kojitakenの日記

古寺多見(kojitaken)の日記・はてなブログ版

安倍官邸を征圧した検察は「正義の味方」ではなくパワーゲームの勝者。検察は権力闘争の手本を示した

 違法に定年を延長された東京高検検事長・黒川弘務の辞職が承認されたとのこと。それとともに、昨日(5/21)日テレが報じた「黒川弘務の後任の東京高検検事長は林真琴」という人事情報の後追いが出た。下記は時事通信の報道。

 

www.jiji.com

 

黒川検事長の辞職承認 後任、林氏が軸―政府

 

 政府は22日の持ち回り閣議で、新型コロナウイルスに関する緊急事態宣言の発令中に新聞記者らと賭けマージャンを行った黒川弘務東京高検検事長(63)の辞職を承認した。後任人事については、名古屋高検の林真琴検事長(62)の起用を軸に最終調整している。

 菅義偉官房長官は22日の記者会見で、「後任人事は法務省で検討している。速やかに任命されると思う」と説明。森雅子法相は衆院法務委員会で「業務の継続に重大な支障がある。速やかに後任を探したい」と述べた。

 法務省によると、黒川氏は5月1日と13日、産経新聞朝日新聞の記者ら計3人とマンションで賭けマージャンに興じ、記者側が用意したハイヤーで帰宅した。週刊文春の電子版が20日に報じ、与野党から辞任論が噴出。黒川氏は法務省の調べに事実関係を認め、21日に辞表を提出した。朝日新聞社は4月にも2回、マージャンをしたとしている。

 黒川氏は安倍政権に近いと目され、政府が1月末に法解釈を変更する形で勤務延長を閣議決定すると、野党は「検事総長起用をにらんだ脱法行為」と反発。さらに内閣の判断で検察幹部の定年を延長できるようにする検察庁法改正案に対し、こうした対応を「後付けで正当化する法案だ」との批判が広がり、政府は今国会の成立断念に追い込まれた。

 

時事通信 2020年05月22日12時03分)

 

出典:https://www.jiji.com/jc/article?k=2020052200171&g=pol

 

  やはり今回の「権力対権力の正面衝突」は検察の完勝だったようだ。私は昨日の日テレの報道でこれを確信したが、おそらくこの意見は少数派で、稲田伸夫検事総長との相討ちになるのではないかとの見方の方が強かったと思う。しかし稲田伸夫は辞任せず、林真琴名古屋高検検事長の東京高検検事長就任が確実になりつつある。おそらくこの人事が本決まりになれば、適当なタイミングで稲田伸夫が検事総長を退き、林真琴が次期検事総長になると思われる。官邸が横槍を入れる前の検察の既定路線への復帰だ。

 なんといっても検察には河井夫妻の捜査という強いカードの手持ちがあった。これはもともと溝手顕正に対する私怨を持っていた安倍晋三河井案里参院選に「安倍マネー」の大金を投じたことに端を発する「身から出た錆」である以上、官邸の劣勢は免れない。そんなディスアドバンテージがありながら検察庁の人事権に手を突っ込もうとした官邸の浅はかさは今にしてみれば大きな驚きだが、官邸には今まで何事でも思い通りにしてきたことからくる驕りがあり、それが過信を招いてしまったのだろう。故野村克也の「負けに不思議の負けなし」という言葉が思い出される。

 私は多くの人たちとは違って、検察が正義の味方だとは全然思わない。だから、たとえば小泉今日子氏が検察OBの意見書を読んで感涙したと書いたツイートを発したのを見て、正直言って検察という巨大権力に対する見方が甘いと思った。しかしその一方で、検察と対峙した官邸というもう一つの巨大権力が、これ以上ないほどの不正義の塊というか悪の権化であったことは間違いないと思うので、今回のパワーゲームで検察が完勝を収めることは必然の帰結だと考えている。

 実はこのエントリの記事は長々と書いたのだが、冗長になったなと思っているうちに操作を間違えて一瞬にして大部分を消してしまったので、以下要点のみを再度書く。検察は今回、権力闘争の手本を示した。その極意は、有利な情勢になっても決して手を緩めないことだ。今日になってもまだマスコミから河井夫妻の捜査に関する報道が出てくるのはその表れだろう。

 

 

 一方、これまでの反政権側を思い出すと、2015年の安保法案の時には最後に攻め手を緩めてしまった。たとえば高橋源一郎は「法案の成立は仕方ないが、SEALDsのような人たちが出てきたことが良かった」と言った。しかし安保法成立後に安倍内閣の支持率はV字回復し、SEALDsはその後雲散霧消した。またさらに遡って2007年に第1次安倍内閣が倒れた時、内田樹や「喜八」と名乗るブロガーらは「水に落ちた犬は叩くべきではない」と言って安倍晋三にとどめを刺す流れに持っていくことを嫌い、後年の安倍の復活を事実上助けてしまった。「喜八」に至っては安倍の盟友だった平沼赳夫城内実の応援の旗を振る愚行に走った。断じて許されない所業だったと思っている。

 なお、黒川弘務に対する処分に関しては、下記「広島瀬戸内新聞ニュース」の提案に賛成する。残念ながら実現しなかったようだが。

 

hiroseto.exblog.jp

 

内閣はこのおっさんの辞表を受理してはいけない。
1,仮に法的に検事長であったとすれば、「訓告」ですまされるとは?!懲戒免職一択でしょう。
2,おっさんの任期を延長したことが違法だったと認めるなら、5月1日にただのおっさんだったわけだから、懲戒の対象にはならない。そのかわり、2月7日の63歳の誕生日に遡って給料は返していただく。

 

(「広島瀬戸内新聞ニュース」 2020年5月21日)

 

出典:https://hiroseto.exblog.jp/29016020/

 

 私が賛成するのは、上位引用文のうち第2案の方だ。これが一番良い案だったと思う。この案を実現させるためには、黒川弘務の(違法な)定年延長の閣議決定を取り消す必要があったが、そこまでやらなければ検察は矛を収めないのではないか。検察庁法改正案は、国家公務員法改正案ともども廃案になるようだが、その程度でひとたび検察庁の人事を恣(ほしいまま)にしようとしたとした安倍官邸が許してもらえると考えるのは、あまりにも虫が良すぎる。権力闘争の何たるかがわかっていない。

 本当は自民党安倍晋三を総理大臣の座から引き摺り下ろすべきなのだ。だが、安倍が党内反主流派や野党を根こそぎにして「異論を唱える者が絶え果てた『崩壊の時代』」に入ったために、この非常時に行政府が機能不全に陥ってしまった。今後の「コロナ後」あるいは「間コロナ期」の難局に対処する能力を安倍政権が持たないことは、例の「黴のマスク」を配り終えるのが秋になるのではないかと言われている件を見ても間違いないというのに。

 かくして、苦難の日々がいつ終わるか見当もつかない。