倍政権の経済政策がわずか1年間しか効果をもたらさなかった最大の原因となった。しかし、消費増税論者はそれでも原因を消費増税以外に求め、政治家に消費増税への圧力をかけ続けている。

それに迎合しているのが前原誠司と井手英策であるように私には見える。しかし、過去二度失敗した消費増税が「今度こそ大丈夫」と言われても私には全く信用できないし、世の多くの人々も同様だろう。

思い返せば、井手英策の師匠・神野直彦も2010年に菅政権と妥協した。神野直彦の年来の主張だと、まず直接税の課税ベース(課税範囲)を拡大し、これが達成された段階で、アメリカ型の「小さな政府」を選ぶならそのままの直接税中心税制を、北欧型の「大きな政府」を選ぶのなら消費増税を、というロードマップだったが、いらちの菅直人は直接税増税の課税ベース拡大がなされる前からの消費増税へと暴走し、それが2010年参院選での民主党敗北の原因となった。のちの安倍政権を生み出した三大元凶の一つだ(あとの2つは2010年6月の鳩山由紀夫の政権投げ出しと小沢・鳩山が自民党とつるんで2011年5〜6月に仕掛けた「菅降ろし」。野田佳彦の失政は「三大元凶」にも入らず、トロイカ3人の大失敗に尻ぬぐいをしたに過ぎないと考えている)。しかし暴走した菅直人神野直彦は妥協してしまった*1

ともあれ、上記の失敗があるのに、まだ「三党合意」への後退かよ、と呆れずにはいられない。

民進党代表選は、なぜか小沢一郎の意を受けて動いていると思われる松野頼久一派(その中には、あの超エスタブリッシュメント一族の男・木内孝胤もいる)が前原誠司を支援していることもあって、国会議員の票では前原誠司の勢いが圧倒的らしい。私はこのことから、自由党を含む小沢派ももしかしたら「小池ファ★スト」への合流を模索しているのではないかと勘繰っているのだが(その裏には昨年あたりから言われている前原誠司小沢一郎の急接近があるのだろう)、しかしその小沢一派にあって前原誠司とは対照的な経済政策を打ち出しているのが山本太郎だ。

私は正直言って山本太郎が好きではないのだが、こと経済政策に関しては(もちろん外交・安全保障政策に関しても)山本太郎の方が前原誠司なんかよりよほど評価できると考えている。

民進党代表選の話に戻れば、「前原でも枝野でも大きな違いはない」なんてまさかまさか。枝野が選ばれた方がずっとマシに決まっている。前原誠司民進党代表になった場合、まるで「死に体」のように思われている安倍晋三が息を吹き返すのではないか。

そう危惧する今日この頃なのである。

*1:神野直彦は「後期宇沢弘文」の愛弟子だったが、頑固一徹の宇沢とは違い妥協に傾きやすかったようだ。それでも神野直彦の本質はリベラルであり続けたが、井手英策の場合、この人の本質は「保守」であるように私には見える。