kojitakenの日記

古寺多見(kojitaken)の日記・はてなブログ版

数学者・伊藤清氏が死去

数学者の伊藤清氏が93歳で死去した。訃報は、朝日新聞でも1面に出ていた。

http://www.asahi.com/obituaries/update/1114/OSK200811140066.html

 専門は確率論。顕微鏡で見える水中の微粒子の動きのような不規則な運動は、微分積分という数学の枠組みでは取り扱えなかった。これを可能にする「確率微分方程式」の理論を42年に発表。「伊藤の公式」は数学、理論物理学に大きな影響を与えた。

とある。これが伊藤氏の最大の業績だった。

しかし、新聞の一面に訃報が掲載されたのは、

 同様の不規則な動きは経済活動にもあることから、金融派生商品デリバティブ)の価格決定など最新の金融工学に応用され「ウォール街で最も有名な日本人」といわれた。伊藤理論を金融工学に応用したロバート・マートンマイロン・ショールズの両氏は97年のノーベル経済学賞を受賞した。

という理由による。

ウェブ版にはそこまでしか出ていないが、紙面には高橋陽一郎・京都大数理解析研究所教授の談話が出ている。以下に紹介する。

 日本発の数学が欧米にも広がり、経済に応用されるまで発展したのはあまり例のないことだ。しかし、抽象的な数学が現実に応用されることには「測りきれない問題があるように思えてならない」と指摘していた。金融問題から発した経済危機を気にして「英知を集めないといけない」と言われていた。

理論を現実に応用するためのモデルを構築する時には、どうしても多くの要因を切り捨てて単純化を行わなければならないが、それによって現実からの乖離が必ず出てくる。それは、自然科学の研究でも当たり前のことで、モデル化の難しい社会科学だとなおさらだ。モデルは常に現実によって検証されなければならないが、経済学者たちが構築した「金融工学」自体が今後厳しく検証されていかなければならないのではないか。もちろん、それが伊藤さんの業績をなんら貶めるものではないことは言うまでもない。