kojitakenの日記

古寺多見(kojitaken)の日記・はてなブログ版

NHK「いざなぎ超え データで探る中間層の実像」(9/25)のグラフは興味津々

9月に放送されたNHKニュースに関するツイートを今頃NHKが蒸し返してきたが、これが実に面白い。

https://twitter.com/nhk_news/status/946312742297915392

NHKニュース
@nhk_news

”いざなぎ”超えと言われても、街から聞こえてくるのは「回復を実感できない」という声ばかり。データで検証しました。
https://www3.nhk.or.jp/news/business_tokushu/2017_0925.html … #nhk_news

1:31 - 2017年12月28日


まず上記ツイートからリンクされているNHKニュースを引用する。これは9月25日に放送されたものだ。引用文中グラフの表示を省略しているので、それについては上記リンク先で確認していただきたい。

ビジネス特集
いざなぎ超え データで探る中間層の実像
9月25日 20時11分


日本の景気は4年10か月にわたって拡大し、「いざなぎ景気」を超える長さになった可能性が高いー

政府が25日示した見解です。いざなぎ景気と言えば、1960〜70年代、日本人が日々成長を実感し、「1億総中流」という意識が定着した高度経済成長まっただ中の頃。今の景気は、長さでは、それを超え、戦後2番目の回復の途上にあるということです。
とは言え、街から聞こえてくるのは「回復を実感できない」という声ばかり。今回の景気回復、データから点検してみようと思います。
(どうなる経済“新時代”取材班)


景気 強い指標ばかりだけど…

今の景気回復が始まったのは2012年12月。「大胆な金融緩和・財政出動・成長戦略」の「3本の矢」を掲げた、いわゆる「アベノミクス」のスタートと同時です。特に日銀による大規模な金融緩和が円安・株高をもたらし、企業の業績は改善しました。

企業の経常利益は、2013年度から4年連続で過去最高を更新。企業の貯金も増えました。「内部留保」は、2012年度から5年連続で過去最高。2016年度に企業の蓄えは400兆円を超えました。(財務省:法人企業統計調査)

株価は2倍以上に。日経平均株価は2012年11月には1万円を割り込んでいましたが、2万円台を回復。20年ぶりの株高をうかがう水準に。日銀の統計を見ると株式や投資信託保有している人は資産を着実に増やしています。

日経平均株価のグラフを省略=引用者註)

雇用は43年ぶりの状況に改善。有効求人倍率は、すべての都道府県で「1」を越えました。仕事を選ばなければ、全国どこでも就職先を見つけられるという意味です。1963年に統計を取り始めて以来、初めてのことです。

数字を見れば、確かに景気の回復を示す指標が目立ちます。


実感できない“中間層”

しかし、それでも聞こえてくるのが「景気回復の実感がない」という声です。

なぜなのか?

厚生労働省の「国民生活基礎調査」という統計で、同じ家に住んで生計をともにする「世帯年収」の変遷をバブル景気の頃からさかのぼって調べてみました。

注目したのは、世帯年収の「中央値」。年収別に世帯を並べたときに、ちょうど真ん中に位置する家庭です。これを見れば、いわば日本の「中流世帯」「中間層」が見えてくると考えたからです。

それをまとめたのがこのグラフです。再生してみて下さい。

(1985年から2015年の世帯年収のグラフをコマ送りした動画の引用省略=引用者註)

グラフは、年ごとの世帯年収の分布を示しています。右上には、その年の年収の中央値の金額。グラフの濃い黄色で色づけした部分が中央値(中間層の年収)にあたります。これを見てもらえば、中央値がいったん右に動いて上昇し、その後、左に戻って下落したことがわかります。

(1985年の世帯年収のグラフの引用省略=引用者註)

今から32年前、バブル景気前夜の1985年の世帯年収の中央値は418万円。収入は増え、バブル景気が終わった平成3年には521万円に。その後、1995年に年収の中央値は550万円に上がってピークをつけました。「中間層」の底上げが進んだ形です。

(2015年の世帯年収のグラフの引用省略=引用者註)

しかし、そこから年収は下がり始めました。2001年に500万円を割り込み、その後は、400万円台に逆戻り。2014年からは少し上向きましたが、最新の2015年のデータで中央値は428万円。ピークに比べ122万円低くなっています。中間層の収入は下がり、所得の低い世帯の割合が増えているのもグラフから見えてきます。

この状態をどう見たらいいのか?

みずほ総合研究所のチーフエコノミスト、高田創さんに聞きました。「日本の中間層がずり落ちてしまった。日本経済は『分厚い中間層』が特徴で、消費を支える重要な層だった。そこが薄くなってしまった」と話しています。そして、中間層が弱くなったことが、景気回復を実感できない理由だと指摘しています。


共働きが増えたのに…

もう1つグラフを見てください。世帯年収の「中央値」と「共働き世帯」の動きを重ねてみました。

(グラフの引用省略=引用者註)

共働きの世帯は年々増え、1992年に専業主婦世帯を上回り、今は1100万世帯を超えています。専業主婦世帯のおよそ1.7倍です。高齢化が進み、年金生活などで収入が低い「高齢者世帯」が増えているという事情はもちろんありますが、グラフからは、共働きが増えているのに、中間層の世帯年収は下がっている、という姿が浮かび上がってきます。

何人かの経済の専門家に聞きましたが、非正規で働く人が増えていることを理由に挙げる人が何人もいました。年功序列型の賃金カーブに乗れず、年を重ねても、所得が伸びない人が増えてきていることが、データの裏に見えるというのです。夫婦2人で非正規雇用という若い世代が増えていることも指摘しています。

「中間層の年収が下がると、消費は停滞せざるをえない。非正規雇用が増えたことで、将来への不安が高まり、住宅や車など大きな投資もしづらくなっている」と影響を指摘しています。

しみついたマインド変えられるか?

ではどうしたらいいのでしょう? みずほ総合研究所の高田創さんは、景気回復の期間は長いけれども、今の日本は“低温経済”のような状態だと指摘します。実は、アメリカ、ヨーロッパにも共通した成熟した先進国共通の悩みで、特効薬は見当たらないのだと話します。

ただ、景気を上向かせるには中間層の底上げが必要なことははっきりしていて、まず、賃上げが第一歩だと強調しています。そのうえで、「できるだけ景気回復の期間を長くし、その間にさまざまな政策を総動員して、この20年間に染みついた『物価も賃金も上がらない』というマインドをいかに変えていくかが大切だ」と話しています。

「いざなぎ」を超えても実感乏しい景気。今回は「中間層」の世帯年収の変遷でその理由を探りました。年金や医療など社会保障の保険料の負担も増加しているため、勤労者世帯の「可処分所得」が抑えられているというデータもあります。

岐路に立つ日本経済はどこに向かっていったらいいのか、その課題を、さまざまなデータを見つめ、今後も考えていきます。

(どうなる経済“新時代”取材班:経済部 篠崎夏樹 野口恭平 中島圭介)

NHKニュースより)


このニュースで面白いのは何と言っても世帯年収の分布のグラフを年度を追ってコマ送りした動画だ。

動画の初期画面は1995年の分布だ。実際に動画を見るとよくわかるが(ニュースの動画よりツイートで表示される早送りの方がはっきりわかると思う)、バブル経済によって世帯年収の中央値が上がるとともに、ピークもなだらかになっている。これは、バブル経済の好影響で、中間層が分厚くなっていたことを物語る。動画で「バブル経済」と表示されているのは1987年から90年までだが、世帯年収の中央値の上昇が顕著なのは1988年から1992年までであって、上げ幅が最大なのもバブル経済最盛期の1989年の次の1990年だ(前年比29万円上昇)。しかも、それから1992年までの3年間は、3年連続して前年比20万円以上の上昇を示し、バブルは既に弾けていたのに年収分布の平坦化は(惰性力によって)続いた。動画を見る限り、中間層が分厚かった時期のピークは1990年から1995年頃にかけてだったように思われる。

この動画を見て思い知らされたのは、一般には良くない印象を持たれているバブル経済だが、世帯年収の中央値を押し上げるとともにその分布をフラットにして中間層を分厚くする効果は確かにあったことだ。正直言って、ここまでグラフにはっきりと反映されているとは想像もしなかった。

しかしその後、世帯年収の中央値は1998年まで足踏みが続いたあと1999年に前年比38万円という30年間で最悪の下げ幅を記録した。振り返ると、1997年4月の消費増税、同年から翌1998年にかけての金融危機北海道拓殖銀行及び山一証券の破綻、1998年の参院選における橋本自民党の予想外の惨敗、同じ年に自殺者が3万人を超えたことなどがあった。橋本龍太郎政権が新自由主義的しばき主義の経済政策をとったところに金融危機と大手金融機関の不祥事などが重なって、破壊的な悪影響がもたらされた。

さらに悪いことには、NHKニュースにも指摘されている派遣労働者の急増があった。この原因となったのは1998年と2003年の労働者派遣法の改悪だった。しかも、新自由主義経済政策のエースともいうべき小泉純一郎が総理大臣になって長期政権を担ってしまった。世帯年収の中央値は、1998年の544万円から2008年には実に427万円にまで117万円も下がってしまった。117割る544は2割を超えている。わずか10年間ですさまじい落ち込みぶりだった。

2008年は動画で「リーマンショック」と表示されている年で、事実この年の世帯年収の中央値は前年よりも21万円下落と、30年間で2番目に悪い数字を記録している。その後は2013年の一時的な下落と翌年の回復があったが、それを除けばリーマンショック時に落ち込んだまま、少なくとも一昨年(2015年)まで推移した。

なお、昨年(2016年)のデータは、まだ厚労省から「平成29年 国民生活基礎調査の概況」が発表されていないのでわからない。現在参照できる最新のデータは昨年まとめられたもので、だから一昨年までのデータしかない。


以上、文章だけではなんなので、世帯年収の中央値の推移を以下に文字起こししておく。


西暦年 世帯年収の中央値と前年比 特記事項(NHKニュースによる)
1985年 418万円
1986年 430万円(△12万円)
1987年 435万円(△ 5万円)    バブル経済
1988年 453万円(△18万円)    バブル経済
1989年 471万円(△18万円)    バブル経済
1990年 500万円(△29万円)    バブル経済
1991年 521万円(△21万円)
1992年 549万円(△28万円)
1993年 550万円(△ 1万円)
1994年 545万円(▼ 5万円)
1995年 550万円(△ 5万円)    阪神大震災
1996年 540万円(▼10万円)
1997年 536万円(▼ 4万円)
1998年 544万円(△ 8万円)
1999年 506万円(▼38万円)
2000年 500万円(▼ 6万円)
2001年 485万円(▼15万円)
2002年 476万円(▼ 9万円)
2003年 476万円(  0万円)
2004年 462万円(▼14万円)
2005年 458万円(▼ 4万円)
2006年 451万円(▼ 7万円)
2007年 448万円(▼ 3万円)
2008年 427万円(▼21万円)    リーマンショック
2009年 438万円(△11万円)
2010年 427万円(▼11万円)
2011年 432万円(△ 5万円)    東日本大震災
2012年 432万円(  0万円)
2013年 415万円(▼17万円)
2014年 427万円(△12万円)
2015年 428万円(△ 1万円)


ここで、最近の2013年の落ち込みが東日本大震災の影響が遅れて表れたのか、それとも故与謝野馨を重用するなど財政再建に偏りつつあった菅・野田政権の経済政策の悪影響が表れたのか、どちらだろうか。一般的な世評では、2013年には安倍政権の経済政策がある程度効果を表したものの、翌2014年4月の消費増税で効果が薄れたと言われているが、1年遅れでその影響が世帯年収の中央値に反映された可能性はある。先に見たように、バブル経済による経済成長が世帯年収の中央値に反映されるまでには2年のタイムラグがあったし、90年代末の金融危機や消費増税の悪影響にも同じくらいのタイムラグがあったので、東日本大震災のせいというよりは、野ダメ政権の悪影響で落ちた分を第2次安倍内閣の初めの頃の経済政策の影響で取り戻したように(安倍晋三が大嫌いな私としてはまことに不本意なのだが)見える。

とすると、安倍政権の経済政策、特に2014年4月の消費増税後のそれの影響を云々するためには、2016年と2017年(まだ終わっていない!)のデータを早く知りたいところだ。しかし、2016年のデータは来年にならないと一般人にはわからないし、2017年のデータがわかるのは再来年、その頃にはもう「なんとか元年」に改元されているのだろう。

なお、世帯平均の中央値以上に興味深かったのはその分布で、四国の山で言えば1985年には石鎚山みたいだったのがバブル期を経て90年代前半には剣山みたいになり、それが再び険しい石鎚山みたいに戻り、30年前と比較しても現在の方が険しくなってしまった変化はまことに生々しい。郵政総選挙のあった2005年前後は、グラフが険しくなる変化が特に激しかった頃であって、2005年のグラフを見ながら、なんでこんな格差社会にしてしまった小泉純一郎の郵政総選挙をみんなあんなに熱狂的に支持してしまったのかと怒りを新たにした。

そう、今回のグラフを見て、小泉純一郎橋本龍太郎という2人の総理大臣経験者は絶対に許せないと改めて思ったのだった。橋本はもう11年前だったかに死んでしまったが。

また、「脱原発」に転向しただけの理由で小泉支持に戻り、3年前というかもうすぐ4年前の東京都知事選で小泉とタッグを組んだ細川護煕を応援した人たちにも改めて腹が立つ。あの時細川を応援した人間に限って小池百合子にワクワクしたり(某アブナイ都会保守氏だ)、前原の方が枝野よりマシだと放言したり(反戦ななんとかの人だ)した。そういう人たちには、立憲民主党支持系であろうが自由党支持系であろうが今後も絶対に共感できないなと改めて思った。

そもそも、朝日新聞などの「リベラル」(括弧付き)系のマスメディアなどが「成長か分配か」などと言っている時点で、既に「リベラル」は負けている。これは絶対に「成長も分配も」でなければならない。

あまりネガティブなことばかり書くのも何なので最後に少しばかりポジティブなことも書いておくと、かつての分配派だった(2012年、朝日新聞に経済成長重視の「マエハラノミクス」に対比して「エダノミクス」と書かれた)枝野幸男が、今年の民進党代表選などで消費増税に懐疑的な姿勢を示し、かつ「政権をとってもすぐに金融緩和を改めるつもりはない」と言っていたことには5年前と比較して進歩が見られるなあ、と一定の評価をしていることを書き添えておく。あとはもう少し経済成長重視の姿勢を見せればさらに評価できる。蓮舫山尾志桜里の立民入党には(まだ確定はしていないようだが)大いに失望させられたが。