kojitakenの日記

古寺多見(kojitaken)の日記・はてなブログ版

江川紹子の「ニセ科学批判」を批判するトンデモ『院長の独り言』

脱原発派」でありながら「小沢一郎支持」という矛盾した立場をとる江川紹子など私は評価しないけれども、さすがに下記ブログ記事の江川紹子批判はひど過ぎる。


放射能を必要以上に怖がることは「エセ科学」=カルト宗教-新聞論説から: 院長の独り言


ブログ主は、江川紹子が『熊本日日新聞』に寄稿した「視界良好2011」というコラムを批判している。このコラムには、「不安につけ込む組織や活動 放射能問題で『エセ科学』も」という見出しがついている。ブログ記事には当該コラムをスキャンした画像がついているので、江川氏のコラムの全文が読める。私はもちろん読んだ。


以下ブログ記事から引用する。

 日本は、そして自分の暮らしは大丈夫なのか−。人びとの不安は高まる一方だ。そんな中で、これ幸いと活動を活発化させる人たちがいる。彼らにとって、人びとの不安はエネルギー源であり飯の種でもある。
 一人で不安におびえる人に、彼らは優しく、親身になって近づく。長い話にもじっくり耳を傾ける。そうして「この人はほんとうに私のことを心配してくれている」という信頼が芽生え、「この人の言うことは正しい」となり、「この人が信じているもの(団体、人)もきっと真理(真実、正義、正解など)に違いない」と言う確信となるのに、それほど時間はかからない。
(中略)
 やっかいなのは、これらの組織や活動に取り込まれた被害者は、熱心な信奉者になって行くにつれて、他の人を勧誘する加害者になっていくことだ。心から良い組織や活動と神事、人を騙そうとか、不安につけ込もうという悪意はない。なまじ善意なだけ、新たな被害者を生みやすい。


 これは、オウム真理教の取材経験から書かれた文章でしょう。取材を長年されておられただけあり、文章に迫力があります。なにが真実かをはっきりとらえていないと、どうとでもとれます。江川氏は、どうかんがえているのでしょうか。次の文に筆者の考えが出ます。

 世に蔓延する不安の中でも、原発事故による放射能不安はとりわけ深刻だ。政府が「直ちに健康に影響はない」と言う線量でも、「影響が出る可能性がある」と危険性を強調する専門家もいる。
 福島県では、放射能を心配するストレスで、不眠、頭痛、動悸などを訴えて、精神科を受診する人が急増している、という。


 雲行きが怪しくなってきました。「直ちに健康に影響はない」という言葉は、もちろん「即死」という意味ではありませんが、今当時を振り返りますと、ほとんどウソであったのは明らかです。早過ぎたレポートをご覧ください。1mSv/hrが健康に影響がないはずがありません。


ブログ記事のほうも雲行きが怪しくなってくる。なぜなら、江川氏のコラムに直接当たってみればすぐにわかるが、江川氏は政府の「直ちに健康に影響はない」という言葉を受け入れよ、などとは一言も言っていないからだ。コラムにはそうした含意も込められていない。それをブログ主は意図的に誤読している。

国が「安全」と言って推し進めてきた原発によって、かくもおおきな被害が生まれたのだ。事故当初の政府の説明も自体を過小評価するもので信用できないと思っている人が少なくないのに、国のお墨付きを持ち出しても何の説得力もない。


 まさしくその通り、私も全面的に同意します。

 そういう状況の中で、不安を抱く人たちの心をとらえ始めているのが、化学を装ったエセ科学だ。例えば、不安を抱く人びとに共感した上で、被災地から遠く離れた場所での鼻血や下痢も、内部被曝のためだと説明し、特定の酵素や菌、あるいは特別の水を接するすると放射能の値が下がるなどと宣伝する。


 この文章は、大変問題です。

被災地から遠く離れた場所での鼻血や下痢も、内部被曝のためだと説明


具体的には、東京などを指しているのでしょうか。放射能は、放射能雨などになって地表に降り注ぎます。そして、それは、距離ではなく、地形、風向、天候などその時の気象に大きく左右されます。


遠く離れている = 放射能がない


訳ではありません。実際、柏、三郷などにはホットスポットと呼ばれる高線量地区があります。この点を全く無視しています。


そして、この事実を矮小化した記述に引き続いて、「特定の酵素などが放射能に効く」という常識のある人ならば、誰が考えてもウソだと考える文章が続きます。


この文章の微妙な論旨のすりかえによって、

被災地から遠く離れた場所での鼻血や下痢も、内部被曝のためだと説明


という事実も読者はウソだと感じるようになります。


これはなんともひどい論旨のすり替えだ。江川氏のコラムの論点が「ニセ科学」批判にあることなど誰が読んでも明らかだろうと思うのだが、ブログ主にとってはそうではないらしい。江川氏が「被災地から遠く離れた場所での鼻血や下痢も、内部被曝のためだと説明」している「ニセ科学」関係者を批判した文章を、勝手に江川氏が「被災地から遠く離れた場所での内部被曝はあり得ない」と書いたかのように曲解して、架空の論点で江川氏をあげつらっているのだ。


柏や三郷といった「ホットスポット」が存在するのはまぎれもない事実だし、そういった場所に限らず、急性の健康障害が福島第一原発から放出された放射線被曝に起因するという可能性も皆無ではないのかもしれない。しかし、低線量被曝でもっとも懸念されるのは晩発性の白血病やガンなどではないのか。それこそ、「直ちに健康への影響はない」という政府の言葉に込められた恐るべき含意だ。

それよりも何よりも、江川紹子氏のコラムの論点はそんなところにはない。あくまで「ニセ科学批判」がコラムの論点だ。

それをブログ主は、

この事実を矮小化した記述に引き続いて、「特定の酵素などが放射能に効く」という常識のある人ならば、誰が考えてもウソだと考える文章が続きます。

などとして、江川氏の論点を勝手に矮小化している。

さらに筆者は、念押しします。

エセ科学にも影響され、金銭的な損害を受けるだけではなく、子どもに乳製品を与える代わりに、腐敗した豆乳を与えてしまった親もいるようで、放射能よりもこちらの健康被害が心配される。


たしかにこれは、おおきな問題です。ここまで文章を読み続けた読者が

被災地から遠く離れた場所での鼻血や下痢も、内部被曝のためだと説明


もウソだと断定してしまうのは、もはや疑いはありません。

このようなエセ科学に引き寄せられた人に、「あなたはまちがっている」と科学データを突きつけても反発されるだけで、その反応はカルト宗教に心を支配された人たちに近い。


 今回の文章でもっとも注意すべき一文だと思います。


ここまで読んだ読者は


放射能を心配する人たち = エセ科学に心を奪われた人


ステレオタイプ化します。


放射能を心配する人たちが、いくら理を尽くして説明しても、「彼らは、カルト宗教に心を支配された人たち」だ。我々は、それに騙されないようにしなければならないと、いま日本で進行している放射能汚染の被害からも目を背けるように仕向けています。


ここまできたら、もう呆れるしかない。江川氏は

放射能を心配する人たち = エセ科学に心を奪われた人

などとは書いていないし、そんな含意をコラムに込めてもいない。

いま日本で進行している放射能汚染の被害からも目を背けるように仕向けています。

などというのは、言いがかり以外の何物でもない。


上記引用部分に続く当該ブログの文章は、目を背けたくなるほどひどいものだ。特に「工作員」という単語を見出した時には目が点になってしまった。こんなトンデモの文章を現役の医者が書くとは到底信じられなかった。


そういえば、ブログのタイトルが『院長の独り言』となっている。私はこれまで、『○○の独り言』と題されたブログでまともなものを見たことがない。4年前には『博士の独り言』というネット右翼が運営するブログとやりあったことがある。あれも実にひどいブログだった。


このブログと出会ったことによって、また一つ新たな悪例が増えてしまった。