kojitakenの日記

古寺多見(kojitaken)の日記・はてなブログ版

佐野眞一『東電OL症候群』

正編に続いて続編も読んだ。


東電OL症候群(シンドローム) (新潮文庫)

東電OL症候群(シンドローム) (新潮文庫)


評価は、一昨日書いた前作のレビュー*1と同じで、佐野眞一の作品の中では最上とはいえないというもの。そういえば前作ともども本書に食指が動かなかったのは、amazonの読者レビューが概ね辛くて、ただでさえ長大なこれらの作品を読もうとする意欲を阻害した要因もあったことを思い出した。

だが少なくとも、そんな人の意見を参考に本を読むか読まないかを決めるべきではなかった、と思える程度には収穫があった。

というのは、前作と比較して殺された東電OLに関する記述の比率が少なく、その分二審で逆転判決を下した高木俊夫や売春で罷免された村木保裕など、「司法の闇」に焦点が当てられている点に興味を引かれたのである。

村木保裕について、弾劾裁判が終わったあとの村木を著者は尾行し、村木が本屋で著者の書いた本書のもとになった雑誌連載記事を立ち読みしたことまで暴いているのには舌を巻いた。ここまでの執念深さがなくては、あの思い入れたっぷりの「佐野節」満載のノンフィクションは書けないのだろう。常人にはとうてい真似できるわざではない。

高木俊夫については、昨年再審で無罪が確定した足利事件で、1996年に控訴棄却の判決を下した裁判長であるとともに、1999年には狭山事件の再審請求棄却の判断を下した裁判長であると知り、これにはびっくり。高木俊夫とは、これら2件に「東電OL殺人事件」を加えた計3件で、検察に寄り添った「事なかれ主義」の判決を下した男だった。

本書にはもちろん上記の事実が指摘されているし、青法協脱退後、事なかれ主義の判決を次々と下していく高木を描いた章には「転向」というサブタイトルがつけられている。日本に根強い「同調圧力」の形成に大きく加担したこの高木俊夫だが、残念ながら2008年に72歳で死去しており、本書で著者の知人のフリージャーナリストの意見を引用する形で「精神鑑定が必要」とまでこき下ろされた高木俊夫の責任を問うことはもはやできない。足利事件は長い年月をかけてようやく一昨年に再審が認められ、昨年無罪が確定したが、狭山事件や本書で取り上げられた「東電OL殺人事件」は再審請求が認められるに至っていない。

発足したばかりの野田新政権との絡みでいえば、民主党の「リベラルの会」所属で法務大臣に任命された平岡秀夫には、本気で「取り調べの全面可視化」という民主党マニフェストにも掲げられた公約を実現する政治をやってもらいたい。新聞報道*2によると

平岡法相は「目指すべきは全事件・全過程可視化だ」とした上で「ただ費用や効率などの課題を総合的に考えるべきだ」とも述べた。

とのことだが、そんな弱腰では困るのである。

あと、東電OL殺人事件に関して、あの嘘とレイシズムで塗り固められた記事の数々で悪名高いnikaidou*3が「東電OL殺人事件の被害者は反原発の為消された?」などと陰謀論かましていることを知った。正確に書くと、これまた悪名高い『阿修羅掲示板』などでこの手の陰謀論が流布していることは知っていたが、その出所がnikaidouらしいことがわかった。

また、今年11月には、この事件をもチーフにしたという水野美紀主演の映画が公開されるらしい。