昨年、『他策ナカリシヲ信ゼムト欲ス』(文藝春秋)を読んで以来、若泉敬という人物に興味をひかれるとともに、リベラル・左派の人間が若泉敬を「悲劇のヒーロー」視する風潮に強い疑問を持ち、これを批判している。
たまたま、下記の本が文春新書から出たので、読み始めた。
- 作者: 森田吉彦
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2011/01/19
- メディア: 新書
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著者の森田吉彦は、1973年生まれの若手国際政治学者で、書名の副題「愛国の密使」及び帯につけられた中西輝政の推薦文からわかる通り、保守派の論客である。
読み始めて、直ちに「わが意を得たり」と思ったのは下記の箇所*1。
若泉が悔やんでも悔やみきれないでいるのは「縄と糸」の取り引きの方であって、一時的な「核の密約」ではないのである。
その通りだ。『他策』を通読した人間であれば誰しも、森田のこの指摘にはよく納得できると思う。ここで森田が書く「『縄と糸』の取り引き」とは、日米繊維交渉をめぐる密約のことであり、若泉は自裁する前に、繊維交渉に関する密約の経緯について克明に記したメモをすべて焼却し、秘密をあの世に持って行ってしまった。やはり保守派の論客である元NHKの手嶋龍一が、軽装版として2009年に出版された『他策』新版のあとがきで残念がっている通りである。
さらに森田は、生前の若泉が小泉純一郎に大きな期待をかけていたことを指摘している。小泉も、2002年の国会の答弁で、若泉の名を出して若泉に対して抱いている尊敬の念を述べている*2。一部の「リベラル・左派」が持ち上げる若泉敬とは、典型的な「国士」タイプで、小泉純一郎と「ウマが合う」人物だったのである。
このように、この本を少し読んだだけでも、若泉敬を軽々しく「悲劇のヒーロー」視して何の疑問も抱かない、リベラル・左派の脆弱な言論には歯噛みする思いだ。何度も引き合いに出すけれども、沖縄の米軍基地移設問題でアメリカに屈した鳩山由紀夫の「孤影」を若泉に重ね合わせていた池田香代子のブログ記事*3など、思い出しただけでもムカムカする。
この本はまだ読み始めたばかりなので、読み終えたらまたブログに何か書くかもしれない。一つ痛感したのは、自分が興味を持っている事柄に関しては、立場の違う人間が書いた本も読む必要があるということだ。
[追記]
池田香代子の名を引き合いに出したので、氏のブログの最新エントリ*4を見てみたが、書き出しの部分を読んだだけでブチ切れてしまった。以下引用する。
沖縄の米軍基地についてアメリカの政治家と話し合うなら、サラ・ペイリンさんがいいんじゃないか、と思っていました。ペイリンさんが象徴するティーパーティーは、在外基地なんかいらないと言っているからです。
なんじゃこれ。沖縄の米軍基地が要らないのだったら「減税真理教」でも極右でもかまわないと言わんばかりだよ。大村秀章と河村たかしの圧勝に万歳三唱しかねないね、この人は。
*1:森田吉彦『評伝 若泉敬―愛国の密使』(文春新書、2011年)18頁
*2:前掲書26-30頁
*3:http://blog.livedoor.jp/ikedakayoko/archives/51434908.html
*4:http://blog.livedoor.jp/ikedakayoko/archives/51748297.html