kojitakenの日記

古寺多見(kojitaken)の日記・はてなブログ版

東京都江東区では2023年に「権力の空白」が生じ、それが衆院補選の結果を左右した。日本の政治全体も2022年の安倍晋三の銃撃死によって「権力の空白」が生じている。大きな変化が起きない方がおかしい

 昨年の東京都江東区の政界で何が起きたかといえば、一言で言うと「権力に空白が生じた」ことだ。

 まず3月の山崎孝明元区長の死去。続いて、それを受けて行われた区長選(たまたま統一地方選と時期が重なった)で衆院議員の柿沢未途が支援して選挙に勝った木村弥生前区長が失脚した。木村は区長を辞任し、逮捕された柿沢は衆院議員を辞職した。それを受けてそれぞれの補欠選挙が行われたが、同時ではなく昨年12月と今年4月に行われたため、同じ候補者が2回立候補して最初の区長選では完敗しながら衆院補選には完勝するという、誰にも予想できなかった劇的な結果となった。

 権力に空白が生じると、そこにつけ込もうとする政治家や政治勢力が出てくるのは当然だ。立民の酒井菜摘区議(当時)を区長選に擁立しようと最初に考えたのが誰だったのかはわからない。しかし、酒井が出馬表明した時には既に「野党共闘」体制ができあがっていたことと、昨日立民の高野勇斗区議のXを読んで知ったが、立民の区議たちの間に軋轢が生じたらしいことから、立民内部からよりも、たとえば2020年の東京都知事選で宇都宮健児を支援したグループに属する人たちの誰かが最初に言い出した可能性が高いのではないかと私は推測している*1

 それよりも前に、記者会見で木村の区長辞職の件に触れて、やり直しの区長選で候補者を擁立すると息巻いていたのが維新代表の馬場伸幸だった。それで、維新は誰を出すつもりなのだろうかと注目していたが、一向に名前が出てこないうちに酒井が名乗りを挙げ、次いで小池百合子が大久保朋果のカードを切ってきた。つまり小池が参入し、自公に恩を売ろうとしたのだった。

 これで腰が砕けたのが維新である。維新は傍目にもわかるくらいはっきり戦意を喪失し、公募候補を立てたものの供託金没収の惨敗を喫した。衆院補選が選挙戦冒頭から酒井の優勢が伝えられていたことから、維新は金沢結衣を区長選に出せば良かったのではないかと言う人がいたが、それはできない。金沢は維新の東京15区支部長、つまり衆院選候補予定者だったからだ。だから誰か別の人を出すしかなかったが、それが決まらないうちに都下の地方選では圧倒的に強い小池が参入してきたため、維新は事実上白旗を掲げた形だった。

 一方、そんな状況が我慢ならなかったのが都ファを割って出た「自由を守る会」の上田令子だったと思われる。上田は告示日が迫った時期になって、江東区議にして春の区議選で酒井をも上回る最高得票数を記録した三戸安弥を出してきた。区長選は大久保の圧勝は最初から見えていたので、酒井、三戸、維新、「おっさん東大生」の2位争いにしか私は注目しなかった。結果は酒井、三戸、おっさん東大生、維新の順番で、維新は前述の通り供託金没収の大大大惨敗を喫した。のちに行われた衆院補選で金沢が失速することを暗示する結果だったともいえる。一方、酒井は区議選の得票数で負けた三戸に雪辱を果たした形だった。まあそれは後付けの話に過ぎないけれど。

 その後、今年1月の八王子市長選、衆院補選の前週に行われた目黒区長選と、小池百合子が自公に恩を売る地方選への介入が続いたが、この期間中に小池の神通力は目に見えて落ちていった。江東区長選ではあれだけの圧勝だったのに、八王子市長選は接戦となり、目黒区長選ではついに負けた。そして、小池がもっとも力を入れたであろう衆院東京15区補選で、前年末の区長選の結果からは想像もつかないような大惨敗を喫した。

 以上が江東区を舞台とした「権力の空白」後の政治選の流れだ。最近では区外でもよく知られるようになったが、江東区には柿沢家、木村家、山崎家という保守系の血統による「御三家」とも「三国志」とも呼ばれるような政治状況が続いていた。現在ではいずれも世襲二世に代替わりしていて、いずれも父親と比較すると政治家としての能力が劣るが(一番力のある柿沢未途にしても親父の柿沢弘治には全然敵わない)、それでもこの三家の影響力は大きかった。特に山崎孝明は4期16年もの間区長を務めてきたので、自民党支持者の間では支持が強かった。柿沢未途がやろうとしたのは、この山崎孝明に区長選で勝つことだった。それでかつて親父同士が東京15区で直接対決をしたこともある(結果は1勝1敗)木村家の長女・弥生、この人はかつては衆院議員だったが清和会系ではないので冷遇され、最後は泉健太のいる京都3区に飛ばされて2021年衆院選に惨敗して議席を失っていたが、その木村を担いで山崎孝明に挑もうとしたのだった。

 ところが強敵であるはずの山崎孝明が急死した。相手は××息子の山崎一輝に変わり、この人は区民の間での評判があまりよろしくなかったから、買収などしなくても選挙に勝てそうなものだったが柿沢はやってしまった。その結果、まず山崎家で当主が亡くなっての代替わりが起き、柿沢家と木村家では二代目がともに失脚してしまうという、巨大な権力空白が生じたのだった。

 これで衆院補選が「カオス」にならない方がおかしい。江東区は前述の通りもともと保守が強いが、柿沢家と木村家は初代に新自由クラブ在籍歴があり、柿沢家に至ってはついこの間まで二代目が野党系で「希望の党」騒動にも乗っかるなどの活動をしてきたなどしてきたため、こと国政選挙においては自民党はそんなに強くないどころか、むしろ弱体だ。だから衆院選の本選では過去非自民の4勝5敗、補選を入れると今回の結果も合わせて5勝6敗と伯仲してきた。次回の本選で5勝5敗ないし6勝6敗にするとともにリベラル系の本選初勝利といきたいものだが、それはさておき。

 保守の強い江東区をあてにしてまず参入したのが日本保守党であり、次いで参政党。一方維新は5年前から金沢結衣が活動してきた。そして、一時は本命と目されたファが最後に乙武洋匡を出してきた。このうち参政党は泡沫だったが、ファ、維新、日本保守党が右側の陣営内で激烈な選挙戦を戦った。右側の最上位は誰も予想しない保守党の「勝利」だったが、2位ではなく須藤元気の後塵を拝しての3位だった。維新の金沢は4位、都ファ民民の乙武は5位だったが、これらも大方の予想に反していた。もちろん私にも予想できなかった。

 今回勝った立民だが、2021年に東京4区から移ってきた井戸まさえを擁立する前には候補予定者が誰もいなかった。いうまでもなく「希望の党」側に行った柿沢未途が民主・民進系候補として存在していたためだ。2017年衆院選では旧立民は希望の党の候補者がいる選挙区には刺客を立てなかった。というより急な結党だったので刺客を立てる余裕などなかったというべきだろう。そして2021年の候補もなかなか決まらないので、15区民としてはここは共産の小堤東が候補になるんだろうなと思い、当地に来てからそれまで3度の衆院選でいずれも共産党候補に投票してきた私は、小堤に投票しようと思っていた。そしたら東京4区と15区とで共産が4区を希望したため(と言われている)、急転直下15区の小堤が出馬を取り下げて、4区から井戸まさえがやってきたので、私は井戸に投票したが落選した。そして2021年衆院選全体としても立民が惜敗したために同党の代表が枝野幸男から泉健太に代わると、立民は長い間東京15区総支部長を空位にした。大阪の多くの区でも総支部長が空位であることから、泉執行部は維新との選挙協力を想定して、東京15区に候補を立てないことも考えていたのではないかと私は推測している(それが当たっているかどうかは知らない)。しかし柿沢未途が逮捕されて東京15区の権力が空白になってしまった以上、野党第一党としては候補を立てなければならないのは当たり前である。それなのに、立民党内では一時期は無所属で「も」立候補する意思を示していた須藤元気に乗っかる案も党内で有力だったというから、相当な腰の引けぶりである。こうした事情も、区長選及び衆院補選への酒井の擁立は宇都宮健児たちに近い筋から出てきたのではないかと私が推測する理由になっている。この構図が立民右派支持層の間で相当不評であるらしいことは何度も書いてきた。

 ところで「権力の空白」が生じたとは、日本の国政全体にも当てはまる。

 いうまでもなく、2020年の首相退任後も事実上日本の国政を支配していた安倍晋三が2022年に銃撃死したことだ。たまたま、その時の(今もそうだが)総理大臣は、潜在的な安倍の政敵でありながら安倍の靴を舐めて最高権力者の座をつかんだ岸田文雄だった。岸田は結構な慎重居士であって、最初はいち早く安倍派や麻生太郎にすり寄って安倍国葬を速攻で決めたり、安倍がアメリカに約束していたという防衛費(軍事費)倍増政策を議会に諮りもせず決めたりと、極右が喜ぶようなことばかりやってきたが、軍事費倍増は増税で賄うと言い出したあたりから極右勢力の怒りを買い始めた。それが日本保守党の設立につながった。また新自由主義勢力としては老舗の「既成政党」としての維新がいる。今回の衆院東京15区補選では、「東の維新」とでもいうべき(都民)ファ◻︎ストの会が候補を立ててきたが、党のトップが極右兼過激な新自由主義者である点で、ファと維新とは性格がもろに被る(超極右に徹している日本保守党は若干色合いが違い、純粋な民族主義極右政党であると思われる)。この点が当選した酒井には幸運だった。今後は都ファが退場して自民が現れるはずだが、おそらく東京15区に限っては自民党は人材払底のはずなので、どんな手を打ってくるかが注目される。しかし問題は全国的にどうなるかということだ。

 江東区の人口は53万人で、日本全国の200分の1にも満たない。だから昨年から始まった構造の変化がわずか1年後の選挙結果に反映されるという迅速な変化が起こったが(もちろんこれを「瞬間風速」に終わらせない努力が酒井や立民及び支援層には求められる)、日本全体としてもそれより時間がかかるだろうが大きな変化が今後起きると考えない方がおかしい。

 この流れの変化は、昨年10月の衆参2補選の頃には既に明らかだったと思う。その半年前の衆参5補選は自民4勝、維新1勝、立民4敗という右側の圧勝だったのに、秋の補選では参院徳島・高知は自民の勝ち目がないから捨て、岸田文雄らが執念で長崎4区の辛勝を勝ち取った選挙だった。しかしその直後に立民代表の泉健太が発した言葉は「ホップ、ステップ。5年後の政権交代を目指す」だった。今回の衆院東京15区補選でも、初動期に機動力の悪さを見せた。しかしそれを帳消しにしてあまりある敗着を小池百合子がやらかした。乙武洋匡の擁立である。立民(酒井)の最大の勝因は「敵失」だった。

 話がどうしても東京15区に引っ張られるが、全国的に大きな流れの変化があることを、政治家も有権者もどれだけ体感しているかで勝敗が大きく分かれるのではないかと思う。それと、こういう激変期には人間の本性が簡単に露呈することも指摘しておきたい。

 また東京15区の話に戻ってしまうが、今回最悪だったのは民民の玉木雄一郎である、最初はマウントを取るために高橋茉莉を立民に押しつけようとしたが、どうやら同党を構成する極右層に生活保護の不正受給疑惑を持たれてしまったらしく、党内の極右分子に押されて公認を撤回すると、それなら立民候補を推すでもなく小池百合子が推す乙武洋匡にいとも簡単に乗った。しかし公明党から懸念が出ると、自民党が推すかもしれないといって推薦しないとか言い出し、乙武が自民に推薦を求めず、自民も推薦しないとわかると、やっぱり推薦すると言い出した。そしてそれを日本保守党の飯山陽に激しく詰られると、極右層に「自分ではなく酒井を攻撃せよ」という意味の恥ずべき犬笛を吹いた。以前にもリンクしたことがあるが、下記にそれを再掲する。

 

 

 下記は玉木を批判したX。

 

 

 

 そして玉木はXで突然「政局より政策」などと言い出したが、政策を政局の方便にしているようにしか私には見えなかった。

 たとえばフランス革命期に「政局より政策を」をなどと言っても誰からも相手にされないだろう。何しろ政治家たちが血で血を争う命懸けの状態だったのだから。もちろん今の日本はフランス革命期とは比較にならないが、それでもここ10年以上ほとんど動かなかった日本の政治状況が急激に動き始めたことは明らかだろう。

 こういう時代に記録しておくべきことは政策より政局である、という書き方よりも、政治理論よりも人間のあり方であるというべきだろう。私はそう信じて疑わない。

*1:それを示唆するのが4月の衆院補選の告示日前日まで酒井の選挙事務所に貼られていた三連ポスターであって、そこでは立民都連会長の長妻昭とともに、宇都宮健児が酒井の脇を固めていた。なおは昨年12月の区長選での酒井の選挙事務所がどこにあったのかは知らないので、区長選の時はどうだったかも当然ながら知らない。